天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【修道院】カルトジオ会の世界で最も有名な観光修道院チェルトーザ・ディ・パヴィーア

修道院制度はプロテスタントにはありません。マルティン・ルターがヴィッテンベルクの門に95か条を打ち付けた(有名な伝説で歴史上は疑問が持たれている)のは、1517年で16世紀です。キリスト教はわざわざ言うまでもないけれど1世紀から存在します。私たちのカレンダーがキリストの誕生でできているのを、どれだけの人が考えたことがあるでしょうか?

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San Bruno

1世紀から存在するキリスト教は極めて早い時期から修道制度を持ちました。最初は砂漠に自ら修行へ行く、隠修士と言われる人々が尊敬を集めるようになり、だんだんと制度化されます。修道院制度についての本は結構日本語で読めるものもあるので興味のある人は是非読んでください。キリスト教の発祥は東方ですから当然修道院制度も東方で生まれました。西方修道制は後に確立され、その最初はベネディクト会です。

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certosa di Pavia

それが中世になりヨーロッパ中がキリスト教化されていく内に、修道士たちは隆盛を迎えます。様々な修道会ができました。乱暴に一言で説明すると、信徒たちと交わりミサを施したりお世話するのは神父様。人里離れ、世界の救済のために祈りを捧げ厳しい生活に身を捧げるのが修道士。と言うことで、本当はデブの修道士とかは居るはずがないのですが、大修道院に王侯貴族や庶民もお布施をしまくると、清貧のはずの修道会はお金持ちになってしまい堕落が始まります。するとその改革運動が起こり、より厳しい修道会が生まれる、と言うことの繰り返しで、中世最大の巨大修道院となったクリュニーや先のブログに書いた聖ベルナールのシトー会、アッシジのフランチェスコフランチェスコ会、大神学者を大勢輩出したドメニコ会、神の軍隊といわれ日本にもやってきたザビエルが属するイエズス会、近代のサレジオ会、クッキーやバター飴で有名なトラピストなどなど正直言って無数にあります。

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facciata

このパヴィーアにある今や大観光地の修道院は、最初の写真、ケルンの聖ブルーノによって作られた修道会で、チェルトーザとはイタリア語発音でカルトジオ会と言います。聖ブルーノは偉大な聖人ですが政治的な人ではなかったし(聖ベルナールはフランス王に絶大な影響を与えたし、聖人には時々かなり政治的な人もいます)イタリア人でもないし、とにかくあまり良い美術作品がありません。私が一番好きなのは、写真のヴァチカンは聖ピエトロ寺院の身廊にある大彫刻です。初めて見た時から、あの巨大バジリカに無数にある素晴らしい美術品の中でも特に好きな作品です。

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大いなる沈黙

カルトジオ会の特徴は2014年制作のドキュメンタリー映画「大いなる沈黙」にある通り、沈黙です。だから、どのカルトジオ会も非常に不便な場所にポツンとあります。なのにルネサンスの成り上がり大貴族のお墓のために作られたパヴィーアのものは、派手さこの上なく聖ブルーノの顔に泥を塗るようなものですが、それはアッシジでも同じこと。

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お墓

ミラノの君主イル・モーロのお墓のため。ところが彼はフランス軍に囚われて客死するので実際は空なんだけど。

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affresco

中のフレスコには、この聖堂を聖母子に捧げる人々の姿が。超ルネサンス的です。中世ではこんな事罰当たりって感じでしょうか。製作には数百人の建築関係者が関わっていますが、彼らの多くはミラノ司教座聖堂を作った人々で、ミラノでの失敗をここでは解消し、ゴシック的=中世的古臭い聖堂を、より明るくルネサンス的にしています。

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天井の家紋

この素晴らしい天井が至る所にあるのですが、真ん中のおどろおどろしい太陽みたいのはヴィスコンティ家の家紋です。

 

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ドームの解消

この柱、ドーム、屋根の仕組みはミラノ大聖堂と基本的には似ていてもずっと快適で光が入るように工夫されています。要するに聖堂というより宮廷的になっています。

 

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僧坊と中庭

カルトジオ会の修道士にとって最も多くの時間を過ごす僧坊と中庭です。かつては薬草園で、今も当時の薬草百科辞典のような写本お土産とか売っています。カルトジオ会は何事も一人で独力で行い会話しないのが基本なの、全員の小さな僧坊があります。ドローン写真をみてください。細かいのは僧坊なのです。

 

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affresco

いくら観光地とはいえ、本来の在り方や聖人の理想も尊重して訪問したいものです。


 

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