天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】ルネサンスを知るために(小説)

都立大OU(オープンユニヴァーシティ)のオンライン授業で私が受け持つ講座「システィーナ礼拝堂の図像探究」のために、ルネサンスのことを少しでも知るための本を紹介しています。勉強はなんでもそうだけど、予習と復習なら予習の方が絶対効果的だから。もちろん両方できる人はそれに越したことはないけどサ。 

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 ボルジャの間

今までごく一般的な内容で紹介してきたんだけど、そろそろステップアップ。ということで、歴史や社会状況の解説、美術用語の基礎知識とかではなくて、より生なルネサンスとでもいうのか、文学的な内容の本を紹介します。

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イタリア・ルネサンス 愛の風景

題名:アモルとプシュケ叢書 イタリア・ルネサンス 愛の風景

共訳:谷口勇 G.ピアッザ

出版:而立書房

 

愛は世の魂なり 愛は心なり
そは 天上で太陽をも 斜めに歩ます。
そは 天上で さすらう神々の高い輪舞を
早めもすれば 遅らせもする。
空気、水、土、燃ゆる火が
宇宙の大要素に混じり合い、
自らの霊を培う。しかして、人の喜び 苦しみは
愛が原因なり。人の希望 恐怖とても。
タッソ『自が貴婦人へ捧げるソネット

 

「イタリアがヨーロッパの全ての近代国家の中で最初に未開状態から立ち直り、新たに全世界を開花する伝播者となった時、そして、この半島の最も美しい人口稠密な都市が、文化の様々な分野において多種の傑出した人々を誇りにしていたとき、優雅な心の持ち主たちの牧草地となっていたのは物語だった。」(上述書5頁)

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Canova, Amor e Psiche

こんなふうに始まる、みるからにお洒落なこの本は、1852年に今は亡きフィレンツェの出版社から出された「愛の場面」という詩集&物語に、訳者たちが解説をつけたもの。私はタッソーが好きなので自分なりのタッソーのイメージを持っているから上の翻訳がどうもしっくりこないけれど、読みにくい書体の原本を読解するのがどれほど大変な作業だったかと思うと、こんな売れそうもない本を出してくれたことに感謝の気持ちで一杯です。大体「アモルとプシュケ叢書」って、かの有名なカノーヴァの作品が思い浮かぶけど、確かにルネサンスは文学運動から始まったのだろうし、文学といえば主題は「愛」に決まっている。大体、愛という言葉は日本語としては歴史が浅く、逆にイタリア語では愛を表す様々な言葉がある。その愛の主人公たちは、ダンテとベアトリーチェに始まり、ラッファエッロとフォルナリーナやパオロとフランチェスカジュリエッタとロメオ、ペトラルカとラウラ、ボッカッチョとフィアンメッタなどちょっと勉強した人なら皆知っている有名な恋人たち。ダンテは中世の人だし、実際には完全な独りよがりなんだけど詩人なんてそんなもんなのかな?ルネサンスの教養人、ルネサンス文化を担った人たちはこんな詩に夢中になれた。なんて文字通りロマンチックなんだろう!訳者たちの熱い気持ちが伝わってきます。

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ルドヴィコ・イル・モーロ 黒衣の貴族

題名:ルドヴィコ・イル・モーロ 黒衣の貴族

著者:マリアーナ・フリジェーニ
訳者:千種堅

出版:河出書房

イタリアの塩野七生かどうかは知らないけれど、歴史小説ルネサンス期のミラノの君主イル・モーロ(肌が黒い人って意味)を主人公に、陰謀渦巻く波乱万丈の生涯を綴った歴史ロマン。

正直、私はテレビでも歴史ドラマが好きじゃないので、こういう本も読まないけれど、世の中のほとんどの人が読む本はハウツーものか小説だそうだから、研究書や歴史解説などが苦手な人で小説好きなら、こういうのから入るのも良いと思う。テレビドラマよりはきちんと取材していて、それほどウソピョーンでもなさそうだし。レオナルド・ダヴィンチは当然登場する。今回の授業には直接的には関係ないけれど、ルネサンス君主がどんなものか理解するのに良いと思うし、メディチ家とのつながりが実感できるのではないでしょうか。

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神の代理人

塩野七生が出たので、たくさんある著作から今回に関係あるものをあげると、もちろん「ルネサンス」関係は幾つもある中、初期の作品で「神の代理人」というのが私のお勧め。ルネサンス教皇たちの話。ピウス二世から始まったような記憶が・・・。遠い昔だから断言できないけど。ボルジャやレオ十世は当然登場。「チェーザレ・ボルジャあるいは優雅なる冷酷」は、私がチェーザレがあまりにも嫌いで、その人を最高にかっこいいという人が全く理解できないので、おすすめできるわけがありません。漫画で楽しんでください。私にとってチェーザレは優雅どころか品性下劣で残酷な変態なので。

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神の代理人

塩野七生ルネサンス著作集6ではラッファエッロのユリウス二世が表紙になっていますが、私が読んだのは聖ピエトロ大寺院の大伽藍が写っている文庫本でした。

 

 

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