天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【映画】天空の結婚式

私の留学時代は円は王者だったけど今は正反対で、毎年イタリアへ行っていたのが嘘のようです。飛行機も宿泊費も生活費も、鑑賞にかかる費用も倍どころか三倍くらいになった感じがします。だからいつまた行けるか分からないけど、旅に行ける幸運な人に向けて紹介したいのが「死にゆく街」です。もちろん映画ファンの人は是非見てください。

霧に包まれて幻想的

死にゆく街(Citta che muore)なんて恐ろしいけど、映像を見て貰えば分かる通りまさに絶景で、昔話に出てくるような場所です。「天空の城ラピュタ」のモデルになったとも言われているとか。なぜ死にゆくのかというと、見れば分かるとおり、便利とは正反対だから人口流出も当然で、経済的に村中の建造物を修復する費用が捻出できず、少しつづ続く崩壊が免れないからです。紹介する映画の主人公も、ここの出身ながらベルリンで暮らしています。前に紹介した「インマ・タタランニ」のマテーラにも共通しますがこのチヴィタ・ディ・バニョレージョは規模が圧倒的に小さいので危機に瀕しているのです。

題名はかなり違う

原題のイタリア語は全く「天空の結婚式」ではないけれど、日本の現状ではこんな訳じゃないと収入が得られないのかな・・。元々は2003年にオフ・ブロードウェイの舞台としてA.J.Willkinson が "My Big Gay Italian Wedding" を書いたもの。それをアレッサンドロ・ジェノヴェージが脚本を書き監督した映画が2018年のこの作品です。

Cristiano Caccamo

ポスターを先に知ってれば同性婚の話だと推測できるかもしれないけれど、何も知らずに邦題で映画を見始めると、凄くいい男が超甘い言葉で結婚を申し込んでる場面から始まる。主演のクリスティアーノ・カッカモは、何度も見てるけど日本人にも馴染みやすいめちゃくちゃいい男。こんな素敵な彼に愛されてる美女はどんな人だろうと、多くの観客は思いながら見てるんじゃないかな。すると場面がターンして!!!クマさんのような男の人が・・・。少女漫画では美少年の恋人たちの話が絶大な人気を誇る日本だけど、そう言う人たちには残念な彼氏。もっとかっこいい人にしてよー!と思うかもしれないけどそれは一瞬で、見ている内に彼も悪くないと思い始め、凄くいい人だから応援したくなる。

Salvatore Esposito

映画の制作が決まった時には、イタリアでは同性婚が他のヨーロッパ各国と異なり認可されていなかったため、それに対するプロテストの意味を込めて始まったんだけど、制作途中で法律が変わったため、大幅に脚本を書き換えたそうで、そのためかイマイチ唐突な場面や設定があるような気がしました。でも、とにかく場所が凄く綺麗で、話も楽しく、あっという間に見ることができました。

街へ行くのに通る長ーい橋がびっくり

こんなすごい橋を通らないと家に帰れないなんて、高所恐怖症の私の友人がもしここで生まれたら一生街を出られないなと思っちゃった。私は幼少期からジェットコースターを愛していて、絶対通りたい派だけどさ。

日本の題名はラピュタから?

主人公アントニオは毎年、復活祭の聖劇のためにイエスの役をやるので、年一度帰郷するんだけど、結婚の報告をしに彼氏のパオロも一緒に行く。そこにベルリンの大家さんと、知り合ったばかりのとんでもない中年親父がくっついてくる。この二人がなんかすごーく変わった人たちで、いきなりミュージカル仕立てになったりするのが、良いのか悪いのか批評の分かれるところじゃないのかな。

典型的なイタリアの小さな村

アントニオのお父さんはこの自治体の市長さんでリベラル派で通ってる。人口減少対策で外国人を呼び込んだり、観光を促したりしようとしてる。昔気質の人たちは他所者に冷淡だけれど、市長は寛容が売り物だった。それなのに息子が受け入れられない。それに対して、イタリアの母は強しの典型みたいなお母さんが超かっこよくて、息子を受け入れられない夫を家から追い出して毅然とした態度は、まるで女王様のようだ。

Civita di Bagnoregio

ま最後は大団円。ハッピーエンドはなぜか「シェルブールの雨傘」を思い出すミュージカルなエンディング。なんか無理やりみたいなコメディタッチの部分もあるけど、楽しいし、とにかく絶景を堪能できる映画でお勧めでーす。

元は宮殿のホテル

チヴィタ・ディ・バニョレージョへは当然、めちゃくちゃ行きにくい。ラツィオ州(ローマがある州)のヴィテルボ県なんだけど、オルヴィエートまで電車で行って、バスかな。ローマから日帰りで訪問した友人がいるけれど、私なら一泊したい。朝や夕方がものすごく綺麗に違いないから。

【美術】ヨーロッパ各地の美術

私は都立大学のオープンユニバーシティで、主にイタリア美術を中心に講座を持ってきました。留学先もイタリアだし、英語よりイタリア語の方が話すのは得意なので当然のことです。でも関連としてヨーロッパ各地の美術に親しんできたので、この数年はイタリアにこだわらずにやっています。去年はフランドルやオランダ美術を主役にして、大変喜んでいただきました。その反動もあってか、久しぶりにローマだけについて三ヶ月話しましたが、全然話し足りないし、つくづくイタリアの奥深さを再確認もしました。

フォンテンブロー派

なんでもそうだけれど理解するためには、様々な異なった対象と比較検討しなくてはなりません。狭い世界しか知らなければ、良さも悪さも実感できません。それに西洋美術と言ったって、美の価値観は言うまでもなく一つではありませんから、今回はヨーロッパ各地の美術を国毎に分けて紹介します。

Antoine Caron

対面の「大型美術本で堪能する西洋美術」はあっという間にいっぱいになってしまって、申し込めなかった方々には申し訳ありませんでした。この「ヨーロッパ各地の美術」はオンラインなので席があります。開講は決定していますが、まだ申し込み期限が来ていないので、よろしくお願いします。一人でも多くの方のご参加を心待ちにしています。(↓都立大のサイト)

https://www.ou.tmu.ac.jp/course/detail/7326

Matthias Grünewald

イタリアの影響色濃いフランスのフォンテンブロー派や、ホラーの先駆け、目を背けたくなるような恐ろしい作品を描いたドイツのグリューネバルトのように、西洋美術史に興味がある人ならば聞いたことのある美術家や作品はもちろん、土地柄を象徴するような現代のアーティストにも触れたいと思っています。

