天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【ゲーム】古代、ルネサンス、バロックのイタリア館から脱出

私の記事を読んで、ローマでバロック美術が嫌になるくらい見てみたくなりました。というありがたいメッセージをいただいたので、ローマを堪能するゲームです。昨日は単純なジグソー・パズルだったけど、今日はずっと複雑な脱出もの。以下のサイトでどうぞ。かなり楽しめる!

http://www.wowescape.com/play/italy-palazzo-escape/9083

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場所がなんと言っても素晴らしい

私は残念なことにというかゲーマーです。携帯で暇つぶしのゲームは絶対やらないと決めてるけど、海外のエスケープ(脱出)ものが大好き。とにかく早撃ち、みたいなゲームは子供に勝てるわけないし、基本的に頭を使うのが好きなので謎解きものが好み。海外ではpoint'n'clickともよく言うけど、めちゃくちゃクリックすればいいわけじゃないし、次にどんな展開になるかが楽しみでもある。

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イタリア屋敷ってやっぱりこういうイメージなんだ

今日紹介したこの脱出は、ほんとに画面が素敵💖 イタリアらしい!と言うかローマらしさ満点!ヴァチカンにある名だたる古代彫刻が次々に現れるかと思うと、扉の向こうはフィレンツェのど真ん中、メディチ家のお屋敷の回廊に出る、と言う具合。

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かの有名なミケランジェロの大彫刻も

出ましたミケランジェロのジュリアーノ・デ・メディチ「夜」と「日」!ここへ来る前には、ローマの発掘作業で見つかった、美術科の学生なら絶対知ってる、トルソー中最も有名なヴァチカンのトルソーがあります。って感じで、美術やルネサンス、イタリア好きにはたまらない脱出ゲームです。難易度は、脱出をやったことがない人には多分、難しいかも。脱出好きには、一箇所考えるって程度だから物足りないけど、ゲームの難しさより画面の内容が圧倒的に素敵。やってみて!

 

(注)フラッシュがオフになってるとできないし、携帯の初期設定ではできないみたい。携帯では目が疲れすぎちゃうと思うし、大きい画面でお願いします。私、完璧にコンピューター派で携帯は必要最低限しか使わないので、気づくの遅れてすいません。

【ゲーム】イタリア風光明媚パズル

都立大学オープンユニヴァーシティ(OU)の秋講座も中止になったと、一昨日連絡がありました。予想していたとはいえ、ほんとに残念です。中高もディズニーランドもクラブもやってるのにどうして大学だけだめなんだ?!というのが問題になっています。学生なんて選挙の役に立たないから、気を使わなくったって大丈夫っていうことだろうと思うと、日本の政治程度の低さにうんざりします。OUはまだしも普通の大学生は授業料安くしろって思うのは当然だし、18〜22才頃なんてほんとに勉強できる時なのに、人生の大損失だと思う。運不運はどうにもしようがないけれど、やっぱりコロナ時代にすでに引退してる人は運が良かった。神様、どうか世界をお救いください。と言いたくなります。

愚痴ばっかり言ってても仕方ないから、暇つぶしに多少は知識をつけながら楽しもうということで、イタリア名所ジグソーパズルです。

https://www.skywardgames.com/game/italy_jigsaw_puzzle

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コロッセーオから始まる

出来上がると写真は綺麗だし、意外にこんな形だったっけとか思いながら、建築物が確認できます。旅気分でやってみて。

 

コロッセーオがトップなのは分かるけど、次は全然イタリアらしくないボルツァーノ風の北部ドイツ語圏へ行って、ひなびたヴェネツィアの次は、『ローマの休日』の庶民的ローマ地区、次は生徒さん達を何度か連れて行った、あまりにも素晴らしいピサ(でも斜塔が曲がってないね。この角度はダメじゃない?)、これまた何度でも行きたいヴァチカンはサン・ピエトロの上から、って感じで続くよ。

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クリアして行くとこんな場所へ

やっぱりローマの写真が多いし、断然綺麗。チンクエテッレが有名なリグーリアの海岸沿いの断崖にはカラフルなお家が張り付いてる。トスカーナの丘陵地隊の甘美は有名だからか、建物が何も無いのには驚きました。

 

みんなを連れて行きたいよー!!!もうできれば一週間とかじゃ無く、もっとゆっくりとね💖

 

 

 

【美術・歴史・イタリア語】ルッカ司教座聖堂聖マルティーノの歴史・YouTube

Come state?(皆さまお元気でしょうか)

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Cattedrale di San Martino a Lucca

私のイタリア語や西洋美術史の生徒さんたちを幾度となく連れて行ったイタリアはトスカーナ州ルッカ司教座聖堂の動画です。「ルッカ司教座博物館考古学機構」の制作で正直言って、内容はいつも真面目でいいのですが写真や編集など素人くさいです。でもそこがまたウケと見栄えしか頭にない馬鹿者ユーチューバーとは違っていい感じ❣️訪問した時を思い出して観てください💖

簡単に歴史を語っています。非常に教科書的な聞きやすいイタリア語ですから勉強している人は聞いてみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=MCkghENcgJs

いつまたみんなを連れて行けるんだろう。

毎年行っていたのが嘘のようです。

【美術】グッズで知る美術家:国立近代美術館Tシャツ

イタリアへ行く時の最大の目標は聖堂なんだけれど、もちろん美術館博物館もそれに劣らず楽しみにしていて、必ずできる限り時間をとります。で必ず何かしらそこのものを入手。お土産コーナーがある場合はいいけれど、無い時はパンフレットとかなんでも。写真は当然。 イタリアの歴史中央地区は壮大な由緒ある建造物で作られているので、博物館や美術館も多くはそういった建造物を利用しています。今日はローマ国立近代美術館で買ったお土産から。

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Galleria Nazionale dell'Arte Moderna, Roma

ローマと言えば世界に冠たる古代ローマの栄光と教皇庁バロック美術が圧倒的。特に美術に関心のない人は「ローマの休日」初め映画の撮影場所を訪れたり、郊外のサッカー場へ行ったり。だからモダンアート(近代美術)館なんて、写真のように立派な建物なのにいつ行ってもガラガラです。広大なボルゲーゼ公園の中にあって丘から見下ろせる広々とした良いとこなんだけどサ。

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国立近代美術館Tシャツ

普通Tシャツって部分印刷だけどこれはウルトラ全面印刷。作品ではなく美術家の名前がグニョ〜っと、ジンクホワイト(青みがかった真っ白)ではなくアイボリー(自然に黄味がかった象牙色)に彩度の低い(渋い)色で表されています。文字の大小は多分作家の知名度、重要度なんだと思う。当時は体重が40キロそこそこだったからブッカブッカにも関わらずこれを選んだ理由、それは文字の大きさから、思っていた美術家の評価がかなり違ったから。イタリアではこういう風に考えられているのかと思い印象深かった。

美術家を完全に私の好みで一言紹介します。絵の下には名前、生年、誕生地が記されていて、作品の制作年代ではありません。

 

●最大級の扱いは未来派を代表するバッラ素朴派に転向したカッラー

Giacomo Balla

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ジャコモ バッラ 1871 Torino

思い切りが良くシャープで時に笑える、これぞイタリア人のバッラ。授業でも紹介するほど好きです。

Carlo Carra`

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カルロ カッラー 1881 Quarniento, Piemonte

この「ローマの松」というシリーズは、カルロが未来派形而上派を経験し素朴派に落ち着いた初期の作品で私も大好きです。これを観たくてアオスタの展覧会へ行きました。

 

●次に大きい文字

Lucio Fontana

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ルーチョ フォンターナ 1899 (Argentin)Valese

美術とは何か、絵画とは何か?という現代美術の疑問を考えさせる作家の内、最も美しい色彩と形状を実現させる。「美」が感性そのものであることを実感させてくれるフォンターナ。💖

Umberto Boccioni

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ウンベルト ボッチョーニ 1882 Reggio Calabria

東京は九段のイタリア文化会館入り口にはこの作品のシルエットが。アーティゾンと改名した元ブリジストン美術館にはこの小品があります。私は彼の絵の方が好きですが。

 

●大きい文字

Giorgio Morandi

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ジョルジョ モランディ 1890 Bologna

日本では美術史の岡田温司先生が愛し、利益を度外視して何冊も本を出しています。私は、観ると寂しくてたまらなくなるので、逃げいています。

Giorgio De Chirico

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ジョルジョ デ キリコ 1888 ギリシャ

キリコは世界的にかなり有名です。形而上学を立ち上げ、カッラーなど世界で多くの芸術家に影響を与えましたが、結局彼ほど面白い作品を作った人はいないし、自分でもそれを超えられず、晩年は若い頃の作品の焼き直しを作りました。どこか懐かしく、物語性があって子供の頃ハマり、模写もしました。

Emilio Vedova

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エミリオ ヴェドヴァ 1919 Venezia

アクションペインティングって苦手

 Filippo De Pisis

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 フィリッポ デ ピシス 1896 Ferrara

父もこんな絵を描いてた。昭和初期の油絵って感じ。
Giulio Turcato

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ジュリオ トゥルカート 1912 Mantova

晩年のマチスとは違うけど、デザイン的で明るくて結構好き。

Ettore Colla

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エットーレ コッラ 1896 Parma

未来派のカッコ良さ。すっきりした抽象彫刻。
Marcel Duchanp

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マルセル デュシャン 1887 フランス

現代美術がめちゃくちゃになった張本人というか革命家というか。トイレを置き直しただけのこの作品を知らない人は、間違いなく美術史の本を読んだことがない。

Antoni Tapies

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アントニ タピエス 1923 スペイン、バルセロナ

タピエスも現代美術の大スターだったけど、私には分からない。

Jackson Pollock

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ジャクソン ポロック 1912 アメリカ、ワイオミング

アクションペインティングを大流行させた人。嫌い。

Jannis Kounellis

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ヤニス クネリス 1936 ギリシャ

インスタレーション美大時代に結構やりました。イタリアのアルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)運動の延長上にある。彼の作品は、空間全体(インスタレーション)なんだけど、全体的には汚れたような煤けたような地味な色彩で構成されるのに、統一感があり美しい。「醜の美」という考え方を好む人とは感覚が合わない私だけれど、彼はコンテンポラリー・アート、コンセプチュアル・アートを美術だと感じせせてくれる、非常に数少ない巨匠だと思う。素材の質感と空間の扱い方がかっこいいギリシャ人。

 

●中くらいの文字の人たち

Arturo Martini

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アルトゥーロ マルティーニ 1889 Treviso

神話や宗教を感じさせる内容で、素朴な雰囲気を保ちつつすごくプロっぽい仕事。

Carla Accardi

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カルラ アッカルディ 1924 Trapani

このTシャツで唯一の女性画家。女性の得意分野であるテキスタイル系の仕事が綺麗。

Marino Marini

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マリーノ マリーニ 1901 Pistoia

ひたすら元気いっぱいの馬と少年で大成功した。フィレンツェには彼の美術館もある。

Alighiero Boetti

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アリギエーロ ボエッティ 1940 Torino

日常的な素材で制作するアルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)運動は1970年代に始まる。彼はそのメンバーでコンセプチュアルアートの思想家。エコ(環境問題)活動が一般化した現在、アルテ・ポーヴェラは世界中の若い美術家にも影響を与えていて、中には日本人もいる。コンセプチュアルアートは文字通り、「コンセプト」が優先され「造形」が後回しになる場合が多く、そうなると私には美術とは思えない。美術と感じさせる作品もあるが、彼の場合はデザインに近い。
Telemaco Signorini

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テレマコ シニョリーニ 1835 Firenze

絵も描けない美術家が多い中、画家らしい画家。イタリアの日常生活を穏やかに美しく切り取るのが得意。こんな絵が飾れたらどんなに良いかという絵がたくさんある。

Francesco Hayez

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フランチェスコ アイエツ 1791 Venezia

絵筆を手に生まれてきたような人。「接吻」はあまりにも有名。

Tommaso Minardi

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トンマーゾ ミナルディ 1787 Faenza

下手くそなラッファエッロかと思うような宗教画や古代に取材したロマン派の画家。

Pietro Tenerani

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ピエトロ テネラーニ 1789 Carrara

カノーヴァが代表する「冷たいエロス」風な新古典主義の彫刻家。神話のプシュケーはかなり知られている。大理石の産地カッラーラならでは。

Giovanni Segantini

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ジョヴァンニ セガンティーニ 1858 Trentino AltoAdige

雄大な自然の中に暮らす民衆を威厳を持って描く画家。上野の西洋美術館も所蔵している。本来は私の好みではないんだけれど、有無を言わせぬ力強さがあっていつも見惚れてしまう。この遠くにゴシック聖堂の見える絵は、ガリラヤ湖に浮かぶ聖家族(庶民の父母と幼児イエス)に羊飼いを連想させる。

Giuseppe Pellizza Da Volpedo

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ジュゼッペ・P. ダ・ヴォルペード 1868 Piemonte Volpedo

歴史上の社会運動をリアルタイムで捉えたこの大作は、非常に心に残りました。平等を求める労働者たちの権利を素直に描き出しています。点描法のような練られた技法が、画面に静かな熱意をもたらしているように感じました。

Giovanni Dupre

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ジョヴァンニ ドゥプレ 1817 Siena

古代神話やキリスト教の主題、お墓のモニュメントなど。ウッフィーツィ美術館の英雄の回廊にあるジオットと聖アントニーノは彼の作品。カノーヴァ以後「冷たいエロス」が大流行し、その延長線上にあると思われます。カノーヴァの作品をよりリアルにした感があって、リアルな分エロティックな印象が強まります。特に彼は古代ローマで流行ったエンデュミオンが気に入ったらしく眠る彫刻が得意。エンデュミオンは永遠の若さと引き換えに永遠の眠りにつくのだけど、それって生きてる意味あんの?なんて考える凡人と違い、美術家は理想の美を見出したんでしょうね。彼の場合、眠ってるのは美青年か美少年で、女性は起きてる場合が多い。上の作品は好きかと言われればどう答えて良いかわからないけれど、結構印象的な作品で初めて見たときはかなり気になりました。

