天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【博物館】ピアチェンツァの肝臓とファルネーゼのお城

西欧史や美術史を読んでいるとよく見かける謎の物体。一昨年撮ってきたんだけれど、分厚いガラスケースに入っていたので私の腕とカメラではこれが精一杯でした。

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Fegato di Piacenza

巨大なファルネーゼ家のお屋敷は今は博物館となっていて、ボッティチェッリのトンド(円形の贈り物としてよく描かれた絵画)など、中世から近世にかけての絵画やフレスコを十分堪能した後で、打って変わって馬車コレクションが延々と続き、イタリアではつきものの考古学資料館が併設され、歩くだけで疲れる巨大な建造物の最後の最後に、全く特別な展示室があり、現代美術の部屋になるのかと思いきや、ルパン三世が盗みそうなガラスケースが部屋の真ん中にポツーン。中には燦然と輝くダイヤモンドの替わりにエトルリアの肝臓と呼ばれる青銅製の物体がある。

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Fegato di Piacenza

紀元前2世紀から1世紀末に作られ、占いに使われていたことは分かっている。キリスト教が普及して、異教的=非科学的=怪しい占いやおまじない、呪いの類が廃止されこの職業の人たちもいなくなった。よく見ると文字が書いてあって、何やら線が引かれて丸印も見える。肝臓は人間のではなくて羊の肝臓をモデルにしていて、ちょっとは一安心できる。

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Villa Giulia,Roma

ピアチェンツァの肝臓はこの類で最も有名なもので、こう言っていいのか分からないけれど、なんとなく美的で魅力的だ。実際にはもっと古いものがメソポタミアなどで排出されていて、世界の博物館にある。写真のはローマにあるテラコッタ製の紀元前4−3世紀製。

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英国

さらに古いものが大英博物館にある上の写真のものだけれど、なんか美的じゃないからか魅力を感じない。

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Fegato di Piacenza

そこいくとやっぱりピアチェンツァのはどこからみても、現代彫刻みたいな趣がある。これは裏から見たところ。エトルリア文字があちこちに書いてあるけれど、どうやって占っていたのかは文字資料が見つかっていなくて分からないらしい。もともと特別の臓器占い師が専門職としているんだから、秘密なのかもね。古代社会らしい!これも長年見たくてやっと数年前に拝めました。

 

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馬車など

馬車なども、見たことがないくらいたくさん揃ってる。有名人(王侯)が乗った赤ちゃん用の馬車とか、消防車とか特に車に興味のない私でもとても楽しめた。

 

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Botticelli

絵画部門の最大の売りはボッティチェッリのトンド(円形の額)。非常に丁寧に描かれていて、後期の作品に漂う悲壮感が見て取れる。プラートのところで紹介したフィリッピーノ・リッピの作風ととても近いのもよく分かる。親方(フィリッポ・リッピ)の弟子と息子である彼らはとても親しく、歳の近い親子か歳の離れた兄弟のようだった。私は勝手にボッティチェッリはフィリッピーノを愛していたと思っている。二人ともこれ以上なく成功した画家で社会的地位も高く、しかもイケメンだったのに結婚しないで子供も残さなかった。お父さんとなんという違いだろう!二人の画風には後期になればなるほど、悲壮で神経質な印象がつきまとう。もちろんフィレンツェという国自体の没落や社会不安が大きいけれど、個人的な悩みもあったことがボッティチェッリに関しては証言があるから。一般には「春」や「ビーナスの誕生」ばかり人気があり、あとは無視されがちだけれど(というかあとは堕落のように言われたりもする)私は、二人とも生涯を通じて大好きな画家です。

【修道院】カルトジオ会の世界で最も有名な観光修道院チェルトーザ・ディ・パヴィーア

修道院制度はプロテスタントにはありません。マルティン・ルターがヴィッテンベルクの門に95か条を打ち付けた(有名な伝説で歴史上は疑問が持たれている)のは、1517年で16世紀です。キリスト教はわざわざ言うまでもないけれど1世紀から存在します。私たちのカレンダーがキリストの誕生でできているのを、どれだけの人が考えたことがあるでしょうか?

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San Bruno

1世紀から存在するキリスト教は極めて早い時期から修道制度を持ちました。最初は砂漠に自ら修行へ行く、隠修士と言われる人々が尊敬を集めるようになり、だんだんと制度化されます。修道院制度についての本は結構日本語で読めるものもあるので興味のある人は是非読んでください。キリスト教の発祥は東方ですから当然修道院制度も東方で生まれました。西方修道制は後に確立され、その最初はベネディクト会です。

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certosa di Pavia

それが中世になりヨーロッパ中がキリスト教化されていく内に、修道士たちは隆盛を迎えます。様々な修道会ができました。乱暴に一言で説明すると、信徒たちと交わりミサを施したりお世話するのは神父様。人里離れ、世界の救済のために祈りを捧げ厳しい生活に身を捧げるのが修道士。と言うことで、本当はデブの修道士とかは居るはずがないのですが、大修道院に王侯貴族や庶民もお布施をしまくると、清貧のはずの修道会はお金持ちになってしまい堕落が始まります。するとその改革運動が起こり、より厳しい修道会が生まれる、と言うことの繰り返しで、中世最大の巨大修道院となったクリュニーや先のブログに書いた聖ベルナールのシトー会、アッシジのフランチェスコフランチェスコ会、大神学者を大勢輩出したドメニコ会、神の軍隊といわれ日本にもやってきたザビエルが属するイエズス会、近代のサレジオ会、クッキーやバター飴で有名なトラピストなどなど正直言って無数にあります。

