天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【美術】システィーナ礼拝堂のミケランジェロ

おかげさまで、1年以上できなかった都立大の講義もオンラインではあるけどやっと再開でき、楽しく授業しています。都立大OUとしては例外的に大勢の参加者も皆熱心で、ここで紹介する本を読んで、旅に行ったりもしているようでとても嬉しいです。

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Michelangelo, Cappella Sistina

講義できなかった1年以上、さまざまな内容を考えていました。初めて緊急事態宣言が出された当初は、今こそ歴史的にパンデミック(社会に大規模に疾病が広がった状態)について考えるべきと思い、「ペスト」について散々調べました。親しくしていただいている石坂先生が日本を代表するペストの研究者(病理学的ではなく歴史研究)なので極めて専門的な資料も提供していただき、講座を用意していました。ところが何度も中止になる内、毎日いつ終わるともしれない病気の話ばかりされるのにうんざりしているのは私だけでは無いだろうと思い始め、やっと再開が決定した時には、晴れ晴れと私の専門(正確には中世だけど)の内容で明るい授業をしたいと感じるようになりました。

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Michelangelo, Cappella Sistina

それで原点に帰って、間違いなく美術史上最も重要な場である(他に無いとは言わない)システィーナ礼拝堂を選びました。私の講義に興味を持ってくださる方なら、訪問した人も少なからずいるでしょうし。ところがここからが私流で、システィーナといえばミケランジェロと思っている人が圧倒的だけど、そうではなく創建当初から始めました。あそこでは大勢の素晴らしい美術家が仕事をしているのに、まるでミケランジェロしか居ないような紹介の仕方は間違っているし、ミケランジェロの最高傑作は絵ではなく彫刻だと、以前から常に考えてきたからです。

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Michelangelo, Cappella Sistina

そこで現在行ってる春講座では創建当初のシスティーナと教皇の画家たち(ペルジーノ、ボッティチェッリ、ギルランダイオ、ロッセッリとその弟子たち、ラッファエッロ、ピエロ・ディ・コジモ、フィリッピーノ・リッピ他)等が描いた「イエス伝」と「モーゼ伝」を取り上げています。次の授業ではかの有名な「海が真っ二つに割れる」モーゼの大奇跡などについて話します。

夏講座は、ミケランジェロが主役。参加者の募集が始まったところなので、ぜひ上をクリックして都立大のページへ行ってください。夏講座は天井画「創世記」からはじめ、「最後の審判」まで、とにかくローマのミケランジェロを追いかけます。ミケランジェロは非常に長生きだった上、複雑な人物で彼の全てについて話すわけには行きませんが、フィレンツェの隠れていた地下礼拝堂など、極最近公開になった場所や、ルーブル自慢の所有作品「瀕死の奴隷」など、ローマ以外の話もすることになるでしょう。西洋美術史上、最強最大の悩める芸術家ミケランジェロを知ってみたくありませんか?

 

【料理】9000年の歴史を持つ小麦でパンを作ってみた

私にしては珍しく料理の話!

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ルッカ料理フェス

ルッカ(イタリアはトスカーナ州の街)を知ってる人なら、このポスターを楽しめるはず。ルッカで最も印象的な(世界中でも珍しい)古代ローマ帝国時代の競技場アレーナ広場(ローマのアレーナはコロッセーオ)をお鍋に見立てた料理フェスのデザイン。Bollito(ボッリート)は沸いた、煮た、茹でたという意味で、1月26日(日曜)に食べられるものの筆頭にfarro(ファッロ)がある。全てルッカの特産品でちなみに38ユーロだから安くは無いね。ファッロは日本では「スペルト小麦」の名で定着させようとしているみたい。

日本語で理解するには上のサイトをお勧め。それによると9000年以上前に地中海の人たちが食べてたことが分かってるんだって!その小麦を北海道で栽培してて、この小麦を使ったイベントに参加する予定でした。

ところが前日に夜更かしして微妙に具合が悪く、普段なら行ってたけどこのご時世だからお友達に代わって行ってもらいました。国立の素敵なイタリアンレストランでのイベントで、楽しんでくれました。

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Farro

2時間弱って話だったんだけど実際には倍はかかったみたい。だってひたすらシェフが一人で練って、参加者は美味しく食べたらしいから。で、お土産にその小麦粉をドーンといただきました。普段はしないパン作りに挑戦。正直いうと、私の母は元栄養士でお料理は得意、パン作りも一時ハマってたからほとんどやってもらった!

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ファッロのパン作り一回目

レストランで頂いた資料による材料は:

スペルト小麦140グラム、中力粉60グラム、バター20グラム、、塩3.5グラム、塩麹18グラム、イースト2.5グラム、水120グラムで、一次発酵のみ、焼き時間210度12分です。

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スケッパーを使いました

でも母は慣れてるし、ネット調べもし、レストランのお釜と家庭のオーブンの差を考えて変更。2次発酵させ温度と時間も調整しました。 

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二回目のパン作り

綺麗に丸めるのって技がいるよね。私が丸めたのは載せません。結果として、しょっぱ過ぎる気がしたので、二回目は塩麹を入れないでやりました。このために塩麹買ったのに、要らなかった。それから低温自然発酵で一晩寝かせて作ったのが二回目。普通のパンよりもちっとしています。どうしても下が潰れてしまいます。

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ファッロのパン作り三回目

三度目は、ますますレシピを変更して塩と水を少なく、形も丸くしないで焼きました。いつもパウンドケーキなど焼いてる容器です。微妙に他の材料も分量を変えています。焼く前に卵のキミを筆で塗って艶も出します。

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ファッロのパン作り三度目の出来上がり

結果、一番上手にできました。下もほとんど潰れていませんし、全くしょっぱくありません。後悔したのは、全部使い切ってしまったこと。もう一回分残して、バターの代わりにオリーブオイルでやってみたかった。さらに美味しくできた気がします。

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最も基本のレシピ

なぜ料理好きでもない私がこのイベントに参加しようとしたかというと、ファッロはルッカの特産品で伝統料理だから、現地で何度も食べているの。向こうではパンではなく、基本は上の写真のように、具沢山スープのような、昔風に言えば日本のおじやのようなもので、私はこれが大好きです。

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ファッロを使った料理

他にパスタに成形したり、揚げたり、小麦なので色々作れます。普通の小麦より何倍も栄養があってアレルギー対策にもなります。興味のある人はググれば色々レシピが出てきますし、イタリアのようにはいきませんが国立のイベントでも紹介されたように日本産の商品もあります。

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ルッカ近郊のガルファニャーナ産ファッロ

イタリアにはいろんな種類の商品がたくさんあって、価格も品質も選べますし、もし本当に気に入って大量に欲しいなら、直で(イタリアから)買う方が経済的かも・・。

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ファッロ料理を出すガルファニャーナのレストラン

あー、いつまた行けるんだろう?!でも行ったら当然ルッカには行くし、ルッカ周辺のガルファニャーナにも愛するロマネスク聖堂や古代美術など色々あるからできるだけ長期滞在して、そのおりには間違いなくファッロをいただきます。

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古代の女神

発掘された古代の女神の目が、ファッロなんだって。イタリア語の記事を読みました。私にはよく分からんけど、多分、ものすごい吊り目がファッロの目だと思う。要するに豊穣のお守りだ。これを読んでアレルギー対策の食品に興味のある人は是非、色々調べて欲しい。食べるのが好きな人、イタリアが好きな人は、一緒に食べに行けたらいいね💖

【イタリア語】Tutti i Giorni❣️L'italiano イタリアのドラマ

何語でも勉強するには、不断の勉強が必要だけど、辛すぎると続かないから楽しみながら、息抜きしながら勉強したい。と言っても、語学学校の定番「ひたすら楽しいばかり」の勉強なんてあるわけないし、そんなんでできるようになる人はいないのが真実。基本は、絶対「単語覚え(発音も一緒に)」「基本文法」「多読」「聞き取り」であるのは当然のこと。それらはみんな受け身。それがある程度できたら能動も加えて「書い」たり「しゃべったり」する。

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Cattedrale, Milano

そこで気晴らしと楽しみに加え、社会背景も感じられるように「音楽」を聞いたり、「映画」を観たりする。もしあなたが音楽好きならば断然音楽を聴くことを勧める。私は、いわゆる勉強の他はほぼ音楽一辺倒で単語やニュアンスを覚えた。でももし音楽好きじゃないなら、ドラマがおすすめ。映画ももちろんいいけど、映画は何回も見る人は少ないでしょ?やっぱり繰り返しが単語や言い回しを覚えるのに良いから、音楽やドラマのように、何度も聞いたり観たりしやすいのが良いと思う。

今日本で見られるドラマは、たとえばこの『パラディーゾ:恋する百貨店』原題はParadiso delle Signore(ご婦人方の天国。古風な訳だけど)といってデパートの名前と重なってる。日本はいつでもださいサブタイトルをつけるんだけど、今回の「恋する百貨店」は、ま、良いかな、そんな感じのドラマだから。イタリアではシーズン5まで終わってるけど日本では1が今年から始まりました。主人公がシチリア人で、言葉の問題とかも出てくるので、勉強してる人には面白い。1950年代、百貨店が目新しかった時代の、女性のサクセスストーリー。エミール・ゾラの小説を下敷きにしてる。