 

●小さい文字

Antonio Canova

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アントニオ・カノーヴァ 1757 Possagno Treviso

虫じゃなく道具のノミを手に生まれてきた人。「冷たいエロス」の大巨匠。新古典主義ロマン派の頂点を極めたような彫刻を朝から晩まで一年中彫りに彫った。立地も考えた理想の美術館を作った。

Medardo Rosso

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メダルド ロッソ 1858 Torino

ユダヤ人の子供、病気の子供、不安そうな子供、笑う老人など。溶けそうだったり、透けて見えるようだったり、上手過ぎて怖い、才能ある彫刻家。

Piero Dorazio

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ピエロ ドラーツィオ 1927 Roma

純粋に色彩構成する美術家。深くないけどいつも綺麗で洗練されている。

Silvestro Lega

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シルベストロ レーガ 1826 Modigliana, EmiliaRomagna

パリで印象派が活動している頃イタリアではマッキアイオーリ(染み派)という運動が起こっていました。光と色に対する考え方は似通っています。はっきり言いますが、印象派の方が革命的ですがマッキアイオーリの方がずっと上手いのです。セザンヌゴッホルノワールもみ〜んな酷いデッサン力ですが強い個性を持っています。イタリアの画家たちは、美術の王道を歩み続けてきた歴史の束縛からなかなか自由になれませんでした。レーガは間違いなく良い画家です。地味ですが。庶民というより中産階級の生活を描いたり、ガリバルディやマッツィーニのようなイタリア建国運動の英雄たちを描いているので、イタリア関連を勉強していれば目にする画家です。

Andrea Appiani

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アンドレア アッピアーニ 1754 Milano

ルネサンスの頃を懐かしむような新古典主義の画家。フレスコの大画面を描ける点で技術は確かなんだろうけれど、さっぱり面白くない。ナポレオンを何枚も描いています。 

Giovanni Fattori

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ジョヴァンニ ファットーリ 1825 Livorno

イタリアの近代画家中マッキアイオーリを代表する大画家として知られ、故郷リヴォルノには彼の美術館がある。いつになるか分からないけどコロナ開けの旅でぜひ行ってみたい。ファットーリは教育もない質素な家庭で育ったが歴史小説が大好きで、イタリア建国運動に参加した。必死に親に止められたし、素晴らしい画才があったので兵士の道を捨てたけれど、軍隊生活の主題は多い。生き生きとした力強い歴史画が得意で、飛ぶように走る筆は、激しい動きも白壁にあたる光の輝きも逃さない。

Filippo Palizzi

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フィリッポ パリッツィ 1818 Abruzzo,Vasto

可愛い家畜や朴訥な少年少女、質素ながら明るい女性など健全そのもののような絵を描いた。九人兄弟で三人が画家。パリ万博の「ノアの方舟」は評判となりウィーン万博では審査員をし、イタリア統一運動ではナポリバリケードに参加(革命軍)し、父が法律家であったことからも分かるように筆も立ち、イタリア美術の推進に力を入れた。
Francesco Podesti

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フランチェスコ ポデスティ 1830 Ancona

バチカンの「無原罪の御宿り」の間は彼のフレスコ で覆われている。マリアの絶対的な聖性を称えた大フレスコ を託された、間違いのない画家。甘美であり同時に真面目な職人画家。新古典主義って必ずそれなりに仕上がるけれど面白くない。

Stefano Ussi

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ステーファノ ウッシ 1822 Firenze

フィレンツェの美術の血筋は残っていた。アイエツと共通する生まれながらの才能と歴史を主題とした作品群に、ロマン派の特徴であるエキゾチック趣味(東方とは言っても日本ではなく中近東への憧れ)が感じられる。この絵は「サヴォナローラの火刑の執行」部分。

Giuseppe De Nittis

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ジュゼッペ デ ニッティス 1846 Barletta

ずっと上手でデッサンがしっかりしてるけどイタリアのルノワールブルジョワ(貴族ではないけれど貧民ではない)の少年と女性の楽しげな日常。

Giovanni Boldini

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ジョヴァンニ ボルディーニ 1842 Ferrara

表現主義的な激しいタッチで、退廃的な女性やタキシードの男などを描く。ロートレックが大衆的になったみたいなところもある。嫌い。

Paolo Troubetzkoy

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パオロ・ペトロヴィッチ・トベツコイ 1866 Piemonte、Verbania

どうも裸でサッカーをしているようです。アイルランドの作家バーナード・ショウが絶賛した彫刻家はロシアの王子様で、イタリア人に師事しました。王族らしく騎馬像が好きだったようです。私はほとんど作品を見たことがないか、覚えていないかです。

Vincent van Gogh

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フィンセント ファン ホッホ 1853 オランダ

泣く子も黙るゴッホが小さい文字で印刷されています。
Claude Monet

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クロード モネ 1840 パリ

日本人が大々大好きモネも小さな扱い。

 

●Tシャツの袖に小さく

Jean Fautrier

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ジャン フォートリエ 1898 パリ

磔刑」はフォートリエにしてはとってもまともな作品で、ほとんどが抽象なんだけど、どこかしら生物っぽくて気持ち悪い作品が多いです。すごく怖いっ。

Paul Cezanne

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ポール セザンヌ 1839 プロヴァンス

印象派の革命児。いつものように不安定な林檎。父はセザンヌが大好きで褒め言葉を聞いて育ったのだけれど、良さが分かるようになったのはず〜っとず〜っと後だった。確かに彼の絵は、他の印象派の作品とずいぶん趣が違う。自然に描写しているようで非常に抽象的なの。全くおもねった感じがしないのも芸術家らしい。

Amedeo Modigliani

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アメデオ モディリアーニ 1884 Livorno

映画「モンパルナスの灯」が作られる程、美男子で女性を不幸にしたダメ人間で、悲惨な生涯を送ったモディリアーニは、死後世界中で人気を博し、日本でも緩いS字にくねった細長い、瞳の無い肖像画のファンは多い。中高生の時は好きでした。悲しい。

Renato Guttuso

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レナート グットゥーゾ 1911 Bagheria

中南米系のどぎつい色彩でパワフル。美術史上重要な作品のパロディなどもあって、カッラッチの「豆を食う人」ならぬ「パスタを食う男」(自画像だと思う)などある。

Cy Twombly

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サイ トゥオンブリー 1928 アメリカ、バージニア

イタリアで死んだアメリカ人画家。この人にしてはこの絵は真面目な方。

Enrico Prampolini

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エンリーコ プランポリーニ 1894 Modena

好き!イタリア未来派万歳って感じの画家で、グチャグチャ、めちゃくちゃに線を引いたり、絵具を飛ばしたりせずに、いつもきちんと描いているとこが好き。白黒写真のインスタレーションもかっこいい。

Alberto Burri

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アルベルト ブッリ 1915 Citta di Castello

焦げたり、溶けたり、ヒビ割れたり、破けたり。イタリア前衛美術の大巨匠。

Henry Moore

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ヘンリー・ムーア 1898 イギリス

このヘルメット・シリーズは好き。現代彫刻の大家だから日本にも作品はある。

Domenico Induno

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ドメニコ インドゥーノ 1815 Milano

なんでイタリアの画家ってこんなに上手いんだろう、って思わせてくれる画家。ミラノのブレラ美術館ではアイエツの有名な「接吻」の隣に並んでいるので霞んでしまうけれど、彼に負けずに才能がある。重厚で確かなデッサン力と色彩、空間を捉えた素晴らしい構図、それにプラスして物語性がある。素晴らしい。

Gustave Courbet

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ギュスタフ クールベ 1819 フランス

このみんなが真似したくてたまらなくなる自画像を描いたクールベは、真面目で地味なインドゥーノと正反対に目立ちたがりで不道徳だろうが真実を描き出そうとした。よく言えば大変勇気があり、悪く言えば品性下劣。動物や自然の絵は迫力があるし、規則に縛られず湧き上がってきた情念を描き出す芸術家という、現代の芸術家感にぴったりの人。

Fortunato Depero

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フォルトヴナート デペーロ 1892 Trentino

ラブ💖 大好き!彼のポスターほどかっこいいものは滅多に無い。曲がりなりにもデザイナーをしていた過去がある者にとって、こんな仕事ができたらどんなに良いだろうと思うような人。芸術家っていうより洗練された都会的な質の高い商業デザイナーで、カンパリなど今も彼のデザインした商品が出回っている。この作品はあの世への橋渡しカロンかな?

Gioacchino Toma

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ジョアッキーノ トーマ 1836 Lecce

伝統的なイタリア人画家らしい才能と技。この絵はよく見れば一目瞭然で時代が分かる。「小さな愛国主義者たち」はイタリア統一運動の最中、遊びに余念がない。

Gaetano Previati

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ガエターノ プレヴィアーティ 1852 Ferrara

イタリアには珍しい象徴主義の画家。淡い色彩で、天使のようなものが浮かんでいたりする絵が有名。たまに上の絵のような風景もあって私はそっちの方が好き。

 Gustav Klimt

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グスタフ クリムト 1862 オーストリア、ウィーン

官能的な女性がいきなり平面的で豪華な東洋風の模様と入り混ざる、というタイプの作品が人気のクリムトだけど、人のいない絵も結構描いていて、それも良い。部屋に飾るならむしろ花畑とか謎の金模様とかの方が落ち着ける。

Mario Sironi

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マリオ シローニ 1885 Sassari

シローニは非常に様式を変える人で、形而上風だったり未来派風だったり、素朴派かと思うと新古典様式もできるので代表作を挙げるのは難しい。射殺場面を描いた上の絵はイラストレイターとしても活躍したから。彫刻もするしデザイナーでもあった。私は素朴派が好きなので好きな作品もあります。

Domenico Morelli

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ドメニコ モレッリ 1826 Napoli

ドメニコ・モレッリは私の愛する画家です。何しろローマの巨大な国立近代美術館の全作品中、これが圧倒的に心に残りました。純粋な信仰など想像もつかなくなってしまった現代では、彼のような画家は絶対に出ないでしょう。キリストや砂漠の修道士を描かせたら並ぶ者はなく、人物のいない景色でさえも感動的なのです。情熱と繊細が同時に存在するような作風です。人生は養子として始めた彼ですが、ナポリの大美術館カポディモンテの作品を管理し、アカデミーの校長になり、1886年には国王に上院議員に任命され、騎士団の勲章を得た大成功の人生を才能で切り開いた人でした。ナポリの王宮が修復されたらモレッリの天井を拝みに行きます。

 

●Tシャツの後ろ襟首に一回だけ登場するのが次の二人

Mimmo Rotella

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ミンモ ロテッラ 1918 Catanzaro

1950年代アメリカのポスターとバスキア風のペイントのコラージュ。上の作品は珍しいけどイタリア人らしいので。

Vincenzo Gemito

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ヴィンチェンツォ ジェミト 1852 Napoli

確実なデッサン力に裏打ちされた実力者。小型ブロンズの胸像が多い。魚釣りをする少年や、時に神話的、時に宗教的な主題がいかにもナポリらしい。ナポリに行く度に、ゆっくり作品を見ています。アカデミックな美術教育は受けていなかったらしい。彼の作品は、美術では才能が一番物をいう証拠ですね。

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Giseppe Segantini

一枚のTシャツに57人の美術家の名がありました。

Carra`:イタリア人

De Chirico:イタリア系だけど外国生まれなど

Moore:外国人

何人知ってた?

デ・キリコデュシャンゴッホセザンヌモディリアーニクリムト、モネ・・イタリア人はモディリアーニだけ。近世以前だったら圧倒的にイタリア人なのにね。

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Giacomo Balla 引きつった顔の自画像

全員を知っている人がいたらウルトラ・スーパー美術に詳しい人。半分知っててもかなり詳しい人です。私が初めてここを訪れた20才頃、名前も聞いたことがなかった美術家は半分以上いました。今でもほとんど印象の無い人もいます。日本の近代美術館だって外国人にとっては同じことだと思うけれど、ただ残念なことに日本人より上手い人が多いし、大作も多いと思います。ある意味では2千年に及ぶ美術の歴史のあるイタリアと、西洋絵画で勝負すること自体とんでもないハンディがあるけどね。イタリア人が墨絵や浮世絵を描いたらどうなるかってことかな。ルネサンスや中世の絵じゃないと好きじゃないっていうのは間違ってる、っていうか美術が好きじゃない人。美術が好きなら「様式」や「時代」は関係無い。どんな時代にも美しい素晴らしい作品はあるのだから。ただ時代は影響するので、大美術家を多く排出する時代は確かにあるとは思う。

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Depero お疲れ様、一杯いかが?