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facciata

このパヴィーアにある今や大観光地の修道院は、最初の写真、ケルンの聖ブルーノによって作られた修道会で、チェルトーザとはイタリア語発音でカルトジオ会と言います。聖ブルーノは偉大な聖人ですが政治的な人ではなかったし(聖ベルナールはフランス王に絶大な影響を与えたし、聖人には時々かなり政治的な人もいます)イタリア人でもないし、とにかくあまり良い美術作品がありません。私が一番好きなのは、写真のヴァチカンは聖ピエトロ寺院の身廊にある大彫刻です。初めて見た時から、あの巨大バジリカに無数にある素晴らしい美術品の中でも特に好きな作品です。

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大いなる沈黙

カルトジオ会の特徴は2014年制作のドキュメンタリー映画「大いなる沈黙」にある通り、沈黙です。だから、どのカルトジオ会も非常に不便な場所にポツンとあります。なのにルネサンスの成り上がり大貴族のお墓のために作られたパヴィーアのものは、派手さこの上なく聖ブルーノの顔に泥を塗るようなものですが、それはアッシジでも同じこと。

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お墓

ミラノの君主イル・モーロのお墓のため。ところが彼はフランス軍に囚われて客死するので実際は空なんだけど。

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affresco

中のフレスコには、この聖堂を聖母子に捧げる人々の姿が。超ルネサンス的です。中世ではこんな事罰当たりって感じでしょうか。製作には数百人の建築関係者が関わっていますが、彼らの多くはミラノ司教座聖堂を作った人々で、ミラノでの失敗をここでは解消し、ゴシック的=中世的古臭い聖堂を、より明るくルネサンス的にしています。

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天井の家紋

この素晴らしい天井が至る所にあるのですが、真ん中のおどろおどろしい太陽みたいのはヴィスコンティ家の家紋です。

 

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ドームの解消

この柱、ドーム、屋根の仕組みはミラノ大聖堂と基本的には似ていてもずっと快適で光が入るように工夫されています。要するに聖堂というより宮廷的になっています。

 

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僧坊と中庭

カルトジオ会の修道士にとって最も多くの時間を過ごす僧坊と中庭です。かつては薬草園で、今も当時の薬草百科辞典のような写本お土産とか売っています。カルトジオ会は何事も一人で独力で行い会話しないのが基本なの、全員の小さな僧坊があります。ドローン写真をみてください。細かいのは僧坊なのです。

 

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affresco

いくら観光地とはいえ、本来の在り方や聖人の理想も尊重して訪問したいものです。


 

【博物館】プラートが誇る聖母の腹帯と国立フィリッピーノ・リッピ芸術院

ルネサンス好きの人には大人気の、不道徳な女狂いの修道士フィリッポ・リッピ。画家としては「彼によって初めて生きた女性が描かれた」と言わせるほどの素晴らしい画家。女性が可愛くて綺麗なんだけど、お爺さんも実に生々しく描いています。そんな彼の出身地がプラートです。最大のフレスコや初期作品、重要な祭壇画など沢山あります。

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Filippino Lippi

で、その彼が大美人修道女に産ませた子供がフィリッピーノ(本当はフィリッポだけど、父と区別するために小フィリッポという)で、彼もフィレンツェや宮廷で成功した画家となり、親子共々国葬されました。10歳にもならない頃から父の作品の手伝いをしていたようで絶大な影響を受けていますが、大人になるに従って父のおおらかさが失われ、繊細で神経質な息子の画風が現れます。忘れてならないのは親子の間には、かのボッティチェッリが存在すること。彼らの作品は、優美な線の美しさと華やかさで、フィレンツェのガチンコ風(ジオット、マザッチョ、ドナテッロ、ミケランジェロを思い描けばいい)とは全く異質のもの。

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Filippino Lippi

博物館ではフレスコの壁龕が再現されています。良い展示方法です。なぜなら聖堂のフレスコは、描かれた内容とそれが存在する場所との関連が非常に重要だから、一枚の絵のように切り離して展示すると元の意味が解らなくなってしまうのです。もちろん構図や色彩の配置、光の具合など全てが計算されていますから、理想は本来あった場所に当時のような環境で鑑賞できるのが良いんだけど、聖堂が壊されたり、痛みが激しかったりなかなか思うようにはいきません。

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Filippino Lippi

中央の聖母子を礼拝する聖人たち。フィリッピーノらしい、やたらスタイルの良い美形の男女に古代ローマの大理石意匠。アンドレア・デル・サルトの「ハルピュイアの聖母子」を思い出さずにはおれません。額縁から今にも飛び出しそうな聖女の立体感が素晴らしい。流石ルネサンスの申し子です。でもやっぱり一番嬉しいのは、かしずく聖女と殉教聖人の方に身を乗り出すようにした、アンニュイな幼子イエス。全体を見ると聖母子と聖人たちの関係が明確で、二次元の絵画とはいえ建築の一部であるフレスコ壁画の良さが際立ちます。聖母子の頭上で手を合わせて祈る天使たちも、やけにリアル。

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Filippino Lippi

そんな故郷の偉人を讃えるべく、プラートには息子フィリッピーノ・リッピの名を冠した国立総合美術学院(日本語の訳は私の訳)があります。私も美大だけれど、初めてイタリアへ行った時、子供時代からこんな環境で育ったらどんなに違っただろう!デザインセンスも、人間形成も、と思ったのを今でもよく覚えているし実感しています。

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2018年の儀式

ここでこのページ最初の作品を説明します。「聖母の腹帯の祭壇画」と言います。聖母の腹帯?これはプラートへ行ったことがある人なら誰でも知ってる(知らない人は文化芸術に無関心な人)有名なもの。何しろ司教座聖堂に、普通とは全然違って端っこに不思議な屋根付きのお立ち台があります。よく見れば判る通り素晴らしく手をかけています。それもそのはずルネサンス最大の、というか私的には美術史上最大の彫刻家ドナテッロの作品です。

