天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】展覧会、美術展について

更新サボってました。でも来てくださった方、どうかブログ内検索してください。美術とかイタリア語とか旅とかで過去の記事が出てくるので読んでください。お願いします💕

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美術館っておもしろい

コロナになって私個人も甚大な被害を受けていますが、美術館・博物館の展覧会も大打撃を被っています。テレビではひたすら飲食店、次いで旅行関係者の話ばかりするけれど、世の中にはさまざまな仕事が沢山あって、大抵は厳しい状態におかれているのに、バカの一つ覚えのテレビ。ほんとに政府と同じで発想が貧困、その上真剣に調べる気が無いのも同じ。

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展覧会プロデューサーのお仕事

とにかく大変な状況の美術館・博物館ですが、コロナ下で新たな展示(というか展覧会)の方法が模索されています。出かけちゃダメって言うなら展覧会はどうしたらいいの?と言うことで結局オンライン旅とかみたいに、ITデジタルの利点を活かしたものが成功してる。しかも信じ難く大成功したりしてる。ほとんどの人は知らないと思うけど、今はアート・バブルって言われるほどデジタルを利用したアート作品が投資の対象になっています。NFT(Non Fungible Token)「代替不可能トークン」とかいってもさっぱり分からない人も多いと思うけど、コンピューターの話をしなきゃならないから、説明するとそれだけで長ーくなっちゃうので気になる人は自分で調べてください。でも勝手に私の解釈で一言解説すると、デジタルだといくらでも複製できちゃうから、芸術作品としてのオリジナルの価値はどう保ったらいいのかってことで考えられたシステム。莫大な金額が絡むので問題になってる。私もコンピューターを愛する一人だけど、要するにコンピューター(IT)の発展とともに世界は根本的に変わった。経済や働き方など全てに影響するから、ITの盲点は世界の覇権争や人種差別問題に劣らない大問題。歴史的には確実に、今は近世の「産業革命」に匹敵する「第二次産業革命」時代だと思ってる。

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シェアする美術

そんな中、SNSを活用して若い人の集客に大成功したのが、たとえば森美術館。いくらでも写真を撮ってよくて、アップロードした後も複製しまくっていいから、写真が印象的ならどんどん拡散する。それを見て展覧会に行きたくなる人が増え、作家や作品に興味を持つ人が増える。これは当然のことで、私もず〜っと前から考えていました。だって授業で使うための写真を一年中探しているんだけど、自分で撮影した分だけではどうしても足りない。本を書かないかって多くの人に言ってもらって、最初につまづいたのが美術作品の権利の問題。著作権問題も現在の大問題の一つで、馬鹿らしい反社会的な規制も少なく無いと思う一方、発明者や原作者の権利も当然考えなければならない。真剣な社会問題から下らない商品(人も物も)まで、大抵のことはいかに大勢の人に知ってもらうかにかかっているのに、撮影しちゃいけなってどういうこと?大英博物館なんか、お〜〜〜〜〜〜〜〜〜昔から、無料で模写してよかった。あれが教育でしょ?確かにバチカンで観もしないで写真撮りまくって、人の邪魔になる群には頭にくるけどさ。帰ってから散々見直すならいいけど、ほっとくなら撮らないでよく観ようよ!

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美術館の舞台裏

すいません。いつものように本心吐露。とにかく「インスタ映え」を極めて多くの人が気にするような世の中ではそうやって告知するのが非常に効果的で、展覧会も同じ運命。展覧会って、少し前までは完全に老人のモノだった。いかに若い人に興味を持ってもらうかが美術館を真面目に運営する人々の問題だったのに、今は様子が変わってきている。

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拡張するキュレーション

それはとても喜ばしいことだと私も思う。でも、展覧会を作る人たちによって群衆がいとも容易く操作され、これは「ゲイジュツ」なんだと思わされ、美術館・博物館の展覧会が変化している今だからこそ、「芸術」とは何か?なんなの?って真剣に考えます。有名なキュレーターってお金を生み出す(展覧会場を人々で埋め、お土産を買わせる)人で、まるで企業家。本当に芸術や美術を愛していたら、こんな内容にはならないでしょ?って展覧会ばっかり。フェルメール展やレオナルド展など本当にひどいもんだった。名前の大宣伝で良い作品は全然来ない。(フェルメールは何回もやったので、良い作品が来た時もあるにはあるけど、パンダ見物状態で大変非文化的)そもそも持ってこられる作品自体少ないんだから、人を騙すような宣伝をするべきじゃない。難しい状況の中頑張ったのは「カラヴァッジョ」。個人的には近代美術館の「フランシス・ベーコン」が最高でした。

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美術展の不都合な真実

子供の頃から展覧会に行っている美術を愛する者として、海外の美術館博物館を巡っている者として、常々おかしいと思っていたことの理由が具体的に証明されているのがこの本、題名も「美術展の不都合な真実」。今回載せた写真の他に美術館や展覧会に関する本って結構あるんだけど、圧倒的にこの本が真面目で好感が持てました。学芸員がないがしろにされている、文化がほっておかれている事がきちんと説明されています。

 

私はいくつも大学へ行っていて、美大出身者でもあります。私が学生だった頃大学で助手をしていた人が世田谷美術館学芸員になって何度か逢いに行きました。学芸員の実際の仕事を最初に知ったのはその時です。世田谷美術館は国公立でも無い上駅から遠いのに、集客率の高い良い展覧会をするので定評のあるところです。そんなとこの学芸員だったのに、私は内情を知って博物館学の学位を取るのを辞めました。なぜか、この本を読むと納得できる。結局、日本の経済や文化を支える重要ポストにいる人たちに大問題がある。そして、自分にはなんの判断基準もなく、ただ見聞きしたことを鵜呑みにして美術館へ行く人たちにも問題がある。私の授業では常に言ってるけど、読んだことではなく、自分でどう感じるか、批判能力をつけることが一番大切。それを悪いことだと思っているなら、そこには民主主義も自由、学問も存在しない。物事の良し悪しや善悪を判断するのは自分。そして判断するために多角的な知識を身につけなければ。これが今の日本人に最も求められていることだと信じます。

 

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