天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【海外ドラマ】マテーラの検察官インマ・タタランニ

語学は本当に大事。世界が国際化すればする程役に立つし、日本のことを知るにも国内の情報だけでなく世界ではどう報じられているのか知らないと、冷静に判断することはできない。英語は基本だけど、他にも知ってたら当然世界は広がる。ま、イタリア語はスペイン語と違って話者が限られるけど、美術や音楽、ファッションや料理好きなら是非知りたい言語。英語よりよっぽど楽に発音できるし、文法が整理されているので、私にとってはずっと入りやすかった。

洞窟教会から眺めたマテーラの街

とにかく単語を増やすのが絶対だけど、基本文法を身につけたら聞き取りも必要になる。私は単語CDの次はイタリアンロックから入って、映画やドラマで訓練してる。気楽にできて楽しいし、一石二鳥。ニュースを聞くっていうのは昔からある勉強法だけど、世界は不幸や災難に溢れていて毎日の日本のニュース(ニュースらしいニュースはないけど)と海外の報道を聞けばもう十分だから、私の場合は断然ドラマがいい。ということでイタリアのドラマを紹介します。

インマ・タタランニのDVD

一年中眉間に皺寄せて怒ってまくしたてる中年女性が主人公のインマ。本当はインマコラータって名前だけど、短くして呼ぶのはイタリアでも一般化してる。この名前は「純粋無垢な」っ意味だけど「聖母マリアの無原罪の御宿り」に関係した名前で、凄く南部イタリア的。正直いってぱっと見、全然美人でもないし魅力的に見えない主人公なんだけど、なんといってもマテーラ(世界遺産)という特殊な土地が興味を呼ぶな〜。マテーラには1回しか行ったことがないし、日帰りだったから次は是非数泊したいと凄く思いました。とにかくメチャクチャ印象的な風景と歴史背景を持った場所です。

Matera

ドラマを見出すとチェーザレ・ボッチっていう有名俳優が出てくる。イタリア好きなら誰でも知ってる「モンタルバーノ」(邦題は「シチリアの人情刑事」とんでもなくダサくない?)で相棒役をやってたミミが、こっちでは超悪役。共通するのは女狂い病ってとこ。元祖モンタルバーノ(若き日のモンタルバーノもある)のミミはまさにカサノヴァで、不道徳ではあっても全ての女性に優しいから見てて楽しいけど、「インマ・タタランニ」では女性に危害を加える極悪人。話は逸れるけど、この人「ローマの驚異」って番組の司会をしてて、いつも見てるのですっかりお馴染み。

白いスーツが似合うチェーザレ・ボッチ

ドラマに戻って、慣れてくると主人公のインマのとんでもファッションが気になり出す。これでもかっ!て位めちゃくちゃな合わせ方で、とにかく派手好き。うーん、親しみ感じるな〜。年齢気にせず、凄いヒールやミニスカートは当然、イタリアらしさ爆発の豹柄とかは得意技。ミラーノやローマの都会ではあり得ない(実際、マテーラでもあり得ない)下品な着方ってことになってる。お化粧も当然凄い。

インマの本は色々ある

書籍は何種類かあって、どれも彼女のファッションを意識した装丁になってる。私は彼女の着方や選ぶ服が好みではないけれど、でも人の顔色なんのそので、自分のやりたいことを通す姿勢の表れとして彼女のファッションがあって、そこんとこが大好きだし、多分このドラマのファンにはそういう人が沢山いるんじゃないかな。

シリーズの装丁も可愛い

彼女は子供の頃からガリ勉でみんなに敬遠されてた。他の子がデートしてる時も勉強して検察官になった。若い頃、みんなみたいに楽しまなかったっていうのが彼女を苦しめていて、最初のシーズンは事件の他に、彼女のそんな個人的な悩みがテーマになってる。思いっきり恋したことがなかったためか、息子みたいに若い警官相手に妄想してばかり。またこれが南部イタリアの純朴イイ男の代表みたいな人。最後は驚愕の展開に!

インマが密かに恋してる警官役のアレッシオ・ラピーチェ

ちょっと年下なら全然普通だけど、ここまでっていうのが流石ヨーロッパって感じでしょ。日本だったら絶対あり得ない展開じゃない?この辺はやり過ぎの感がなくもなかったけど、事件そのものや、シリーズ全体の構成はよくできていて、一話完結だけど全体が繋がっていて、前の事件が最終的に大きな事件に集約していく。

Sassi(砂)の街

舞台のバジリカータ州はイタリア全土の中でも特に貧困が進んだところで、マテーラはサッシ(砂って意味)っていう、洞窟をくり抜いて作られた前時代的な住居で有名だ。今では観光用に綺麗なホテルになってるところもあるけれど、かつては家畜(ロバ、牛、羊、鶏など)と一緒に洞穴住居で暮らす人々が大勢いた。これが不衛生で危険だからって強制退去させられたのは1950年代。当時はあまりの劣悪な環境で、乳幼児の死亡率は50%にも達したというから仕方ない面もあるけれど、一万五千人の人々が、慣れない環境に強制移住させられて、インマのお母さんの祖先も洞窟出身だ。

謎を呼ぶ不思議な光景は忘れ難い

マテーラは急勾配の土地で、高い所に町が作られている。だから街を巡ると周囲の低い場所に無数の穴が空いていて、とても不思議な光景が広がってる。街も一つの丘ってわけじゃなく凸凹した起伏があって、崖みたいなところをくり抜いて、中世から近世にかけてオスマン帝国に追われたセルビア人などいろんな人が逃げてきて住み着いた。

街の頂点に聳える十字架

中世美術愛好家の私には、中世のイコノクラスム(聖像破壊運動)から逃げてきたギリシャの修道士たちが暮らした洞窟聖堂と、そこに描かれた素朴で愛らしい、信仰心に溢れたフレスコが魅力を放っている。無数にあるので無理だったけれど、全ての洞窟聖堂を訪れたいと思いました。

お花に囲まれた聖母

信仰といえば、ドラマの中にイエス・キリストの映画撮影をしてる場面が出てくるのが、またイタリアらしい。海の上を歩くイエスの奇跡場面をめちゃくちゃアナクロ技術で撮影してて、キリストは転んで海に転落して爆笑される場面とか凄く楽しい。しかも女性に大人気のイエス役のイケメン俳優は女性に対する犯罪歴の持ち主。も〜。

まずいお寿司を食べるイエス

ヨーロッパのドラマでは歴史背景や土地の文化背景が問題になる、社会的要素が基本にある骨太ドラマが多い。「インマ・タタランニ」もそうで、女性の地位が特に低い南部イタリアで(と言っても日本よりはずっと高い)誰より優秀な、ド派手中年女性が活躍するコメディタッチながら社会派のドラマ。見てね💖

出てくるお屋敷もイタリアらしい

ジェンダー・ギャップ指数(GGI)2022年 | 内閣府男女共同参画局

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