天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【旅】イタリア旅計画:絶景、珍しい景観を体に感じる

対象:とにかく景色を楽しみたい人へ!

基本的に辺鄙な場所にあるので、お金と時間に多少余裕のある人向き

言葉は中〜上級者か、できないならば旅行社を使うなどして下さい

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イタリア州別地図

イタリアとフランスをまたぐモンブラン MonteBianco

地図:左上、灰色アオスタ渓谷州の上端

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イタリア語ではモンテビアンコ

アルプス連峰中最高峰のモンブラン。日本ではなぜかケーキの名前だけど、当然山が元。頂上へ登ると、イタリアとフランスの両方をまたぐことができる。フランス側のシャモニーから登るのと、イタリア側のクールマイヨール(この名前自体が既にフランス語だけど)から行くのでは印象が全然違う。そこに山があるから登ってしまうような人と私は非常に縁遠いので、ペトラルカや両親が感動していなければ行かなかったと思うし、朝が弱いのに頑張って早起きして行ったのに、残念ながらガスってしまって地表が見えなかったのでもう行かなくていい。あまりにも有名な山だし、自然好きな人は、雲の状況を見て早起きして行って下さい。アオスタやクールマイヨールなど近隣の町には当然のように、山の雲予報が出ています。普通は全く問題無く最高の気分で登れますが、飛行機で耳が痛くなるような人は、写真の超高速ロープーウェイに注意が必要。下界は真夏で暑くても上はめっちゃ寒いから着る物や、日本人は普通かけないサングラスも絶対あった方がいいと思う。やる気のある人には、トレッキングコースなどもあり。

 

迫力のドロミテ渓谷 Dolomiti

地図:上、黄色いトレンティーノ・アルト・アーディジェ州

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Dolomiti

ドロミテ渓谷は文化遺産の多いイタリアにして自然遺産登録されている地域です。アルプスはフランス側の国境ですが、ここはイタリア内でオーストリアより。アルプスやモンブラン程有名ではないけど、登山やトレッキング、バイカーや自転車好きにはたまらない地域です。私が訪れた時にはヴェスパ軍団が、エンジン全開で頑張っていたのが面白かったし、山小屋では普通に、鳥や動物が放し飼いにされていてアルプスの少女ハイジになった気分でした。写真では凄さがなかなか伝えられないのですが、岩肌の感じでしょうか、非常に迫力のある、日本の山とは全然違った景色です。周囲にある宿や小さな聖堂は、どれもいわゆるイタリアらしいものではなくチロル色全開で、可愛いというか、外壁に明るい色で工芸的な人形や花の装飾が施されています。

 

大天使ミカエルの至聖所 Sacra di San Michele

地図:左上紫色のピエモンテ州

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Sacra di San Michele

私はこれでも一応エコロジスト(環境問題を考えできることは実践している)だけれど、別に大自然好きというわけではなく、山や川へ行くよりは聖堂や博物館へ圧倒的に行きたい方なので、モンブランもドロミテ渓谷ももう行く気はない。けれど、ここサン・ミケーレは何度でも喜んで行きます! 素晴らしい!!大好き!!!トリノの至聖所と一直線で結ばれている、というより世界にある大天使聖ミカエルに捧げられた特別な場所(フランスのモン・サンミシェルが有名)は一直線上にあるのですが、中でもここが絶景です。世界中に本訳された、映画やドラマでも有名な「薔薇の名前」の構想の素になった場所ですが、あれを見れば誰でもドラマを書きたくなるような魅力に溢れた場所です。天然の絶景ではなく、こんなにも不便な、高い場所へゴシックの大聖堂を建てた人間に思いをはせられるところが好きです。

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いよいよ聖堂へ!入り口にいる大天使ミカエル

 

