天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【映画】外出禁止だからせめてロード・ムービー

不要不急の外出禁止令をがっちり守りまくっているので、仕事(授業)の資料作りの他に、本を読んで、映画を観て、ドラマも完走、世界中の人とゲームで交流、音楽リストも作成して、その上裁縫や手芸、さらには普段は絶対やらないパンまで焼いてみた。

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The Straight Story

で、美術ファンの中には当然映画ファンもいると思うので、こもり生活の正反対の映画をお勧めしちゃうのだ。ロード・ムービー特集、思いつくまま。ブラピが出てる1993年の『カリフォルニア』なんかもあるけど、もっと良い映画とか強烈な作品を選んでみた。

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レニングラードカウボーイズアメリカへ行く

強烈といえばウルトラ前に見たのに、忘れられないレニングラードカウボーイズ、ゴー・アメリカ』な・・・なんだ!あの頭は!リーゼント過ぎるっ!!と言う人たちのロードムービー

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Leningrad Cowboys Go America

びっくりした〜。芸術映画にハマってる時期、観客いるの?みたいなアングラ(アンダーグラウンド、マイナーとかそう言った意味)な小さい映画館によく行きました。タルコフスキーとかブニュエルとかゴダールとか、いわゆる芸術映画史上の大監督作品を見まくった。そんな中、たまに馬鹿馬鹿しい自主制作や際物とかもあって、この映画は大ヒットでした。派手だもん。で製作はロシアかと思いきやフィンランドスウェーデンの合作で1989年の作品。故郷シベリアからアメリカ、メキシコと民族音楽含め色々演奏しながら旅をするバンドマンたちのお話。北欧独特のとボヨ〜んとぼけたコメディ。架空のバンドだったのに大ヒットしたのでバンド名を変更して(ホントのバンドが出演)映画も続編が出たほどです。も一度みたいな〜。初めて北欧モノの面白さを知った頃でもあります。

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Leningrad Cowboys Go America

で絶対思い出しちゃうのがブルース・ブラザーズこれは好き過ぎて何度も見てる。1980年の作品がカッコ良過ぎて1998年に第二弾も作られた。これはすごく有名な映画だから知ってる人も多いとは思うけど、レニングラードカウボーイズ同様、時代錯誤のバンドマンの話。でも対照的なのは北欧のロシア版カウボーイたちがボケまくりなのと正反対に、流石ハリウッドのコメディアンと超一流ミュージシャンがソウルフルに歌って踊るこっちはキレまくり。第二弾では子供までプロ根性で踊って歌ってくれる。あとロードムービーは、車も重要だけどパトカーってとこも印象的。

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The Blues Brothers

音楽とロードムービーといえば2018年の『グリーン・ブック』が外せない。すごく良い映画だった。実在の天才黒人ピアニストと運転手兼用心棒のイタリア系アメリカ人が、1962年に行ったアメリカ南部ツアーを再現した伝記物。BLM (Black Lives Matter 警官に執拗に暴行され亡くなった黒人の事件から、差別に対する反対運動の標語になった。大阪なおみが身につけていたのを記憶している人も多いと思う) のように現在も明確な差別が存在するけれど、この時期にはもっと極端な差別があった。イタリア系で貧しい大家族の一員トニーも、黒人が飲んだコップをゴミ箱に捨てる程差別していた。でも成功した天才ピアニスト、ドン・シャーリーの仕事で一緒に過ごす内、考えが変わってゆく。最後に実際の二人の写真が出てその後が紹介されるのも、定番だけど良い終わり方。いろんな賞を受賞しまくった反面、白人ヒーローっていうのがどうなのよ?とか時代考証の問題とかの指摘もある。確かにトミーは腕っ節が強く度胸満点の完全にヒーローだけど、ドン・シャーリーも際立った才能と高い教養があり、もっと楽に稼げるのにわざわざ苦難を選んだ根性ある黒人として描かれ、負けずにヒーローだから、私はケチつける人(人権活動家なんだろうけど)が言い過ぎの気がしなくもない。何より黒人だから日々不愉快な思いをさせられているにも関わらず、正しく生きようとしているところが素晴らしい。