ポルトガルの伝統美術を現代に

中世の写本やいわゆるイラストレイターと言われる人たちの作品も紹介するつもりです。そんなわけで、歴史背景や美術の専門知識がなくても美術や絵が好きと言うだけで参加いただけます。一人でも多くの人に、一つでも多くの作品を知ってもらうためにが、今回のテーマでしょうか。

https://www.ou.tmu.ac.jp/course/detail/7326

アイルランドらしい作品



【海外ドラマ】マテーラの検察官インマ・タタランニ

語学は本当に大事。世界が国際化すればする程役に立つし、日本のことを知るにも国内の情報だけでなく世界ではどう報じられているのか知らないと、冷静に判断することはできない。英語は基本だけど、他にも知ってたら当然世界は広がる。ま、イタリア語はスペイン語と違って話者が限られるけど、美術や音楽、ファッションや料理好きなら是非知りたい言語。英語よりよっぽど楽に発音できるし、文法が整理されているので、私にとってはずっと入りやすかった。

洞窟教会から眺めたマテーラの街

とにかく単語を増やすのが絶対だけど、基本文法を身につけたら聞き取りも必要になる。私は単語CDの次はイタリアンロックから入って、映画やドラマで訓練してる。気楽にできて楽しいし、一石二鳥。ニュースを聞くっていうのは昔からある勉強法だけど、世界は不幸や災難に溢れていて毎日の日本のニュース(ニュースらしいニュースはないけど)と海外の報道を聞けばもう十分だから、私の場合は断然ドラマがいい。ということでイタリアのドラマを紹介します。

インマ・タタランニのDVD

一年中眉間に皺寄せて怒ってまくしたてる中年女性が主人公のインマ。本当はインマコラータって名前だけど、短くして呼ぶのはイタリアでも一般化してる。この名前は「純粋無垢な」っ意味だけど「聖母マリアの無原罪の御宿り」に関係した名前で、凄く南部イタリア的。正直いってぱっと見、全然美人でもないし魅力的に見えない主人公なんだけど、なんといってもマテーラ(世界遺産)という特殊な土地が興味を呼ぶな〜。マテーラには1回しか行ったことがないし、日帰りだったから次は是非数泊したいと凄く思いました。とにかくメチャクチャ印象的な風景と歴史背景を持った場所です。

Matera

ドラマを見出すとチェーザレ・ボッチっていう有名俳優が出てくる。イタリア好きなら誰でも知ってる「モンタルバーノ」(邦題は「シチリアの人情刑事」とんでもなくダサくない?)で相棒役をやってたミミが、こっちでは超悪役。共通するのは女狂い病ってとこ。元祖モンタルバーノ(若き日のモンタルバーノもある)のミミはまさにカサノヴァで、不道徳ではあっても全ての女性に優しいから見てて楽しいけど、「インマ・タタランニ」では女性に危害を加える極悪人。話は逸れるけど、この人「ローマの驚異」って番組の司会をしてて、いつも見てるのですっかりお馴染み。

白いスーツが似合うチェーザレ・ボッチ

ドラマに戻って、慣れてくると主人公のインマのとんでもファッションが気になり出す。これでもかっ!て位めちゃくちゃな合わせ方で、とにかく派手好き。うーん、親しみ感じるな〜。年齢気にせず、凄いヒールやミニスカートは当然、イタリアらしさ爆発の豹柄とかは得意技。ミラーノやローマの都会ではあり得ない(実際、マテーラでもあり得ない)下品な着方ってことになってる。お化粧も当然凄い。

インマの本は色々ある

書籍は何種類かあって、どれも彼女のファッションを意識した装丁になってる。私は彼女の着方や選ぶ服が好みではないけれど、でも人の顔色なんのそので、自分のやりたいことを通す姿勢の表れとして彼女のファッションがあって、そこんとこが大好きだし、多分このドラマのファンにはそういう人が沢山いるんじゃないかな。

シリーズの装丁も可愛い

彼女は子供の頃からガリ勉でみんなに敬遠されてた。他の子がデートしてる時も勉強して検察官になった。若い頃、みんなみたいに楽しまなかったっていうのが彼女を苦しめていて、最初のシーズンは事件の他に、彼女のそんな個人的な悩みがテーマになってる。思いっきり恋したことがなかったためか、息子みたいに若い警官相手に妄想してばかり。またこれが南部イタリアの純朴イイ男の代表みたいな人。最後は驚愕の展開に!

インマが密かに恋してる警官役のアレッシオ・ラピーチェ

ちょっと年下なら全然普通だけど、ここまでっていうのが流石ヨーロッパって感じでしょ。日本だったら絶対あり得ない展開じゃない?この辺はやり過ぎの感がなくもなかったけど、事件そのものや、シリーズ全体の構成はよくできていて、一話完結だけど全体が繋がっていて、前の事件が最終的に大きな事件に集約していく。

Sassi(砂)の街

舞台のバジリカータ州はイタリア全土の中でも特に貧困が進んだところで、マテーラはサッシ(砂って意味)っていう、洞窟をくり抜いて作られた前時代的な住居で有名だ。今では観光用に綺麗なホテルになってるところもあるけれど、かつては家畜(ロバ、牛、羊、鶏など)と一緒に洞穴住居で暮らす人々が大勢いた。これが不衛生で危険だからって強制退去させられたのは1950年代。当時はあまりの劣悪な環境で、乳幼児の死亡率は50%にも達したというから仕方ない面もあるけれど、一万五千人の人々が、慣れない環境に強制移住させられて、インマのお母さんの祖先も洞窟出身だ。

謎を呼ぶ不思議な光景は忘れ難い

マテーラは急勾配の土地で、高い所に町が作られている。だから街を巡ると周囲の低い場所に無数の穴が空いていて、とても不思議な光景が広がってる。街も一つの丘ってわけじゃなく凸凹した起伏があって、崖みたいなところをくり抜いて、中世から近世にかけてオスマン帝国に追われたセルビア人などいろんな人が逃げてきて住み着いた。

街の頂点に聳える十字架

中世美術愛好家の私には、中世のイコノクラスム(聖像破壊運動)から逃げてきたギリシャの修道士たちが暮らした洞窟聖堂と、そこに描かれた素朴で愛らしい、信仰心に溢れたフレスコが魅力を放っている。無数にあるので無理だったけれど、全ての洞窟聖堂を訪れたいと思いました。

お花に囲まれた聖母

信仰といえば、ドラマの中にイエス・キリストの映画撮影をしてる場面が出てくるのが、またイタリアらしい。海の上を歩くイエスの奇跡場面をめちゃくちゃアナクロ技術で撮影してて、キリストは転んで海に転落して爆笑される場面とか凄く楽しい。しかも女性に大人気のイエス役のイケメン俳優は女性に対する犯罪歴の持ち主。も〜。

まずいお寿司を食べるイエス

ヨーロッパのドラマでは歴史背景や土地の文化背景が問題になる、社会的要素が基本にある骨太ドラマが多い。「インマ・タタランニ」もそうで、女性の地位が特に低い南部イタリアで(と言っても日本よりはずっと高い)誰より優秀な、ド派手中年女性が活躍するコメディタッチながら社会派のドラマ。見てね💖