映画博物館となった巨大な塔 Mole Antonelliana

左上:紫色ピエモンテ州トリノ

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巨大すぎて近くから上手く撮れないアントネッリアーナ

サン・ミケーレの聖所との関連で紹介するのが、トリノのシンボル、巨大なアントネッリアーナです。今でこそもっと高い建造物がありますが、できた当時は皆があっと驚く高さでした。エッフェル塔、ワシントン記念塔の次、20世紀の三代高層建造物ですが、前の二つと違いただの塔ではなく、これは建築らしい空間を持った建物です。それもそのはず元はユダヤ教の礼拝所となるはずでした。奇抜な天才建築家アレッサンドロ・アントネッリの名から巨大なアントネッリと呼ばれています。現在は世界一高いところにある博物館で国際映画博物館となっていて、映画好きにはとても魅力的な場所です。博物館の上に登ることができ、当然トリノの街が一望できますが、天気が良ければ先に紹介したサン・ミケーレの姿も確認できます。

 

ニョキニョキ謎の影が至る所から伸びる「巨人の洞窟」 Grotta Gigante

地図:右上ピンクのフリウーリ・ヴェネツィア・ジューリア州

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巨人の洞窟のニョキニョキ

日本の鍾乳洞とは桁違いの巨大な鍾乳洞がヨーロッパにはあるのですが、印象的だったのはこのトリエステに近い「巨人の洞窟」と次に紹介するプーリア州のものです。トリエステからローカルバスで行きました。私はなぜか洞窟好きです。山登りより好きかも。洞窟って古代なくせにSF映画みたいでもあって、秘密結社や数世紀に及ぶ秘密の宗教儀式が行われていたりする場所だからか、神秘的なところが好き💓 滅多に来ないバスの時間を確認し、余裕を持って入ったはずが2時間では出られず、途中で特別に一人で歩かせてもらい辛うじてトリエステ行きバスに乗れました。こういうところはどこでもそうですが、本当は一人では歩けません。グループ毎にガイドを兼ねた道案内人についてぞろぞろ歩きます。私は当然イタリア語グループですが英語ガイドも大抵用意されています。トリエステの鍾乳洞は上からポタポタ落ちる水分が何世紀にも渡って、下からニョキニョキ伸びた微妙に気持ち悪い物が異様に沢山あって、それが聖母子像に見えたり、なんとかに見えたりと説明されながら進みます。とにかく底が見えないような深さが印象的でした。写真撮っても近くは撮れても奥深い感じは素人の私には無理で残念です。

 

地下帝国さながらの「カステッラーナの洞窟」Grotte di castellana

地図:右下蜜柑色のプーリア州

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鍾乳洞入り口

ここはヨーロッパで行った最初の大洞窟にして最高の鍾乳洞です。今まで北イタリアばかり書いてきたけれど、いっきに下って南はプーリア州、バーリと有名なアルベロベッロの中間あたりにあります。長年いくらでもただで捨てられる天然のゴミ溜として使われてきたのを、きれいにしたらこんなすごい鍾乳洞でしたっ!という信じられない話。地元民が土地の価値を理解していないというのはよくある話なんだけど、これはその最たる例です。写真は入ってすぐの場所で、ここは撮影していいよーっということでみんな頑張って撮影会。あとはツルツルぬるぬるする暗がりを歩くので、基本的に写真は禁止でした。今は知らない。この入り口の天に開いた穴から漏れる光が素晴らしく、トリエステの洞窟にはない魅力です。1時間か2時間コースを選びイタリア語か英語のグループに分かれて入ります。トリエステの方が深いのにびっくりし、こっちの方が長いのに驚く感じでしょうか。鍾乳洞なんてどれも同じように感じますが、色とか形も違ってまるで湖のような池があったり、本当に幻想的でした。こっちは近くへ行ったらまた行ってもいいかなって感じです。

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Grotte di Castellana

 