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Mazara della Valle, Sicilia

仕事のない男尊女卑のシチリアからミラノに出てくる、度胸満点で美人の主人公は、NHKの朝ドラも彷彿とさせるようなお決まりなんだけど、原本がゾラだけあってちょっとは深みがあるし、なんといってもミラノのドゥオーモや建築史的にも有名なヴィットリオ・エマヌエーレのギャラリーが毎回見られ、ミラノを知ってる人には聖ロレンツォなど他の聖堂も出てきたり、それだけで嬉しい。もちろん女性向きデパートの話だからファッションや髪型なんかも楽しめる。個人的にはデザイン広報部のディスプレイ作業なんかも楽しい。

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Galleria di Vittorio Emmanuele, Milano

私は恋愛ドラマはぜ〜んぜん見ないんだけど、これはイタリア語のために見てる。

またもとんでも無く日本番はださいサブタイトルが付けられたモンタルバーノは1999年にイタリアで始まり、ヨーロッパ中で有名になった本格派の刑事ドラマ。主人公のモンタルバーノ役ジンガレッリは舞台でも有名な俳優で、あまりにヒットして長いことやり過ぎだからかなり前から辞めたかったらしい。それでも今年までず〜っと続いて37話で一応完結した。驚きの最後!と思った人も多い。もともとアンドレア・カミッレーリの小説で作家が2019年に亡くなった事もあって、やめてよかった。あまりに人気が出たから、よくあるようにスピンオフ作品 Il Giovane Montalbano(若き日のモンタルバーノ)も作られた。

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Michele Riondino

元のシリーズに慣れてた人には、突然のフッサフサの髪の毛にまずびっくり!作品の舞台ヴィガータ(シチリアの架空の街。実際にはシチリア島のあちこちで撮影してて、最も印象的なのはラグーサ)に着任する前から始まる。主人公はまたまた有名なイケメン俳優のミケーレ・リオンディーノ。ちなみにルーカ・ジンガレッリも若い頃はイケメンで知られていた。つるっとしてるのしか見た事ないけど。ルーカがコメディも得意な良い俳優なのに対してミケーレはいい男役をしてるのしか見たことないのは私だけ?

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Ragusa, Sicilia

ラグーサは個人的にとっても思い入れの深い場所って事もあって、毎回タイトルバックに出る景色が最高。それにテーマ音楽もシチリア音楽を意識した印象的なもので、話の内容は現実のシチリア問題が満載の複雑なもの。ということで、作品としての質が高い分、語学勉強にもかなり高度。方言も頻出だし、イタリアらしいマシンガントークや犯罪絡みの専門用語や偏屈な人たちの冗談など、よほどできる人でないと全部聞き取るのは難しい。

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Don Matteo

マッテオではなくマッテーオ神父は、絶対超おすすめ。2000年からやってるドラマ。神父探偵ってイギリスのブラウン神父が最初らしいけど、同じイギリスの牧師探偵「グランチェスター」なんかぜーんぜん聖職者らしからぬ雰囲気と内容で、好きじゃないの。それに対してマッテーオ神父は、聖職者らしい神様万歳!なところが好き。だってそうじゃなきゃ、わざわざ神父とか牧師にする意味あるの?

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Gubbio

モンタルバーノのシチリアの迫力ある風景や深刻な話の内容とは全然違った、中部イタリアのこじんまりした街が舞台という事もあって、穏やかで気楽な雰囲気。犯罪があるのにそれも変だけど、血も涙もない極悪非道の輩とか残酷な場面とかはまず出てこなくて、犯罪者のほとんどはいわゆる弱い人間で、昔懐かしい感じのいい音楽がかかるとドン・マッテーオが神のみ言葉をとくと、罪人は涙ながらに改心する。

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Spoleto

主役の完全無敵のヒーロー神父は、元西部劇の英雄だったテレンス・ヒルで国民的スターだった事もあり、人気番組だったのに撮影場所がお金がかかり過ぎで打ち切りになりそうだったのが、舞台をグッビオからスポレートに移して続行中。イタリア語勉強にはかなり役立つと思う。グッビオもスポレートもウンブリア州で、留学していたペルージャからすぐだから何度も行った思い出の場所。ロマネスク聖堂も素晴らしくて、コロナ明けには久しぶりに行ってみたい。

 

以前は全く見られなかったけど、ネットフリックスとかケーブルとかで日本でも少しずつ見られるようになってきた。やっぱり字幕がついてる方が、入りやすいからイタリアのテレビやYouTubeを直に見るよりおすすめします。

 

Ciao!

 

【映画】外出禁止だからせめてロード・ムービー

不要不急の外出禁止令をがっちり守りまくっているので、仕事(授業)の資料作りの他に、本を読んで、映画を観て、ドラマも完走、世界中の人とゲームで交流、音楽リストも作成して、その上裁縫や手芸、さらには普段は絶対やらないパンまで焼いてみた。

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The Straight Story

で、美術ファンの中には当然映画ファンもいると思うので、こもり生活の正反対の映画をお勧めしちゃうのだ。ロード・ムービー特集、思いつくまま。ブラピが出てる1993年の『カリフォルニア』なんかもあるけど、もっと良い映画とか強烈な作品を選んでみた。

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レニングラードカウボーイズアメリカへ行く

強烈といえばウルトラ前に見たのに、忘れられないレニングラードカウボーイズ、ゴー・アメリカ』な・・・なんだ!あの頭は!リーゼント過ぎるっ!!と言う人たちのロードムービー

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Leningrad Cowboys Go America

びっくりした〜。芸術映画にハマってる時期、観客いるの?みたいなアングラ(アンダーグラウンド、マイナーとかそう言った意味)な小さい映画館によく行きました。タルコフスキーとかブニュエルとかゴダールとか、いわゆる芸術映画史上の大監督作品を見まくった。そんな中、たまに馬鹿馬鹿しい自主制作や際物とかもあって、この映画は大ヒットでした。派手だもん。で製作はロシアかと思いきやフィンランドスウェーデンの合作で1989年の作品。故郷シベリアからアメリカ、メキシコと民族音楽含め色々演奏しながら旅をするバンドマンたちのお話。北欧独特のとボヨ〜んとぼけたコメディ。架空のバンドだったのに大ヒットしたのでバンド名を変更して(ホントのバンドが出演)映画も続編が出たほどです。も一度みたいな〜。初めて北欧モノの面白さを知った頃でもあります。

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Leningrad Cowboys Go America

で絶対思い出しちゃうのがブルース・ブラザーズこれは好き過ぎて何度も見てる。1980年の作品がカッコ良過ぎて1998年に第二弾も作られた。これはすごく有名な映画だから知ってる人も多いとは思うけど、レニングラードカウボーイズ同様、時代錯誤のバンドマンの話。でも対照的なのは北欧のロシア版カウボーイたちがボケまくりなのと正反対に、流石ハリウッドのコメディアンと超一流ミュージシャンがソウルフルに歌って踊るこっちはキレまくり。第二弾では子供までプロ根性で踊って歌ってくれる。あとロードムービーは、車も重要だけどパトカーってとこも印象的。

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The Blues Brothers

音楽とロードムービーといえば2018年の『グリーン・ブック』が外せない。すごく良い映画だった。実在の天才黒人ピアニストと運転手兼用心棒のイタリア系アメリカ人が、1962年に行ったアメリカ南部ツアーを再現した伝記物。BLM (Black Lives Matter 警官に執拗に暴行され亡くなった黒人の事件から、差別に対する反対運動の標語になった。大阪なおみが身につけていたのを記憶している人も多いと思う) のように現在も明確な差別が存在するけれど、この時期にはもっと極端な差別があった。イタリア系で貧しい大家族の一員トニーも、黒人が飲んだコップをゴミ箱に捨てる程差別していた。でも成功した天才ピアニスト、ドン・シャーリーの仕事で一緒に過ごす内、考えが変わってゆく。最後に実際の二人の写真が出てその後が紹介されるのも、定番だけど良い終わり方。いろんな賞を受賞しまくった反面、白人ヒーローっていうのがどうなのよ?とか時代考証の問題とかの指摘もある。確かにトミーは腕っ節が強く度胸満点の完全にヒーローだけど、ドン・シャーリーも際立った才能と高い教養があり、もっと楽に稼げるのにわざわざ苦難を選んだ根性ある黒人として描かれ、負けずにヒーローだから、私はケチつける人(人権活動家なんだろうけど)が言い過ぎの気がしなくもない。何より黒人だから日々不愉快な思いをさせられているにも関わらず、正しく生きようとしているところが素晴らしい。

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Green Book

タイトルの「緑の本」って言うのは20世紀に実際に使用されていたパンフレットで、グリーンという人が書いたんだけど、それは黒人が宿泊可能な宿などが記されているもの。知らなかった。そんなものがあったんだ。ほんと悲しい。それから考えれば、ほんの少しづつだけど世の中は進歩してるのかもしれない。それから私的には、結構出てくるイタリア語も楽しめた。よく、絶対この人喋れないよ、みたいな外国語喋る人(中国人や韓国人が日本人役で日本語喋るとか、イタリア移民の役のアメリカ人が訳のわからんイタリア語喋るとか)と違って、結構みんな二世だったらこんなかな?みたいな自然なイタリア語喋ってた。

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Green Book

 これをテーマに製作されたかっこいいポスターもたくさんある。デザインに関心のある人は探してみて。英語でね。

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Green Book

受賞と実話といえば2016年のオーストリアアメリカ、イギリス合作のインド人青年を主役にした『獅子』(日本語タイトルは『ライオン:25年目のただいま』がある。

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Lion

極貧生活をする兄弟が、僅かなお金を稼ごうとして夜中、駅に出かける。兄を待つうち列車内で眠ってしまった弟は見知らぬ場所で目覚め、危険をすり抜けながら孤児院で育つ。程なくして遥か彼方の良い家庭に引き取られて愛されて育ったんだけど、大人になってから自分のルーツを探す旅に出る。愛に溢れた母親役がニコール・キッドマンの割には、低予算で作られたが全世界で話題を呼んで大きな収入を上げた。信じられないような実話。表現なども特に凝っていない素直な良い映画。