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Donatello

聖母が天に召される時、昇天しながらはら〜っと哀れな私たちに残してくださったのが、神の子イエスを宿しているときにお腹に巻いていた帯。肌身離さず持っていたのかとか、1348年から行われる御開帳だけどそれ以前はどうなってたの?とかは言わない。87センチの長さで大聖堂博物館に、金の枠付きで保存されているその帯を、重要な時だけ、大聖堂から皆の衆に開示します。そのためだけに中世の大聖堂に、フィレンツェで超売れっ子のドナテッロを呼んで作らせたのがあのお立ち台でした。ページ最初の作品はそれを描いた祭壇画で、中北部イタリアを中心に結構、聖母の腹帯主題の作品があります。

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Cattedrale di Prato

ちなみに私のこのページのタイトル画像はフィリッピーノ・リッピの絵の一部です。「聖ベルナールに出現した聖母子」 という有名な作品はフレスコではなく巨大な絵画作品で、フィレンツェのバディーアにあります。バディーアは中世からルネサンスにかけて非常に重要な聖堂でした。今も街の大中心部に位置するのに、フィレンツェ好きの日本人がほとんど行かない場所です。なぜだろう?とても素晴らしい建物で、丘の上からフィレンツェを眺めるとバディーアの塔が司教座聖堂に次いで目立つのに。

【博物館】モンツァが誇る西欧一古い王冠はキリスト磔刑の釘から

北イタリアはミラノからすぐの街モンツァの司教座大聖堂には、ヨーロッパ最古と言われる王冠がある。

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鉄の王冠

日本語の説明は以下が詳しいかな。ウィキを読んでもらえれば、ずっと詳しいイタリア語や英語に比較すれば量的には少ないものの、多少の違いくらいだからお勧めできると思います。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%81%AE%E9%89%84%E7%8E%8B%E5%86%A0

 

この王冠は西洋美術史の本には必ず載っていて、聖遺物としても、歴史やまつわる伝説という意味でも、本当に貴重な物💗

イタリアに留学して間もない頃、初めてここを訪ねた時はまだイタリア語がそれほどできなかったし、歴史や美術史の知識も少なかったのですが、この王冠のことは当然知っていました。でも司教座聖堂にあるってことは分かってたけれど、なかなか見つからず、秘密の場所に隠してあったと知った時は驚かされ、益々印象に強く残りました。キリストが磔刑にされた時の釘が使われたのが真実かどうかは、問題ではありません。そういう理由で大勢の人々がこの王冠に関わったという歴史的事実や、社会のあり方が面白い。

 

それにしてもモンツァはミラノからあまりにも近いためか、逆にすっ飛ばされてしまって観光地ではありません。観光地嫌いの私には嬉しいのですが、小さな町の規模にしては、驚くほど立派な司教座聖堂です。塔なんか高過ぎて写真に撮れないくらいです。

 

イタリアらしからぬあまりにも整然とデザインされたファサードは、私がモンツァへ行くって決めたら途端に修復に入ってしまって(泣)、残念ながらまだ終わっていません。でも王宮もあるし、司教座博物館には美術史に燦然と輝く、初期中世のお宝が揃っているので、時間削減でき良かった、とか良いように考えるようにします。何しろモンツァは初日だけで時間を取っていないからね。

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7世紀の十字架

とにかく一番重要なのは大聖堂博物館。5〜6世紀の中世キリスト教世界で最古の素晴らしい美術品がここで見られます。

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7羽のひよこ

テオドリンダはバイエルン公の娘でランゴバルド王妃となり、アリウス派と戦って聖堂を建てまくった。世界で最も有名な洗礼堂の一つ、フィレンツェの洗礼もその一つ。モンツァ大聖堂も修復するのは当たり前だね。

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テオドリンダと鉄の王冠

聖堂内部、15世紀のフレスコには、一千年前のお姫様の物語が描かれてる。ひっさしぶりに楽しみだ〜💗

(写真は大聖堂博物館のサイトから)

【映画】世にも怪奇な物語

原題 Histoires extraordinaires

制作 1967年 イタリア・フランス

昨日は一日放送大学の青山昌文教授の「美学・芸術学研究」を読んでいたんだけど、笑ったり納得できなかったりしながらも、芸術とはなんだろうかと考えました。これは私のライフワークだから一年中考えてるけどさ。でそんなところへ休憩に映画を探してみたら芸術っぽいのが見つかったので鑑賞。さすが60年代!1970年代にかけてのこの辺りの映画は、今では考えられない類の面白さがあって好きな作品が沢山ある。っていうか、「すきっ」って簡単に言えないところが面白い。いいんだか悪いんだかわんないんだけど、ゲ・イ・ジュ・ツなんだろうな〜???みたいなのが目白押し。

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DVD

当時のポスターが物凄い迫力なのに対して、最近出たDVDは至極平凡でつまらない表紙。アラン・ドロンブリジット・バルドーの二大スターを持ってくるという芸のなさ。この映画は3部作のオムニバスで、二人は真ん中の作品に出てくる。3部作の2番目って、誰が考えても一番ダメってことじゃない?最初と最後は大事だし、最も印象に残るから良い作品を持ってくるのが普通で、確かに一番平凡な内容だし、主演のアラン・ドロンがそりゃーイイ男だけど他の人より演技が下手。

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日本版

ヲーッ!日本版もおどろおどろしい!今回は珍しく題名はほぼ原題どおり。BB(ブリジット・バルドー)って最大のスターだったのか、どこでも大きく扱われてるけど実際にはジェーン・フォンダの方が断然主演。ポルノかと思われるような思い切った、ある意味カッコいい衣装で大活躍するし、とっても綺麗。実弟ピーター・フォンダ演ずる伯爵に恋して狂っちゃう役。中世とSFが合体したみたいな1960年代チックな衣装は、いつも楽しい。それに壁にかかったゴブラン織りはパオロ・ウッチェッロの絵の3流作品って感じなのも興味深い。