ここまで読んでくれてありがとう。万一気になる作品があったら、是非ネットで名前をアルファベットで打ち込んで画像検索してみてください。大きい画面でよく見れば、もっと魅力的だから❣️ 

 

【イタリア語】バカにできないイタリア語サイトと読本

語学学習の絶対基本

①とにかく毎日触れること

②楽してできるようになることは絶対ない

👉何冊入門書を買っても決してできるようにはならない

👉辞書と講読本(これはできるだけたくさん)は必須

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San Michele in Foro a Lucca

日本でこれをやってる人はなかなか居ない。「何年もやっているのに全然できなくて恥ずかしい」という人は絶対これをやっていないと思う。私も語学が好きじゃなかったから(今でも好きとは言えない。美術や歴史、思想を知るために仕方なく読んでいる感は否めない。)分かるけど、楽してできるようになりたいので何頁もあるテキストをどうしても敬遠してしまう。単純な内容の会話なら、パターンで暗記すればできるようになるし、音楽的才能があればいわゆるペラペラに聞こえる。それでも本が読めないという人を何人も知っている。ま、それでも生きては行ける。私は今でも「中世の巡礼街道」とか「17世期の公衆衛生」とか「異端と民衆運動」(っていうかここで書いても仕方ないような専門的な論文を普通読んでる)だったら分厚い本が何冊も読めるのに、内容に興味が持てなかったり、全く知らなかったりすると全然読めないから、語学のエキスパートでは全くない。でも最低限の会話ができるようになると、旅先でもネットを通じても一気に世界が広がるのですごく楽しい💖 だからそういう初心者に自力学習の補助として以下を紹介します。

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Italiano Facile レベル1 Dov'e` Yukio

私のイタリア語の生徒さんたちに最初に読んでもらうのがこの本。小さい本で文字は大きく短い。Dov'e' Yukio?「ユキオは何処へ」です。頻度の高い日常単語500と直接法現在+命令法。というと難しく感じるかもしれないけれど、やってみれば、短い文章ばかりだし、大体タイトルからして日本が出てくるしどんどん読める。動詞の基本変化を覚えたと思ったら、是非読んで。同じ単語が何度も繰り返し出てくるので自然に覚えられる。

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Italiano Facile レベル5 Dolce Vita

Dolce Vita(甘い生活)はこのシリーズの最高レベル5で2500単語、全ての文法を勉強した人向け。と言ってもこのシリーズは全体に簡単なので、私の生徒さんたちも何人も読んだもの。ソフィア・ローレン好きには最悪か面白いかどっちか。今日紹介した二冊は両方ともローマが舞台。ローマに行ったことがあれば、なおさら興味深いのは当然です。アマゾンで「洋書:italiano facile」と検索してください。絶対お勧め。

 

https://www.digitaldialects.com/Italian/Colour_audio.htm

次はネットで楽しく単語覚え。

児童向け英語サイトなので一緒に英語も覚えられる。

上にあげたのはイタリア語の色を覚えるサイト。

このサイトがよくできてるところは、連続して単語を覚える練習にもなること。

サイトをクリックしたらBegin Game をクリック

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様々な色が4色出てくるので、正解の色をクリック

最初は Blu と言ったら青をクリック、この練習が終わると

Giallo, Viola と2色連続に、さらに3色連続となっていくから、それなりに読めても聞き取りの苦手に人にお勧め。やってみて

 

【イタリア語】楽しい勉強サイトや読本:継続は力也

私は普段、オープンユニヴァーシティで「西洋美術」や「イタリア史」の講座を持っているのですが、他にイタリア語の個人や少人数グループの授業もしています。ところがコロナのおかげで多くの人が授業を中断しています。カルチャーセンターはもう再開されていますが、大学や遠い人とのイタリア語は止まったままです。ずっと続けられている人とはラインヴィデオやアップルのFaceTimeなどを利用して、ヴィデオ授業をしています。

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歴史建造物に映像を投影し巡礼の歴史を辿る。イタリア語解説。Lucca

語学で最も大切なことは継続する事。止めると本当に力が落ちますし、初めて間もないと何も知らない人と変わらなくなってしまいます。せっかく始めたのだから、もったいないので是非続けましょう。一番は「多読」。たくさん読まないでできるようになったという人は、全然分からない人を騙しているか、旅行会話ができるくらいのレベルに違いありません。天才というような人たちだって、多読しています。彼らは楽にどんどん読める人たちなのです。

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Italiano Facile音声付きレベル3は1500単語

読み物は語学レベルに合わせるのが大切です。難しすぎると続かないので、何となく見て分かるくらいが適当です。今アマゾンで「本・イタリア語」で探しても、いくらでも似たり寄ったりの入門書は出てくるのに講読のための本が出てきませんでした。その代わり「洋書:italiano facile」と入力すると出てきます。このシリーズは外国人向けの入門書としては最もよく出来ているので絶対おすすめです。

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レベル1は500単語で現在時制だけ

他に単語を覚えるのに使えるサイトが下です。元々は英語の幼児向けサイトですが、ここではイタリア語のサイトを紹介します。

https://www.digitaldialects.com/Italian.htm

このサイトへ行くと「数」「色」「フレーズ」「動詞」などと分かれていますから、どれか選んでクリックすると絵と音声で勉強できます。気晴らしにどうぞ。

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Italian Language learning games

動詞を勉強するなら直接以下へ。全部で17単語。それなのに「航海する」なんて単語が出てくるところイタリアの歴史を感じたりましす。元々英語サイトなので英語も一緒に勉強できます。

https://www.digitaldialects.com/Italian/Verbsinfinitive.

このページへ行くとtextとAudioが選べるようになっているのでAudioを選んでください。変な発音の語学勉強サイトもよくあるんだけれど、これはとてもいい発音です。

コンピューターの音声をしっかり上げてね。今すぐチェック!

【旅】イタリア旅計画:バロックな旅:絵画編②ローマ

コロナのおかげで旅へ行けなくて、ネットを通じての代行旅行さえあるくらいなんだから、自分で行くときのことを想像して、じっくり計画を立てて楽しもうという意図で書いています。私も授業が半年以上無いので、生徒たち、参加者の皆さんにいつもの授業を少しでも忘れないようにして欲しいという願いも込めて。

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Andrea del Pozzo, Europa

対象:バロック絵画をより深く知りたい人へ。

地図が読めれば、ローマの大聖堂やお屋敷ですから語学的にはあまり問題なし。

一応ローマの最も重要な場所へは行ったという人にお勧めします。

場所は太字、美術家は赤文字、それ以外の重要単語は青文字で表記。

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イタリア州別地図・ローマは中部の濃いピンク色ラツィオ州

バロックな旅絵画編の1回目はカラヴァッジョがテーマでしたが、二回目は同じバロックとはいえ全くカラヴァッジョとは違った絵画を紹介します。西洋美術史に興味を持ち本を読み始めると、まず様式の名前を知らないと話にならないことに気づきますが、バロック美術は時代的にはルネサンスの後、宗教改革の真っ只中に始まり、カトリックの巻き返しとしての対抗宗教改革期に盛大に打ち上げられた花火です。

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Chiesa del Gesu`

対抗宗教改革の先鋒として良くも悪くも大活躍したのはイエズス会なので、バロック美術はイエズス会の聖堂で最高潮に達します。「神の軍隊」と言われ全世界へ信仰の光を届けに出撃して行ったイエズス会士は、もちろん日本にもやってきました。ザビエルの名は歴史の教科書に必ず載っています。上智大学イエズス会の大学で、現在も神父かつ学者である人々が活躍しています。その総本山ローマの、その名も「イエスの教会」イル・ジェスー、キエーザ・デル・ジェスーが写真の聖堂です。バロック様式が確立していくとバロック聖堂は、ファサードの両脇に渦巻きのような意匠が施され似た外観を持つようになるので、見慣れてくるとすぐに判別できます。アメリカや中南米、世界中にあるバロック聖堂のファサードは全てこの聖堂を真似たものなのです。

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Sant'Ignazio De Loyola

ミケランジェロが無償で設計を申し出たこの聖堂は、ジャコモ・バロッチ・ダ・ヴィニョーラジャコモ・デッラ・ポルタの二人のジャコモ(ヤコブ)によって完成されました。二人とも大美術家です。ヴィニョーラは壮大なルネサンス建築を思わせる館が得意で、ピアチェンツァファルネーゼ宮殿で実感できます。今は博物館ですが、私の愛する博物館の一つです。フェデリコ・ツッカリ、ピエトロ・ダ・コルトーナなど、この聖堂には当時最大の美術家が多数参加しているので、美術史を勉強する人には最適です。外の生真面目な印象と違って、中は驚くことになっています!!

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Chiesa del Gesu` ,Il Gesu`

エスを称えるためイエズス会(翻訳問題であって、イエスとイエズスは同じ。)の総本山として作られた聖堂の中は息を飲むような豪華なものです。床も壁も豪華だけれど、なんと言っても天井が壮絶!

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"Baciccia" Giovan Battista Gaulli

バチッチャと呼ばれたジョヴァンバッティスタ・ガウッリの「イエスの名の凱旋」は世界中にある、豪華な天井画の最高峰の一つに間違いありません。バロック美術の特徴である壮大な劇的効果が頂点に達しています。バロックは建築や彫刻と一体となって最高の効果を発揮します。空間を飛び交う天使たちは白いストゥッコです。ストゥッコとは古代ローマ時代から使われた、漆喰と似た技法ですが、大理石より安価で軽量、しかも造形しやすいので、バロック時代に高い部分に盛んに使われました。バロックの聖堂へ行くと頭がぼうっとし首が痛くなるのも当然です。望遠鏡を使ってよく見ても、見れば見るほど細部まで入念に描かれています。雲の影はまるで本物に見えますが、それも描かれたもの。フランス語でトロンプルイユというのですが騙し絵のことで、至る所に目の錯覚を利用した高い技術が駆使されているのです。

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切手になったポッツォの自画像、イエズス会士の服装

イエズス会は専門的な技術を習得した修道士を多く育てたので、バロック美術にはそういった技術者兼美術家である修道士が活躍しました。中でも数学、幾何学、複雑な遠近法を駆使したアンドレア・ポッツォは達人としか言いようがありません。自画像制作の依頼を受けた彼は、バロック遠近法の頂点として有名な、自らの偽ドームを指差しています。次はサンティニャーツィオ・デ・ロヨラ聖堂です。

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Chiesa di San'Ignazio De Loyola

これはイエズス会創始者聖イグナチウス・デ・ロヨラに捧げられた聖堂です。ここも、よくあることですが、最初の建築計画が実行されず、当初の計画にあったクーポラ(大ドーム)が作られないことになりました。ポッツォはそれに信じ難い方法で対処します。それが上の写真。灰色のクーポラに見えるところは全て描かれているだけ、凸状の空間は存在しないのです!当然、平なのですから見る角度によって歪んで見えますが、入り口から入ってきた者にはちゃんとクーポラに見えるのです。ルネサンス初期にブルネッレスキやマサッチョが皆に知らせた遠近法は、ここまで複雑で練りに練ったものになりました。本物のクーポラと違い明かり窓がないので暗い上、色も濁っている現在、よほど明るい日に見に行かないと、薄暗がりにぼうっと見えるだけなので、訪問する際は日時を選んでください。望遠鏡があると最高です。

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Andrea del Pozzo

盛期バロック絵画中、後のロココ美術に最も大きな影響を与えたのはポッツォではないでしょうか。それまでのバロック美術の、劇的で迫力はあっても重々しく暗い、という印象をこの天井画「聖イグナチウスの栄光」は一変させました。影のないルネサンスとは違い、バロックらしい陰影の効果と劇的な空間を一気に輝かしいものとしたのです。

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Gloria di Sant'Ignazio De Loyola 1685

81,5mに及ぶフレスコ の中心を見てみましょう。天に近づく程色が薄くなる空気遠近法で見え難いですが、最深部には父なる神、神の下には十字架にかかって人類の罪を贖った神の息子救世主イエス、そのイエスの下に灰色の服を着て腕を広げているイエズス会創始者聖イグナチウス、聖人から発せられる光は黒い服を身につけたイエズス会士を通じてヨーロッパ、アジア、アメリカ、アフリカの四大陸へ、そして全世界を表すその大陸には大勢のイエズス会士たちが天使の守護を受けながら活躍している。天に連なる理想的な宮殿のアーチの下ではイエズス会のシンボルIHSを掲げた天使が浮かんでいます。全世界のキリスト教徒が、神へ向かって吸い込まれてゆくような壮大な主題が、絵画的才能の上にこれ以上ない技術力で表現されているのです。どこからが建築でどこからが天上なのかさえ判別不能な程、暗い聖堂内部に神々しい光がもたらされます。これは後のティエーポロに受け継がれ、彼をもって壮大な巨匠の時代は終わりを告げるのです。ポッツォはその後ウィーンの宮廷で皆を驚かせ、何世紀にも渡ってヨーロッパ宮廷の規範となる『画家と建築家のための遠近法』を著し、ハンガリーボヘミアモラヴィアポーランド他カラヴァッジェスキ(カラヴァッジョ の追従者たち)ならぬポッツェスキと言っても良いような画家たちを産んだのです。

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Pietro da Cortona 1633

 イタリア語でsotto in suソット・イン・スッと言われる下から見上げる技法、「天井」を超えて「天上」が見える。という考えはポッツォの考案ではありません。遠近法と視覚の問題に取り組んだ美術家は大勢います。さらに「イグナチウスの栄光」ではイエズス会のシンボルIHSでしたが、盛期バロック美術のソット・イン・スッに付き物の象徴的な印はピエトロ・ダ・コルトーナの「神意の凱旋の寓意」に極めてルネサンスらしい形で表されていました。最後を締めるのはバルベリーニ宮殿です。Pietro Berrettiniが本名のピエトロ・ダ・コルトーナは盛期バロックの三代巨匠の内最年長の1596年生まれ。ジェノヴァ出身のガウッリが1639年、トレント出身のポッツォは1642年生まれなので半世紀違います。ガウッリとポッツォは二人共1709年に昇天しました。バルベリーニ宮殿の大広間の天井を見れば、ルネサンスらしさがみられます。天使の代わりに、ふくよかな理想的な美女たちとプットーという可愛らしいぷくぷくの幼児が半裸の姿で戯れている。陰りの無い明るい画風はカラヴァッジョの始めたバロック美術とは正反対です。

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Pietro da Cortona , Barberini

