天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【博物館】ピアチェンツァの肝臓とファルネーゼのお城

西欧史や美術史を読んでいるとよく見かける謎の物体。一昨年撮ってきたんだけれど、分厚いガラスケースに入っていたので私の腕とカメラではこれが精一杯でした。

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Fegato di Piacenza

巨大なファルネーゼ家のお屋敷は今は博物館となっていて、ボッティチェッリのトンド(円形の贈り物としてよく描かれた絵画)など、中世から近世にかけての絵画やフレスコを十分堪能した後で、打って変わって馬車コレクションが延々と続き、イタリアではつきものの考古学資料館が併設され、歩くだけで疲れる巨大な建造物の最後の最後に、全く特別な展示室があり、現代美術の部屋になるのかと思いきや、ルパン三世が盗みそうなガラスケースが部屋の真ん中にポツーン。中には燦然と輝くダイヤモンドの替わりにエトルリアの肝臓と呼ばれる青銅製の物体がある。

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Fegato di Piacenza

紀元前2世紀から1世紀末に作られ、占いに使われていたことは分かっている。キリスト教が普及して、異教的=非科学的=怪しい占いやおまじない、呪いの類が廃止されこの職業の人たちもいなくなった。よく見ると文字が書いてあって、何やら線が引かれて丸印も見える。肝臓は人間のではなくて羊の肝臓をモデルにしていて、ちょっとは一安心できる。

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Villa Giulia,Roma

ピアチェンツァの肝臓はこの類で最も有名なもので、こう言っていいのか分からないけれど、なんとなく美的で魅力的だ。実際にはもっと古いものがメソポタミアなどで排出されていて、世界の博物館にある。写真のはローマにあるテラコッタ製の紀元前4−3世紀製。

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英国

さらに古いものが大英博物館にある上の写真のものだけれど、なんか美的じゃないからか魅力を感じない。

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Fegato di Piacenza

そこいくとやっぱりピアチェンツァのはどこからみても、現代彫刻みたいな趣がある。これは裏から見たところ。エトルリア文字があちこちに書いてあるけれど、どうやって占っていたのかは文字資料が見つかっていなくて分からないらしい。もともと特別の臓器占い師が専門職としているんだから、秘密なのかもね。古代社会らしい!これも長年見たくてやっと数年前に拝めました。

 

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馬車など

馬車なども、見たことがないくらいたくさん揃ってる。有名人(王侯)が乗った赤ちゃん用の馬車とか、消防車とか特に車に興味のない私でもとても楽しめた。

 

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Botticelli

絵画部門の最大の売りはボッティチェッリのトンド(円形の額)。非常に丁寧に描かれていて、後期の作品に漂う悲壮感が見て取れる。プラートのところで紹介したフィリッピーノ・リッピの作風ととても近いのもよく分かる。親方(フィリッポ・リッピ)の弟子と息子である彼らはとても親しく、歳の近い親子か歳の離れた兄弟のようだった。私は勝手にボッティチェッリはフィリッピーノを愛していたと思っている。二人ともこれ以上なく成功した画家で社会的地位も高く、しかもイケメンだったのに結婚しないで子供も残さなかった。お父さんとなんという違いだろう!二人の画風には後期になればなるほど、悲壮で神経質な印象がつきまとう。もちろんフィレンツェという国自体の没落や社会不安が大きいけれど、個人的な悩みもあったことがボッティチェッリに関しては証言があるから。一般には「春」や「ビーナスの誕生」ばかり人気があり、あとは無視されがちだけれど(というかあとは堕落のように言われたりもする)私は、二人とも生涯を通じて大好きな画家です。

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