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ポーの原作

独特な幻想ホラー画家フュスリの表紙の小説。もともとこれはホラーの生みの親エドガー・アラン・ポー江戸川乱歩の名前がここから来てるのは周知の事)の小説「黒馬の哭く館」「影を殺した男」「悪魔の首飾り」が元になっている。中学生の頃、学校の帰り道必ず図書館へ寄って毎日いろんな本を読んだ。そこでポーや乱歩も読んだんだけど、少年探偵団と違ってエログロ小説が多い乱歩は、気持ち悪いわ怖いわで夢に出てきて大嫌いになったのに反して、本家本元のアラン・ポーの作品は不思議な感じが強く、絵画や映画ではできない文字の力を痛感した。しっかり書いてあるのにそれがどんな場面なのか、必死に想像するのにできない。それは一体どんなものなのだろう?どうなっちゃったのか?怖い詩みたいだった。

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Fellini

そんな幻想的な映像では説明できないポーの作品を映画化すると、ああいう風になるのか、などと考えさせられた。個人的には第3部のフェッリーニ作品が一番興味深い。自分のお金で初めて行った映画館、その作品はフェッリーニの「81/2」だったし、彼の映像美と批判精神にテレンス・スタンプも熱演だった。

 

あの悪魔の化身の少女はダリオ・アルジェントの「サスペリア」が引き継ぐことになるんだね。B級ホラー帝国イタリアの誕生だ!

 

【本】最高の旅行ガイド

旅に行く前に絶対お勧めするのは、訪問地について何冊か本を読んでから行く事。海やサッカーには興味あるけど、歴史も文化も一切興味がないという人は私のサイトを読んでくれないだろうから、読んでくれている知的関心の高い人には絶対に絶対にお勧めします。言っておくけど、私はサッカーやラグビーが好きだしボクシングを愛してる。

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イタリアのガイドブック

でガイドブックも千差万別と言いたいところだけど、基本的に日本語で読めるガイドブックに質の高い本は無い。なんて残念なんだ!!日本で発売されているガイドブックはほとんどが旅行社的観点に立っていて、飲食店、お土産屋、アウトレットにほんのちょこっと博物館や聖堂などが載ってるだけ。あれじゃ書きようが無いとは思うけど、作品説明なんか役に立つんだろうかと思う内容だ。歴史知識ゼロの人にいきなり貴族の名前や、美術様式を説明してもどういう意味があるのだろうか。って事で、今度はいきなりイラストだらけの、おいしい、かわいいに終始した物に。

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Le guide Mondadori

比較して欧米のガイドはずっと内容がしっかりしてるものがある。ミシュランは地図が本当に正確で素晴らしい。何十年も前だけど地球の歩き方に、存在しない場所へ連れて行かれた経験のある私は、ミシュランロンリープラネット、ツーリングクラブなどのガイドにある地図の正確さに感激した。最終的に行き着いたのは写真にあるモンダドーリのガイドブック。紙が良すぎて重いのが難だけど、あとは最高です。

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日本へ来るイタリア人向け

勿論日本のガイドブックと同じで大まかな「イタリア」みたいなのもあるけれど、私の愛用は州別や街別。サルデーニャ、プーリア、トスカーナ、ロンバルディーアみたいに。ローマ、フィレンツェ、ナーポリなどの大都市(フィレンツェは文化的には間違いなく大都市)は街ごとにある。

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頁下方に歴史年表

モンダドーリの素晴らしいところは地図だけではありません。サマリー(総合説明)に歴史が続く。イタリアの場合多くの場所が古代から素晴らしい歴史を持っている。古代ローマどころか場所によっては鉄器時代とかから始まって現代まで何頁も続く。

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トスカーナ州の建築

流石なのは、それぞれの地方の建築の特色を紹介した頁。様式や年代、地方色など様々なことが最初に分かるので、素人でもその後に出てくる建築物の説明について行ける。

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サルデーニャ

建築だけでなく必ず自然の特色も説明される。気候や風土、そこに生息する動植物、典型的な風景から、最近の発見や研究結果まで。

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ルッカの歴史中央地区の中心

現実的に最も役立つのは、いわゆる地図の他に上のような、特に重要な地区を非常に正確に映したイラスト地図。一目瞭然で司教座聖堂や博物館、貴重な作品の位置が把握できる。

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ピサの奇跡の広場説明図

特に知名度が高い、もしくは貴重な物事に関しての図説は驚くほど正確で、それ自体が作品的に美しい。

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サルデーニャのロマネスク聖堂図説

ピサの斜塔フィレンツェ司教座、コロッセーオなどはどこにでも載ってるけれど、例えばこのサルデーニャのロマネスク聖堂などまず掲載されない。ここには無名の小さな聖堂がいくつも紹介されていて、この図説と解説を見て何が何でも行きたくてたまらなくなり、バスも無い場所へたどり着いた時の感動はひとしおだった。専門的な草分け的イタリア旅サイトhttp://www.japanitalytravel.com/ に掲載した時も編集長に最も感動してもらえたのはこのサルデーニャロマネスク記事だった。http://www.japanitalytravel.com/arte_romanica/top.html

その時の記事、綺麗だから見てみて!