上の絵は先の絵の部分です。なぜか彼らの真ん中には「金色の蜜蜂」よく見るとその上には「黄金の二本の鍵」。これはバルベリーニ家の紋章と教皇の印です。さらによく見るとその印に何かを被せようとしています。下から見ているので内側しか見えませんが、教皇の三重冠です。下の女性が持っているのは、十字架に見えますがそうではなくオリーブの枝の端で、彼らは空間に紋章を形作っているのです。バルベリーニ家の勢力は1632年に頂点に達します。マッフェーオ・バルベリーニが教皇ウルバヌス八世となったのです。キリスト教世界の頂点たる教皇に選ばれたのは、神意によるものだっ!という、まさにルネサンスの祝賀画で、一切キリスト教的なところはありません。先の二つに比較すると、この絵は小さく大したことがないように感じます。先の二つがプロテスタントに対抗し、世界中の人々をキリスト教徒とすべく世界中に建造されたイエズス会の最も重要な大聖堂に描かれているのに対して、この絵は一家の広間に描かれた私的なものなのだから当然です。

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Palazzo Barberini

バルベリーニのお屋敷は地下鉄バルベリーニ駅からすぐ。大体駅の名前がこの屋敷からとられていることからも察しがつくように、あの天井だけでなく美術館博物館として質の高い作品を多数揃え、屋敷自体も当時最高の建築家たちによるものです。

https://www.barberinicorsini.org/arte/capolavori/

バルベリーニ国立博物館のサイトです。すごい💖

骸骨寺として有名なSanta Maria Concezioneや、この次紹介する天才バロック建築ボッロミーニの代表作サン・カルロ・アッレ・クアットロ・フォンターネも近くですので、二度目のローマ、もしくはゆったりローマにいられる人は是非どうぞ。

【旅】イタリア旅計画:ルネサンスに興味①

対象:とにかくルネサンスと名の付くものなら見てみる、なんだか知らないがルネサンスに興味があるのだ、でもイタリアへ行ったことが無い、と言う人へ。

一週間から十日ほどのフィレンツェだけの旅。

地図:北中部、藤色のトスカーナ州フィレンツェ

重要人物や事件は青文字、美術家は赤文字、所蔵場所は太文字で記します。

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イタリア州別地図、上から北部、中部、南部、島嶼

私が大学院で最初に言われたこと。「ルネサンスと名が付けばなんでも売れるし研究も沢山あるが、中世の巡礼、しかも誰も聞いたことが無いルッカの木彫像など、やめなさい。どうやって生きていくんだ。せめてゴシックの街シエナにしろ。」もちろん私のためを思ってのことですし、藤沢道郎先生は誠実で大変優秀な方でしたので間違いありません。先生自身がルネサンスに特別な思いを持たれていたので、尚更でしょう。でも自分の興味が何より先行する私には無理でした。それ以来、先生の予言通り、生きていくのに苦労しています。子供の頃からだけど。

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1493年に印刷されたフィレンツェ

ルネサンスという言葉は「再生」を意味します。その意味で現在はスポーツジム初め様々なところで使用される言葉として定着していますが、元はフィレンツェで生まれた概念です。長きにわたってルネサンスは「古典古代の復興、人間再生」などという紋切り型で紹介されてきました。2020年7月の今日でさえ、テレビの「日曜美術館」で100年前と変わらずそう言っていました。要するに中世キリスト教の否定になります。世界史を知らない人に一言で大雑把極まりなくいうと、古代ギリシャ・ローマ世界をクラシック(古典古代)ローマ帝国崩壊後の中世(ビザンチン、ロマネスク、ゴシックなどキリスト教絶対主義の時代)、近世(ルネサンス以降産業革命前)、現代というように捉えれば、なんとかなります。歴史は連続しているのだし、地域によって様式の差は大きく、同じ様式も土地によっては非常に年代が異なったりするので、現実には様々ですが。ジェノヴァ人のコロンボコロンブスラテン語読み)が新大陸へ旅だったのが1492年、ルターがヴィッテンベルクの門に95カ条(ヴァチカンへの告発状)を打ち付けた(伝説)のは1517年なので、歴史上の一つの目安になります。ルネサンスとは中世と近世の橋渡し、中間、両方の要素がある時代と言えるでしょう。なので、ルネサンス美術の代表はボッティチェッリの「ビーナスの誕生」というのは間違いです。あれは象徴的な作品であって、ルネサンス美術の8割はキリスト教美術なのですから。

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Santa Maria Novella

ルネサンスは思想運動ですから、本当は美術ではなく文学が先ですが、日本人でラテン語や当時のイタリア語が読める人などほとんどいるわけがなく、やはり美術がメインとなるでしょう。一にも二にもフィレンツェ、そしてローマが圧倒的中心です。そこから世界へ広がるので、まずフィレンツェに降りましょう。フィレンツェの中央駅はサンタ・マリア・ノヴェッラと言います。駅の標識にFirenze S.M.N.と書いてあるのはそういう意味で、目の前にあるドメニコ会修道院聖堂の名前です。サンタマリーアは聖マリアのことですがノヴェッラとは物語というような意味で、ここではマリアの少女時代を意味します。ドメニコ会は聖母に特別な崇敬を与えていたので、ドメニコ会の聖堂には多くマリアの名がついています。

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Ghirlandaio, S.M.Novella

サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂ルネサンスの万能の天才レオン・バッティスタ・アルベルティによるファサード(建築正面)を持ち、中ではフィレンツェの象徴とも言える大クーポラ(ドーム)を架けた建築家ブルネッレスキの数少ない彫刻でありエピソードに飛んだ磔刑像や、絵画に革命を起こしたマザッチョのこれぞ遠近法というようなフレスコ 、まさにルネサンスという聖俗織り交ぜた礼拝堂を美しく飾ったギルランダイオ(写真上)など、たった一つの聖堂だけで美術館になる程のルネサンス美術の殿堂です。隣接した回廊にある、パオロ・ウッチェッロのフレスコも損傷激しいですが大変魅力的です。同名の世界初の薬局として知られる、ちょっと離れた場所でお土産ばかり買うのに時間を取るのはもったいない。

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ブルネッレスキの大クーポラが見えるフィレンツェの眺望

次にブルネッレスキの大クーポラを持つ司教座聖堂サンタ・マリア・デル・フィオーレへ行きますが、聖堂内へ入るのに大行列ができていたら中へは入らず、ぐるっと一周します。いかに聖堂の後陣(後ろの方)や脇がすごいかわかるでしょう。ファサードはとても新しいものですから綺麗ですが軽薄な印象です。それと反比例し後方は量感のある重厚な印象を与えます。脇にある大聖堂博物館へ。聖堂の中にあったものや重要な建造物のオリジナル彫刻はみな博物館にあるし、ルネサンス期の本来の聖堂ファサードが再現されていて、世界一の博物館と、私には思えるほどです。https://duomo.firenze.it/it/scopri/museo-dell-opera-del-duomo

大聖堂博物館のサイトです。イタリア語ですが、あちこちクリックすれば写真で様子がわかります。ここではなんと言っても前ルネサンスの巨匠たちから、司教座聖堂とジオットの塔に備えられていたドナテッロの大彫刻、ミケランジェロが自らのお墓のために作った彼の自画像(彫刻だけど)が表現された感動的なピエタなど、丸一日いても足りません。

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Michelangelo, Pieta`

聖堂内へは空いている時を見計らって入ったら良いでしょう。飛ばしても良い。他に見る物が山積みだから。次はサンタクローチェ聖堂です。サンタ(聖なる)クローチェ(十字架)というのはイエス・キリスト磔刑にかかったときの十字架のことを指します。

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Santa Croce

この聖堂はルネサンスというよりゴシック美術の殿堂ですが、右脇のお墓があまりにも有名です。フィレンツェを中心に活躍した有名人がゴロゴロここに眠っています。歴史的にはガリレオ・ガリレイが有名ですが、異端審問にかけられた彼は長らくゆっくり休めませんでしたが、やっとお墓を作ってもらえました。ミケランジェロは当然います。私的には先に紹介した自分の彫刻で飾りたかっただろうにと残念になってしまうお墓ではありますが。博物館では後期ルネサンスマニエリスム)を支えたジョルジョ・ヴァザーリの大祭壇画なども見られます。

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Brunelleschi, Donatello,1429

ルネサンス期の歴史を読めば必ず出てくるメディチ家と「パッツィ家の陰謀」というのがあるのですが、そのパッツィ家の霊廟ルネサンス建築のエッセンスとでも言いたくなるようなブルネッレスキの作品ですし、空前絶後の大彫刻家ドナテッロも仕事をしています。教会建築とは思えないほどシンプルな作りなのを確認してください。灰色の枠がアクセントになっています。素朴で面白いロマネスク、荘厳で最もキリスト教中世らしいゴシック、派手で豪華なバロックに対してルネサンス建築というのは、素人にはなかなか特徴が掴みにくいものです。これぞルネサンス建築というのは聖堂でなくお屋敷の方が分かりやすく、フィレンツェの街の中心にある大商人たちのお屋敷がいくつも残っています。メディチ家の最も重要な建築家であるミケロッツォパラッツォ・メディチ・リッカルディは代表的なもの。パラッツォは城という訳を見かけますが、そうではなく現在ではビルディング(総合集合住宅のような建造物)を指す言葉です。城にあたる言葉はCastelloカステッロと言います。基本的に戦いのためのカステッロと違い、パラッツォは裕福な人々の住宅や市庁舎のような建物で、写真もフィレンツェのど真ん中、目抜き通りに面しています。近くから見ると、一階部分の壁の巨大な石が大変印象的です。切り出したままのようになっていてゴツゴツ、凸凹しています。対照的に上階は整然と等間隔で並んだヴィーフォラ(二つに分かれた窓)が特徴です。淡い茶色の石の色一色の長方形。中世の装飾的でお伽話のような建物と違い、合理主義のルネサンス建築はこんな感じで、私のような中世好きには面白味に欠けます。

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Palazzo Medici-Riccardi

このお屋敷の中には大変有名な礼拝堂があります。「三賢者の礼拝堂」と一般に言われているものでベノッツォ・ゴッツォリの作品です。まだゴシックの雰囲気を残しながらルネサンスが訪れたのを実感させてくれる力作で、小さいながら必見です。キリストの誕生を祝うために三賢人が旅をしてゆくのですが、その大行列がメディチ家と画家の自画像も含めた、ゆかりの人物たちで表されています。旅が終わり幼児イエスをお参りする場面はフレスコ でなく、フィリッポ・リッピによる祭壇画で、これも素晴らしいものです。ゴッツォリはピサのカンポサントのフレスコ も大仕事としてあるのですが、こちらは室内にあったため痛みがなく、ストレスなく堪能できます。他にもバロックの天才画家ルーカ・ジョルダーノの間など見所があります。

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Benozzo Gozzoli, Cappella dei magi

ゴッツォリといえば、彼の師匠であり特別な画家べアート・アンジェリコを思い出します。ここからそう遠くない場所に世界で唯一の修道院博物館サン・マルコがあるので絶対に訪問します。サン・マルコは駅の近くのサンタ・マリア・ノヴェッラ同様ドメニコ会の修道院ですが、隣接した聖堂も、フィレンツ史における重要な聖堂ですので必ず同時に訪れましょう。入場料のあるところは別として、聖堂を訪れた時には、素晴らしい芸術作品と宗教的遺産を守るためにもお布施をしてください。ガイドにはそんなものいらないという人がいますが、それは彼らの宗教や芸術に対する尊敬の念の欠如から来ると私は思っています。offertaと書かれた切り込みのある口が、蝋燭や聖人像の下などにあるので気をつけましょう。

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San Marco

日本や英語ではフラ・アンジェリコと言われていいますが、これはフラーテ(修道士)アンジェリコ(天使のような)という意味で、彼の名はグイド・ディ・ピエトロと言い、ドメニコ会の修道士となった時にジョヴァンニ・ダ・フィエーゾレ(フィレンツェの郊外の街フィエーゾレのヨハネ)と改名しました。彼は大変徳の高い高潔な人物で素晴らしい画家でもあったので、生前から「ベアート(神に恵まれた)アンジェリコ(天使のような)画家」と言われてきました。天に召された後(彼は間違いなく天に召されたと、私は信じています)カトリック教会からも列聖された、特別な画家なのです。

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Beato Angelico

アンジェリコは日本でも人気が高く、サン・マルコ博物館は彼の絵を見に行く人で溢れていますが、ここはただの美術館ではありません。フィレンツェの歴史を知っていれば、当時の人々の熱烈な信仰心、暴力的で騒ぎを起こさずにはいられないルネサンスの男たちの怒り、権力と政治に絡んだ、感動的で悲惨な様々な出来事が、まさにここで起こったのだと思い知らされます。有名な図書館の入り口には「サヴォナローラはここで捕まった」というプレートが掲げられ、拷問の末火炙りになった彼の修道服の切れ端が展示されているのです。アンジェリコ修道院長に推薦されました。中世には大修道院長が王や皇帝の政治顧問で、影の支配者であったことが珍しくありません。卑しい権力闘争とは正反対の静寂に包まれ、アンジェリコがベノッツォを筆頭とする弟子たちと仕事をしていた姿が、回廊では目に浮かぶようでした。ここでは撮影は禁止です。私は特別に許可をとったところだけ撮しています。上の写真は自前のポスターです。

 

この近くにはルネサンスのフレスコ など見所が他にもあるのですが、ルネサンス①の今日は、最も有名な場所だけにします。なので次はアカデミアへ行きます。

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Accademia, Michelangelo

アッカデミーアは、ただひたすらミケランジェロダヴィを目的に来る人でごった返していますが、この写真にある通りミケランジェロの他の作品もあるし、中世の板絵などもあります。満員電車の中のようなダヴィデ周辺とお土産室とは裏腹に、二階展示室には人っ子一人いません。よほど時間がないなら仕方ないとしても、ここに入るだけでも並ぶ人が少なくないのに、入ったらこれとお土産だけっていうのは、美術が好きなんじゃないんだなーと、私なんかは思ってしまいます。それならパラッツォ・ヴェッキオの入り口にも、素晴らしい眺望のミケランジェロ広場にも複製があるんだから、それでいいんじゃないでしょうか。

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ランツィのロッジャから見たパラッツォ・ヴェッキオの入り口

