天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【海外ドラマ】今頃やっと「ブレイキングバッド」完走!やれやれ

もう何回目か忘れたけど、何度もトライしてやっと完走。私は圧倒的に海外ドラマファンでいっぱい見てるけど、DVDとか録画とかで溜めて見ない主義で、仕事が忙しかった時はつい抜けちゃったのが、コロナのおかげで完全制覇できました。(良いんだか?)だって「ブレイキングバッド」は一話完結物じゃなくて抜けるとわかんなくなっちゃうし、「LOST」や「ヒーローズ」なんかと違って前に出てきた話、あれはどうなったの?前に違うこと言ってたよね?みたいなツッコミがほとんど出来ない、すっごく練られた脚本で、しかも時々時間が前後するから絶対きちんとみないとダメなタイプだったから、やっと今頃完全制覇。そんなに入れ込むこととも思えないけど、ドラマの歴史を塗り替えた、受賞に受賞をしまくったドラマだし、主演の役者たちも連続して演技の賞をもらってるからさ。

「ブレイキングバッド」については、いろんなサイトがあるから内容に関してはそっちをみてね。上のファンサイトは公式サイトより凄いの!

壮絶な受賞歴など一目瞭然のウィキ。あまりに評価が高過ぎて「つまんない」って人の書き込みも結構あるけど、私にはやっぱりかなりかなり面白かった。演技はほんと凄い。迫力の演技で連続助演男優賞のアーロン・ポールは、小柄で可愛い顔してるのに散々ボコボコにされて何度もひどい顔になるんだけど、ミュージックヴィデオでもすでにそんな役をやってる。ドラマが始まった当初はまだ少年っぽさが残っていたけど終わりにはすっかり大人になっちゃって時間の経過を感じます。可愛い系で売り出した男優って年取ると悲しい人も多いけど、彼は演技力がすごいから今後も絶対期待できるな〜と思うけど、インタヴューで、あまりにジェシー(ブレイキングバッドの中の役)が複雑で魅力的な役で脚本が良かったから、あとはひたすら下り坂。っていうようなこと言ってた。でもそれだけジェシーの役が最高で作品が良かったから、下り坂でも嬉しいっていうようなコメントもなかなか。

癖の強烈な役柄ばかりでいろんな俳優さんが気になるけど、主演のウォルターの息子役RJミッテは本当に脳性麻痺なんだって。あまりに真実に迫ってるからそうかなと思ったけど、役柄よりは軽度だっていうけど、凄い努力の人で様々な障害者支援に関わってる。若いのに偉いな〜。とんでもないろくでなしや極悪人みたいな人ばかりに囲まれて唯一健全なほっとできる役柄でした。こういう素直でまともな良い人もいないと困るよねーって。出演時間の割にとっても存在感のある良い役だった。大ブレイクしたから今はモデルとか、色々かっこいい彼を観られます。

アメリカ的な麻薬捜査官役のノリスは、私にとってはお馴染みの俳優さんであっちこっちで見てる。90年代に大ブレイクした、人造人間みたいな体のパメラ・アンダーソンが主演のド派手なドラマ「VIP」は、馬鹿馬鹿しい明るさと衣装で好きなんだけど、最初の本格悪役がノリスなの。軍人役が似合う。で、もっとびっくりなのは「VIP」は高級警備会社なんだけど、社長役がブレイキングバッドの主役ブライアン・クランストン!女好きの元アクションスターで今はセレブ御用達の警備会社の社長、でも脱税容疑で有り金持ち逃げ。面白おかしいとんでもない役で二度と出てこない。クランストンはとにかく圧倒的な高い評価を得まくって、実力派俳優って言われる人たちからも絶賛されてるけど、すごく面白い人らしい。

初めて日本で放送が決まった時、凄い評判だったけど乗り気がしなかったのは、なぜかっていうと、どーして「おじさんのブリーフ姿」何度も見なきゃならないの?素っ裸も得意だし、可愛いジェシーはトイレに落っこったり、ヘドロまみれだったり、とにかく汚いのが結構ついていけなかった。でも見出すとほんとによく出来てるのにびっくり。演出と脚本がこれ以上無いほどプロっぽい。音楽の選び方とかカメラワークとか、物語とは無関係に挿入される象徴的な映像(ピンクのテディ・ベア初めメキシコの音楽やフライドチキンの宣伝とか殺し屋兄弟とか)とにかくおかしくカッコいい!!