 

勿論、食や伝統工芸、四季の重要イベントなど皆解説がある。私のはイタリア語版だけれど、英語版は簡単に手に入るし、かなり難しいしめっちゃ高いけど日本語版もあるにはある。ぜひネットで探してみて。le guide mondadori 

【美術】メスキータ

http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201906_mesquita.html

東京ステーション・ギャラリーへ「メスキータ展」を観に行ってきた。

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展覧会チラシ

私がメスキータを知ったのは何十年も昔の話で、当時日本ではほぼ全く知られていなかった。彼を知ったきっかけは明確に覚えていて、エッシャーの画集を読んでいるときにメスキータの作品が掲載されていたが、その画集に載っている全ての作品の中で最もインパクトがあったのが、エッシャーではなく、メスキータのたった一枚の素描だったことだ。非常に簡単なシンプルな線描きの二人の人物は、心に突き刺さった。後にキリスト教絵画を勉強しイタリアへ留学してからは、その作品は「御訪問」というマリアとエリザベツに見立てた二人なのでは無いかと思った。

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噂話をする人々

メスキータは家族共々ナチに抹殺されたというのも、初めてこの作品を観た時にエッシャーの本の中で知った。その思い出の作品があることを期待していったけれど、それは残念ながら無かった。今改めて観てみると、ポーランドユダヤ人であるが故に、惨殺される運命にあった彼らが、置かれている社会を表していると思う。彼の作品は版画が中心だが、発表することを気にしないで自由に描かれたと思われる線描きの小品が沢山残っている。私が彼を知ったのも、そういったもののうちの一枚で、これが最も印象的で謎と深い悲しみに満ちた部分だ。

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動物シリーズの梟

明快な生きた線が際立つ、モノクロの版画は、どれも彼のデザインセンスの良さを物語っていて、動物シリーズや植物など壁にかかっていると非常にオシャレだ。あり得ないかっこよさの雑誌表紙なども素晴らしい。

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先取りパンク

本当に何十年も気になっていた、悲劇の才能ある画家の作品がこんなに沢山観られたことに感激している。ステーションギャラリーは東京駅の改築工事を巧みに利用して作られていて、会場の雰囲気もさることながら、点数も多く、質の高い展覧会に是非多くの人に足を運んで欲しいと思う。彼らのように、全く罪なくして殺される人が大量に出るのが戦争なのだから、選挙が迫った今、あらゆる暴力に反対する意志を強く持つべきだと思う。京都のアニメーションスタジオの悲劇にこれだけショックを受ける私たちは、本質的に平和主義だと思うし、政党もそうあって欲しい。

 

【旅】2019年ロンバルディーアの旅


ロンバルディーア、特にミラノには知人が沢山いる。

知り合って長い芸術家のジョヴァンニ(自分の過去は日本だったと信じて疑わない画家 http://www.giovannizoda.com/ 彼の作品が沢山載ってるから、興味がある人は是非みて)、東京で案内したミカエラと家族や友人他。みんな働いている上、私の旅ががっちり計画されていて、なかなか会えない。今回もミカエラはずっと前から大パーティを計画してくれてたのに、仕事でイタリアにいないことが判明しちゃった。

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Giovanni Zoda

で、19日はフランチェスコの御宅でご馳走になることになりました。ミラノのRho周辺です。駅はDe Angeli(天使)だったりBuonarroti(ミケランジェロの苗字)だったりとほんとイタリアだ!私の住所、味もそっけもない、無味乾燥な新町とは大違い。とは言ってもRho(ロー)はいわゆる観光のイタリアとは全く違った場所で、国際的な展示会場など備えた近代都市。

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Rho

アレルギーやどんなビール、白、赤、ピンク・・がいいかとか細かく聞いてきたので、参加者は私に伝えてください。

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イタリア産ビール

イタリアのビールは、私の留学時代には飲めたものではなかったけど、今ではずっと美味しくなって種類も沢山あります。初期には日本のビールが一杯あったけど、今はどのくらい売れてるんだろうか?日本にはおじさんの絵で有名なモレッティがよく入ってる。

 

とにかく先発組の最終日、楽しそうでしょ?期待してね🍝

 

海外ドラマ好き、と言ったって欧米だけど

ドラマも好みが分かれるけど、私はほとんど欧米系海外ドラマ専門。

疲れた時の気晴らしなんだけど、それでもただ見るのには罪悪感がどこかあって、英語やラテン系の言語だと勉強になるという理由ができる。正直言って北欧物とか全く何言ってんだかわかんないんだけど、たま〜に「おーこれは〜〜と同じだ」とか思ったりする。あとは音楽的な理解には繋がる。

 

印象的だったのは「Bohemian Rhapsody」でいきなり有名になったけど、ラミ・マレック主演の「ミスター・ロボット」。

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ミスター・ロボット

かなり行けてた。革新的な部分が色々とあって、話の展開も期待させるものだったけど、社会批判精神と最新技術への関心などが面白かったし、特に主演のラミ(レミ?)の演技がカッコよかった。

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ユートピア

最新技術と科学に社会批判精神プラス芸術表現が揃ってるのが私の趣味で、そう言う点ではイギリスの「ユートピア」はめっちゃ面白かった。二つとも近未来小説風で、ミスター・ロボットはITと情報操作が焦点だし、ユートピアは人口問題がテーマ。直接的には無関係だけど、イギリスのユートピアはかのトマス・モアの作品を思い出さずにはをれない。有名なウルトラ個性派俳優(真っ黄色のスーツにリーゼントヘア)も出てたけど、無名の主人公らの静かな熱演が光ったし、画面や音楽がポップで、話の過激さや残酷さとの対比が印象的だった。

 

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ポーズ

今一番新シーズンを日本で放映してくれるのを待ってるのが「ポーズ」。これは近未来ものじゃなくて1980年台のゲイカルチャーが舞台。様々なマイノリティー問題、特に性的マイノリティーにテーマを絞ってる。とにかく衣装が凄い。見ないとキワドイゲテモノみたいに思う人もいると思うけど、様々な理由で社会的弱者として生きる人たちの内容は凄くまともで、むしろ健全とさえ言える。家もない程貧しいのに、ピッカピカ、キッラキラの衣装に命をかけてる価値観など、想像もつかない。お願い、早くシーズン2放送してください!