パラッツォ・ヴェッキオは絶対入るべき!上のカフェで休むのも超お勧めです。

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Palazzo Vecchio

フィレンツェが共和国であった時代の最も象徴的な建造物であり、街の中心にあるのがパラッツォ・ヴェッキオです。「古い館」という意味の呼び名は当然現在のもの。これこそフィレンツェ史を読んでから行って欲しいですが、中にはレオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロが腕を競ったと言われる五百人広間や、多少気のおかしかったフランチェスコ一世錬金術の研究室ストゥディオーロ、様々な有名人が幽閉された塔など最低でも半日は必要です。もし行かれるならば、写真のストゥディオーロとメディチ家の人々が秘密裏に街から逃げるための隠し通路、この建物の構造が直近に見られる屋根裏、祖国の父コジモ・デ・メディチサヴォナローラが幽閉された塔など、一般には見られない特別ツアーも考えてみてください。以前フィレンツェの文化事業ボランティアのガイドで、旅の参加者には私が通訳をしました。とても興味深い内容で大満足でした。

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Studiolo

これと連結された建物が、世界一古い美術館であるウッフィーツィです。日本ではウフィッツィと表記されますが間違い。Fが二つなのでウの次に小さな「ッ」が必要です。アクセントの位置も違ってるし。語学を勉強するときにアクセントの位置に気を配らない人は、上手く話せるようにはならないと思うます。パラッツォ・ヴェッキオとウッフィーツィは連続しているので、一緒に見るのが時間的には最高ですが、とにかく作品数が多く、しかも内容が濃いので真剣に美術を見る人なら最低でも二日は必要です。午前中一杯お屋敷を見たら、近くで昼食とり英気を養って美術館へ。最大の呼び物はボッティチェッリのニ作品ですが、他に無数の優劣つけ難い作品があります。

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Uffizi

大体周辺の広場にはベンベヌート・チェッリーニジャンボローニャランツィの回廊という素晴らしい彫刻群を陳列した場所や、椅子がわりにされているバルトロメーオ・アンマナーティの大噴水などシニョリーア広場だけでも、ルネサンス美術の殿堂の感があります。下は18世期のシニョリーア広場です。左にパラッツォ・ヴェッキオと噴水、正面にランツィの回廊が見えます。

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Giuseppe Zocchi

ルネサンスの旅一回目の今日は、行きやすい、まず大注目の場所だけ記しました。まだまだまだまだあります。ルネサンス好きには、フィレンツェだけで一週間から十日なんて全然足りません。

【旅】イタリア旅計画:バロックな旅:絵画編①ローマ

対象:カラヴァッジョが好き、彫刻より絵の方が好きと言う人へ

語学力はそれほど必要無し。大きな美術館・博物館や有名な聖堂、さらにローマやナポリならあちこちにある。今回はローマで見られるバロック絵画、カラヴァッジョの作品をとりあげます。画家は赤文字、所蔵場所は太字で表記。

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Davide #googleimages

バロック美術と聞くとカラヴァッジョを思い浮かべる日本人が少なくありません。近年特に日本人には大人気のようで研究者も多く、一般書も何冊も出ていますからその影響でしょう。宮下規久朗著カラヴァッジョ関連の本にはカラヴァッジョだけを観てイタリアを巡る本まであります。

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宮下規久朗著とんぼの本

私はカラヴァッジョのファンではないけれど、見られる限りの作品を観ていますしイタリア全土の聖堂や博物館を訪問した印象でいうと、カラヴァッジョは決して代表的なバロック美術家ではありません。持論ですが、いわゆる天才と言われるような人、または革新的な作家というものは時代を超越するもので、そういった意味で時代や流派を代表するには良い美術家ではあっても超越的ではない方がいいのです。言い換えれば非凡過ぎると誰も真似できないので、孤立した存在となります。それこそ天才というものです。カラヴァッジョは実に大きな影響を後世に与えましたが、彼の影響を受けた無数の美術家たちの方がいかにもバロックらしい作品を量産しているのです。

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Caravaggio, Musei Vaticani, Roma

この作品はバチカン博物館で鑑賞できます。大きさと言い、丁寧な仕事ぶりといい、色彩も構図も構想力も、修復という点でもカラヴァッジョ作品中最高の一点だと思います。カラヴァッジョがバロックと言われる理由は、舞台で演じられているような劇的な場面、迫真の表現力にありますが、より具体的にいうと、実際よりずっと暗い背景に非日常的なライティングで悲壮感を盛り上げるのです。彼の追従者たちは、その点を大いに真似しました。がカラヴァッジョの悲惨で壮絶な、どす黒い血を感じさせるような作品は一つもないし、それどころか後には、暗い背景とスポットライトを使った劇的ではあるが、彼とは真逆に、天使や花が舞い散る、時にはふざけているとさえ思えるほどの明るい内容に変化してゆきます。カラヴァッジョだけがバロックと思っていると、全然把握できないのでその変化も紹介したいと思います。

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Guido Reni, Musei Vaticani, Roma

バチカン博物館では先のカラヴァッジョと並んでグイド・レーニの「聖ペテロの磔刑」が鑑賞できます。イエスの一番弟子で初代教皇であるペテロは、一度はイエスを否認しますが最後は英雄的に磔刑を受け入れます。その時、師であるイエスと同じ磔刑ではおこがましいとして自ら「逆さ磔」を願い出たのです。想像しただけで恐ろしいですが、初期バロックの描き方だとその恐ろしさが最もよく表現できるでしょう。初期のバロック絵画はカラヴァッジョの画風に直接的な影響を受けています。レーニはカラヴァッジェスキ(カラヴァッジョ風の作品を描いた人たちをこう呼ぶ)の中では突出した画家の一人で、この作品も見事です。グイド・レーニもカラヴァッジョほどではありませんが人間的には問題のある人で、そのため作品の質にかなりばらつきがあります。真面目できちんと仕事をするペルジーでも確かにかなり質に差がありますが、それは弟子のラッファエッロ同様、あまりにも人気が高く弟子を使って大車輪で仕事をしたためです。引き換えバロック時代になると、ペルジーノやラッファエッロのようなルネサンスの大工房と違い、弟子の数もグッと減って作品数も減りますし、何よりもルネサンスの花である大フレスコ が油絵に取って代わるので、サイズが縮小されます。当然個人的になると言う意味でも、より現代の芸術家という概念に近づいています。

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今回の作品は中部のLazio州Romaにあります

カラヴァッジョとは北イタリアのベルガモ近郊の地名で、彼の出身地を表すとされてきました。最近はミラノ出身かもしれないという研究もありますが、とにかく彼の名はミケランジェロ・メリージと言います。親が巨匠ミケランジェロを尊敬していたのかもしれないし、大天使ミカエルから取られたかもしれません。彼はラッファエッロやアンドレア・デル・サルトなどの天才と違いデッサンに苦労しました。私がカラヴァッジョが愛せない大きな理由の一つでもあるデッサンの不具合による気持ち悪さは、特に初期の作品では顕著です。

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Fanciullo,Borghese

初期作品で最も魅力的なのは「果物籠を持つ少年」で、それはボルゲーゼ美術館で見られます。そこでは他にもカラヴァッジョを何点も鑑賞できます。ボルゲーゼの一番の見所はベルニーニだと私は思いますが、とにかく強欲なコレクター、シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿道徳心のない芸術愛好家の極みだったので、素晴らしい作品が目白押しです。カラヴァッジョの愛人でもあったというこのモデルは何度も作品に登場し、ここでは男娼を思い浮かべさせる姿で表現されます。初めてこの作品を見たのは画集ですが、本物を観て、なんとも言いようがない魅力に囚われました。果物は素晴らしいのに顔や首の空間など下手くそなんだけれど、独特の力を持った作品です。

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La donna della serpente

気持ち悪い「バッカスに扮した自画像」や「洗礼者ヨハネ」などと比較し、大型で高い品質なのは「蛇の聖母と聖アンナ」です。この作品は、その後何度も彼が見舞われる、発注者による受け取り拒否の初期の大型作品ですし、極めて珍しい内容、完成度の高さなどから注目すべき作品です。私は、ミラノで生活していたのが確実な彼が、ロマネスクの名高いサンタンブロージョ(聖アンブロジウスSant'Anbrogio)聖堂にある青銅の蛇を思い浮かべて描いたのではないかと思っています。とにかくボルゲーゼ美術館は、西洋美術史上有名な芸術家の名高い作品がゴロゴロしているところで、その上立地も素晴らしいので本当にお勧めします。イタリア語と英語ですが公式サイトです。写真だけでも十分楽しめます。

https://galleriaborghese.beniculturali.it/

丘の上のボルゲーゼ公園の麓にあるサンタ・マリア・デル・ポーポロ(民衆の聖母マリア聖堂は絶対外せません。この聖堂にある二枚のカラヴァッジョ作品は、私にカラヴァッジョの偉大さを気づかせてくれました。聖ペテロと、彼と並ぶキリスト教で最も偉大な聖人である(考え方によっては誰より偉大な)聖パウロが向かい合わせにかかっています。どちらも非常に迫力のある力作で、彼のやる気を感じます。礼拝堂の真ん中にあるカッラッチ(彼も非常に重要な画家です)が二流に見えてしまうほど、他を圧倒する出来栄えです。一世を風靡したカッラッチと比較できるいい機会ですし、カラヴァッジョの新さが如実だといってもいいかもしれません。

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Chiesa di Santa Maria del Popolo

カラヴァッジョといえばこの作品を表紙に持ってくる程評価の高いのが、サン・ルイージ・デイ・フランチェージ聖堂の聖マタイの物語です。聖堂自体がバロック全快ですが、特にこの礼拝堂前に人が群がっています。ガイド付きで礼拝堂に入ると、西洋美術史の本に必ずといって良いほど掲載されている「マタイの召命」が正面から観られますし、3面を考えて作られているのですから礼拝堂の中に立つのがベストです。この作品が特に評論家の間でも話題なのは、誰がマタイか?というところで意見が割れているからでもあります。マタイの仲間の内一番若いのはさっきと同様のモデルです。写真右側の向かいにある殉教場面には自画像が描かれています。この絵については色々と読めるので、興味があればぜひ本を手にしてください。カラヴァッジョが本格的に活動を開始するきっかけになった大出世作でもあるし、ローマのど真ん中なのでぜひどうぞ。

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Chiesa di San Luigi dei Francesi

カラヴァッジョの最後はカピトリーノ博物館にある洗礼者聖ヨハネです。カピトリーノは単数で複合施設なのでカピトリーニと言います。カピトリーニ博物館は巨大すぎて、ここだけで1日とらないとならないでしょう。古代ローマの信じ難い作品から、このびっくりするようなカラヴァッジョの作品まであり過ぎるほどあります。映画や美術などで性描写が当たり前になった現代でさえ、ギョッとするような大胆な作品です。ソドマの時代からずいぶん進化したものです。初めてこの作品を前にした時、じろじろ観ていいものか少し戸惑ったほどです。ただいまと違って周囲には人っ子ひとりいませんでしたから、十分時間をとって眺めさせていただきました。カラヴァッジョはほぼ確実に女性との関係も持っていたらしいですが、若い男性像の方がずっとエロティックな力作になっていると私は思います。

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Musei Capitolini

この次は、バロックの後半、カラバッジョとは全く違ったバロック絵画を紹介するつもりです。

【旅】イタリア旅計画:バロックな旅①聖ペテロ大聖堂

対象:ド派手なバロック美術が好きっ!という人へ

語学力は無くても地図かグーグルでなんとかなる。一週間から10日程のローマだけの旅

地図:中部、濃いピンク色のラツィオ州

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イタリア州別地図:北部、中部、万部、島嶼

全然時代が違うんだけど、バロックという言葉を時々ゴシックと取り違えている人がいて不思議に思う。ロマネスクやルネサンスとは取り違えないんだよね〜。バロックとゴシックの共通性ってなんだろう?単に単語のリズム?もしかしたら何にも知らない人にとってはそうかもしれない。けど、なんとなく知っている人には何か共通項があるに違いない。派手、暗い、ちょっと怖い、壮絶技巧、など思い当たりました。どうでしょうか?