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元ダメ生徒のジェシーと化学の先生ウォルター・ホワイト

音楽も独特でちょっとしたMTVみたいなのが挿入されたり、印象的な場面で歌ったり。知ってる曲も知らない曲もあったけどいい感じで、あのすっとぼけたぼよ〜んとしたタイトルメロディーも個性があった。特にラストでの音楽の占める重要性は大きくて、歌いたくなっちゃった。

主人公ウォルター・ホワイトの妻スカイラー役を演じたアンナ・ガンは殺人予告までされて、対策取らないといけない程だったんだって。信じられない。妻スカイラーはめちゃくちゃ嫌われてたらしい。役者と物語の登場人物の区別がつかない人が世界中にそんなにいるってことがビックリだけど、私はスカイラーが好きだったしアンナ・ガンもゴージャスで大好きだったのに、両方でびっくりした。大体スカイラーが嫌いな人は「女のくせに亭主に楯突くとは何事だ」とか考えていそうな低脳な人だというのは分かるんだけど、女性でそういう人がいるのがつくづく残念。あと私は結構太ってた時のスカイラーがセクシーで好きです。

スカイラーが嫌われたのに対して主人公のウォルターはウルトラ人気があった。すぐブリーフ姿になりたがるシワクチャのおじさんにも関わらず、大したもんだ。子供を可愛がる優しいお父さん、つまらなそうな高校生を前にした冴えない化学の先生、天才的麻薬製作者の顔を完全に使い分けた大熱演で、あの低くて渋い声は魅力的だった。声といえばジェシーも小柄ながら結構低めのハスキーな声で、見た目に加えて彼を魅力的にしてる。

結局、脚本家で製作者のヴィンス・ギリガンが才能があるんだろうけど、過去の有名な大監督と言われる人々と違って全然偉そうじゃないのが凄い。ここではブレーキングバッド誕生秘話みたいのを話してる。スピンオフって全然つまんないやつとか、本家より面白いのとかあるけど、ブレイキングバッドにはスピンオフもたくさんあって、軽薄コテコテ強烈弁護士「ベター・コール・ソウル」も大人気だし、ジェシーを主人公にした映画「エル・カミーノ」も評価されてる。トッドが太りすぎなのが、もうちょっとなんとかならないのかと、人のことはとてもいえない私でも思うけど。彼は俳優なんだからさ。

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アメリカとメキシコの境アルバカーキの景色がキマってる

感想の最後。末期癌に犯された真面目な男の大転落の話。ていうようなことが書いてあるけど、私が思ったのは「人間の自己正当化」がテーマだということ。ウォルターは自分の死後、家族が困らない(大金残す)ために強烈な麻薬を造っている、と最後の最後まで言うけれど、ラストで実は自分のためだったと告白する。家族のためなら何をしてもいいのか?国を守るためなら他の国を侵略してもいいのか?生き残るためには何人殺してもいいのか?とかアメリカのドラマや映画を見て、よく納得いかないのがその点なんだけど、ブレイキングバッドは、何をしても良くはない、と言うことを明確にした真面目なドラマだった。それでいて最後の歌が示しているように、愛すること(ウォルターの場合ブルーメスを作ること)は止められない、って人間の逆らい難いサガが共感を呼んだんじゃ無いかな〜。お付き合いありがとうございます。面白いよ、本当に。暇だったら見て。

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