 

 

 

【旅】2019年ロンバルディーアの旅

やっと放送大学の面接授業(スクーリング)と首都大の新講座というウルトラ忙しい時期が過ぎたので、旅の計画詳細をまた書き始めます。

 

ロンバルディーアの旅では毎年一緒に旅してくれてた仲間が急に行けなくなったんだけど、交代要員がすぐ見つかりホッと一息。Mさんには本当に残念。飛行機代もパーになっちゃってすごく可哀想。日本の働き方にいつも疑問を持っている私(彼女は仕事の都合で行けなくなった)。一つ返事で参加してくれることになったTさんに感謝します。

まず宿泊場所だけ再確認。

 

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colazione

9月10日(火)Milano 到着。空港からMonzaへ。

11(水)Paviaへ2泊

13(金)Piacenzaへ2泊

15(日)Bobbio 泊

16(月)Vigevanoへ2泊

18(水)Milanoへ2泊

20日に三人が帰国し、入れ替わりで後発のグループが到着。

 

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Domus San Martino

ここで以前紹介したピアチェンツァの宿が変更になりました。ずっとグレードアップできました。よかった〜。本当は歴史中央地区のど真ん中へ泊まりたかったんだけど、どうしてもシングルベッドばかり揃えるのが叶わなくて、駅近の経済的な宿を一応取っておきました。今回の旅の中で一番イマイチな感じの宿だったんだけど、中央のずっと評判の良い、綺麗なとこに変更できた。ネットでの連絡もチャットみたいに速攻でできたし決定!

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Piacenza

ピアチェンツァは中世一色って言えるような中央の市庁舎広場を中心に、好みの聖堂が目白押しの場所だから、やっぱり街のど真ん中へ泊まって、歩き回りたかった。楽しみにしてーっ💒

 

国立でイタリア料理と文化交流パーティ

昨日、国立市トスカーナ州ルッカ市と姉妹都市提携する(書面作業など残ってるみたい)ためのイベントがありました。名前は堅く「第8回ルッカを知る研究会」です。私も過去に二回お話しさせていただきました。今回は初めてルッカ人料理のマエストロを招いてのイベントでした。

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ルッカを知る研究会

最初に講演会があったのですが正直言ってこれは仕切り方がダメでした。市の人もっと頑張りましょう。みんな一生懸命なのは知っていますが、意見を交わさない日本人の悪い点が出て、マエストロにお任せの2時間はキツかった。スローフードのあり方についての話を、質疑応答を入れて1時間で切り上げるべきでした。彼の主張は「とにかく地産地消」「季節物に拘る」「大量生産でなく小規模経営で質を高める」特にgiusto(正義)という言葉を使われたのが印象的です。ブラック企業とは反対に、労働者に正当に支払い搾取しないというフェア・トレードの考え、社会的教養の底上げ、など共感できるものでした。

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前菜色々の一部

6時半からはリストランテ文流での立食パーティ。これは大成功でした。有名店でも、たいして美味しくないことはよくありますが、完全に美味しかった!私の知り合いは大勢いたのですが全員感動してくれました。マリネが人気でしたが、私はズッキーニや珍しい豪華なラザーニェが特によかった。

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メニュー

でも良かったのは味だけではなく、雰囲気、日本では稀な立食パーティーの成功にあります。私が、初めてイタリアへ行った時に最も感動したのは、年齢や職種などを無関係に人々が友人関係を結んでいる点です。おじいさんと子供が親戚でもないのに友達のように話していたり、友達のお母さんと一緒に出かけたりと、東京郊外の住宅地で暮らす私には、全く未知の人間関係でした。イタリアでは街にもよりますが、基本的に非常に気軽に見知らぬ人と話します。バスを待っている時、長距離列車の中、お店やレストラン、道でも・・。これは言葉も関係ありますが、やはり社会全体の価値観の問題でしょう。日本とは正反対に、心が開かれています。大阪の人は反対するかもしれません。流石、日本のイタリアを自負する人々(大阪)で、彼らは東京人よりずっと気軽に会話します。が、大いに違うのは、イタリア人と違って社会性のある内容は話さない。

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リストランテ文流 国立

決まった人とだけ固まっているのはパーティでは最悪の態度。様々な人と交流することで世界が広がり知識も深まる。国立文流は、立地もヨーロッパの中庭形式みたいで、木も生えて、雰囲気最高です。日本にイタリアを紹介した大御所の西村先生はじめ、気さくな国立市長や、明るいマエストロ、ジャンルーカさんを中心に大勢のイタリア(特にトスカーナ)好きが楽しんだ夕べでした。

 

【サイト】読書メーター

https://bookmeter.com

私は上記サイトを利用しています。

 

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読書メーター

本をよく読む人や買う人は管理が必要になってきます。カテゴリー分けや、以前読んだ本の内容の詳細を思い出したい時には大変役立ちます。始まった当初より、かなり使いやすくなったし、勉強する人には有効だと思うのでぜひ使ってみてください。

 

私の頁の一部を貼り付けました。ネットは常にそうだけど、他の人を意識して書く人と、それほど意識せずに自分の記憶のために書く人といて、私の場合、この読書メーターには自分の読後感を記すのを1番に考えています。

 

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本棚

「歴史」「思想」「美術」「小説」など、自分でカテゴリー分けできる本棚はお気に入りです。そのほかには「読んだ本」「読んでる本」「読みたい本」などに気になる本を登録しておいて、時間ができたときに読めるのも利点です。「積読本」ってのがいまいち上手く使えてないけど。

 

最近は私のお願いが通ったのか、外国語文献も調べられるようになりました。アマゾンと提携してるみたい。みんな、本を読もう!

