天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【映画】天空の結婚式

私の留学時代は円は王者だったけど今は正反対で、毎年イタリアへ行っていたのが嘘のようです。飛行機も宿泊費も生活費も、鑑賞にかかる費用も倍どころか三倍くらいになった感じがします。だからいつまた行けるか分からないけど、旅に行ける幸運な人に向けて紹介したいのが「死にゆく街」です。もちろん映画ファンの人は是非見てください。

霧に包まれて幻想的

死にゆく街(Citta che muore)なんて恐ろしいけど、映像を見て貰えば分かる通りまさに絶景で、昔話に出てくるような場所です。「天空の城ラピュタ」のモデルになったとも言われているとか。なぜ死にゆくのかというと、見れば分かるとおり、便利とは正反対だから人口流出も当然で、経済的に村中の建造物を修復する費用が捻出できず、少しつづ続く崩壊が免れないからです。紹介する映画の主人公も、ここの出身ながらベルリンで暮らしています。前に紹介した「インマ・タタランニ」のマテーラにも共通しますがこのチヴィタ・ディ・バニョレージョは規模が圧倒的に小さいので危機に瀕しているのです。

題名はかなり違う

原題のイタリア語は全く「天空の結婚式」ではないけれど、日本の現状ではこんな訳じゃないと収入が得られないのかな・・。元々は2003年にオフ・ブロードウェイの舞台としてA.J.Willkinson が "My Big Gay Italian Wedding" を書いたもの。それをアレッサンドロ・ジェノヴェージが脚本を書き監督した映画が2018年のこの作品です。

Cristiano Caccamo

ポスターを先に知ってれば同性婚の話だと推測できるかもしれないけれど、何も知らずに邦題で映画を見始めると、凄くいい男が超甘い言葉で結婚を申し込んでる場面から始まる。主演のクリスティアーノ・カッカモは、何度も見てるけど日本人にも馴染みやすいめちゃくちゃいい男。こんな素敵な彼に愛されてる美女はどんな人だろうと、多くの観客は思いながら見てるんじゃないかな。すると場面がターンして!!!クマさんのような男の人が・・・。少女漫画では美少年の恋人たちの話が絶大な人気を誇る日本だけど、そう言う人たちには残念な彼氏。もっとかっこいい人にしてよー!と思うかもしれないけどそれは一瞬で、見ている内に彼も悪くないと思い始め、凄くいい人だから応援したくなる。

Salvatore Esposito

映画の制作が決まった時には、イタリアでは同性婚が他のヨーロッパ各国と異なり認可されていなかったため、それに対するプロテストの意味を込めて始まったんだけど、制作途中で法律が変わったため、大幅に脚本を書き換えたそうで、そのためかイマイチ唐突な場面や設定があるような気がしました。でも、とにかく場所が凄く綺麗で、話も楽しく、あっという間に見ることができました。

街へ行くのに通る長ーい橋がびっくり

こんなすごい橋を通らないと家に帰れないなんて、高所恐怖症の私の友人がもしここで生まれたら一生街を出られないなと思っちゃった。私は幼少期からジェットコースターを愛していて、絶対通りたい派だけどさ。

日本の題名はラピュタから?

主人公アントニオは毎年、復活祭の聖劇のためにイエスの役をやるので、年一度帰郷するんだけど、結婚の報告をしに彼氏のパオロも一緒に行く。そこにベルリンの大家さんと、知り合ったばかりのとんでもない中年親父がくっついてくる。この二人がなんかすごーく変わった人たちで、いきなりミュージカル仕立てになったりするのが、良いのか悪いのか批評の分かれるところじゃないのかな。

典型的なイタリアの小さな村

アントニオのお父さんはこの自治体の市長さんでリベラル派で通ってる。人口減少対策で外国人を呼び込んだり、観光を促したりしようとしてる。昔気質の人たちは他所者に冷淡だけれど、市長は寛容が売り物だった。それなのに息子が受け入れられない。それに対して、イタリアの母は強しの典型みたいなお母さんが超かっこよくて、息子を受け入れられない夫を家から追い出して毅然とした態度は、まるで女王様のようだ。

Civita di Bagnoregio

ま最後は大団円。ハッピーエンドはなぜか「シェルブールの雨傘」を思い出すミュージカルなエンディング。なんか無理やりみたいなコメディタッチの部分もあるけど、楽しいし、とにかく絶景を堪能できる映画でお勧めでーす。

元は宮殿のホテル

チヴィタ・ディ・バニョレージョへは当然、めちゃくちゃ行きにくい。ラツィオ州(ローマがある州)のヴィテルボ県なんだけど、オルヴィエートまで電車で行って、バスかな。ローマから日帰りで訪問した友人がいるけれど、私なら一泊したい。朝や夕方がものすごく綺麗に違いないから。

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