場所は太字、芸術家は赤字で表記します。

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ヴァチカン市国の大柱廊にある教皇の印、世界で最も壮大で美しい柱廊だ

ルネサンス美術の衰退とも言われるマニエリスム(もちろん衰退だけではないが、そういう面もあるとは思う)は技巧を凝らして、練りに練った内容となり、なんだか訳の分からない絵になってゆきます。象徴や様々な決まり事など知っている者にはそれが魅力でもありますし、それは今も変わりません。美術史やイコノロジーなど勉強してゆくと、マニエリスム絵画を読み解く面白さにはまります。他の人には分からないのに自分は知ってるんだーっという、美術通になった気分も味わえます。でもやはりそれは正道ではないし美術の本質とは別のものです。

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ルネサンスに始まりバロックに完成した聖ペテロ:ファサードも両様式が混合

誰が見てもあっと驚く素晴らしさ、見事さ、美しさといったものをバロック美術は追究しました。一部の教養階級の手から万人に美術を取り戻したといっても良いかもしれません。それには世界史における、中世から近世への非常に重要なターニングポイントとなった宗教改革という背景があるからでもあります。プロテスタントは美術を否定したのに対して、カトリックは美術の力を最大限に発揮して信者の心をつかもうとしたのです。だから当然最大のバロック美術は教皇庁であるヴァチカン市国ローマに集中しています。後にはカトリック信仰の厚い支配者、神聖ローマ皇帝などが収める地域、ナポリ南イタリアバロック地帯です。その最大のスターは誰もが認めるだろうジャンバティスタ・ベルニーニです。

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ベルニーニの大柱廊をクーポラの上から撮影

ローマの街はまるごとバロック美術の舞台装置であるかのようです。ローマは無知でも十分楽しめますが、歴史を知っていれば百倍千倍にもその楽しさは深まります。古代から中世、ルネサンス、近世とほとんどあらゆる時代で重要な役割を果たしてきた街だからですが、特に古代ローマバロック美術が色濃く反映されています。何度も映画化された「ベンハー」のレースはここで行われたのかとか、コロッセーオでは皇帝たちが親指を使って、グラディエイター(剣闘士)やキリスト教徒の命を決めていたとか・・つい横道にそれました。バロックに戻ります。クラシック美術では古代ローマ皇帝が断然主役ですが、バロック美術では教皇、大貴族に並んで美術家たちも主役になります。

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聖ペテロ大聖堂内陣 この日はフランシスコ教皇のミサで大混雑

ローマのテルミニ駅は便利ではあってもつまらないので、何がなんでもヴァチカン市国へ行きましょう。ヴァチカンには最低でも丸一日、できれば二日とりましょう。私はヴァチカン美術館をじっくり観る目的の時にはCipro(チープロ)駅まで行って美術館入口まで徒歩ですぐのところに泊まります。この辺は圧倒的に観光客も減って、日常生活も味わえる地域です。今Google マップでCiproを調べたら、ヴァチカン美術館の説明に「ルネサンス時代の美術作品を展示する」と書いてありました。真っ赤な嘘だよ〜。エジプト美術から現代美術まであります。

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Basilica di Santissimi Pietro e Paolo

聖ペテロ寺院 Basilica di Santissimi Pietro e Paolo は正式には聖ペテロとパウロのバジリカです。その二人が共にあることに大きな意味があるからですが、一般にはペテロだけの名で呼ばれています。ベルニーニの大柱廊のなかを歩いて、その巨大さを痛感したりしたいものですが、時間がなかったり気持ちがはやって、一目散に大聖堂(バジリカ)へ直行してしまいがちです。でも広場を眺めれば噴水が二つあり二人の像があるのが分かります。それはペテロとパウロです。旧約聖書新約聖書、伝統と革新、ユダヤ教と世界中の人々を二人は象徴しているのです。

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ベルニーニの巨大聖水盤:男の子と天使の大きさを比べて

チェックを受けて入場します。初めてここへ行った時、若かった私はスカートの長さが短過ぎ、入れてもらえず、必死のズリ下ろし作戦も通じず、凄く楽しみにして勢い込んで行ったのに叫びたい気分をあじわいました。その時のヴェネトンの超カラフルな服装を今でも覚えていますし、私を入れてくれなかったアフリカ系の守衛さんも忘れられません。当時は憎かったけれど、今は迷惑かけてすみませんという思いです。どの聖堂もそうですがノースリーブ、ミニスカート、半ズボン、大きく胸が開いた服(イタリアにしては)は入れません。スリップドレスで入ってきた韓国人が、何度も出るように言われているのに言葉がわからなかったのでしょうが、出ていかず神父さんが困っていたり、ノーブラ、タンクトップのドイツ人団体が大きな禁止の看板があるにも関わらず、無視して入り、教会守りの人たちを不愉快にしているなど、何度も見たことがあります。自分もそうだったのですが、皆さん注意しましょう。聖堂は観光客のものではなく本当に信仰厚い人たちのためのものです。

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内陣と袖廊の交差部にあるベルニーニのロンギヌス

聖堂は上から下まで、隙間なく埋め尽くされた芸術的空間で、息が詰まりそうです。大抵は上を見上げて、その呆れた豪華さに圧倒されます。あまりにも至る所観るべきところばかりですがゆっくり全部見ていると聖ペテロだけで一日が終わってしまうので、特にバロック的な優れた作品だけ取り出すと、聖堂の交差部にある四つの大彫刻は最も意味のあるものです。それは全て十字架と関係のある作品です。上は私が一番好きなベルニーニのロンギヌス。ロンギヌスは槍を持っているので判別できます。足元には彼がローマ兵であることを示す兜。あの槍で磔刑にかかったイエスの脇腹を突いたのですが、そこからは聖水と聖血が吹き出し、それを受け止めたのが聖杯です。様々な伝説を産み、ダヴィンチコードなどの小説のキーポイントにもなっています。

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他に左から聖ヴェロニカ、聖エレナ、聖アンドレ磔刑にかかるためゴルゴタの丘へ向かうイエスの顔の汗を拭いたヴェロニカは、そこに聖なる顔が転写されているのに気ずきます。彼女の名は伝説的に作られたものですが、その場面は聖書に記されています。エレナはキリスト教を公認した古代ローマ皇帝コンスタンティヌスの母で、イエスが掛かった十字架を発見したとされています。世界中にある聖十字架に捧げられた聖堂(サンタ・クローチェ、サンタ・クルスなど)には、この十字架の破片があることになっています。彼女は聖遺物の天才的発見者で、イエスが登った階段までローマに運んできました。アンドレはイエスに最初に従った12使徒の一人で、X型の十字架にかかりました。なのでセント・アンドリューなどの名を持つ学校の記章はX十字です。

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R.M.Slodtzの聖ブルーノ

18世期に入ってからの作品も、先行するバロック作品と釣り合うように作られました。中でも私が好きなのは聖ブルーノです。静寂のカルトジオ会の創立者で、天使が差し出す教皇冠を拒否しています。初めてここへ行った時に、この彫刻の美しさと大きさ、物語性が非常に印象に残ったので聖ブルーノについて調べ直しました。

 

https://www.teggelaar.com/en/rome-day-4-continuation-9/

聖ペテロ大聖堂のベルニーニのことを書いたブログです。英語ですが写真がたくさんあるので参考にどうぞ。

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ベルニーニのバルダッキーノ

聖堂の中程、この聖堂が捧げられたペテロのお墓の上に青銅の天蓋があります。バルダッキーノといって、ロマネスク聖堂にはよく見かけるものです。ただベルニーニのバルダッキーノほど豪華なものはありません。この大きさを青銅で制作するのには、技術的、経済的に非常に問題がありました。ライバルの独創的な建築家ボッロミーニとのイザコザなどエピソードもあります。ねじれた柱は、知恵でユダヤを統治したソロモンの神殿の柱に基付いたデザインで、以後これはバロック意匠の典型となります。上には三位一体を表す白鳩が施され、地下の聖ペテロ、聖霊の鳩、ミケランジェロの大クーポラが縦軸に一直線になる考えられた設計です。この周囲は十字架にまつわる象徴で埋め尽くされ、先の四聖人もその内です。

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ベルニーニの天才が発揮された教皇アレクサンデル七世のお墓

聖堂内には教皇たちのお墓が競い合うように並んでいます。どのお墓も一級の美術品ですがこれに敵う物はありません。初めて目にした時の驚きは忘れません。写真ではどうなっているのかよく分からないと思いますが、近くから見ても、無知だった私はいったいどうなっているのだろうと思いました。まずほぼ全てが大理石でできていることに驚き、巨大な柄のある大理石の布に絡まった、砂時計を持っているのが骸骨だと解ると謎が深まり、骸骨だけが金属で作られ、その向こうには扉があって・・・これはいわゆる擬人像の群れなのです。手前の赤ん坊を抱いている女性は「慈愛」です。どれだけこの教皇が慈愛と信仰の炎に燃えた素晴らしい人だったかと言っています。アレクサンデル七世は名家キージ家の出身で、反フランス政策を継承したため、悪名高い大政治家でもある枢機卿マザランを敵に回し、政治家としては失敗だったけれど、美術愛好家としては最高の鑑識眼を持っており、現在私たちがベルニーニの信じ難い傑作の数々を堪能できるのは彼のおかげです。なのでこのお墓に近づけた時は(これは聖堂の後陣にあり、特別なミサなどがあるときは側へ行けない)祈っている彼のために祈ります。

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聖ペテロ聖堂の最も奥にある司教座記念碑

もちろん後陣を飾る大彫刻もベルニーニの作品で、それは聖ペテロの椅子がここにあるという印です。聖堂にもヒエラルキーがあって、バジリカというのは特権的な聖堂のことです。さらに英語のキャセドラル、イタリア語のカッテドラーレとは司教が座る椅子のことで、司教が座る椅子を持つ聖堂は司教区に一つしかありません。行政区画があるのです。全世界のカトリックキリスト教会で最高の椅子は唯一、ここにあります。

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ベルニーニの司教の椅子

エスに従った12使徒の中で最初に弟子となり、仲間の長だったのがペテロです。1世紀に生きたペテロの椅子が見つかった!?そしてその椅子はこの青銅の椅子の中にベルニーニが包み隠した!!と言われたのですが、実際には875年にシャルル禿頭王が教皇に贈った象牙と木でできた椅子でした。それでも9世紀で新しい〜っとなるローマって、どれだけ歴史があるんだろうと、いつも思います。とにかく、1世紀に生きた聖ペテロ以来、今の教皇フランシスコまで延々と受け継がれた神の代理人の座、これはその象徴です。

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クーポラから見たバルダッキーノと聖ペテロのお墓

ちなみに聖ペテロ大聖堂は、ベルニーニの大回廊、地下の歴代教皇のお墓、ミケランジェロの大クーポラ、その途中のクーポラの付け根でモザイクを目前にし、三重冠などの宝物館、さらにはまだ発掘途中の地下遺跡と、一つの教会建築とは思えない程見るところが満載の建造物ですので、十分時間をとってください。ミケランジェロの「ピエタ」やラッファエッロの「昇天」、デル・ピオンボの「ラザロの復活」などのルネサンスや他の美術には触れていないので、それはまた別の機会に。

 

【旅】イタリア旅計画:絶景、珍しい景観を体に感じる

対象:とにかく景色を楽しみたい人へ!

基本的に辺鄙な場所にあるので、お金と時間に多少余裕のある人向き

言葉は中〜上級者か、できないならば旅行社を使うなどして下さい

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イタリア州別地図

イタリアとフランスをまたぐモンブラン MonteBianco

地図:左上、灰色アオスタ渓谷州の上端

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イタリア語ではモンテビアンコ

アルプス連峰中最高峰のモンブラン。日本ではなぜかケーキの名前だけど、当然山が元。頂上へ登ると、イタリアとフランスの両方をまたぐことができる。フランス側のシャモニーから登るのと、イタリア側のクールマイヨール(この名前自体が既にフランス語だけど)から行くのでは印象が全然違う。そこに山があるから登ってしまうような人と私は非常に縁遠いので、ペトラルカや両親が感動していなければ行かなかったと思うし、朝が弱いのに頑張って早起きして行ったのに、残念ながらガスってしまって地表が見えなかったのでもう行かなくていい。あまりにも有名な山だし、自然好きな人は、雲の状況を見て早起きして行って下さい。アオスタやクールマイヨールなど近隣の町には当然のように、山の雲予報が出ています。普通は全く問題無く最高の気分で登れますが、飛行機で耳が痛くなるような人は、写真の超高速ロープーウェイに注意が必要。下界は真夏で暑くても上はめっちゃ寒いから着る物や、日本人は普通かけないサングラスも絶対あった方がいいと思う。やる気のある人には、トレッキングコースなどもあり。

 

迫力のドロミテ渓谷 Dolomiti

地図:上、黄色いトレンティーノ・アルト・アーディジェ州

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Dolomiti

ドロミテ渓谷は文化遺産の多いイタリアにして自然遺産登録されている地域です。アルプスはフランス側の国境ですが、ここはイタリア内でオーストリアより。アルプスやモンブラン程有名ではないけど、登山やトレッキング、バイカーや自転車好きにはたまらない地域です。私が訪れた時にはヴェスパ軍団が、エンジン全開で頑張っていたのが面白かったし、山小屋では普通に、鳥や動物が放し飼いにされていてアルプスの少女ハイジになった気分でした。写真では凄さがなかなか伝えられないのですが、岩肌の感じでしょうか、非常に迫力のある、日本の山とは全然違った景色です。周囲にある宿や小さな聖堂は、どれもいわゆるイタリアらしいものではなくチロル色全開で、可愛いというか、外壁に明るい色で工芸的な人形や花の装飾が施されています。

 

大天使ミカエルの至聖所 Sacra di San Michele

地図:左上紫色のピエモンテ州

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Sacra di San Michele

私はこれでも一応エコロジスト(環境問題を考えできることは実践している)だけれど、別に大自然好きというわけではなく、山や川へ行くよりは聖堂や博物館へ圧倒的に行きたい方なので、モンブランもドロミテ渓谷ももう行く気はない。けれど、ここサン・ミケーレは何度でも喜んで行きます! 素晴らしい!!大好き!!!トリノの至聖所と一直線で結ばれている、というより世界にある大天使聖ミカエルに捧げられた特別な場所(フランスのモン・サンミシェルが有名)は一直線上にあるのですが、中でもここが絶景です。世界中に本訳された、映画やドラマでも有名な「薔薇の名前」の構想の素になった場所ですが、あれを見れば誰でもドラマを書きたくなるような魅力に溢れた場所です。天然の絶景ではなく、こんなにも不便な、高い場所へゴシックの大聖堂を建てた人間に思いをはせられるところが好きです。

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いよいよ聖堂へ!入り口にいる大天使ミカエル

 

映画博物館となった巨大な塔 Mole Antonelliana

左上:紫色ピエモンテ州トリノ

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巨大すぎて近くから上手く撮れないアントネッリアーナ

サン・ミケーレの聖所との関連で紹介するのが、トリノのシンボル、巨大なアントネッリアーナです。今でこそもっと高い建造物がありますが、できた当時は皆があっと驚く高さでした。エッフェル塔、ワシントン記念塔の次、20世紀の三代高層建造物ですが、前の二つと違いただの塔ではなく、これは建築らしい空間を持った建物です。それもそのはず元はユダヤ教の礼拝所となるはずでした。奇抜な天才建築家アレッサンドロ・アントネッリの名から巨大なアントネッリと呼ばれています。現在は世界一高いところにある博物館で国際映画博物館となっていて、映画好きにはとても魅力的な場所です。博物館の上に登ることができ、当然トリノの街が一望できますが、天気が良ければ先に紹介したサン・ミケーレの姿も確認できます。