 

 

【イタリア語】イタリアらしい面白さでどんどん読める

イタリア語を教えさせていただき、優に百人以上の人と接して来ました。特に初期の頃は色々と迷惑をかけました。自分の実力もそうですが、事務的な問題などでご迷惑をかけてしまいました。そういった方々も含めた全ての人のお陰で続けて来られました。感謝します💞基本は個人教授なので、つくづく勉強法も人それぞれだと思うのですが、本気でできるようになろうと思えば多読が必須です。なので読本の紹介です。

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有名作家書シリーズ

Easy Readers は世界のイタリア語書店用に作られました。イタリアの実力派作家の作品ばかりを要約した内容で、600〜2500単語で4段階にレベル分けされています。私は英語勉強の時にこういった実力別読本を読むのが非常に効果的だと感じました。ただ、単語数は限られるし確かに、文章もそれほど長くないのですが、文法的に、特に描かれる内容が高度なので決して初心者向きではありません。写真はダーチャ・マライーニですが、ボッカッチョ(デカメロンから)、ダリオ・フォー(ノーベル賞受賞者で大人気の現代作家)、ギンズブルグ、カルヴィーノ、コッローディ(ピノキオ)、シローネ、S.タマーロ、ブッツァーティ、カミレッリ(日本ではシチリアの人情刑事モンタルバーノとして知られる、ヨーロッパで大人気の本格刑事ドラマ)、モラヴィアなど

 

これとは別に古典文学のダイジェスト版も他のシリーズが幾つかあります。

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とにかくデザインがかっこいい

この本はあまりにデザインがかっこいいので思わず買ってしまったもので、装丁といいイラストといい、一般の教科書からは想像もできない目に楽しい本です。SFという内容も珍しく、最後に明かされる実はフィレンツェの街だと、分かる人にしか分からない書き方(欧米にはよくあるほのめかし表現)も日本的ではなく中級者向け。

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キリスト教を知りながらイタリア語勉強

私は語学好きではありません。細かい規則や、特殊な決まり文句を覚えることに楽しみを見出せません。正直いってしまえば、内容が知りたいので仕方なくイタリア語も勉強したのです。イタリア、美術、歴史、思想などによっぽど興味があるのです。時々生徒さんに英語の得意な人がいます。駐在や留学の経験者です。強く印象に残っているのは、トイフルなど有名検定試験のほとんどを満点という語学愛が極まった銀行員のこと。彼はこう言いました。海外にはパーティなどが多く、言葉に問題はないのに全く会話ができない。話していることの内容について行けず、答えることも興味を持ってもらえそうなことも話せない。駐在経験者の多くが似た経験をしています。欧米の管理職以上の人は、知識階級出身者が多く、音楽、文学、美術(政治、経済、歴史は当然)に関する基本知識が身についています。欧米の階層社会を認めるわけでは決してありませんが、現実は認識するべきです。そのためにも西洋文化の基礎知識がつく読本がお勧めです。このキリスト教書店で売っている「イエスの偉大なお友だち」シリーズは、イタリアの幼稚園児向け絵本だと思うのですが、日本人学習者には十分難しい内容です。たった1.9ユーロですからイタリアへ行く度に買って、生徒さんと読んでいます。

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文字しかないけど一番面白い

これは私が一番好きなシリーズで、表紙以外文字だけという、一般的には全く人気の出なさそうなものですが、内容は独創的で実に面白く、ウィットと皮肉、社会批判精神と言葉への愛に満ちたものです。フィレンツェの出版社にはなかなか良い内容のものがあり、流石です。これは上で紹介したものに比較し、頑張って勉強してきた人には十分読める程度ですからぜひ挑戦してほしいです。ペルージャのマンモーネ(マザコン)の話から読んだらどうでしょう。Claudio Manellaで検索すれば見つかると思います。

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入門者にお勧め

最後にこれが圧倒的にお勧めのシリーズです。Alma Edizioni の Italiano Facile シリーズは絶対簡単です。五百単語でほぼ直接法現在しかないレベルから2500単語(会話に必要な最低単語数)で一応全ての文法が出揃う5段階。日本のアマゾンでも少しはヒットします。旅行前の会話を望む人以外、私の全ての生徒さんはこのシリーズを読んでいます。

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イタリア語購読本色々

まだまだ一杯ありますし簡単には入手できないと思いますが、洋書店、海外のアマゾンなどを使ったり、イタリア語関連施設などを当たってみてください。紹介した本以外にもたくさんあるので、何年も勉強してるのにできるようにならないという人は、兎に角単語が足りない、基本文法が身についていないのが最大の要因だから、本を読むこと。近道は無いので根性決めましょう!

 

上野には国立国会図書館国際子ども図書館があり、そこも大変使えます。

https://www.kodomo.go.jp/

 

 

日傘作ちゃった:ストレス解消法

このところいつもの首都大OUやカルチャーセンターに加え放送大学の面接授業(スクーリングで集中講座)が詰まってて、仕事ストレス(マック=ファーストフードでなくコンピューターね。で資料作りが膨大で、肩、首、目が死にそう。)だったところ、駅ビルに手芸屋さんが入ってて日傘キットを売ってるのを目撃🤗

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ミケランジェロと日傘

気晴らしに作ってみたくなった。お絵描きを始め子供の頃から、何でも作るのが好きだったから美大時代は作りまくったんだけど、働くようになって時間が無くなって、最近は腱鞘炎で手術したりして、もう創作活動はできないかと思ったりもした。手の腱鞘炎は術後あっという間に良くなって、もともと極弱の握力はさらに弱くなったけどホント久しぶりに挑戦したら、1日で完成!