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Green Book

タイトルの「緑の本」って言うのは20世紀に実際に使用されていたパンフレットで、グリーンという人が書いたんだけど、それは黒人が宿泊可能な宿などが記されているもの。知らなかった。そんなものがあったんだ。ほんと悲しい。それから考えれば、ほんの少しづつだけど世の中は進歩してるのかもしれない。それから私的には、結構出てくるイタリア語も楽しめた。よく、絶対この人喋れないよ、みたいな外国語喋る人(中国人や韓国人が日本人役で日本語喋るとか、イタリア移民の役のアメリカ人が訳のわからんイタリア語喋るとか)と違って、結構みんな二世だったらこんなかな?みたいな自然なイタリア語喋ってた。

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Green Book

 これをテーマに製作されたかっこいいポスターもたくさんある。デザインに関心のある人は探してみて。英語でね。

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Green Book

受賞と実話といえば2016年のオーストリアアメリカ、イギリス合作のインド人青年を主役にした『獅子』(日本語タイトルは『ライオン:25年目のただいま』がある。

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Lion

極貧生活をする兄弟が、僅かなお金を稼ごうとして夜中、駅に出かける。兄を待つうち列車内で眠ってしまった弟は見知らぬ場所で目覚め、危険をすり抜けながら孤児院で育つ。程なくして遥か彼方の良い家庭に引き取られて愛されて育ったんだけど、大人になってから自分のルーツを探す旅に出る。愛に溢れた母親役がニコール・キッドマンの割には、低予算で作られたが全世界で話題を呼んで大きな収入を上げた。信じられないような実話。表現なども特に凝っていない素直な良い映画。

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The Straight Story

最後に低予算&実話繋がりで、お気にりを紹介します。1999年の『ストレート・ストーリー』。このブログの一番上にある図はこの映画のもの。これも信じ難いことに、アイオワ州からウィスコンシン州まで560キロを、なんと芝刈り機で爆走した73歳の老人の話。長年疎遠だった兄が入院したという一本の電話がきっかけ。上で紹介してきたどの映画より地味な映画だけど、ある意味一番好きかもしれない。タイトルのStraightをどう訳すかが難しいと思うけど、日本版はただカタカナにしているのに対してイタリアでは「真実の物語」とイタリア語にしている。1994年に「ニューヨークタイムズ」に掲載された記事を元に作られた。

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Una Storia Vera

主人公は自分も腰が悪く、自力でなんでもやるのが困難になっているから、知恵遅れと判断された不幸な娘も大反対するが、有り金叩いて芝刈り機を購入し、時速8キロで出発。芝刈り機に乗って道をゆく彼を街の人々は面白がったり、驚いたり。故郷の小さな田舎町を出発して、都会を通過、巨大なトラックの横をすり抜ける時なんか、心配になってしまう。道を聞くと人々は仰天するも、雨にも負けず、ただひたすらゆっくり進む。唯一緊張感のある場面は、坂道でブレーキが壊れて止まらなくなるところ。ごく普通の善人、よくある問題を抱えた女の子、ちょっとずるい人、ちょっと意地悪な人、同じように寂しい人など、よくいそうな人々に出逢いながら目的を達成する。

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The Straight Story

有名なヒットメイカー監督、デヴィッド・リンチの作品中圧倒的に好きな作品。主演のリチャード・ファーンワーズはスティーブ・マックイーンゲイリー・クーパーロバート・レッドフォードみたいな人たちが共演を望んだ名優で、本当のカウボーイ(西部劇でスタントができる)だったみたい。彼がなんといっても素晴らしいんだけど、この映画が公開された翌年、癌の痛みに耐えきれず自殺した。撮影中も辛かったに違いない。老いて心身共に辛くとも自力で尊厳を持ってやり通す主人公に、まさに敵役だったんだろうなと思う。

 

カウボーイにはじまってカウボーイの話で締まった。カウボーイよ永遠に💖

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