 

ニョキニョキ謎の影が至る所から伸びる「巨人の洞窟」 Grotta Gigante

地図:右上ピンクのフリウーリ・ヴェネツィア・ジューリア州

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巨人の洞窟のニョキニョキ

日本の鍾乳洞とは桁違いの巨大な鍾乳洞がヨーロッパにはあるのですが、印象的だったのはこのトリエステに近い「巨人の洞窟」と次に紹介するプーリア州のものです。トリエステからローカルバスで行きました。私はなぜか洞窟好きです。山登りより好きかも。洞窟って古代なくせにSF映画みたいでもあって、秘密結社や数世紀に及ぶ秘密の宗教儀式が行われていたりする場所だからか、神秘的なところが好き💓 滅多に来ないバスの時間を確認し、余裕を持って入ったはずが2時間では出られず、途中で特別に一人で歩かせてもらい辛うじてトリエステ行きバスに乗れました。こういうところはどこでもそうですが、本当は一人では歩けません。グループ毎にガイドを兼ねた道案内人についてぞろぞろ歩きます。私は当然イタリア語グループですが英語ガイドも大抵用意されています。トリエステの鍾乳洞は上からポタポタ落ちる水分が何世紀にも渡って、下からニョキニョキ伸びた微妙に気持ち悪い物が異様に沢山あって、それが聖母子像に見えたり、なんとかに見えたりと説明されながら進みます。とにかく底が見えないような深さが印象的でした。写真撮っても近くは撮れても奥深い感じは素人の私には無理で残念です。

 

地下帝国さながらの「カステッラーナの洞窟」Grotte di castellana

地図:右下蜜柑色のプーリア州

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鍾乳洞入り口

ここはヨーロッパで行った最初の大洞窟にして最高の鍾乳洞です。今まで北イタリアばかり書いてきたけれど、いっきに下って南はプーリア州、バーリと有名なアルベロベッロの中間あたりにあります。長年いくらでもただで捨てられる天然のゴミ溜として使われてきたのを、きれいにしたらこんなすごい鍾乳洞でしたっ!という信じられない話。地元民が土地の価値を理解していないというのはよくある話なんだけど、これはその最たる例です。写真は入ってすぐの場所で、ここは撮影していいよーっということでみんな頑張って撮影会。あとはツルツルぬるぬるする暗がりを歩くので、基本的に写真は禁止でした。今は知らない。この入り口の天に開いた穴から漏れる光が素晴らしく、トリエステの洞窟にはない魅力です。1時間か2時間コースを選びイタリア語か英語のグループに分かれて入ります。トリエステの方が深いのにびっくりし、こっちの方が長いのに驚く感じでしょうか。鍾乳洞なんてどれも同じように感じますが、色とか形も違ってまるで湖のような池があったり、本当に幻想的でした。こっちは近くへ行ったらまた行ってもいいかなって感じです。

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Grotte di Castellana

 

お伽話さながらの街々 アルベロベッロ、マルティーナフランカ、ロコロトンド

地図:南、蜜柑色のプーリア州

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アルベロベッロの教会

プーリア州に絵本の風景の中に入ってしまったかのような集落があります。日本ではひたすら「美しい木」という意味の街アルベロベッロ Alberobello だけが知られていますが、実はこの地域一帯にトゥルッリ trulli(一軒だとトゥルッロ)と言われる様式で建てられた家はあります。今やアルベロベッロは観光化され過ぎているのが嫌だという、私のようなひねくれ者はマルティーナフランカ MartinaFrancaロコロトンドLocorotondo のプール付きのトゥルッロに泊まるのもいいでしょう。先に紹介した巨大鍾乳洞カステッラーナグロッタの近くにも点在していますし、ローカル電車で行けばアルベロベッロの隣町などに、とんでもなく可愛い三角屋根の家が見えるはず。あまりに可愛いので写真で見たら行ってみたくなるのは当然です。せっかく尋ねるならばホテルではなくトゥルッロの宿に泊まりましょう。一軒一軒結構違いがあって、中は見てみないと分かりませんが、石組みのそう大きくない部屋には、大抵木の家具が備え付けてあって、お伽話の主人公になったような感覚が味わえます。司教座聖堂は駅に近い新市街にありますが、写真のトゥルッロの教会と昔この区域を納めていた、嫌われ者の地主のお屋敷(村人対策の銃眼がある)を見学するのをお勧めします。トゥルッロ様式では一番大きな立派な建物で、この不思議な建物の歴史などを解説してもらえます。

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アルベロベッロの街並み

一週間でいくつもの街を回ろうというような人は当然泊まれないでしょう。ツアーバスで着いたらお土産物屋へ行ってち〜さな街をちょっと歩き次の街へ、となるのでしょう。でもなんだか悲しい。南部イタリアは、中北部の大都市めぐりと違って、交通手段などずっと限られる上、一つ一つが結構離れているので急ぎの旅には向きません。自然好きな人なら連泊して自転車でも借りて走り回ってみては?最高に気持ちイイから。

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マルティーナフランカの宿は最高に気持ちイイ!

プーリア州は、気候や町の構造、人、聖堂はいうまでもなく私の一番好きな場所です。

洞穴住居、ギリシャ人修道士の洞窟教会 マテーラとサッシ Matera Sassi

地図:南、黄緑色のバジリカータ州

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サッシの洞窟住居

サッシというのは砂粒というような意味で、写真のように、岩肌を掘って作った無数の住居地帯を指して言います。印象と違って歴史はそれほど古くなく、いつ頃から人が住んでいたのか明確には分かりませんが、イタリアの多くの都市が古代に起源を持つのに対してこれは中世以後の新しい歴史ということ。産業革命で発展する世界に取り残され、貧しい人々が穴を掘って、ロバや牛共々一緒に住んでいたのです。危険なので新市街へ越すように行政指導がありましたが、引っ越せない人々も多く一時は本当に悲惨な状況にあったようです。それが近年、旅行の国際的な隆盛や世界遺産登録などで一躍有名になり、幾つかのサッシは夢の宿に変身して、とても印象的な街となりました。

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洞窟の一つから見たマテーラの街

地形は起伏に富んでいて、谷や崖、白い砂っぽい岩肌のあちこちをくり抜いて作られた街ですが、特に高い場所や、行き難い場所には洞窟聖堂があります。聖像破壊運動(イコノクラスム)でビザンチンギリシャ)より逃げてきた東方の修道士たちが、かろうじて命を繋ぐようにして洞窟聖堂で生活していました。彼らの描いた、西洋とは違った装飾的で思弁的なフレスコ が今も所々に残っています。マテーラの街には絶対に泊まりたい。陽光の色の変化、夜の窓に灯る暖かい光、朝が開ける頃の空と白い岩肌の輝きは、大変幻想的です。私は、やはりただ自然が美しいというより、そこで暮らした人の思いが、形となって現われたものが好き。ここは悲しさ、寂しさ、悔しさ、孤独、生活苦と喜びなどを、人の手で掘った無数の穴に感じることができる所です。

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トゥルッリの屋根

今回紹介した場所は、基本的に皆行きにくい場所です。北イタリアの山などは観光ツアーもたくさんあり、現地ではほとんど歩かないでもすみますが、南部では例え車などで当地へ着いたとしても、そこからまた散々歩きます。なのであまり歩けない人にはお勧めしません。それと南部イタリアはまだまだ英語が通じないことが多く、初心者の一人旅などは避けたほうが良いと思います。アルベロベッロにだけは日本人がいるでしょうが、一歩出てしまうとそれなりに語学力が必要です。

 

【旅】イタリア旅計画:入門編

 

対象:イタリアへ行ったことがない人、長旅のできない人へ。

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イタリア州別地図

ローマ(濃いピンク色のラツィオ州) フィレンツェ(藤色のトスカーナ州) ヴェネーツィア(青のヴェーネト州)を一週間から10日で回る旅。

 

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ローマの庶民的人気も高く観光スポットでもあるナヴォナ広場

 

ローマ Roma

かつて古代ローマ帝国の首都であり現在も教皇庁のあるキリスト教の中心地ローマは何がなんでも一番重要。見所は無数にあり何年居ても見尽くせないが最重要な場所は以下。

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ヴァチカン博物館の目玉ラファエッロの間フレスコ

ヴァチカン市国とその博物館 Citta del Vaticano con Musei Vaticani 聖堂クーポラ(大ドーム)へ登ったり、地下墓地を尋ねれば世界一の博物館と合わせて丸一日は十分かかる。博物館には西洋美術史上最も有名なラッファエッロの「アテネの学童」、ミケランジェロの涙が出るほど美しい「ピエタ」、ベルニーニの天才が発揮された聖堂や彫刻が目白押し。

古代遺跡群はローマをぐるぐる歩けば、至る所で目にすることができるが、まとまっているのはカピトリーノ博物館 Musei Capitolini。古代ローマの恐ろしさが良くも悪くも堪能できる。

大天使城とその橋 Castel Sant'Angelo 古代ローマ皇帝の巨大墳墓に端を発し、教皇の隠れ家、牢獄など時代と共に変化しながら変化した要塞。今は博物館で、素晴らしい眺望のカフェもある。

コロッセーオと凱旋門 Colosseo , Arco trionfale ローマを訪れてこれを見ないのはあり得ないのが凱旋門と並んで建つコロッセーオ。遺跡好きならその横には広大なフォロ・ロマーノが広がっている。

 

ローマは道や町が大きいだけでなく、世界で最も重要な建造物や記念碑、芸術作品が凝縮している。上記三つだけで疲れ切るはず。食事は、観光客向けの店は最悪。

 

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サンタ・マリア・デル・フィオーレ司教座聖堂ファサード

フィレンツェ Firenze

ルネサンス発祥の地フィレンツェは、日本人に最も愛される街でもある。ローマほど巨大ではなく、町中に素晴らしい聖堂や博物館、美術館があるので比較的疲れない。総合的なフィレンツェカードはお勧めしない。大急ぎで回りきらなければ損。日程と体力にあわせて見られる分だけ購入する事。

 

花の聖母聖堂と大聖堂博物館 Santa Maria del Fiore, Musei dell'opera del Duomo ルネサンスを象徴する司教座聖堂のクーポラ(巨大ドーム)は、大聖堂横の大聖堂博物館から目の当たりにできる。聖堂内は、博物館にほぼ全ての美術品が運び出されがらんとしているので、何時間も待って入場する必要なはい。博物館は圧巻で、美術愛好家なら卒倒しそうなほど。

ジオットの塔 Torre di Giotto とにかく高いところが好きなら登ったらいい。この塔は外観の彫刻が美術史上極めて重要なので、外から眺めるだけでもいいし、高いところ好きなら隣の大聖堂のクーポラに登る方が面白い。

洗礼堂 Battistero di San Giovanni 大聖堂や塔より、歴史的美術的によほど価値があるのが、大聖堂の目の前にある洗礼堂。世界一有名な扉(ミケランジェロが「天国の門」と呼んだ)はオリジナルが大聖堂美術館にある。天井モザイクが素晴らしく、最後の審判の地獄絵図が大迫力。修復されたばかりなので一番の見頃。

この三つは固まっているので時間がなければこれだけ観る。

 

観光客用のお土産屋やレストランが無数にあるが、高い不味いので、できれば川向こうなど少し離れると、ずっと良いお店に出会える。

 

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Brano di Venezia ブラーノ島

ヴェネーツィア Venezia

ヴェネーツィアはその土地の特殊性もあり昔から外国人の憧れの街だったので、世界大戦が終わった後世界一裕福だったアメリカ人たちがこぞってやって来た。ヴェネツィアを舞台とした白黒の古典的な映画などたくさんある。『旅情』『夏の嵐』『ベニスに死す』が代表的なところ。近年は気候変動や町の構造の問題で、島ごと海に沈みそうなため、いつまで観光可能か心配なこともあり、沈む前に行く価値はあり。観光には素晴らしい海のある街を好む傾向の強いイタリア人には、一般に人気の無い場所なので、街にいる外国人率は驚くほど高い。ヴェネツィア埋立地で街中を運河が流れているため、移動が非常に不便。目の前にある建物でも、運河に阻まれ、定期便の水上バスを使うか観光ゴンドラなどに乗って移動するので、町の大きさに比較し時間がかかる。

 

聖マルコ大聖堂と博物館 San Marco con tesori 問題なく一番外せない建造物は、西洋における最大のビザンチン様式聖堂の一つサン・マルコ。「ヴェニスの商人」ならずともうんざりする程ヴェネツィアではいちいちお金がかかり、大聖堂もいくつもの部分に分かれて支払う仕組みになっている。歴史や美術に特別な関心が負ければ、飛ばしてもいいのかもしれないが、私にとってはそれはあまりにも勿体無い。東ローマ(ビザンチン)帝国陥落を思い出す様々な略奪品が展示されている。モザイクを間近にみられる博物館やファサードの上から海や運河が眺められ、気分も上がるはず。

 

ブラーノ島 特に美術に関心がなければ、ティントレットやティツィアーノなどヴェネティア派の巨匠の作品を見に行くより、船に乗って島を訪ねるのがお勧め。最大でも2時間ほどで多くの島へ行ける。あまりにも有名なヴェネツィアン・グラスの工房があるムラーノ島もあるが、私はレース博物館のあるより小さなブラーノ島が好きだ。ひなびた漁村だった島は、漁師たちが自分の家を見分けるためにカラフルに好きな色に塗ったと言われていて、本当に可愛い。大変小さいので歩いて島中を巡ることができる。観光客でごった返す(コロナがなければ、島が沈みそうなほど混んでいる)本土と違って、地元の人が使う海沿いの食堂で、時間を忘れてワインを傾けてみたらどう?