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作ってみた

日傘キットは2〜4千円位で何種類かあった。買った方が安いものもあるし、軽くて便利なものもあるけど、デザインに拘る人には既製品は楽しくない。生地を自由にできるから世界で一つの傘が作れるし、何と言っても個性が出せる。最初はアフリカの迫力生地にしようと思ったけど、生地ストックをひっくり返したら美大時代に買ったリヴァティプリントが出てきた。レトロな柄がお気に入りでブラウスとスカートを作ったんだけど意外に洗濯に弱いのが判明し、使わなかったのをアイロンかけまくりで再生!綿ローンのとても軽い生地って事もアフリカに勝った大きな理由。

なので手芸店の会員価格と古布で総額二千円でできた。自画自賛ですが、何倍も高く見えると思うな💖

 

簡単にできるからお勧め!

【映画】レジェンダリー(日本における言語と文化の問題)

邦題:レジェンダリー

原題:Pilgrimage

製作:2017年 アイルランド

 

例によって今頃って感じですが、書くまでに時間を要するときと、すぐ書ける時がある。旅もそうだけど、リアルタイムの印象、直後の印象、時間を経ての印象には明らかに違いがあり、ある意味でそれぞれに意味があると思っています。

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日本語付き

常に書いていますが、まずこのポスター、日本の文化程度を表すような紹介の仕方が最悪です。というか日本で解説文を書いたりしている人自体が、どこまで分かっているか疑問な場合が多いから仕方ないのかもしれないけれど、私は仕方ないで終わらせたく無い人なので。「スパイダーマン」と「ホームカミング」どちらも子供向けの映画です。私もバットマンが好きだったから「ゴッサム」観てたけど、社会派や芸術的な地味な映画も観るし、というか大人になってからは断然そういうものを見ている。個人の自由だろというかもしれない。勿論他人に押し付ける権利など無いのは当たり前ですが、いつまでも子供の頃の思い出や、単純な内容のものばかり追っていては成長でき無いし、それどころか脳も肉体同様衰えるから、どんどんバカになる。人間たる所以は、文化的な生き物であるということです。感情や欲望の赴くまま生きていたら動物と大差ない。

 

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海外版ポスターの一つ

この映画は日本ではファミリー向け映画の俳優(トム・ホランド)が出演する剣闘もの(ソードアクション)として紹介されましたが、アクションものを求めて映画館へ行った人は裏切られた気になると思う。主演のトム・ホランドは全く戦わないし・・。確かに西洋版のポスターでも戦いのイメージですが主題はキリスト教であり、それが画像のど真ん中の十字架に端的に表されています。

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ベルギーのポスター

この映画はアイルランドを中心に様々な国の協力でできていますが、主要国ベルギー版ポスターが全く違うのを見てください。日本だったらお客来ないだろうねーって感じですが、ベルギーのセンスの良さを痛感します。流石西欧北方で一番最初にルネサンス文化が花開いた国です。この繊細さは日本のポスターの対極にあるでしょう。

 

また題名問題を話しますが、本来の題名は「巡礼行」という意味で、アイルランドの僻地から教皇のいるローマへ聖遺物を運ぶというもの。映画や小説など物語の最初の場面は最後の場面に劣らず重要です。そのファーストシーンは、キリストの弟子マティアが石打ちの刑で殉教する場面です。

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石打ちの石の聖遺物

この聖遺物を巡って、三つ巴ならぬ其々の思惑が絡み、死者が続出する。死を感じ急に信心深くなった長老、権力と金目当ての残虐な兵士、信仰心と迷信が染み込んだ修道士たち、教皇のためならなんでもする狂信的なシトー会士。僻地の修道士に育てられた若い主人公が生き残るのは、唯一彼が何物にも囚われていなかったから。お金、権力、狂信、迷信などに。第二の主人公である元十字軍兵士の助修士(めっちゃ強い!一人で格闘)は暴力が必要悪かどうかという問題を表象してる。

 

この映画は、本当に日本人向けでないこと甚だしく、これを配給した人に感謝します。

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ブレンダンとケルズの秘密


アイルランド・アニメの「ブレンダンとケルズの秘密」は欧米では様々な賞を受賞した映画で、アニメを滅多に見ない私も大好きな映画です。歴史背景、アイルランド伝説、アイルランド特有のケルト文化をしっかり考証した上で素晴らしい映像に仕上げたものですが、日本では「わかんない者のことは無視かよ」みたいな書き込みがされました。これこそ日本の問題だとその時感じました。営業では5歳児にわかるように話せというそうだし、ニュースもばかばかしいほど内容が無い。一億総白痴化とは1950年代に流行語となった言葉ですが、70年後の今それが完結しようとしている恐るべき事態。文化も年齢も社会背景も異なる誰でもが分かるものしか作ってはならないのか?分からないことこそ、未来なのだと考えるべきだ。分からないことをわかろうと努めることが知識になり、世界観が広がり、ひいては社会平和への最大の源となる。

 

「巡礼行」の監督は名をブレンダンといい、アイルランド人でしかない名前で、そういう意味ではアイルランドのルーツを表現した映画と見ることもできる。しかし英語、アイルランド語、フランス語、ラテン語が飛び交う中世西欧という世界を感じることもできます。翻訳は常に問題ですが、様々な言葉の違いを字幕では感じられない上、日本にもともと馴染みのないことだらけの内容を翻訳するのは極めて困難で、言葉の点でもこの映画はハードルが高かったと思います。

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白い聖衣がシトー会士

個人的には多少中途半端な印象を持ちました。もっと本格的に描きたいことに絞ればよかったのに、客受けを考えて戦闘場面が多過ぎた。暴力と死と信仰の関係を描きたいのだとは思うけれど・・。も一つ、俳優では他の人より有名では無いシトー会士を演じたヴェベールが迫真の演技だった。結局英語圏の人じゃ無いと中々有名になれない。有名かどうかが行き過ぎて価値を決める現在の問題でもあるね。

 

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