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The Straight Story

最後に低予算&実話繋がりで、お気にりを紹介します。1999年の『ストレート・ストーリー』。このブログの一番上にある図はこの映画のもの。これも信じ難いことに、アイオワ州からウィスコンシン州まで560キロを、なんと芝刈り機で爆走した73歳の老人の話。長年疎遠だった兄が入院したという一本の電話がきっかけ。上で紹介してきたどの映画より地味な映画だけど、ある意味一番好きかもしれない。タイトルのStraightをどう訳すかが難しいと思うけど、日本版はただカタカナにしているのに対してイタリアでは「真実の物語」とイタリア語にしている。1994年に「ニューヨークタイムズ」に掲載された記事を元に作られた。

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Una Storia Vera

主人公は自分も腰が悪く、自力でなんでもやるのが困難になっているから、知恵遅れと判断された不幸な娘も大反対するが、有り金叩いて芝刈り機を購入し、時速8キロで出発。芝刈り機に乗って道をゆく彼を街の人々は面白がったり、驚いたり。故郷の小さな田舎町を出発して、都会を通過、巨大なトラックの横をすり抜ける時なんか、心配になってしまう。道を聞くと人々は仰天するも、雨にも負けず、ただひたすらゆっくり進む。唯一緊張感のある場面は、坂道でブレーキが壊れて止まらなくなるところ。ごく普通の善人、よくある問題を抱えた女の子、ちょっとずるい人、ちょっと意地悪な人、同じように寂しい人など、よくいそうな人々に出逢いながら目的を達成する。

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The Straight Story

有名なヒットメイカー監督、デヴィッド・リンチの作品中圧倒的に好きな作品。主演のリチャード・ファーンワーズはスティーブ・マックイーンゲイリー・クーパーロバート・レッドフォードみたいな人たちが共演を望んだ名優で、本当のカウボーイ(西部劇でスタントができる)だったみたい。彼がなんといっても素晴らしいんだけど、この映画が公開された翌年、癌の痛みに耐えきれず自殺した。撮影中も辛かったに違いない。老いて心身共に辛くとも自力で尊厳を持ってやり通す主人公に、まさに敵役だったんだろうなと思う。

 

カウボーイにはじまってカウボーイの話で締まった。カウボーイよ永遠に💖

【本】展覧会、美術展について

更新サボってました。でも来てくださった方、どうかブログ内検索してください。美術とかイタリア語とか旅とかで過去の記事が出てくるので読んでください。お願いします💕

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美術館っておもしろい

コロナになって私個人も甚大な被害を受けていますが、美術館・博物館の展覧会も大打撃を被っています。テレビではひたすら飲食店、次いで旅行関係者の話ばかりするけれど、世の中にはさまざまな仕事が沢山あって、大抵は厳しい状態におかれているのに、バカの一つ覚えのテレビ。ほんとに政府と同じで発想が貧困、その上真剣に調べる気が無いのも同じ。

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展覧会プロデューサーのお仕事

とにかく大変な状況の美術館・博物館ですが、コロナ下で新たな展示(というか展覧会)の方法が模索されています。出かけちゃダメって言うなら展覧会はどうしたらいいの?と言うことで結局オンライン旅とかみたいに、ITデジタルの利点を活かしたものが成功してる。しかも信じ難く大成功したりしてる。ほとんどの人は知らないと思うけど、今はアート・バブルって言われるほどデジタルを利用したアート作品が投資の対象になっています。NFT(Non Fungible Token)「代替不可能トークン」とかいってもさっぱり分からない人も多いと思うけど、コンピューターの話をしなきゃならないから、説明するとそれだけで長ーくなっちゃうので気になる人は自分で調べてください。でも勝手に私の解釈で一言解説すると、デジタルだといくらでも複製できちゃうから、芸術作品としてのオリジナルの価値はどう保ったらいいのかってことで考えられたシステム。莫大な金額が絡むので問題になってる。私もコンピューターを愛する一人だけど、要するにコンピューター(IT)の発展とともに世界は根本的に変わった。経済や働き方など全てに影響するから、ITの盲点は世界の覇権争や人種差別問題に劣らない大問題。歴史的には確実に、今は近世の「産業革命」に匹敵する「第二次産業革命」時代だと思ってる。

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シェアする美術

そんな中、SNSを活用して若い人の集客に大成功したのが、たとえば森美術館。いくらでも写真を撮ってよくて、アップロードした後も複製しまくっていいから、写真が印象的ならどんどん拡散する。それを見て展覧会に行きたくなる人が増え、作家や作品に興味を持つ人が増える。これは当然のことで、私もず〜っと前から考えていました。だって授業で使うための写真を一年中探しているんだけど、自分で撮影した分だけではどうしても足りない。本を書かないかって多くの人に言ってもらって、最初につまづいたのが美術作品の権利の問題。著作権問題も現在の大問題の一つで、馬鹿らしい反社会的な規制も少なく無いと思う一方、発明者や原作者の権利も当然考えなければならない。真剣な社会問題から下らない商品(人も物も)まで、大抵のことはいかに大勢の人に知ってもらうかにかかっているのに、撮影しちゃいけなってどういうこと?大英博物館なんか、お〜〜〜〜〜〜〜〜〜昔から、無料で模写してよかった。あれが教育でしょ?確かにバチカンで観もしないで写真撮りまくって、人の邪魔になる群には頭にくるけどさ。帰ってから散々見直すならいいけど、ほっとくなら撮らないでよく観ようよ!

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美術館の舞台裏

すいません。いつものように本心吐露。とにかく「インスタ映え」を極めて多くの人が気にするような世の中ではそうやって告知するのが非常に効果的で、展覧会も同じ運命。展覧会って、少し前までは完全に老人のモノだった。いかに若い人に興味を持ってもらうかが美術館を真面目に運営する人々の問題だったのに、今は様子が変わってきている。

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拡張するキュレーション

それはとても喜ばしいことだと私も思う。でも、展覧会を作る人たちによって群衆がいとも容易く操作され、これは「ゲイジュツ」なんだと思わされ、美術館・博物館の展覧会が変化している今だからこそ、「芸術」とは何か?なんなの?って真剣に考えます。有名なキュレーターってお金を生み出す(展覧会場を人々で埋め、お土産を買わせる)人で、まるで企業家。本当に芸術や美術を愛していたら、こんな内容にはならないでしょ?って展覧会ばっかり。フェルメール展やレオナルド展など本当にひどいもんだった。名前の大宣伝で良い作品は全然来ない。(フェルメールは何回もやったので、良い作品が来た時もあるにはあるけど、パンダ見物状態で大変非文化的)そもそも持ってこられる作品自体少ないんだから、人を騙すような宣伝をするべきじゃない。難しい状況の中頑張ったのは「カラヴァッジョ」。個人的には近代美術館の「フランシス・ベーコン」が最高でした。

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美術展の不都合な真実

子供の頃から展覧会に行っている美術を愛する者として、海外の美術館博物館を巡っている者として、常々おかしいと思っていたことの理由が具体的に証明されているのがこの本、題名も「美術展の不都合な真実」。今回載せた写真の他に美術館や展覧会に関する本って結構あるんだけど、圧倒的にこの本が真面目で好感が持てました。学芸員がないがしろにされている、文化がほっておかれている事がきちんと説明されています。

 

私はいくつも大学へ行っていて、美大出身者でもあります。私が学生だった頃大学で助手をしていた人が世田谷美術館学芸員になって何度か逢いに行きました。学芸員の実際の仕事を最初に知ったのはその時です。世田谷美術館は国公立でも無い上駅から遠いのに、集客率の高い良い展覧会をするので定評のあるところです。そんなとこの学芸員だったのに、私は内情を知って博物館学の学位を取るのを辞めました。なぜか、この本を読むと納得できる。結局、日本の経済や文化を支える重要ポストにいる人たちに大問題がある。そして、自分にはなんの判断基準もなく、ただ見聞きしたことを鵜呑みにして美術館へ行く人たちにも問題がある。私の授業では常に言ってるけど、読んだことではなく、自分でどう感じるか、批判能力をつけることが一番大切。それを悪いことだと思っているなら、そこには民主主義も自由、学問も存在しない。物事の良し悪しや善悪を判断するのは自分。そして判断するために多角的な知識を身につけなければ。これが今の日本人に最も求められていることだと信じます。

 

【本】システィーナ礼拝堂の図像探究のためにも(地理・年表)

先日、本当に久しぶりにオンライン授業ではありますが、都立大OUの講座が再開しました。人数が多いのでみんなと会話することはできません。でも参加者が、私の授業を待ちわびてくれたと知ることほど嬉しいことはありません。できることなら全員を連れてイタリアへ行きたい!