出てくるお屋敷もイタリアらしい

ジェンダー・ギャップ指数(GGI)2022年 | 内閣府男女共同参画局

【映画】「グランド・ブダペスト・ホテル」再び

今は映画や海外ドラマを見るのにもいろんな媒体がある。どれがいいのか友人と話題になって、結構内容が違うのを実感しました。VOD最大手のU-NEXT、お買い物に引き続き使ってる人が多そうなAmazonプライム、huluとかNetflixとかいっぱいある。私はイタリア語の勉強がてら、休憩と楽しみにJcomでイタリアドラマを基本に見てるけど、イタリアドラマってあまり無いのね。

みんなとろけるメンデルスのお菓子

イタリアドラマについてはまた今度書くことにして、今日はAmazonプライムを再度契約したので(きっとすぐやめるけど)どんな映画があるか見てみたら、表紙に載ってるのは興味の無いのばかり。でちょっと探したら「グランド・ブダペスト・ホテル」があった。知ってるけど、どうしても観たくなって再見。ものすごくおしゃれで内容もある映画って、そうあるもんじゃ無いでしょ。

不思議なエレベーター

本当にこの映画って素晴らしい。以前見た時より心に沁みた。前見た時は、戦争が全く実感できなかったのに、今は世界のあちこちで戦争してたり、日本だって他人事じゃなくなるかもって感じで、すごく悲しいので、それが理由だと思う。

北ヨーロッパの絵本みたいなホテル

あまりに映像が印象的で個性が強いので、日本では内容について書かれない場合が多いけど、実はとても深いテーマを持っている映画。一言で言ってしまえば「文明と暴力」の対比が描かれている。日本の評論は、物語の背景や思想についてほとんど触れないで、技術的な話や予算やスター俳優ばかり取り上げるけどそんなのおかしい。

ナチのSSを連想させる象徴

舞台は北東ヨーロッパの架空の国なんだけど、ブダペストホテルっていうくらいだからハンガリーとかその辺だろうし、ドイツ語色が強い。年代ははっきりしていて1932年から起こった出来事を回想する。戦争が忍び寄ってきて検閲や拷問があるというのが話でわかるけど、暴力的な場面はほとんど出てこない。

無国籍の主人公ゼロはロビーボーイ

日本ではベルボーイって言うけど、主人公は、戦争で家族を失い命からがら逃げてきた移民の青年と、彼の師匠で、消えゆく「文明の光」(何回もこの言葉が出る)を求めるプロフェッショナルなコンセルジュ(支配人みたいだけど)の二人。彼は常に高尚な詩と香水を身につけている。ワインも安物はダメで、エレガントであることがとても大切。だってそれは野蛮の反対だから。野蛮は無知と結びつき、さらに暴力と結びつくからだと思う。完全な白人の師匠グスタフは、一瞬ロビーボーイのゼロを差別しそうになるけど、すぐ自分の愚かさに気付く。彼は文明人の代表だ。文明は人を寛容にするものだから。そういえば大学院時代に「文化」と「文明」の違いについて考えたことがあった。英語でもラテン系言語でも文化はcultureで文明はcivilization。cultureは「耕す」のが語源で、長らく言われてきたように、人間は定住生活(農耕)をして初めて文化を獲得するという考えに基づいてるのに対して、civilは「市民」集団生活をすること(市や都市の形成)と結びついている。文化が固有のイメージが強く、文明は拡散のイメージが強いと、比較文化の教授が話したのを思い出す。(ちょっと脱線)

ホテルのロビー

この由緒正しい高級ホテルは貴族や大富豪たちに愛されてるんだけど、特に年配の女性たちの目当てはこのスーパー・コンセルジュで、彼は彼女たちの寂しい人生を明るくしてくれるカサノヴァ。超お金持ちの金髪老女が亡くなると、本気で悲しむけどおこぼれも期待するから親族に恨まれても仕方ない気もする。それが事件の源になる。でもあらすじは話さない。見て欲しいから。だって本当にすごくいい映画なんだもん。

登山電車もおもちゃみたいで可愛い

コメディタッチでちょっとブラックユーモアもあって、サスペンス仕立てで最終的にはヒューマンドラマっていう作りだから、誰でも楽しめると思う。全然小難しくないよ。ただ一見するよりずっと深刻で深い内容がある上、カラヴァッジョを思い出す絵画の小道具とか、フリードリッヒを彷彿とさせる映像とか、ツヴァイクの詩とかそういったものが何重にも奥行きを与えている。

ファンタジー映画みたいな映像

情報: The Grand Budapest Hotel (グランド・ブダペスト・ホテル)2014年、制作はドイツとアメリカで監督はウェス・アンダーソンベルリン国際映画祭グランプリはじめ数々の賞を獲得、何より専門家の評価は抜群に高い映画。ジュード・ロウがちょこっとしか出ない豪華俳優陣。準男爵のイギリス人というレイフ・ファインズが、古臭いけど優雅で、誇り高い勇敢な主人公にピッタリ。

いろんなグッズもめちゃくちゃ素敵

絶大なファンも世界中にいるから、いろんなグッズが出てる。かつては優雅で文化的な話題を提供していたゴージャスなホテルが、今ではすっかり寂れて傷んでる。私も、読んだり見たりして知っている有名ホテルや施設が悲しい状態になっているのを、何度も見たことがある。一番印象に残っているのはトスカーナのモンテカティーニ・テルメ。色々読んで行ってみたくて初めて尋ねたときはまだ綺麗で感動したのに、後から行ったら寂しい状態ですごく悲しくなった。

Montecatini terme

優雅な時代は常に過去のものになるのかな。ドレス着て、ピアノの生演奏があって、大広間で大理石のお風呂でエステする避暑地。なんて贅沢、確かに平等主義時代にはそぐわないのかも。文明の光は消えず、戦争を止めることはできるのか?まさに世界に問われている今、映画「グランド・ブダペスト・ホテル」は益々名画に感じられる💕

【講座】美術本の良さと意味

満員御礼お願いしまーす!と書くまでも無く、「大型美術本で堪能する西洋美術の世界」の講座はあっという間に埋まってしまって、恒例の参加者の方からなんとかならないかと連絡がありました。

ベアトゥスの黙示録註解

ごめんね〜🙇次の対面授業は、大型書籍をみんなで見ながら楽しむと言う企画なので、狭いところにぎゅうぎゅう詰まって見なくてはなりません。それで本当は六人くらいにして欲しいと事務に頼んで断られたので、なんとか二冊用意できる内容でやることにしました。五人で一冊の本を見ることになります。だからずっと来てくれてる人でも断らざるを得ません。も一度ごめん〜。いつもありがとう💕