お伽話さながらの街々 アルベロベッロ、マルティーナフランカ、ロコロトンド

地図:南、蜜柑色のプーリア州

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アルベロベッロの教会

プーリア州に絵本の風景の中に入ってしまったかのような集落があります。日本ではひたすら「美しい木」という意味の街アルベロベッロ Alberobello だけが知られていますが、実はこの地域一帯にトゥルッリ trulli(一軒だとトゥルッロ)と言われる様式で建てられた家はあります。今やアルベロベッロは観光化され過ぎているのが嫌だという、私のようなひねくれ者はマルティーナフランカ MartinaFrancaロコロトンドLocorotondo のプール付きのトゥルッロに泊まるのもいいでしょう。先に紹介した巨大鍾乳洞カステッラーナグロッタの近くにも点在していますし、ローカル電車で行けばアルベロベッロの隣町などに、とんでもなく可愛い三角屋根の家が見えるはず。あまりに可愛いので写真で見たら行ってみたくなるのは当然です。せっかく尋ねるならばホテルではなくトゥルッロの宿に泊まりましょう。一軒一軒結構違いがあって、中は見てみないと分かりませんが、石組みのそう大きくない部屋には、大抵木の家具が備え付けてあって、お伽話の主人公になったような感覚が味わえます。司教座聖堂は駅に近い新市街にありますが、写真のトゥルッロの教会と昔この区域を納めていた、嫌われ者の地主のお屋敷(村人対策の銃眼がある)を見学するのをお勧めします。トゥルッロ様式では一番大きな立派な建物で、この不思議な建物の歴史などを解説してもらえます。

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アルベロベッロの街並み

一週間でいくつもの街を回ろうというような人は当然泊まれないでしょう。ツアーバスで着いたらお土産物屋へ行ってち〜さな街をちょっと歩き次の街へ、となるのでしょう。でもなんだか悲しい。南部イタリアは、中北部の大都市めぐりと違って、交通手段などずっと限られる上、一つ一つが結構離れているので急ぎの旅には向きません。自然好きな人なら連泊して自転車でも借りて走り回ってみては?最高に気持ちイイから。

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マルティーナフランカの宿は最高に気持ちイイ!

プーリア州は、気候や町の構造、人、聖堂はいうまでもなく私の一番好きな場所です。

洞穴住居、ギリシャ人修道士の洞窟教会 マテーラとサッシ Matera Sassi

地図:南、黄緑色のバジリカータ州

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サッシの洞窟住居

サッシというのは砂粒というような意味で、写真のように、岩肌を掘って作った無数の住居地帯を指して言います。印象と違って歴史はそれほど古くなく、いつ頃から人が住んでいたのか明確には分かりませんが、イタリアの多くの都市が古代に起源を持つのに対してこれは中世以後の新しい歴史ということ。産業革命で発展する世界に取り残され、貧しい人々が穴を掘って、ロバや牛共々一緒に住んでいたのです。危険なので新市街へ越すように行政指導がありましたが、引っ越せない人々も多く一時は本当に悲惨な状況にあったようです。それが近年、旅行の国際的な隆盛や世界遺産登録などで一躍有名になり、幾つかのサッシは夢の宿に変身して、とても印象的な街となりました。

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洞窟の一つから見たマテーラの街

地形は起伏に富んでいて、谷や崖、白い砂っぽい岩肌のあちこちをくり抜いて作られた街ですが、特に高い場所や、行き難い場所には洞窟聖堂があります。聖像破壊運動(イコノクラスム)でビザンチンギリシャ)より逃げてきた東方の修道士たちが、かろうじて命を繋ぐようにして洞窟聖堂で生活していました。彼らの描いた、西洋とは違った装飾的で思弁的なフレスコ が今も所々に残っています。マテーラの街には絶対に泊まりたい。陽光の色の変化、夜の窓に灯る暖かい光、朝が開ける頃の空と白い岩肌の輝きは、大変幻想的です。私は、やはりただ自然が美しいというより、そこで暮らした人の思いが、形となって現われたものが好き。ここは悲しさ、寂しさ、悔しさ、孤独、生活苦と喜びなどを、人の手で掘った無数の穴に感じることができる所です。

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トゥルッリの屋根

今回紹介した場所は、基本的に皆行きにくい場所です。北イタリアの山などは観光ツアーもたくさんあり、現地ではほとんど歩かないでもすみますが、南部では例え車などで当地へ着いたとしても、そこからまた散々歩きます。なのであまり歩けない人にはお勧めしません。それと南部イタリアはまだまだ英語が通じないことが多く、初心者の一人旅などは避けたほうが良いと思います。アルベロベッロにだけは日本人がいるでしょうが、一歩出てしまうとそれなりに語学力が必要です。

 

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