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ロンゴバルドとビザンチンイタリア半島

コロナになってプラスの面は、とんでもなく外出しないし人に会わなくなったので風邪をひかなくなったこと。毎年冬には風邪をひいていたのに去年は一度も引かなかったのに、授業を目前にして夜中まで資料を調べていたら風邪ひいちゃって熱があったのに、90分の授業を乗り切ることができました。オンラインの良い点を再確認。しかもリップサービスでも事務局からは「生き生きしたとても楽しい授業」とか言ってもらった。本来の私を知っている参加者からは、おとなしかったと言われたけれど。(おとなしいって「大人しい」と書くと思うと、日本的だなと思う。大人は黙ってろってことですか?波風立たせず、息を殺して様子見て生きろとでも??私は永遠に大人になれない)

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ヨーロッパ(ラテン)

そんなわけで初回の授業は、ルネサンス時期の地理を把握することからはじめました。世界史と地理は深く結びついているので、常に地図を片手に歴史書を読むのが理想です。システィーナ礼拝堂が中心なので、当然教皇領が中心となります。

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私の本棚の一部

地理はgoogle・mapもしょっちゅう使うんだけど、歴史地図が必要なので、時代に合わせた物を探す必要があります。多少日本語でも出ていますが、高額なものも多くやはり図書館利用を勧めます。

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図説ヨーロッパ歴史百科

 例えば、この「図説ヨーロッパ歴史百科」は最初英語版で入手しました。日本語が出たのは何年も経ってからで、しかも何倍も高く不必要に豪華な装丁ですが、授業でも使えると思って泣く泣く購入。内容は、かなり良いと思います。これ一冊読んだだけで世界史の勉強になりますからぜひお勧め。

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聖書・キリスト教歴史年表

キリスト教の歴史年表です。長ーーーーっく広げて、感覚的に、古代から現代までのキリスト教の大事件を把握できます。イタリアにいた頃はキリスト教年表など簡単に入手できたのですが日本だとなかなかそうはいかないので、これはおすすめできます。しかも2800円でした。キリスト教の出版社(いのちのことば社)だけあってルネサンス時期も、文芸のルネサンスではなく異端審問や宗教改革の時代として把握され、見方によって内容もすっかり変わるところも興味深いです。

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世界史図録

なんと言ってもお手軽なのは教科書のような堅い本専門の山川出版から出ている「世界史図録」。この初版では内容にとんでもない間違いを発見しましたが、改定されているので使えると思います。日本も含めた世界が対象だし、断然安い分内容も薄いですが、何も読まないよりよほど良いし、年表と地図もそこそこ入っています。

この他に「コンサイス聖書歴史地図」も割と入手しやすいかと思います。キリスト教関連資料は、専門の本屋さんがあるので銀座や四谷などに行ける方は書店へ行ってみるのも楽しいと思います。普通の本屋さんと全然違う雰囲気で、グッズがあったり喫茶店もあったりします。ちなみにお勧めは「聖パウロの足跡地図のクリアファイル」と「みことばクッキー」!

www.kyobunkwan.co.jp

www.paulus.jp

www.wlpm.or.jp

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Atlas of the CHRISTIAN CHURCH

これは私が勉強しはじめた頃ロンドンで買った愛読書で、大切にしているけどもうボロボロです。 デッラ・ロッビアの感動的なイエス像が表紙で、普通の世界歴史地図には見られない地図がたくさん入っています。

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宗教改革期の派閥別地図

残念ながらというか、当然ながらというかヨーロッパのことを勉強しようと思えば圧倒的に英語ができた方が豊富な資料が入手できます。中世の研究には、重要なフランス語やドイツ語資料が目白押しなように、ルネサンスのことを勉強したいならイタリア語ができるのとできないのとでは雲泥の差です。

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巡礼についての解説頁

語学はいきなりできるようにはなりませんから、まず手当たり次第日本語資料に目を通すべきでしょうが、もし貴方が若くて勉強が嫌いでないなら絶対に語学に力を入れるべきです。コロナで明白になった日本(経済も人権などの社会意識や文化程度も)の遅れは、一つには語学力に問題があると思います。英語ができれば世界中のさまざまな出来事を自力で知ることができて、日本と比較検証することができるのだから。これから日本が鎖国することもないでしょうから将来仕事を探すときにも絶対役に立ちます。私は後悔しない主義ですが、最大の後悔をあげるとすればもっと若いうちに真剣に語学を習得すべきだったということです。もう若くないと思っている人でも、語学が嫌いでないなら必ずある程度は進歩しますから、ぜひ勉強してください。海外の書物、映画やドラマ、音楽を聞いたり旅に行ったときに喜びが全く違いますから。(世界中の人とネットでゲームもできます💖)しかし勉強の最大の喜びは、自分で上達したことを体感したときでしょう。自力でやったという達成感は何物にも変え難いものだから。

 

【本】ルネサンスを知るために(小説)

都立大OU(オープンユニヴァーシティ)のオンライン授業で私が受け持つ講座「システィーナ礼拝堂の図像探究」のために、ルネサンスのことを少しでも知るための本を紹介しています。勉強はなんでもそうだけど、予習と復習なら予習の方が絶対効果的だから。もちろん両方できる人はそれに越したことはないけどサ。 

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 ボルジャの間

今までごく一般的な内容で紹介してきたんだけど、そろそろステップアップ。ということで、歴史や社会状況の解説、美術用語の基礎知識とかではなくて、より生なルネサンスとでもいうのか、文学的な内容の本を紹介します。

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イタリア・ルネサンス 愛の風景

題名:アモルとプシュケ叢書 イタリア・ルネサンス 愛の風景

共訳:谷口勇 G.ピアッザ

出版:而立書房

 

愛は世の魂なり 愛は心なり
そは 天上で太陽をも 斜めに歩ます。
そは 天上で さすらう神々の高い輪舞を
早めもすれば 遅らせもする。
空気、水、土、燃ゆる火が
宇宙の大要素に混じり合い、
自らの霊を培う。しかして、人の喜び 苦しみは
愛が原因なり。人の希望 恐怖とても。
タッソ『自が貴婦人へ捧げるソネット

 

「イタリアがヨーロッパの全ての近代国家の中で最初に未開状態から立ち直り、新たに全世界を開花する伝播者となった時、そして、この半島の最も美しい人口稠密な都市が、文化の様々な分野において多種の傑出した人々を誇りにしていたとき、優雅な心の持ち主たちの牧草地となっていたのは物語だった。」(上述書5頁)

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Canova, Amor e Psiche

こんなふうに始まる、みるからにお洒落なこの本は、1852年に今は亡きフィレンツェの出版社から出された「愛の場面」という詩集&物語に、訳者たちが解説をつけたもの。私はタッソーが好きなので自分なりのタッソーのイメージを持っているから上の翻訳がどうもしっくりこないけれど、読みにくい書体の原本を読解するのがどれほど大変な作業だったかと思うと、こんな売れそうもない本を出してくれたことに感謝の気持ちで一杯です。大体「アモルとプシュケ叢書」って、かの有名なカノーヴァの作品が思い浮かぶけど、確かにルネサンスは文学運動から始まったのだろうし、文学といえば主題は「愛」に決まっている。大体、愛という言葉は日本語としては歴史が浅く、逆にイタリア語では愛を表す様々な言葉がある。その愛の主人公たちは、ダンテとベアトリーチェに始まり、ラッファエッロとフォルナリーナやパオロとフランチェスカジュリエッタとロメオ、ペトラルカとラウラ、ボッカッチョとフィアンメッタなどちょっと勉強した人なら皆知っている有名な恋人たち。ダンテは中世の人だし、実際には完全な独りよがりなんだけど詩人なんてそんなもんなのかな?ルネサンスの教養人、ルネサンス文化を担った人たちはこんな詩に夢中になれた。なんて文字通りロマンチックなんだろう!訳者たちの熱い気持ちが伝わってきます。

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ルドヴィコ・イル・モーロ 黒衣の貴族

題名:ルドヴィコ・イル・モーロ 黒衣の貴族

著者:マリアーナ・フリジェーニ
訳者:千種堅

出版:河出書房

イタリアの塩野七生かどうかは知らないけれど、歴史小説ルネサンス期のミラノの君主イル・モーロ(肌が黒い人って意味)を主人公に、陰謀渦巻く波乱万丈の生涯を綴った歴史ロマン。

正直、私はテレビでも歴史ドラマが好きじゃないので、こういう本も読まないけれど、世の中のほとんどの人が読む本はハウツーものか小説だそうだから、研究書や歴史解説などが苦手な人で小説好きなら、こういうのから入るのも良いと思う。テレビドラマよりはきちんと取材していて、それほどウソピョーンでもなさそうだし。レオナルド・ダヴィンチは当然登場する。今回の授業には直接的には関係ないけれど、ルネサンス君主がどんなものか理解するのに良いと思うし、メディチ家とのつながりが実感できるのではないでしょうか。

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神の代理人

塩野七生が出たので、たくさんある著作から今回に関係あるものをあげると、もちろん「ルネサンス」関係は幾つもある中、初期の作品で「神の代理人」というのが私のお勧め。ルネサンス教皇たちの話。ピウス二世から始まったような記憶が・・・。遠い昔だから断言できないけど。ボルジャやレオ十世は当然登場。「チェーザレ・ボルジャあるいは優雅なる冷酷」は、私がチェーザレがあまりにも嫌いで、その人を最高にかっこいいという人が全く理解できないので、おすすめできるわけがありません。漫画で楽しんでください。私にとってチェーザレは優雅どころか品性下劣で残酷な変態なので。

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神の代理人

塩野七生ルネサンス著作集6ではラッファエッロのユリウス二世が表紙になっていますが、私が読んだのは聖ピエトロ大寺院の大伽藍が写っている文庫本でした。

 

 

【本】ルネサンスとイタリア:

いよいよ4月10日からの授業が迫ってきました!

www.ou.tmu.ac.jp

中止になる講座も出る中、私の講座はもう満員御礼で申し込みが終了しました(やりました!皆様のおかげです!!)