クラナッハの黙示録

そこで私の所有図書と図書館を利用して内容を考えています。一度は、聖書の中でもダントツで過激な「黙示録」を取り上げたいと思う。私は子供の頃から「黙示録」ファンでした。だって額に666って書いてあるとか、多頭で冠被った怪物とか、私の大好きな謎がいっぱい。黙示録はいっぱい持ってるんだけど、ペルージャ(中部イタリア)の書店で買った時、みんなに拍手されたのを今でも鮮明に覚えている「ベアトゥスの黙示録註解」と、日本では3万円位で一度見かけたけど、フィレンツェの本屋の店じまいで千円もしないで購入できたルーカス・クラナッハの黙示録」を持ってゆきます。時代も場所も表現も全く異なるけど、同じ文章を視覚化したものです。聖書の勉強にもなるね。これで一回。

世界美術大全ロマネスク

あと日本が誇る美術印刷と内容充実の「世界美術大全」から「8ロマネスク」を選ぼうと思う。私は時代や様式にこだわらず過去から現代美術まで関心があるし、好き嫌いもどの時代や様式にもある。でもロマネスクは好き💖と言うことで、8巻を二冊用意します。一冊は自分ので一冊は借りる。みんな大切に扱ってねー。本の扱いが酷い人は、文化程度の低い人と感じてしまう。今回扱う本はどれも何万円もする本だし、なかなか交換も効かないので絶対よろしく〜。ロマネスクでは聖堂建築が主役かな。

フォンターナの写真集

上記2回は決めてるんだけど、あと3回はみんなに会った後に決めようかと思ってます。私としては、普段は講座でなかなか扱う事ができない現代美術や写真集を一回入れたいという思いがあります。フランコ・フォンターナはモデナ出身の写真家で、モー!めちゃくちゃカッコいい!!幼少から色彩構成に関心が高かった私の心を、鷲掴みにする写真家です。この本はシチリア文化財団関係者の教授からいただきました。その時バッティアートと話したのも覚えてる。バッティアートっていうのは、イタリアの有名な音楽家でシンガーソングライターです。歌詞が特に独自で、私は彼の音楽のファンです。要するにシチリア文化関係ってこと。この写真集なんか、色と質感が違ったら話にならないので絶対投影機は使えません。上質な印刷だから堪能できる。まさにこの授業むけと思おうんだけど、正直言って現代美術になるほど関心が薄いので、その辺は相談次第でもある。とにかく早々とした決定に感謝しまーす。チャオ〜💕

 

【美術】ヨーロッパ各地の美術

都立大オープンユニバーシティ春講座の募集が始まりました。なんだか集まるか不安だった大型美術書の方は、もう定員に達しそうで電話しか受け付けないそうです。ありがたいな〜😊 満員御礼お願いしまーす。
03・3288・1050(平日9〜17:30)が電話です

 

Joan Miró i Ferrà

もう一つの講座はオンラインの「ヨーロッパ各地の美術」です。自分でもめちゃくちゃ楽しみ。本当は「世界各地の美術」にしてアフリカや中南米なども取り上げたかったんだけど、無理っぽい。それにやっぱり私の知識の基本は西洋美術なので、ヨーロッパに絞ります。

Otto Dix

絞るとか言ったって、いつもやってるイタリア美術にも紹介できてない素晴らしい美術家は大勢いるし、スペインは有名画家が目白押し。それにフランスは正直言って、あまり偉大なフランス人美術家は文化大国とかいう割にいないんだけど、フランスで活躍した人は大勢いる。でもフランス人を取り上げる。

Henri Marie Raymond de Toulouse-Lautrec-Monfa

時代はカタログにもあるように、拘らないので古代から現代まで視野に入れて、できるだけ沢山の作家を紹介したい。例えばロートレックを知ってる人はそれなりにいるだろうけど、シンベルクを知ってる人はまずいないと思う。大好きなアーティストなのでぜひ紹介したい。

Hugo Simberg

ディックスはドイツ人、シンベルクはフィンランド人です。このところ北欧への関心が高まってるし、もっとポップな日用品などは馴染みの人も出てきたしね〜。

オンラインの方は授業数が多いので、他の講座よりちょっと高めだけど、美術好きなら気にいる作品がいくつもあるはずだし、オンラインは一週間自由な時に見られるのでどうぞよろしくお願いします💕

 

以下に申し込みサイトを記します。

https://www.ou.tmu.ac.jp/course/detail/7326

【美術】目と感覚:発光アート

都立大オープンユニバーシティの今の講座が最終段階に入り、もうすぐ次の講座の参加者を募ります。次の対面講座はかつてない方法で行うので多少心配です。本当は極少人数でゼミみたいにやりたかったんだけど、ダメっていうから十人です。どうぞ開講できるように参加お願いしまーす😂

Gian Lorenzo Bernini

で、何が言いたいかって言うとただの宣伝じゃなくて、講座をする上でずっと悩んでいることがあります。それは美術作品をどうやって見せるかと言うことです。私の場合、西洋美術だからどうしても実物をなかなか見せられない。そこで対面の講座では、初めて大型美術書を使って授業することにしました。

Apocalisse

昔は撮影した映像をフィルムに起こしてスライド投影機で見せていました。(何歳くらいまで知ってるかな〜?この方法)お金もかかるし大変だった。その後映像はコンピューターに取り込んで処理するのでずっと経済的にはなったけど、鑑賞者に見せるのはスライドを通じてでした。スライドで見せるとき、MacならいいけどWindowsを通すと完全に色が変わるし、すごく嫌です。でも何より辛いのは、投影機は大きくは写せるけど、ぼやけてしまうので細部まで伝えることが難しい。

Raffaello

だから今回の講座では、参加者全員に意向を聞いて大型テレビ(業務用ディスプレイ)を用いました。大きくできないので教室の後ろに座る人には見にくいから、前に来るように言っても、おとなしい日本人では椅子だけ持って前に来る人は滅多にいません。でもやっぱり全然画像がはっきりするし、色の違いも少ないのです。

Pinturicchio

それでも常に違和感がありました。だって本物(絵画や彫刻、フレスコなど)は発光してないのに、コンピューターを使うとどうしても内側からの光や、画面がツルピカだから異質に成ります。デジタル処理を加えると、ある意味でみんなギラギラした浅い質感になります。色彩も単純になる。これはインスタ映えに慣れきってしまった人には、わからない感覚かも知れないけど私は痛感しています。

ワット・パークナム

そんな時テレビで、タイの息を呑むほど美しい行くべき場所としてワット・パークナムの寺院を紹介していました。私にはこれが、誰もが感動する最高の美しさだとはとても思えませんでした。タイの美術を馬鹿にする気は全くありません。20億円かけて2012年に完成したそうだけど、外のライトアップといい、本当に今風の感覚でマーケティングに成功してる感じです。

immersive degital art

イマーシブミュージアム | Immersive Museum

埋没型美術館は嫌いではありません。しかしこれでゴッホが分かったとか、彼の作品を知ったと言うのは絶対違う。これを元に興味を持ったり、作品や生涯を知っている人が楽しみに行くにはいいと思う。高いけど😭