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サン・ピエトロ大聖堂大ドームから見たヴァチカン博物館

一週間から十日もあるのにたった3都市だけ?と思う人がいるかもしれない。イタリアは世界文化遺産圧倒的第一位の国で、フランスやスペインを凌駕している。中でもローマは世界中の町の中でも、唯一の特別な存在だ。たった一つの聖堂や博物館を見るだけで、次から次へ怒涛の如く現れる恐るべき質の高い美術作品にヘトヘトになる。しかもパリのルーブルやロンドンのナショナルギャラリーと違って、それらは本来そこにあるものが基本となっている。寄せ集めではなく本物なのだ。

 

先に見るものリストを作り、それをチェックしながら駆け足で訪ねるより、気に入った聖堂や作品、風景を前に自らの感受性に意識を集中して欲しい。ヴェネツィア以外、歩ける人は徒歩で、経済的に余裕のある体力に自信のない人は車でどうぞ。

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暖かい時期には音楽イベントがいっぱい

美術館や聖堂、風景を楽しむためにも無理しないで回って欲しいから、午前中一つの美術館、数時間リラックスできる素敵なレストラン、午後遅めにまた聖堂や博物館、そして忘れてならないのは夜の町歩き。しっかりした昼食だったなら、ワインかビール(最近はイタリアのビールも美味しい)と小皿をいくつかを、気持ちの良いレストランや居酒屋で過ごす。夜になると湧いて出てくる町の人々を眺めながら、完璧な1日が過ぎゆく。時にはお洒落して歴史建造物でのアリアやコンサートに行ってみる。こんな旅が私のお勧めです。

【旅】イタリア全土旅計画色々

このところずっと更新していなかったので、心配されたりブログを更新してほしい(楽しみに待ってます)と言ってもらえたりしたので更新してみます。

 

私は全てのイタリアの州を旅しました。と言っても唯一カラーブリア(水色)には宿泊したことがありません。コロナが開けたら泊まって、完全制覇したいと思っています。私は西洋美術、特に中世ルネサンスが専門なので、目的は主に美術と聖堂巡りです。

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イタリア州別地図

仕事上、イタリアへ旅したことのある人とは大勢会ってきました。旅の仕方は、個人の好みに合わせて様々です。コロナが開けたら旅へ行きたい、ヨーロッパへ行きたい、もちろんイタリアへ行きたい、と考えている人へ向けて、対象別の計画を記したいと思います。

 

対象別とは

1)好みの違い(サッカー、料理、ショッピングなどに特別な関心があるなど)

2)取れる時間の違い(休みが一週間しかとれない人と、ゆったり1ヶ月回れる人など)

3)経済力の違い(有名高級ホテルに連泊するか巡礼宿やユースホステル、車をチャーターするか公の交通機関だけで行くかなど)

4)語学力の差(全く語学ができない人とイタリア語ができる人では、旅でできることが全然変わる。多少の英語ができるのも、また違う、など)

5)知識の差(イタリア史、世界史、西洋美術史などの知識があるかないか)

6)経験値(初めての人、何度も行っている人との差)

 

などを踏まえて、自分はどういう旅があっているかを考えてみてください。上記の違いで旅計画を提案します。

 

【入門】言葉ができず(といっても、ツアーに参加しないなら最低の旅英語ぐらいは勉強して行きましょう。)初めてイタリアへ行く、それほど時間もお金もかけられない人。広く浅く有名どころを押さえたい人へ。

 

【初級】ツアーでざっと回ったことがある。本の少しは旅語学ができるような人へ。

 

【中級】数回行ったことがありローマ、フィレンツェヴェネツィア以外へ行ってみたい人へ。

 

【個人旅行】旅会話はでき、一人旅に慣れていて、ツアーには無い場所へ行ってみたい人へ。

 

【ロマネスクの旅】中世初期の面影の強い場所を厳選。上級者向け。

 

【ゴシックの旅】中世盛期ゴシック美術を鑑賞する旅。

 

ルネサンスの旅】ルネサンス芸術に関連の深いところばかりの旅。

 

バロックの旅】バロック芸術に圧倒される旅。

 

【趣味の旅】特別な趣味がある人(食通、サッカー目当て、ファッションや買い物にしか興味が無い、など)は、ひたすら目的の場所へ直行する旅。

 

などのように紹介します。楽しみにしてね💓

【イタリア語】単語帳と元生徒シェフのレストラン

コロナのおかげでラインビデオ授業を始めたら、大学生の生徒ができました。始めたばかりだけれど、すぐ覚えるので教えがいがあります。普段はほとんど大人に教えています。高齢でもできるようになる人もいて、そう言う人は心から尊敬するしとても嬉しいんだけれども、それとはまた別の喜びです。で、今日授業したらお勧めの単語帳がないか聞かれました。英語と違ってイタリア語は種類も少ないし値段も高いので、そんなに選べません。必要なら手に入るのを買ってください。英語がかなりできる人は、伊英の方がずっと経済的でいろいろありますし、スペイン語やフランス語などができる人なら、すごく楽なので伊西や伊仏辞書の方がむしろいいと思います。ネットで良いのがないか探したのですが、私は気に入ったのを見つけられませんでした。一応無料イタリア語単語集を紹介します。ま、もともと一言で覚えるのが無理ですが、訳には結構気になるところがありましたが、本で勉強した後に、思い出すためや発音の助けにはなると思います。

https://play.google.com/store/apps/details?id=net.languagecourse.vt.it&hl=ja

 

だいたいイタリア語って英語のように、実用的に役に立つわけではないので、それじゃどうして勉強するかといえば

1)とにかくイタリアが好き【旅、人】

2)西洋美術が大好き【美術】

3)オペラやナポレターナ(カンツォーネ)が大好き【音楽】

4)サッカーが大好き【スポーツ】

5)イタリア料理が大好き【料理】

て感じでしょうか。

人数は少ないけれど、こだわりのある人なら自転車や車なども有名だし、バレーボールやバスケも弱くありません。それに歴史的にはイタリア映画は非常に重要で、大監督や大俳優を輩出しています。人数的には圧倒的に多い料理好きですが、残念ながら料理好きかつ勉強好きの人にはあまり会ったことがありません。料理人には10人以上教えましたが、本気で勉強した人はほぼ一人です。彼は今結婚式やイベントなどもするレストランのシェフなので紹介します。

 https://www.sentir-sensyukoen.com/murivecchi/

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Osteria i Muri Vecchi

オステリアムーリヴェッキで検索してもらえればインスタ とかFBとか、当然携帯用のサイトもあります。秋田で東京じゃないのでなかなか行けませんが、以前銀座でシェフをやっていた時はとても美味しくて経済的でした。銀座のレストランはヴェネツィア風の行きやすいレストランでしたが、今働いているところはドレスの展示会などするようなところです。彼は前菜が得意って印象を勝手に持っています。

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Osteria i Muri Vecchi

 Kazuo Yanataで探すとFBやインスタで彼が出てきます。料理のことならなんでも聞いてくださいって、生徒さんにも答えますって言ってくれてる。それが恩返しなんだって、嬉しい💖 彼はずっとイタリア語を使いながら仕事をしています。イタリア料理のシェフなんだから当たり前ですが、イタリア人と働くことも多いし、そういう時には言葉ができたら全然違うのは当たり前。

  

話は戻ってやっぱり本格的な単語帳は、やめようかと思います。学生のためにちょっとその気になったけど、すごく時間がかかるし、なんでも勉強しようと思えばまず今手に入る単語帳(本は必須。ネットは助けに)で2000単語ぐらい覚えましょう。それだけでくじけているようでは結局できるようにはなりません。世界中のあらゆる言語の最低会話に必須な単語の数が2000から2500なんだから。と言いつつもちょこっとづつ、私なりの分け方で、単語を集めて書いてみようとは思っています。

 

うちには昨日アベのマスクがきたんだけど、やっとコロナも開けてきたみたいだし、秋田駅の近くの人たち行って見て。ディナーでも五千円でお釣りがくる🍝🍷

【イタリア語・美術】ire 動詞:聞き感じるロマネスクのバルガ

直接法現在の動詞の最後の変化です。

前にire 動詞の第二変化をやったのでここでは第一変化。

より簡単な are  ere と同じ変化の仕方です。

 

原型 sentire センティーレ 聞く、聞こえる、感じる、など

io sento セント

tu senti センティ

lui/ lei sente センテ

noi sentiamo センティアーモ

voi sentite センティー

loro sentono セントノ

 

全ての動詞は二つの部位からできてます。

意味を持つ頭の部分と、人称(主語)を表す後ろの部分です。

後ろの赤字部分を切り落とし、主語によって入れ替えれば文章ができます。

この変化には aprire (open), partire(発つ)などがありますが多くはありません。

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Barga

Domani parto per Barga 明日私はバルがへ発ちます
partire はほぼ出発すると言う意味で使うので簡単ですが、sentire は内容が日本人には難しい言葉だと思います。英語で初めて hear を知ったときに、発音と文字の関係も難しいですが、物音を「聞く」のも、人の話をよく「聞く」のも、伝聞として「〜だそうだ。〜と聞いている」と言うもの、そこから派生して「便りをもらう、消息、噂を知る」なども皆一緒で、ときには「叱られる、罰せられる」とかまで内容に幅があるのに驚きました。今と違ってなかなか受け入れ難かったです。sentireは英語のhearの意味と似たような意味に、英語のfeel「感じる」と言う意味が加わるので、さらに幅広くなります。その上他動詞と自動詞、再帰動詞があります。他動詞から。

 

肉体的に「感じる」と言う意味で

Sento fresco a Barga 私はバルがでは新鮮な空気(涼しく)を感じる

Senti freddo / caldo ? 君は寒いの・暑いの?

Sentiamo un profumo dell'aria di campagna! 
田舎の芳しい空気を感じよう(わ〜!良い空気だね〜!)

Sentite sete/ fame ? 君たちは乾き・空腹を感じるか
(あなたたち、喉が乾いたの?お腹がすいたの?)

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Barga

「聞く」と言う意味で

Senti! 聞いて(命令法)

Abbiamo sentito la notizia del Salvatore
我々は救世主のお告げを聞いた

Sentite che cosa ne penso io
お前たち、私がどう考えているか聞くが良い

写真はトスカーナの素晴らしい村バルガと、その大聖堂です。バルガは大変小さいですが、私にとっては大好きな村の一つで何度も訪ねています。住む勇気はありませんが、いつでも喜んで行きたい場所です。山々に囲まれた丘には典型的なロマネスク聖堂があり、中にはこれぞロマネスクと言わんばかりの説教壇と守護聖人の巨大な木彫像があります。質の高い彫刻家による大理石の説教壇には、救世主イエスの誕生の場面が描かれています。星に導かれ(馬に乗った二人の頭上にあるのが星)、聖母子のもとへ向かう三賢人です。右の年長の賢人はもう聖母へお参りしています。彼らはヘロデ王に、幼子を見つけたら報告するように言われていましたが、胸騒ぎがしたのでヘロデの宮殿へは帰りませんでした。

 

感情、感覚的に「感じる」

I tre magi hanno sentito paura 
三賢人は恐れを感じた

Hanno sentito la simpatia per Madonna col bambino

彼らは聖母子に親愛の情を感じた

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San Cristoforo

Senti il bello di romanico?
君にはロマネスクの「美」が感じられるか(分かる)

 

文句の付け所のない木彫蔵は聖クリストフォロスです。肩の上の小〜さなイエスが愛らしく、同時に威厳に満ちているのが中世ならでは。これがルネサンスとかなると普通の子供になっちゃうのですが、ロマネスクやビザンチン様式のイエスはどんなに小さくても王の威厳があります。足元の青い波は川の表現。クリストフォロスはお年寄りや子供などが川を渡るのを助けていたのです。手にした棍棒もいい感じです。丈夫な杖は巡礼の必需品で、巡礼者を渡していたのが分かります。ある時子供を背負ったはずなのに、川の真ん中でどんどん重くなっていきクリストフォロスは流されそうになりますが、身を呈して子供を守ると実はそれがイエスだった。と言うお話。中世らしい物語で、お釈迦様のお話などと共通点があります。ここでは貴族の装束を付けていて、これもロマネスクならではです。

 

Cristoforo ha sentito strano

クリストーフォロは変だと感じた

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Crocifissione

次は自動詞としての使い方

 

Lui non sente

彼には(耳が)聞こえない

il vino sente di aceto

そのワインは酸っぱい感じがする(味がする)

Chi non sente non comprende a fondo l'arte

感性が豊かでない者は芸術を深く理解できない

小学館伊和中辞典より)

 

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Barga

再帰動詞

Mi sento depresso con corona virus

(私は)コロナのおかげで気分が憂鬱です

ma mi sento bene vedendo le foto di Barga

しかし(私は)バルガの写真を見ると気分が良くなります

 

他動詞

Maria ha sentito svenire con l'arcangelo Gabriele

マリアは大天使ガブリエルのために気が遠くなりました

Maria e Giuseppe sentono di amare il loro bambino

マリアとヨセフは彼らの幼子を愛していると感じています

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Gesu` Bambino

さっきは三賢人でしたが、これはその前の場面。

Annunciazione 受胎告知(右)に引き続き、ベッドで休む Santa Maria マリアを気遣う San Giuseppe ヨセフ、よく見ると馬と牛がグルグル巻きになったイエスを覗き込んでいたり、女たちが体を洗ったりしています。生まれたてなのに堂々と仁王立ちになっているところもブッダを連想させますね。説教壇の一面に三つの場面が、枠を使うことなく描かれています。構図や威厳のある表情、彫りの確かさなど、素晴らしい芸術です。

 

これで動詞の基本変化は終わりです。sentire を使って、懐かしいバルガに思いを馳せました。

Mi sento la mancanza di te, Italia con la bellezza

美しいイタリア、貴方がいなくて寂しい

 

 

西洋美術、イタリアの旅、読書が大好きな貴方へ、中世西洋美術研究者SSが思う事いろいろ