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Pinturicchio

で、昨日参加者全員に、このサイトのURLを事務から送ってもらいました。講座の前に少しでも本を読んでおくためです。今日も追加で紹介します。

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イタリアの歴史と文化

題名:はじめて学ぶ イタリアの歴史と文化

著者:藤内哲也

出版:ミネルヴァ書房

比較的新しい本なので入手は簡単です。古代末期から近現代までを、項目立てして解説。ルネサンスには比較的多く頁が割かれていますので、まずそこだけ読んだらどうでしょうか。時間のある時に一冊読むとして。真剣なゲットーの話から、ルクレツィア・ボルジャのお洒落の話なども出てきます。

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Paese Italia

題名:イタリアという「国」 歴史の中の社会と文化

著者:ルッジェーロ・ロマーノ 訳:関口英子

出版:岩波書店

 カルパッチョの表紙が印象的なこの本は、第1章「なぜ我々はイタリア人であると言わずにはいられないのか」で始まります。こちらは先に紹介した、日本人が日本人に向けて書いた入門書とは全く違った内容です。アナール派の学者には私の大好きな著者が何人もいて、この本も流石な内容ですが、決して入門書ではありません。国(ネイション)とは何かが問われる現在、非常に意味のあるものと思います。入門書はもういいから、真面目な少し踏み込んだ本が読みたい人へ。

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イタリアを知るための62章

題名:イタリアを知るための62章

著者:村上義和

出版:明石書店

これは辞典みたいにたくさん章立てがあって、一言解説があるタイプの本で同じシリーズに「イタリアの歴史を知るための50章」とか「イタリアを旅する24章」とか色々、まだまだあります。私はちらっと見ただけですが、お手軽には違いないと思います。

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一冊でわかるイタリア史

題名:世界と日本がわかる国ぐにの歴史 一冊でわかるイタリアの歴史

著者:北原敦(監修)

出版:河出書房

読んでないので知らないけど、河出書房は良い出版社なので紹介しました。時間のない人や本を読み慣れていない人が、ルネサンスあたりをまず読んでみるのには楽で良いのではと思います。

【文化】国立市と友好都市になるルッカ

東京都の国立市とイタリアはトスカーナ州ルッカ市とは友好都市計画を進めています。私はこの計画に関わっていて、小さなパンフレット作りにはかなり関わりました。出来立てホヤホヤの紹介パンフレットです。私は、記事は結構書いていますし、写真提供や校正をずいぶんやったのですが、デザインには関わっていません。元は美大卒のデザイナーだったのだから残念ですが、何もかもするわけには行きません。市のため未来のためにボランティアで製作したのは「くにたちイタリア商店の会」です。お疲れ様でした。

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ルッカ紹介パンフレット

表紙は、ルッカの街中にある最も印象的なアンフィテアートロ広場を外から覗いた場面です。国立のマスコットキャラくにニャンも登場。国立を知っている人ならご存知の通り、国立って旧駅舎に異常に愛着のある人々が沢山いて、つまらない新駅ビルの前に旧駅舎を復元しているんですが、くにニャンはその駅舎を元にしたデザイン。ルッカと国立の市長同士が硬い握手。ルッカ市庁舎で撮影。

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Anfiteatro, Lucca

アンフィテアートロとは古代ローマの競技場のこと。観覧席を住居に立て直して住み続けたのは世界でも珍しい現象です。中世の姿を近世に再現しています。

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パンフ最初の見開き

最初の頁は、イタリア関係者なら誰でも知ってる超重鎮、西村暢夫大騎士(イタリア政府から授与された)が執筆。正直言って私だったら絶対書かない内容ですが、大騎士が日本とイタリアの橋渡しとして最初に貢献されたのは紛れもない事実ですし、大変人格者です。

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San Frediano, Lucca

日本では区別なく大聖堂って言いますが、イタリア語ではBasilica(バジリカ)です。この聖堂はルッカの歴史で最も重要な聖堂の一つですが、司教座聖堂ではありません。ただ聖堂好きならすぐ気付く通り、様式的に非常に珍しく、ファサードの巨大モザイクは大変印象的です。行く度に何枚も写真を撮っているのですが、お天気や時間によって印象がずいぶん違うのに、キリストはいつだってこちらを見つめています。

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パンフ次の見開き

次は音楽と美術の話。当然私は美術欄担当です。当初、ルッカのガイドブック的な内容を想定していたので、重要な美術館や施設の一言紹介を書きましたが、的を絞った記事にしてほしいと言われて、街のど真ん中に彫像がある最大の芸術家、チヴィターリの話を中心に、ロンゴバルド時代、ロマネスク時代からルネサンスへと、ルッカ美術を代表する作品を紹介しました。チヴィターリは繊細で優美な聖母の彫刻家ですが、私は斬首された洗礼者ヨハネの写真をすごく使いたかったのに、拒否されました。若い人には切られた首の方がウケたと思うんだけどな〜。でももちろんこの聖母子は最高です。マリアはなんだか仏教美術にも通じる達観した穏やかさを感じさせます。

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Matteo Civitali,Lucca

で食の話。大体この冊子の制作は商店の会がやっているのですが、食関係の人々が中心なので、私には食にスペースを割き過ぎに思えるけれど、大多数の人は食に関心が高いので自然かもしれないです。国立にはレストランも含め、イタリアの食材を扱うお店が沢山あるので是非どうぞ。

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パンフ3番目の見開き

ルッカで私が大好きなことは沢山ありますが、食に関しては、すぐ隣のフィレンツェと違って安い!美味しい!落ち着ける!こと。特にファッロを使った伝統料理はいつでも食べます。

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国立のイタリアン・レストラン、アルトパッショ

次は地理とか行事とか人口など基本情報頁。このページではずいぶん書いてるんだけど、編集サイドと意見が合わなくて大変でした。ルッカへの旅の一言案内みたいになってるのですが、ルッカへの行き方(どうやって行ったって好きにすればいいけどさ)なんか私には理解不能なんだもん。日本からヨーロッパの街へ行く時、とにかくヨーロッパの国へ入ってさえしまえば大丈夫。別にミラノかローマじゃなくても、ロンドンでもアムステルダムでも問題ない。そっからフィレンツェかピサへ飛んでもいいし、電車好きならパリから夜行で来るとか色々ある。とにかく安くしたい私はたいていモスクワ乗り換えです。言葉が心配でとてもそんなことはできないと言うなら、アリタリアで直ローマ(成田からは圧倒的にローマ便が多い)かミラノに着いて、あとは間違いなく急行電車でフィレンツェで降り、乗り換えてルッカ着。これしかないね。ジェノヴァとかを回ってきたいならピサから来る手がいい。フィレンツェもピサも近いし、あの辺は安全だからお金に余裕のある人は、車をチャーターして寄り道しながら来るのも最高。途中に高級温泉や綺麗な場所が沢山あるから。

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パンフ情報色々頁

私の愛するヴォルト・サントの祭典(ルミナーラ)とコスプレで世界でも有名なルッカ・コミックスの紹介の他、ルッカの達人たちがいろんな場所をお勧めしています。と言っても私以外の人は皆食関係(レストラン、お菓子屋さん、料理学園)だけど。

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Palazzo Mansi

私としてはお洒落なルッカを紹介したかったんだけど、全然できなかった。ルネサンス後期からある宝飾屋さんなんか、店構えもアール・ヌーヴォーの美だし、15世紀のネックレスとか平気でどんどん触らせてくれる!日本では考えられないことだらけ。若者向けの経済的なお店もまた良くて、ウィンドー・ディスプレーからして斬新だし、売ってるものもラインが綺麗でカッコいいんだ💕

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ルッカ司教座聖堂ファサード象嵌細工

ま、とっても小さな本に色々詰めないといけないから、載せられないことが沢山出ちゃうのは当然です。最後は、どうして国立とルッカが有効都市なの?っていうまともな内容。市長たちのメッセージで閉め。

 

手作り感満載の小さなパンフレットが、無駄に捨てられたりしないできちんと読んでもらえますように、これを読んで有効都市とか文化交流とか、ルッカの街とかいろんなことに興味を持ってくれる若い人が現れますように、心から願ってる。国立市民にお知り合いがいたら、ぜひ伝えてください。お願いします💖

 

【本】本を探すには?芸術家列伝

昨日、ペルジーノの日本語で入手できる本は展覧会資料くらいと書きました。今日Amazonで検索したところ、ブログを書く前は何冊もあったのに、もう1万円以上するコレクターアイテムしか残っていませんでした!!凄い!!!このブログを読んでくださった方が購入したに決まってるではありませんか。宣伝料ください〜😃

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Vasari

そこで他で検索したらまだまだあるので、諦めている人や今後の本探しのために紹介します。Amazon以外でも本を購入できるサイトはいくつもあります。友人はメルカリで格安で見つけるそうですが、私が日常的に使っているのは、日本全国の古本屋さんが登録している以下のサイトです。

www.kosho.or.jp

商業的に使いやすくなっていないので、写真もないし最低限の情報ですが、欲しい本が決まっていたら十分役に立つし、専門的な本になればなるほどAmazonより使えます。登録しなければなりませんが、あとは題名や作家を検索にかければ出てきます。最終的には個々の本屋さんとの取引なので送料など後から分かるなど、大型ネットショッピングよりちょっとは不便ですが、失敗したことはありません。ペルジーノも1000円から何冊も残っています。