世界美術大全集

昔の日本人は現在よりもずっと沢山の色の名前を知っていました。山吹色、鶯色、江戸紫とか色々。アフリカにもそう言う研究があるって言うのを読んだ事がある。何百種類も識別できる人たちがいるとか。私はコンピューターが大好きですが、美術を堪能するにはもっと繊細な感覚があった方がいいって思ってるの。だから、少しでも実物に近い媒体として、紙と美術印刷で沢山の作品に触れて欲しいと思います。

https://www.ou.tmu.ac.jp/course/detail/7331

文句ばっかりと思わないで、ちょっと感覚のことを考えてもらえれば嬉しいです。

【海外ドラマ】ブルー・アイズ:今見るべき

日本の社会状況はますます悪くなり、介護環境も崩壊の始まりと言われている今、思い出したドラマがある。2019年のスウェーデン・ドラマ。原題は Blå Ögon で「青い目」。いつものことながら、なんで日本語で書かないでわざわざ英語にするかな?カタカナで??

ブルー・アイズ

全十話で一応の完結を見た、リアルすぎて現地ではものすごく話題になったドラマ。日本では考えられない深刻な社会派で、辛くなるけど凄く良質なドラマだから、是非まだ見てなかったら見てほしい。現代社会の問題が凝縮している。

Blå Ögon

このドラマを思い出したきっかけは、ニュースで介護問題の危機について見たからです。ドラマの中でテロ集団が主張する最初に「(この国の)老人がひどい生活を強いられている」という発言が何度か出てくる。個人的にも、身近な問題だし、とても心に響いた。

いよいよ襲撃

テロ集団(といっても凄く少人数)のとる殺人という方法は、許されないし間違っているに決まってる。でも彼らの主張には納得できることがいくつもあって、完全に悪者扱いできないところがある。一部の高級官僚や政治家が、税金で私腹をこやしているのを咎めるのは当然のことで、日本も全く同じ状況にあるけど、おとなしくて環境の変化を恐れる日本人はいつまでも政権交代を望まない。このドラマの主人公は何人かいるけれど、来る選挙が背景にあって、みな選挙に関わる人々。ただ関わり方は色んな立場があって違うけど。海外では日本より若い人が積極的に選挙に関わる率がずっと高い。直に関わらなくても、主張に反対したりして意見を表明してる。純粋に社会をより良くしたいと願ったり、ある主張が酷すぎてそれに対して反対意見を主張するのは民主主義の根幹で、ドラマの柱はそこにある。

人種差別党に反対する

テロリストたちはまず許し難い犯罪を犯した受刑者たちを殺害する。児童虐待のような全く許せない残虐な犯罪に対して十八ヶ月で刑期を終えるような、処罰の軽さが問題だという主張にも、賛同したくなる。古代社会は犯罪者にダブルスタンダードを設けて、特別な身分でない限り厳しい処置を施すが、先進国と言われる社会では、残酷な殺人者でも丁寧に扱われたりして、人権の考え方が歪んでいるような気がする時もある。どうして犯罪者の人権ばかり優先され被害者の人権は軽く見られるのだろう?ってよく思う。

タイトルバックも怖い

北欧はかつて、福祉が行き届いた理想的な社会と言われた時代があった。でもあまりに増え過ぎた移民によって社会のバランスが崩れてしまう。移民問題を取り扱った北欧のドラマは幾つもある。2011年にノルウェーで起こった乱射事件では77人もの人が亡くなったし、22年にはオスロで性的マイノリティーが集まるバーで無差別乱射事件があった。これ以外にも未然に防いだ事件がいくつもあり、ドイツのネオナチみたいな人たちは世界中にいる。トランプ支持者の連邦議会議事堂襲撃事件なんか、その大々的な例。こういうのを見てくると、日本人の良いところは暴力的で無いところだと言いたくなっちゃう位、世界には暴力が溢れてる。

男優賞を受賞したアダム・ルンドゲレン

極右政党の人たちは人種差別主義者と言われているけれど、選挙が終わってみれば大躍進した。凄く印象的なラスト・シーンでは、テロ集団を率いてた男が、逃げられたのに自ら捕まる。そうすることで彼の信奉者や極右の愛国者達が増えるからという理由で。すごい信念だ!そんなに青い目の先祖たちが作ってくれた歴史が大切で、守らなきゃいけないことなのか私には理解できないけれど、彼が歴史の先生なのもとても皮肉。バラバラ書いててごめん。

右派政党の選挙演説

内容以外のことでは、風景などの映像が綺麗って書いてた人がいたけど、私的には全然そう思わなかった。やっぱり地中海もの見慣れちゃうと、地味で悲しいばかり。イタリアやフランスの歴史中央地区や都市は、ほんと映像が魅力的だけど、そういうのは一切ない。ハリウッドと違ってモデルみたいな美人の女優さんも出てこない。そんな中圧倒的な存在感を発揮したのが賞を受賞した、根っからの暴力系右翼のテロリストを演じたアダム・ルンドゲレン。めちゃくちゃ似合ってて、本当はこの人優しい人だったらどーしよーと思う程ハマってた。国際的に有名になったアダムは小説「ヒトラーの息子」の映画「揺るぎない瞳」で主演やってる。元は「最大の怒り」ってタイトルだったのに「揺るぎない瞳」って和訳になってるのは彼の瞳のせいかな?「青い目」の前にはゲイ・コミュニティの社会派映画に出てる。見たいけど邦訳がないみたい。それだと全然分からん。スウェーデン語は時々英語っぽいだけだもん。

青い目の無表情がちょー印象的

彼の他は、貧困と恋人の暴力、母を殺された怒りで、勢いでテロリストになっちゃった姉を持つ弟役のデビッド・リンドストルム。見ていて彼を助けてあげてー!と誰もが思う、幼い子供を助ける優しい役柄。いかにも北欧の蛮族って感じの役もやってるけど、日本語では見られない。

優しい弟と怒りの姉とその子

ポスターの表紙にもなってる政府の人間エリンと彼女を取り巻く要人たちは誰もが裏があって、国家と党と個人の利益の間で駆け引きに必死。そこんとこがめちゃくちゃリアルで、実在の団体や政治家のことだと言われてクレームがついた。

揺るぎない瞳

最後に印象的だったこと二つ。一つはアラブ系の移民が「全ての人間の価値は平等か?」って問う場面。もう一個は、全くどうでも良いようなことなんだけど、お葬式の場面。弟は日本人と同じように正装してるのに姉は、まるで娼婦みたいな薄着(下着か?)って感じの服を着てること。イタリアに留学してた時、北欧の女性はよくノーブラだったり、すごい時はみんなの前で上半身裸になっちゃったりしてたのを思い出しました。文化の違いかなぁ?

