天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【海外ドラマ】ブルー・アイズ:今見るべき

日本の社会状況はますます悪くなり、介護環境も崩壊の始まりと言われている今、思い出したドラマがある。2019年のスウェーデン・ドラマ。原題は Blå Ögon で「青い目」。いつものことながら、なんで日本語で書かないでわざわざ英語にするかな?カタカナで??

ブルー・アイズ

全十話で一応の完結を見た、リアルすぎて現地ではものすごく話題になったドラマ。日本では考えられない深刻な社会派で、辛くなるけど凄く良質なドラマだから、是非まだ見てなかったら見てほしい。現代社会の問題が凝縮している。

Blå Ögon

このドラマを思い出したきっかけは、ニュースで介護問題の危機について見たからです。ドラマの中でテロ集団が主張する最初に「(この国の)老人がひどい生活を強いられている」という発言が何度か出てくる。個人的にも、身近な問題だし、とても心に響いた。

いよいよ襲撃

テロ集団(といっても凄く少人数)のとる殺人という方法は、許されないし間違っているに決まってる。でも彼らの主張には納得できることがいくつもあって、完全に悪者扱いできないところがある。一部の高級官僚や政治家が、税金で私腹をこやしているのを咎めるのは当然のことで、日本も全く同じ状況にあるけど、おとなしくて環境の変化を恐れる日本人はいつまでも政権交代を望まない。このドラマの主人公は何人かいるけれど、来る選挙が背景にあって、みな選挙に関わる人々。ただ関わり方は色んな立場があって違うけど。海外では日本より若い人が積極的に選挙に関わる率がずっと高い。直に関わらなくても、主張に反対したりして意見を表明してる。純粋に社会をより良くしたいと願ったり、ある主張が酷すぎてそれに対して反対意見を主張するのは民主主義の根幹で、ドラマの柱はそこにある。

人種差別党に反対する

テロリストたちはまず許し難い犯罪を犯した受刑者たちを殺害する。児童虐待のような全く許せない残虐な犯罪に対して十八ヶ月で刑期を終えるような、処罰の軽さが問題だという主張にも、賛同したくなる。古代社会は犯罪者にダブルスタンダードを設けて、特別な身分でない限り厳しい処置を施すが、先進国と言われる社会では、残酷な殺人者でも丁寧に扱われたりして、人権の考え方が歪んでいるような気がする時もある。どうして犯罪者の人権ばかり優先され被害者の人権は軽く見られるのだろう?ってよく思う。

タイトルバックも怖い

北欧はかつて、福祉が行き届いた理想的な社会と言われた時代があった。でもあまりに増え過ぎた移民によって社会のバランスが崩れてしまう。移民問題を取り扱った北欧のドラマは幾つもある。2011年にノルウェーで起こった乱射事件では77人もの人が亡くなったし、22年にはオスロで性的マイノリティーが集まるバーで無差別乱射事件があった。これ以外にも未然に防いだ事件がいくつもあり、ドイツのネオナチみたいな人たちは世界中にいる。トランプ支持者の連邦議会議事堂襲撃事件なんか、その大々的な例。こういうのを見てくると、日本人の良いところは暴力的で無いところだと言いたくなっちゃう位、世界には暴力が溢れてる。

男優賞を受賞したアダム・ルンドゲレン

極右政党の人たちは人種差別主義者と言われているけれど、選挙が終わってみれば大躍進した。凄く印象的なラスト・シーンでは、テロ集団を率いてた男が、逃げられたのに自ら捕まる。そうすることで彼の信奉者や極右の愛国者達が増えるからという理由で。すごい信念だ!そんなに青い目の先祖たちが作ってくれた歴史が大切で、守らなきゃいけないことなのか私には理解できないけれど、彼が歴史の先生なのもとても皮肉。バラバラ書いててごめん。

右派政党の選挙演説

内容以外のことでは、風景などの映像が綺麗って書いてた人がいたけど、私的には全然そう思わなかった。やっぱり地中海もの見慣れちゃうと、地味で悲しいばかり。イタリアやフランスの歴史中央地区や都市は、ほんと映像が魅力的だけど、そういうのは一切ない。ハリウッドと違ってモデルみたいな美人の女優さんも出てこない。そんな中圧倒的な存在感を発揮したのが賞を受賞した、根っからの暴力系右翼のテロリストを演じたアダム・ルンドゲレン。めちゃくちゃ似合ってて、本当はこの人優しい人だったらどーしよーと思う程ハマってた。国際的に有名になったアダムは小説「ヒトラーの息子」の映画「揺るぎない瞳」で主演やってる。元は「最大の怒り」ってタイトルだったのに「揺るぎない瞳」って和訳になってるのは彼の瞳のせいかな?「青い目」の前にはゲイ・コミュニティの社会派映画に出てる。見たいけど邦訳がないみたい。それだと全然分からん。スウェーデン語は時々英語っぽいだけだもん。

青い目の無表情がちょー印象的

彼の他は、貧困と恋人の暴力、母を殺された怒りで、勢いでテロリストになっちゃった姉を持つ弟役のデビッド・リンドストルム。見ていて彼を助けてあげてー!と誰もが思う、幼い子供を助ける優しい役柄。いかにも北欧の蛮族って感じの役もやってるけど、日本語では見られない。

優しい弟と怒りの姉とその子

ポスターの表紙にもなってる政府の人間エリンと彼女を取り巻く要人たちは誰もが裏があって、国家と党と個人の利益の間で駆け引きに必死。そこんとこがめちゃくちゃリアルで、実在の団体や政治家のことだと言われてクレームがついた。

揺るぎない瞳

最後に印象的だったこと二つ。一つはアラブ系の移民が「全ての人間の価値は平等か?」って問う場面。もう一個は、全くどうでも良いようなことなんだけど、お葬式の場面。弟は日本人と同じように正装してるのに姉は、まるで娼婦みたいな薄着(下着か?)って感じの服を着てること。イタリアに留学してた時、北欧の女性はよくノーブラだったり、すごい時はみんなの前で上半身裸になっちゃったりしてたのを思い出しました。文化の違いかなぁ?

弟役を演じたリンドストルム(右)

移民だって好きで移民なわけない。今みたいにあちこちで長々と戦争してればますます移民が増えて、多くの国で問題になるのは目に見えてる。監督は「ブリッジ」のゲーオソンだから間違いなし。機会があったら是非見てほしいドラマでした。

 

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