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ジョルジョ・ヴァザーリ

次に本を買ったり借りたりする時、気にかけたい事を書きます。

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Le vite di piu' eccellenti architetti, pittori et scultori italiani, da Cimabue insino a tempi nostri

例えばジョルジョ・ヴァザーリは美術史を勉強する者にとって大変貴重な人物で、彼の書いた『最も優れたイタリア人建築家、画家、彫刻家たちの人生。チマブーエから我らの時代まで』は必読書です。イタリアでもさまざまな版がありますし、日本でも幾つか本が見つかります。

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美術家列伝

ところが邦訳では全てが読めるわけではありません。ごく一部の有名人だけ取り上げたものか、数冊で画家と彫刻家を紹介したものなどあります。

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ルネサンス彫刻家・建築家列伝

題名もオリジナルの長いタイトルではなく、「芸術家列伝」だったり「美術家列伝」だったり色々。

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芸術家列伝

知らないと、どれを選んでいいのか分からなかったり、たまたま手にしたのを読んで、全てだと思ってしまいがちです。オリジナルのイタリア版は非常に長く、初版には挿絵は全くありませんでした。画家毎に顔表紙をつけるようになったのは第二版以降で、その顔も全然似てない事がしばしばです。一人の画家の所に、関連として別の画家の話も結構出てきます。

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古書店にはさまざまなイタリア語版が

だからヴァザーリの「芸術家列伝」が読みたいと思ったら、ちょっと違う題名だけど同じ内容の本が結構あるとか、違った翻訳者のものがあるとか、何年に出版されたとかを考慮して選ぶ必要があります。翻訳は非常に時間を必要とするものですし、大変丁寧な注釈がついていたりすると、どうしても値段が上がってしまいます。

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Le vite

最近はダウンロードして読める本も多くなってきましたが、注釈を参照しながら注意深く読むには、まだ紙の本の方が集中しやすいでしょう。でもダウンロードしてしまえば検索がかけられるので、その点は非常に便利です。

とにかくAmazonにだけ頼って探すのはやめましょう。さまざまな検索方法と共に、読む方法は色々あります。どれだけ検索できるかは、その人の情報量と知識にかかっていますから、実力の一部と言えるでしょう。

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西洋美術館所蔵のヴァザーリ作品

最後に、買ったら安心して読まない人が少なくありません。買っただけで頭が良くなった気がするのは錯覚だから、とにかく読もう!たくさん読むには、速読の習慣をつけましょう。時間があれば、意識的に、考えながら深く意味をとって読むように心がけてみて。

 

 

【本】ルネサンスを知るために(美術)

都立大オープンユニヴァーシティ事務から連絡がありました。オンライン授業はコンピューターに抵抗がある人が多いのか、なかなか参加者が集まらず大苦戦を強いられている中、私の授業は既に沢山の応募があるそうです。一年半も都立大では授業ができず、もう少しで世捨て人のゲーマー(脱出しまくり!歴史建造物建てまくり!)になりそうな勢いでしたが、生徒になってくださる人たちに救われました。こんな、流行りも、ウケも無視した専門的なブログでも読んでくださる方が結構いて感謝に耐えません。ありがとう千回。グラツィエ・ミッレ!Grazie Mille!!

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Pinturicchio

で、授業の前に読んでおくと良い、ルネサンスに関心のある人に読んでほしい本の第三弾は、美術史の本です。ちゃんとした本屋さんへ行けば、何かしら一冊くらいはあるでしょうから、まずは手に入るものならなんでも良いのですが、何冊か挙げます。アマゾンでルネサンスと検索すると塩野七生著のルネサンスがたくさん出てきますが、あれは小説だということを忘れないで欲しいです。好きならとっかかりには良いと思いますが、NHK大河ドラマと同じでエンターテインメント。

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ルネサンスの美術

塚本博著『ルネサンスの美術』。「すぐわかる」とひらがなで書かれていることからも明白なように、手っ取り早く知りたい人、ゼロスタートの人向けには良いシリーズだと思いますし、この著者の本はもっと本格的なものもあるのでお勧めします。入手も簡単。

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イタリア・ルネサンス美術史

この図説シリーズも入門書として非常に役立つのではと思います。松浦弘明先生には、装丁は一般向けであっても内容は極めて本格的な著書もあります。

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西洋美術の歴史シリーズ

この本は上のような一般書ではありませんが、大学図書館にありそうな西洋美術史のシリーズものです。時代を追って分かれていますがルネサンスに関しては1、2とあるのでまず1からどうぞ。百科事典のようにできているので、気になる項目から読んでみるのも良いと思います。図書館は、基本的にどこでもリクエストできるはずです。この本はそれほど豪華本ではなく持ち運びもできるので借りられる可能性大です。

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イタリア・ルネサンスの巨匠たち

この本はイタリアで出版されているシリーズです。イタリア語オリジナルは安価ですが、日本語版は3880円、時にはコレクター値段で一万円以上!がついているので、やはり図書館にリクエストしてください。チマブーエからベルニーニまで30人の美術家が選ばれていますがボッティチェッリミケランジェロのような有名人は無理なく探せます。版が大きい上写真枚数が圧倒的に多く、一人で一冊ということもあり非常に観やすいので、私も沢山持っています。今回の都立大OUの授業に関係があるのは、ボッティチェッリ、ギルランダイオ、シニョレッリで、関連という意味ではフィリッポ・リッピ、フラ・アンジェリコラファエロ(シリーズに表記された名で記しました)辺りです。

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ペルジーノ展:甘美なる聖母の画家

今回の授業でもシスティーナ礼拝堂でも最も重要な画家であるペルジーノに関しては、日本語で読めるきちんとした本は見つかりませんでした。この2007年に損保ジャパンで行われた展覧会カタログが多分、彼に関する最も固まった資料です。大型本ですが安く入手できるので、好みならば入手したら良いでしょう。

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西洋美術史入門

西洋美術史の簡単な解説本はあちこちから結構出されているので、気に入ったものを一冊手に入れたらどうでしょうか。図版の大きさや文字など、自分に合ったものを選べば良いと思います。美術史の知識がもうあるというような人は、入門書ではなくもう少し踏み込んだものに。

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もう一つのルネサンス

岡田先生にはたくさんの著書があり、独特な視点のものから現代美術に至るまでありますが、この「もう一つのルネサンス」は初期の力作です。基本を読んだ後にどうぞ。

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ルネサンスの芸術家工房

この本は私の愛読書です。この本を読んで美術史をやりたいと思ったような本の一冊です。素晴らしい内容ですが、入門書ではないので歴史や美術をある程度知ってから読むべき。

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イタリア・ルネサンスの文化:ブルクハルト著

正直いって、私のブログを読んでくださっている方にはもうお分かりの通り、私は馬鹿らしいほど簡単な解説書が嫌いです。小学生ではあるまいし、大人なら漫画だけでできたルネサンス美術史とか、やめて頂きたい。だってどんなに簡単に解説するにしても、それほど簡単にはいかないはずなものを無理矢理簡単にしてしまうということは、真実をかなり捻じ曲げているということに他ならないからです。どんなにカタイ本でも、時には間違いもあるし、新たに判明した事実や、時代によって大方の研究者の見解が変わるなど、絶対正しいものはないけれど、無理に簡単にしようとした本よりは余程真実に近いはず。

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ルネサンス(クセジュ)

大体美術の本なのだから図版を一生懸命観る必要があり、それを手描きにして紹介するのも、私には馴染めない。漫画が大好きならば、上のような本に付け足して楽しんでください。

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イタリア絵画史:ロンギ著

簡単な本から始めました。最後の方、クセジュ文庫など、図版は既に知っているのを承知で、文章を読み込んでいくタイプです。クセジュは私の基本文庫で、ルネサンス絵画史もあります。ロベルト・ロンギはイタリアの美術史において大変有名な人なので一冊入れてみましたが、ルネサンスというよりイタリア絵画をどう捉えるかという内容です。本当はロンギ以外にもイタリア人の重要な美術史家は何人もいますが、ここで紹介したいような翻訳が無いのでこの辺で。

 

注)以前、オンライン授業は当日出席できなくてもいつでもみられると書きましたが、そうではなくて、授業当日から一週間以内だそうです。失礼しました。オンラインだろうが、とにかく授業が楽しみです🎨 

【本】ルネサンスを知るために(思想)

 日本ではルネサンスというとひたすら美術(絵画、彫刻、建築など)のように思われがちですが、音楽(オペラの発生や楽譜、楽器、楽曲の発展など)もあるし何より文学(詩、散文、小説、随筆、思想哲学など)があります。西洋の歴史を振り返るとき、日本と大いに異なるのは偉大なアジテーター(政治や社会問題の活動家)がいるかいないかということですが、アジテーターにとって非常に重要なことは言葉の力、いかに人心を掴む演説ができるかどうかということです。そしてそれは明確な思想あって初めてできることなのです。政権維持しか頭にない政府、質問に何も答えない質疑応答の無い国会が当たり前の日本とは正反対の、激論が交わされる世界です。学会もそうで、私のイタリア人の先生もたの教授と激論していました。自由な討論から新たな発想や思想が生まれるのです。ルネサンスも始まりは新たな思想運動でした。ウマニスタ(英語だとヒューマニストとなって、日本人には意味が違ってしまう。)と言われる人々、学究の徒が古代の文献を愛し、さまざまなことに興味を持って集まっては意見を交わしたのがルネサンスの源です。