弟役を演じたリンドストルム(右)

移民だって好きで移民なわけない。今みたいにあちこちで長々と戦争してればますます移民が増えて、多くの国で問題になるのは目に見えてる。監督は「ブリッジ」のゲーオソンだから間違いなし。機会があったら是非見てほしいドラマでした。

 

【芸術】参加者の感想:西洋美術愛好会

私の都立大OUの講座に連続して何年も参加してくださっている方々は、私の人生の一部でありどんなに感謝してもしきれませんが、間を置きながらも何度も参加してくださる方もいて、それはまた別の嬉しさがあります。オープンユニバーシティは教師と先生というより講師と参加者という大人の関係ですし、学生のように数年間ぶっ通しで一年中顔を合わせるわけではありません。だから親しくなれる人もそうでない人もいます。全ての人と心底うまくやれるような人はいないし、特に私の授業は個性が強いので、合う合わないも大いにあります。だから誰かが来なくなると中には気になる人もいて、何が問題だったか考えたりもします。Uさんは色々とお忙しい中、参加可能な時には来てくださる方で、何より私のイタリアの旅に親子で参加してくださいました。お嬢さんとはイタリア語も一緒に勉強して、彼女の赤ちゃんはイタリア語で数えたりするというのを聞くと、こんな私でも少しは生きている意味があるかと思ったりします。そんなありがたいUさんからのメールを一部紹介します。

Paul Cezanne

一昨年のオンラインの「西洋美術愛好会」等のお陰で、セザンヌ降の近代美術に、
より親しみを感ずることができるようになりました。ありがとうございました。
絵画を観ることだけでなく、音楽や人間についても、視野を広げることができたと感じ
ています。樹々や動物に対しても、共感的に観たり、感じたりすることが深くなった気
がします。どんな気持ちで、何のために、絵を描いたのか、音楽を作曲したのか、樹々はなぜ枝を伸ばすのか、対象の内面を想像するようになりました。
昨年は、バッハの「マタイ受難曲」を湘南フィルハーモニーのコンサートを聴きましたが、美しい曲の数々をバッハがどんな気持ちで作曲したかを念いながら、心地良く聴くことができました。昨年は、エゴン・シーレ展、キュビズム展、ローマ展に行きました。先生の講座のお陰で、より興味深く鑑賞することができました。

Cezanne, 1895

私には枝を伸ばす木々の内面を想像することなど叶いませんが、Uさんは大変ロマンチストなので、私の授業からそんなふうに発展させてくださったんですね。芸術は人から言われて「すごい!」と思うものではありません。自ら感じることが何より先にあると信じています。もし理解したいと思うなら、歴史や思想や芸術家を取り巻く社会状況や作家の性格その他を考察する必要がありますが、まず最初に作品を「好きだ、いい!」と感じなければ絶対に理解に近づくことはできません。作品解説ばかり読んで、ろくに作品を見ていない人が多い中、目を閉じて音楽に没頭するように絵を眺めたいものです。

Cezanne

私は芸術全般が好きですが、中でも子供の頃から美術が好きでした。家にはセザンヌの画集があり、父から重要な画家だと知らされていましたが良いと思えるようになったのはずっと後になってからです。特に彼の描くあまりにデッサンを逸脱した人間の絵が気持ち悪く嫌いでした。今でもセザンヌに限っては、風景や静物などが好きで人はあまりピンと来ません。それでも美術史全体における彼の果たした役割の重要性は分かります。どんなに偉大だと言われていても好きでなくて構わないのが芸術のいいところではないでしょうか。算数のように正解があるわけではないし、善悪のように理解するべきことでもない。最も大切なのは自由な精神だと思う。

Uさんのメールにかこつけてつい長くなりました。今朝もかなりの地震がありました。東京もいつどうなるか分かりません。でも悲しいことや心配ばかりでは生きていけないので、美しい物事に心を慰めてほしいと思います。心を新たにより勉強したいと思っています。

【美術・歴史】ローマ尽くしの講座

おかげさまで、今年の都立大オープン・ユニバーシティの二講座が開講決定しました。オンラインの「永遠のローマ」と対面の「ローマの美術館・博物館」です。ローマ尽くしの三ヶ月になります。オープンユニバーシティは、一般の大学と違い受講生がそれなりの人数集まらないと開校されないので、私が講座を続けられるのは一重に参加者のおかげです。コロナ明けには、飯田橋で講座を持ってから初めて開講されない講座が一つ出て大変ショックでした。もう辞めようかとも思ったけど、応援してくださる方々のおかげで、年末年始もローマを調べまくっています。

ポンペイ遺跡の影響を感じるPerugino

ローマには「世界の頭」というニックネームがあります。ヴェネツィアには「晴朗極まる都市」(ジェノヴァやサン・マリーノも同じ)という言い方があるのですが、ローマは特別です。世界の頂点(頭)とは古代ローマ帝国時代の栄華と、教皇庁所在地を指すと察しがつきますが、中世や近世、現在のローマはあまり知られていません。

Raffaelloのユリウス二世、Sebastiano del Piombo

この数年、私が子供の頃には想像もできなかった深刻な戦争が世界中で勃発していて、軍隊や国についてを真剣に考えるべき時が来ているように思えます。ある国が巨大ならば当然その影で苦しんだ人や、犠牲になった国が沢山あるわけですから、ローマ帝国万歳みたいな授業はとてもできません。しかしローマを訪ねた人なら誰もが圧倒的な美術の力を目の当たりにするでしょうし、調べれば調べるほど高度に進んだ文化の重みを感じるのも確かです。

大理石製布に覆われたバルベリーニの紋章 Barberini

教皇ユリウス2世がいなければミケランジェロやラッファエッロはあれ程の仕事を残すことはなかっただろうし、ローマ中で見かけるバルベリーニの紋章が地味に見えてしまう程、豪華絢爛で優雅なバロック美術も生まれなかったかもしれないし、ボルジヤ家の退廃の極みは多くのドラマや映画に題材を与えてきたし、良くも悪くもローマは他の都市とは比較にならないと思う。

Pinturicchioの描いたルクレツィア・ボルジャ

ルクレツィア・ボルジャの「化粧の書」が紹介できるかどうかはわからないけれど、狭い意味での美術ではなく、水道橋や下水道に見るローマ帝国の偉大さから、遺跡と美術に囲まれたローマの人々の現代までを念頭に、美術を中心に幅広く話していきたいと思います。ローマという地域は限定でも、ローマ帝国はイギリスやアフリカでも大きな足跡を残したので、そういう意味では広大な地域が対象となるとも考えられます。

