天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【美術】メスキータ

http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201906_mesquita.html

東京ステーション・ギャラリーへ「メスキータ展」を観に行ってきた。

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展覧会チラシ

私がメスキータを知ったのは何十年も昔の話で、当時日本ではほぼ全く知られていなかった。彼を知ったきっかけは明確に覚えていて、エッシャーの画集を読んでいるときにメスキータの作品が掲載されていたが、その画集に載っている全ての作品の中で最もインパクトがあったのが、エッシャーではなく、メスキータのたった一枚の素描だったことだ。非常に簡単なシンプルな線描きの二人の人物は、心に突き刺さった。後にキリスト教絵画を勉強しイタリアへ留学してからは、その作品は「御訪問」というマリアとエリザベツに見立てた二人なのでは無いかと思った。

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噂話をする人々

メスキータは家族共々ナチに抹殺されたというのも、初めてこの作品を観た時にエッシャーの本の中で知った。その思い出の作品があることを期待していったけれど、それは残念ながら無かった。今改めて観てみると、ポーランドユダヤ人であるが故に、惨殺される運命にあった彼らが、置かれている社会を表していると思う。彼の作品は版画が中心だが、発表することを気にしないで自由に描かれたと思われる線描きの小品が沢山残っている。私が彼を知ったのも、そういったもののうちの一枚で、これが最も印象的で謎と深い悲しみに満ちた部分だ。

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動物シリーズの梟

明快な生きた線が際立つ、モノクロの版画は、どれも彼のデザインセンスの良さを物語っていて、動物シリーズや植物など壁にかかっていると非常にオシャレだ。あり得ないかっこよさの雑誌表紙なども素晴らしい。

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先取りパンク

本当に何十年も気になっていた、悲劇の才能ある画家の作品がこんなに沢山観られたことに感激している。ステーションギャラリーは東京駅の改築工事を巧みに利用して作られていて、会場の雰囲気もさることながら、点数も多く、質の高い展覧会に是非多くの人に足を運んで欲しいと思う。彼らのように、全く罪なくして殺される人が大量に出るのが戦争なのだから、選挙が迫った今、あらゆる暴力に反対する意志を強く持つべきだと思う。京都のアニメーションスタジオの悲劇にこれだけショックを受ける私たちは、本質的に平和主義だと思うし、政党もそうあって欲しい。

 

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