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Ghirlandaio

フィレンツェの駅(S.M.N.)の目の前にある、極めてルネサンスらしいドメニコ会のサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂には、ルネサンスの思想に関連して必ず言及されるフレスコがあります。聖処女(マリアの少女時代)の物語場面にメディチ家の人々や当時の重要人物が立ち会っているのですが、その中に思想界の大物たちがいます。上図の左下にいる四人の人物は当時の人々に絶大な影響を与えたと言われる思想家(学者)たちです。彼らの主催するアカデミーにはボッティチェッリミケランジェロが熱心に通い、「春」や「ビーナスの誕生」などはそこから生まれたと言われています。後援するのはメディチ家です。

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Ghirlandaio, S.M.Novella

一方ヴァチカン図書館やルネサンス教皇について話す時、必ず引っ張り出される絵はメロッツォ・ダ・フォルリの下の図です。システィーナ礼拝堂の名は、右端に座す教皇シクストゥス四世から来たもの。遠近法といい建築様式といい、まさにルネサンスな作品ですが、後のユリウス二世やパッツィ家の陰謀の首謀者たちが描かれていることでも大変知られた作品です。しかし、ここではこの絵の主人公である初代ヴァチカン図書館長となった紺のマントで跪くプラティーナに注目しましょう。彼も偉大な人文主義者(ウマニスタ)でした。ヨーロッパ史上初めて美食についての本を書きました。要するにルネサンスとは、それまで関心を持たれなかったり無視されてきた様々な分野について広く興味を持ち、新たな価値を与え、研究することから生まれたのです。

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Melozzo da Forli

ルネサンス人文主義者の肖像作品として最高なのはラッファエッロ描くインギラーミです。教皇庁で若い時から尊敬されたウマニスタでした。彼の要望の負の要素である激しい斜視をそのまま描いています。しかしそれでもこの人物に対するラッファエッロの尊敬の念が観る者に伝わるような、威厳のある素晴らしい肖像画です。

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Raffaello

ここまできてやっと本の紹介をしたいと思うのですが、思想については美術史や一般的な歴史と違って問題があります。思想(哲学もしくは神学も同時に考えなくてはなりません)とは、言葉を基本に考えるものです。特にルネサンス当時は言葉を無視した思想など考えられない時代です。となると根本的に言語体系の違う日本人にどこまで理解できるのかという問題が起こります。加えてほとんどの日本人は、普段全くと言っていいほど思想(哲学)に馴染んでいません。思想は日常生活をただ生きるのとは違った頭の使い方をするものですから、慣れが必要です。ソシュールでもデリダでもウィトゲンシュタインでもいいし、ニーチェとかカントでもいいし、ソクラテスアリストテレスでも構わないので何かちょっと読んでみたらどうでしょうか。私が上記の人たちの思想を分かっているとは決して言いません。ただどんなものか多少は知っているし、解説書なども読んでいます。ルネサンスについてというならば、クリステラーの『ルネサンスの思想』がありますが、どうみても読みにくいと思うのでそれより「西洋思想史」「西洋哲学史」などのルネサンス頃の項目をまず読んではどうでしょうか。思想(哲学)は馴染めば、これほど面白いものはないほど面白いと思う人もいると、私は思います。

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ピーター・バーク著

ロンドンのナショナル・ギャラリーが誇るカルロ・クリヴェッリの受胎告知が表紙になっている「イタリア・ルネサンスの文化と社会」、このブログの最初に言及したギルランダイオのフレスコがある、フィレンツェサンタ・マリア・ノヴェッラが表紙になった「イタリア・ルネサンスへの招待ーその歴史的背景」などはルネサンスについて知りたい人が読む最初の本です。

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デニス・ヘイ著

ルネサンス辞典」も何冊かありますが、一般の人が購入するには金額がはるので図書館で読みましょう。貸してくれないと思うので。

いずれも最近の本ではありませんが、内容の濃い真面目なものです。最近の本は基本的にバカっぽく子供騙しのような内容の薄いものか、もしくは新しい研究でも限られた内容に焦点を絞ったものが多く、全体像を把握できるものとして上記をお勧めします。ルネサンスについて多少知った人ならブルクハルトの「イタリア・ルネサンス」を読んだかもしれません。今から見ると間違った解釈など所々ありますがルネサンス研究の源になった一冊です。

 

次は美術の本を紹介しようと思うのですが、ブルクハルトは美術史で紹介しようかと考えていました。

 

【本】ルネサンスを知るために(歴史)

いよいよ4月からひっさしぶりに西洋美術史の講座が始まります。

システィーナ礼拝堂の図像探求 2111J005 東京都立大学オープンユニバーシティー

講座については日時、申し込み、など上のサイトを見てください。

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Perugino

システィーナ礼拝堂の図像探究】というタイトルで行うのですが、全く知識ゼロ状態の人には専門的に感じるかもしれないし、以前から私の講座に参加してくださっている方でも、久しぶりで忘れてしまったところもあると思うので、始まる前に読んでおくといい本を紹介します。

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ルネサンスの歴史

ルネサンスの歴史』上下

モンタネッリ、ジェルヴァーゾ 著

藤沢道郎 訳

書店やネットで入手しやすいし、読みやすいのでぜひお勧めします。右の大きいのはオリジナル、文字が大きいけどもう残ってるかどうか・・。文庫版は探せば必ず入手できます。一般書ですが本を読み慣れていないと多少難しく感じるかもしれません。しかし大変良い内容なので、文意をよく汲み取りながら読んでください。細かなところで最新の研究とは違った記述もありますが、それは常に起こること。

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物語イタリアの歴史

『物語イタリアの歴史』Ⅰ、2

藤沢道郎 著

中公新書の「物語・・・の歴史」シリーズの第一弾はイタリアの歴史です。これは古代ローマ帝国崩壊からイタリア統一までの歴史を、時代を象徴する重要な人物を主人公に描いた短編集です。藤沢道郎先生の文章力や構想力、何より思想が明確な素晴らしい内容です。一つ一つの物語は短いので、本格的な読書が苦手な人でも入りやすいと思います。

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メジチ家はなぜ栄えたか

メディチ家はなぜ栄えたか』

藤沢道郎 著

この本は上記の本と違い入手が困難と思われますので、図書館を利用することをお勧めします。大体勉強と図書館は切り離せません。図書館を最大限に利用しましょう。上記がイタリアやルネサンスの歴史を外観しているのに対し、この本はメディチ家、しかもその起こりに焦点を当てて書かれたもので、多少専門的です。しかしルネサンスメディチは切っても切れない仲、何がなんでも出てくるのでルネサンスについて知りたいと思っているのなら興味深く読めるでしょう。

 

メディチ家に関してはさまざまな本があります。写真と図説でできた文字の少ないものから研究論文のようなものまで色々です。図書館や大型の書店へ行って読めそうなのを手にして下さい。

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メディチ家の人びと

ルネサンスと名のついた書籍は非常に多く、会田雄次の「ルネサンス」のように、今ではかなり苦しい内容のものもありますが、ある意味で昔の本は感動的で小説のように読めるので面白いかもしれません。余裕のある人はできるだけたくさん読んだらいいと思います。時代によって変化したところや、著者の解釈や価値観の違いなどに気づくのは重要なことです。

 

フィレンツェに関する書籍もかなりあります。全く本が苦手な人(そういう人で勉強しようという人は珍しいとは思うけど)はフィレンツェの写真集のような本も手軽に入手できるので探してみて下さい。

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フィレンツェ美術散歩

授業に参加しない人でも、ルネサンスに関心のある人、ヨーロッパ史や世界史に関心のある人はぜひどうぞ。参加される方には、事前に読んでおかれることを強くお勧めします。授業の面白さ、理解の度合いがまるで違うでしょう。

【講座】ローマ、ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂を取り上げるよ!

都立大オープンユニバーシティでは、もう1年以上講義できていなくて本当に寂しかったんだけど、やっとオンラインで授業ができるようになりました。春からの講座ではその時出席できなくても、アーカイブで閲覧できる(予定)ので対面の時より便利!西洋美術に関心のある人はぜひ参加よろしくお願いします!!