キリスト教以前の文明を伝える巨大な松ぼっくり

対面授業の飯田橋で紹介するローマの美術館を、オンラインでも取り上げる予定です💕

【美術】西洋美術の旅:始まりはローマから

Auguri! Buon Anno 2024

明けましておめでとうございます。気持ち悪くなる程、食べて、何十種類もあるお節料理が待っているのに、世界には死に直面している人が大勢いて、単純に喜べないのが大変残念です。戦争が当たり前の世界になるなんて、絶対に間違っている。反戦思想をみんなで共有したいです。

Giacomo Manzu`

こんな今年の出だしで心苦しいけれど、私は自分の前の前の小さな世界しか興味や関心がない人が、戦争や政治腐敗を容認すると思うから、無視することができないのです。

Musei Vaticani

だから広い世界や、未知の世界(魔界とかじゃなくて)にも目を向けた講座をやっていきたいと思います。去年は初期フランドル美術という限定的な世界を紹介したけれど、今年は西洋美術の基本に帰り、ローマから始めます。古代ローマだけじゃなく、現代までの長い時代を視野に入れた内容を考えていますので、世界史や西洋美術に関心のある方は、ぜひよろしくお願いします。

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みんなに会えるのを楽しみにしているよー💕

【スポーツ・美術】今年の総括

私はスポーツ観戦が大好き💕今年は観戦しがいのある年でした。スポーツと美術といったらまず浮かぶのが、あまりにも有名なミュロンの円盤投げ。ギリシャ美術を体現する理想美(真・善・美!)の概念をここに見ることができます。といってもこの写真はミュロンが作った作品の複製。ローマ美術はギリシャ美術をさかんに複製したので、ちょこっとずつ違った作品が沢山あります。この作品が素晴らしいのは、ほとんどどの角度から見てもカッコいいところです。

Myronの複製

今年は毎日朝から晩まで大谷オオタニOhtaniの一年でした。彼が突出したウルトラスーパー大選手なのは誰の目にも明らかだろうけど、それにしても他の選手もいるのに報道が偏り過ぎだといつも思います。

↓中世のスポーツについての論文でこんな写本を見つけました。なんか野球?につながりそうじゃない?ホッケーとかラクロスとかクリケットとかもあるけど。

codex medievale

例えば井上尚弥だって世界のスポーツ史に残るような選手。ボクシングは野球と違って世界中の多くの国でやっているから、欧米にも彼のファンは大勢いるくらい。それなのにぜ〜〜〜〜〜んぜんテレビでは取り上げてくれない。地上波で試合を放送してほしいと思うのは私だけじゃないはず。

BC.336-5

この紀元前336〜5年に作られたという壺絵は、どう見てもボクシング風景。流石ギリシャ人は健全な体に健全な精神が宿るだけあるなーとか思ったりもするけど、ソクラテスは全く鍛えてなさそうだから、一概には言えないね。言えることはみんな素っ裸ってこと。これは凶器を持ってたり、何かずるいことしてないかどうかはっきりさせるためにやっていたことだけど、日本のお相撲がそれに近い形だと思うと興味深い。

次の絵はよく見るとかなり謎なんだけど、スポーツ場面らしい。先の写本と違って中世後期です。

Medieval sport

今年はサッカーもバスケットも見たけど、連続でラグビーを見て、やっぱり私はラグビーが一番!と確認しました。サッカーもバスケも見てる時は面白いんだけど、ラグビーの面白さには敵わない。ラグビーは笑える!なんかそんなこと言ったら不謹慎かもしれないけど、笑える😁 パンツ脱げそうになって敵を引き摺りながら猛進したり、動物がぎゅうぎゅう集まって互いに上に乗りまくってるみたいになりながらも、必死にボールを守ってる。と言っても抱えちゃいけないから難しい。大体たまーーーーーーーーーーに小さい人もいるけど、基本、バスケもバレーも水泳も背が高くないと話になんないから、多くのスポーツは似たような体格の人たちが戦うのに、ラグビーでは、スクラムハーフフォワードの半分くらいの大きさだったりしてそこも面白い。走るスポーツは大抵体重絞った人たちがするでしょ。筋肉だけど太りまくった巨体で、グワーーーーーーーーーーッと走るのもラグビーならではで爽快。ということで、私の今年のスポーツ一番はラグビー・ワールドカップでした。それにしても、私が子供の頃はサッカーもラグビーも日本人が世界で戦えるなんて想像もできなかった。大リーグで一番強いチームの主力に日本人が複数人いるなんていうのも信じ難いことだった。

Brughel

冬にぴったりのブリューゲルカーリングでお別れします。1631年の作品の一部です。


【ドラマ・映画】今年の総括

今年もいっぱい映画やドラマを見たので、印象に残ったものをちょっと紹介。今年っていってもいつも通り、私が今年見たっていうだけで、今年の作品とは限らないの。ごめん・・・。タイトル写真は美術史の講師としてはやはり美術作品でってことで、ジョージ・シーガルの作品です。内容にあってるから。

George Segal

連続ドラマではダントツで「復讐人アーギャフ:過去からの刺客」です。トルコもやるじゃ〜ん!ってすっかり感心しました。残念ながら言葉が全然わからないので、字幕頼りだから、本当はもっと違うこと言ってるんだろーなーとか思いながら見たんだけど、それでも素晴らしかった。 2018年に放送されて、国際エミー賞と主演男優賞を取ってる。日本ではすぐには配信されなかったみたい。

アーギャフ

犯罪ものって無数にあるけど、個人的な問題(金銭、痴情、権力などなど)が元で起こる犯罪がほとんどでしょ。そうでなければ愉快犯で元から変態で、場当たり的に誰にでも降りかかるとんでもない犯罪もあるけど。これはそのどっちでも無いのがまずオリジナリティー高い!それで、かなり最後の方まで主人公と犯罪の元になった事件との関係が分からない。何しろ慣れない言葉で人名なんだか地名なんだか最初はオロオロするけど、慣れてくるとすごくいろんな内容が盛り込まれていてよく出来てるのに感心しきり。引退して何年も経つアルツハイマーの老人が猫のぬいぐるみ着て暴れまくるというのも凄いけど、ハンサムな孫や若者カルチャー系の映像もあって、画像も意外にポップだったりもする。

アーギャフ

凄く社会派だから真剣に見るドラマでもあって、都会と打ち捨てられた部落の問題とか、女性の自立(2番目の主人公は、初めての殺人科の女性刑事)とか、記憶をテーマにした人間の生きる意味とか、めちゃ深い内容だった。その上、詩人みたいな口調の人たちが何人もいて、その辺も文化の違いを感じました。見る機会あったら絶対お勧め。 主演男優賞のハルク・ビルギナーは有名な俳優でハリウッドにも出てる。彼が気狂い精神科医をやってるからツイ見ちゃったホラー映画の「ハロウィン」があって、次はホラー映画の話。