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システィーナ礼拝堂

日時:4月10日〜7月3日(土曜日)13:00~14:30 

参加費:¥25,200(全10回)多少人によって違うので詳細は以下の大学公式ページを見て下さい。

内容:西洋美術史。今期はイタリア、ローマにあるヴァチカン市国内システィーナ礼拝堂壁画を取り上げます。

www.ou.tmu.ac.jp

西洋美術やイタリア旅行、西洋史に興味があれば、ローマやヴァチカンのことは当然聞いたことがあるはず。中でもシスティーナ礼拝堂ミケランジェロの壁画修復に日本が貢献したこともあって、最大の見所として知られています。ルネサンスの歴史や美術と深く結びついた場所なので、ルネサンスとは何か、宗教改革によってどのように思想や芸術は変化するのかなど、いくらでも深く掘り下げることができる場でもあります。

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システィーナ礼拝堂、身廊壁画

というわけで10回ではとても話しきれませんので、システィーナ礼拝堂建立初期から時代を追って見てゆきます。西洋美術史上最大の芸術家ミケランジェロの登場はこの後の講義(夏講座)になる予定です。な〜んだ、と思うのは早過ぎます。もし貴方が美術好きなら、むしろ初期の方が大勢の芸術家の素晴らしい作品に出会えて楽しいはず。具体的には、礼拝堂の両サイド(身廊)に描かれた聖書の場面を詳述します。

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Perugino キリストからペテロへの鍵の授与

常に絵画の模範であり続けたラッファエッロの師匠ペルジーノにはじまり、日本にもファンの多いボッティチェッリなど、ルネサンスが最も華やかだった頃の美術を一緒に堪能しましょう。しかし単に絵画の美しさを愛でるのではなく、非常に珍しい内容の絵が多く、それは何故なのかという謎解きをしてゆきます。当時の歴史、政治や思想も全く抜きにはできません。何故ならヴァチカン(教皇庁)は当時、今よりずっと広大で一国であり、全キリスト教徒の首都として、権力、経済力、何より最高の文化程度を誇った場所だったから。

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Botticelli ジェトロの娘たち(部分)

初めての人は高く感じますよね。でも1時間半で2500円です。何も知らない事を知りたい時は一回講座が良いと思うけど、もし勉強したいとか、ちょっと詳しくなりたいと思っていたら、月に一、二回じゃ忘れちゃうから逆に無駄。語学ができるようにならないのは、週に一回とかしか勉強しないからでしょ?できるだけ間隔を開けないでやることで初めて身につくのです。語学に比べれば美術と歴史だし、絵を見て話を聞くだけなので緊張しないでできます。でも話の内容は盛り沢山で、知識は積み重なるほど楽しいので毎週続けることが重要なのです。

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Cosimo Rosselli 最後の晩餐、磔刑など

以前からずっと受講してくださってる方に再び会えるのを心から楽しみにしていますが、初めてのオンライン講座なので新たな参加者に出会えることを期待しています。1日も早く、直接お目にかかりたいですが、オンラインの方が、もしその日時が都合が悪くても後から授業を見られるので気が楽でもあります。講座の申し込みはもう始まっているので、ぜひよろしく💕

上の大学ホームページから申し込みお願いします。💌

 

【海外ドラマ】今頃やっと「ブレイキングバッド」完走!やれやれ

もう何回目か忘れたけど、何度もトライしてやっと完走。私は圧倒的に海外ドラマファンでいっぱい見てるけど、DVDとか録画とかで溜めて見ない主義で、仕事が忙しかった時はつい抜けちゃったのが、コロナのおかげで完全制覇できました。(良いんだか?)だって「ブレイキングバッド」は一話完結物じゃなくて抜けるとわかんなくなっちゃうし、「LOST」や「ヒーローズ」なんかと違って前に出てきた話、あれはどうなったの?前に違うこと言ってたよね?みたいなツッコミがほとんど出来ない、すっごく練られた脚本で、しかも時々時間が前後するから絶対きちんとみないとダメなタイプだったから、やっと今頃完全制覇。そんなに入れ込むこととも思えないけど、ドラマの歴史を塗り替えた、受賞に受賞をしまくったドラマだし、主演の役者たちも連続して演技の賞をもらってるからさ。

「ブレイキングバッド」については、いろんなサイトがあるから内容に関してはそっちをみてね。上のファンサイトは公式サイトより凄いの!

壮絶な受賞歴など一目瞭然のウィキ。あまりに評価が高過ぎて「つまんない」って人の書き込みも結構あるけど、私にはやっぱりかなりかなり面白かった。演技はほんと凄い。迫力の演技で連続助演男優賞のアーロン・ポールは、小柄で可愛い顔してるのに散々ボコボコにされて何度もひどい顔になるんだけど、ミュージックヴィデオでもすでにそんな役をやってる。ドラマが始まった当初はまだ少年っぽさが残っていたけど終わりにはすっかり大人になっちゃって時間の経過を感じます。可愛い系で売り出した男優って年取ると悲しい人も多いけど、彼は演技力がすごいから今後も絶対期待できるな〜と思うけど、インタヴューで、あまりにジェシー(ブレイキングバッドの中の役)が複雑で魅力的な役で脚本が良かったから、あとはひたすら下り坂。っていうようなこと言ってた。でもそれだけジェシーの役が最高で作品が良かったから、下り坂でも嬉しいっていうようなコメントもなかなか。

癖の強烈な役柄ばかりでいろんな俳優さんが気になるけど、主演のウォルターの息子役RJミッテは本当に脳性麻痺なんだって。あまりに真実に迫ってるからそうかなと思ったけど、役柄よりは軽度だっていうけど、凄い努力の人で様々な障害者支援に関わってる。若いのに偉いな〜。とんでもないろくでなしや極悪人みたいな人ばかりに囲まれて唯一健全なほっとできる役柄でした。こういう素直でまともな良い人もいないと困るよねーって。出演時間の割にとっても存在感のある良い役だった。大ブレイクしたから今はモデルとか、色々かっこいい彼を観られます。

アメリカ的な麻薬捜査官役のノリスは、私にとってはお馴染みの俳優さんであっちこっちで見てる。90年代に大ブレイクした、人造人間みたいな体のパメラ・アンダーソンが主演のド派手なドラマ「VIP」は、馬鹿馬鹿しい明るさと衣装で好きなんだけど、最初の本格悪役がノリスなの。軍人役が似合う。で、もっとびっくりなのは「VIP」は高級警備会社なんだけど、社長役がブレイキングバッドの主役ブライアン・クランストン!女好きの元アクションスターで今はセレブ御用達の警備会社の社長、でも脱税容疑で有り金持ち逃げ。面白おかしいとんでもない役で二度と出てこない。クランストンはとにかく圧倒的な高い評価を得まくって、実力派俳優って言われる人たちからも絶賛されてるけど、すごく面白い人らしい。

初めて日本で放送が決まった時、凄い評判だったけど乗り気がしなかったのは、なぜかっていうと、どーして「おじさんのブリーフ姿」何度も見なきゃならないの?素っ裸も得意だし、可愛いジェシーはトイレに落っこったり、ヘドロまみれだったり、とにかく汚いのが結構ついていけなかった。でも見出すとほんとによく出来てるのにびっくり。演出と脚本がこれ以上無いほどプロっぽい。音楽の選び方とかカメラワークとか、物語とは無関係に挿入される象徴的な映像(ピンクのテディ・ベア初めメキシコの音楽やフライドチキンの宣伝とか殺し屋兄弟とか)とにかくおかしくカッコいい!!

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元ダメ生徒のジェシーと化学の先生ウォルター・ホワイト

音楽も独特でちょっとしたMTVみたいなのが挿入されたり、印象的な場面で歌ったり。知ってる曲も知らない曲もあったけどいい感じで、あのすっとぼけたぼよ〜んとしたタイトルメロディーも個性があった。特にラストでの音楽の占める重要性は大きくて、歌いたくなっちゃった。

主人公ウォルター・ホワイトの妻スカイラー役を演じたアンナ・ガンは殺人予告までされて、対策取らないといけない程だったんだって。信じられない。妻スカイラーはめちゃくちゃ嫌われてたらしい。役者と物語の登場人物の区別がつかない人が世界中にそんなにいるってことがビックリだけど、私はスカイラーが好きだったしアンナ・ガンもゴージャスで大好きだったのに、両方でびっくりした。大体スカイラーが嫌いな人は「女のくせに亭主に楯突くとは何事だ」とか考えていそうな低脳な人だというのは分かるんだけど、女性でそういう人がいるのがつくづく残念。あと私は結構太ってた時のスカイラーがセクシーで好きです。

スカイラーが嫌われたのに対して主人公のウォルターはウルトラ人気があった。すぐブリーフ姿になりたがるシワクチャのおじさんにも関わらず、大したもんだ。子供を可愛がる優しいお父さん、つまらなそうな高校生を前にした冴えない化学の先生、天才的麻薬製作者の顔を完全に使い分けた大熱演で、あの低くて渋い声は魅力的だった。声といえばジェシーも小柄ながら結構低めのハスキーな声で、見た目に加えて彼を魅力的にしてる。

結局、脚本家で製作者のヴィンス・ギリガンが才能があるんだろうけど、過去の有名な大監督と言われる人々と違って全然偉そうじゃないのが凄い。ここではブレーキングバッド誕生秘話みたいのを話してる。スピンオフって全然つまんないやつとか、本家より面白いのとかあるけど、ブレイキングバッドにはスピンオフもたくさんあって、軽薄コテコテ強烈弁護士「ベター・コール・ソウル」も大人気だし、ジェシーを主人公にした映画「エル・カミーノ」も評価されてる。トッドが太りすぎなのが、もうちょっとなんとかならないのかと、人のことはとてもいえない私でも思うけど。彼は俳優なんだからさ。

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アメリカとメキシコの境アルバカーキの景色がキマってる

感想の最後。末期癌に犯された真面目な男の大転落の話。ていうようなことが書いてあるけど、私が思ったのは「人間の自己正当化」がテーマだということ。ウォルターは自分の死後、家族が困らない(大金残す)ために強烈な麻薬を造っている、と最後の最後まで言うけれど、ラストで実は自分のためだったと告白する。家族のためなら何をしてもいいのか?国を守るためなら他の国を侵略してもいいのか?生き残るためには何人殺してもいいのか?とかアメリカのドラマや映画を見て、よく納得いかないのがその点なんだけど、ブレイキングバッドは、何をしても良くはない、と言うことを明確にした真面目なドラマだった。それでいて最後の歌が示しているように、愛すること(ウォルターの場合ブルーメスを作ること)は止められない、って人間の逆らい難いサガが共感を呼んだんじゃ無いかな〜。お付き合いありがとうございます。面白いよ、本当に。暇だったら見て。

西洋美術、イタリアの旅、読書が大好きな貴方へ、中世西洋美術研究者SSが思う事いろいろ