キラー・ジーンズ

実は大人になるまでホラー映画って嫌いでバカにしてた。それが歳を追うごとに好きになって来て、書きながら「大丈夫?私???」って思うけど、そーなの。ホラー映画って良し悪しが極端で、見なきゃよかった系の、ただただ馬鹿らしい二番煎じも多いけど、当然そういうのはすぐ見るの止めるかすっ飛ばしながら見たりする。なんでホラーが好きなんだろうと前から思ってて、理由を考えてみると、一番なんでもありだから人間の想像力の限界に挑戦できるところが良い、と気づきました。今回美術でヒエロニムス・ボスを取り上げたけど、ちょっと似てる。

Hieronymus Bosch

どうしたらこんなこと思いつくのか?なるほどそーゆー手があったか!とかいうのが好き。ボスの絵は五百年も前に描かれたのに、全然古臭くないし、当時から今でも絶大なファンがいる。圧倒的多数派じゃ無いとしても、絶大なファンってとこが重要。ホラー映画にもちょこっとそんなとこがある。2021年のスペインの「シッチェス・カタロニア映画祭」で話題を独占したのが「キラー・ジーンズ」です。ボスの作品もスペインに沢山あって、スペインってホラー系産地なのかも。RECもあるし。

殺人トマトの攻撃

大人気のファッションブランド店で、新作ジーンズの発売日前夜に惨劇が起こるんだけど、何と殺人者?はジーンズ。あまりにバカらしく、もー辞めようかと思ったけど、私を離さない何かがあって最後までまともに見ちゃった。見終わったら、凄い!これめちゃくちゃ社会派だ!とびっくり仰天した次第です。トマトが襲ってくる超B級映画のシリーズに始まって、結構、意味不明な物が人間に襲いかかるホラー?もあるから、これもその一種か、と思ってたら真面目な映画だった。ファッション産業の面と裏、特に貧困地帯での子供を使っての労働問題がテーマ。ネタバレだからもうみないとか言わないで、テーマを知って見てもジーンズのポケットを目に見立てて表情作ったり、インドダンス踊ったり結構おかしいしお勧めホラーでした。日本にはコタツが襲ってくるホラーがあるらしいけど見た事ない。

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来年の対面講座、5回でローマの美術館を紹介します。ってことはかなり西洋美術の基本を紹介できるかな。どうぞよろしくお願いしまーす💖

クリスマスの挨拶と「御聖誕」

Buon Natale !

Geertgen tot Sint Jans

クリスマスの挨拶をヘールトヘン・トット・シント・ヤンスの作品で贈ります。

デザインの仕事はまだ残っているけれど、今日で今年の授業が全部終わりました。授業に参加してくださっている方々、私の独り言(このブログ)を読んでくださっている方々全員に挨拶を送ります。感謝を込めて。

 

メリークリスマス!ってあちこちで言っているけれど、みんな意味をわかっているのか心配です。日本人は全く宗教に否定的な人でも、クリスマスにケーキを食べてプレゼントを送ったりするのはなぜなのか。酔っ払いがサンタの格好でメリークリスマスとか叫んで迷惑をかけまくっているのを見ると、正直、良い気持ちはしません。でもイエスの御誕生を祝って、不愉快なことを書くのはこれでおしまいにします。ただひたすらに平和を願って。心から不寛容と戦争と差別の無い、そんな世界にほんの少しでも近づくことをお祈りします。

 

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来年早々から始まる、都立大オープンユニバーシティの授業です。基本に立ち帰り、来年はローマから始めますので、どうぞよろしくお願いします💐

【西洋美術】フェルメールと贋作について

ずーっと前に感想をいただいていた前回についての感想です。今になってごめんなさい。

Meegeren

「メ―ヘレンとフェルメール

今回も有意義にして面白い講義ありがとうございました。特にメ―ヘレンの生涯はまるで

講談のように波乱万丈で楽しみました。

メ―ヘレンの事件についてはよく知りませんでした。戦争と革命の時代、20世紀前半に起きた贋作作家によるとんでもない大詐偽事件、面白すぎる。ナチをコケにするなんて痛快で映画、出版が相次ぐのも無理はないです。だが講義が進むにつれ贋作とは何かという問いかけが、単なる野次馬的美術ファン(私です)に対し作品の理解水準を問うてるように思われ、悩み考えさせられ、引き込まれて行きました。

最近ある地方の美術館に行く機会があって、メインは日本、西洋の近現代有名作家のコレクションでしたが、今回の講義の後だったので、この西洋美術の中には贋作があるのでは?という目で見てしまいました。楽しくはないですが、見る側の鑑賞能力を磨くことにはなるかなと思った。美術知識のみならず、時代背景や社会学の勉強になります。そして幅広い観点からの美的センスが身につく。

検証中

 

メ―ヘレン個人については、2つのエピソードから、好感は持てない。

①   インドネシア出身の女性と、改宗させてまで結婚したのにバブルまみれの人生を求め離婚。オランダとインドネシアの植民地史を考えると尚更。

②   宗教画で旧約の「ヤコブの祝福」を贋作している。人類史上最初の詐欺事件(オレオレ詐欺)。何たる厚顔無恥。新約のイエス様の顔も卑しくみえる。

講義のもう一つのテーマは「オランダ美術史」でした。

オランダについては、ヨーロッパの中央線にありながら、大国とは違う独特の文化をもつイメージがある。ユーロ前のオランダ紙幣やオランダ切手の余りにもユニークなデザインは忘れられない。また歴史的には反王権のイメージがあるが実は王国。日本の皇室とも仲が良い。講義にあった「女王の見た鹿」の話も納得。あれはウィルヘルミナ女王だろうか。

それはともかく、メ―ヘレンの憧れたオランダ黄金時代を中心に、多くの魅力的な画家が

紹介されました。ハルス、デ・ホーホ、ヨンキントなどが印象に残っています。

その他今回の講義で、個人的に新たな驚きがあったこと。

①   古典の模写の話で紹介されたミケランジェロの初期彫刻『バッカス』。ケンタウルスの姿に注目して見ると新たな感動。

②   レオナルドの『アンギアーリの戦いルーベンスの模写。これと素描によって大壁画への想像が膨らむ。大俯瞰から寄っていく戦争映画みたいな。板絵は謎の存在だが、下手な模写ともみえる。

③   カラヴァッジョの宗教画に現れる赤いカーテン。驚きの存在感。デヴィッド・リンチツインピークス』の赤い部屋を思い出す。時空を超えた聖なる空間の象徴なのか。ユダヤ教の幕屋だろうか

以上、いつも思い出しながらの断片的感想で申し訳ありません。充実の10回講義感謝です。

Meegeren

この授業の感想で面白かったのは、男性たちはみんなメーヘレンのモテぶりに怒っていたところです。参加してくださる紳士たちとは正反対の自己中男だからね!本当につもありがとう💖

西洋美術、イタリアの旅、読書が大好きな貴方へ、中世西洋美術研究者SSが思う事いろいろ