イタリアへ行く時の最大の目標は聖堂なんだけれど、もちろん美術館博物館もそれに劣らず楽しみにしていて、必ずできる限り時間をとります。で必ず何かしらそこのものを入手。お土産コーナーがある場合はいいけれど、無い時はパンフレットとかなんでも。写真は当然。 イタリアの歴史中央地区は壮大な由緒ある建造物で作られているので、博物館や美術館も多くはそういった建造物を利用しています。今日はローマの国立近代美術館で買ったお土産から。
ローマと言えば世界に冠たる古代ローマの栄光と教皇庁のバロック美術が圧倒的。特に美術に関心のない人は「ローマの休日」初め映画の撮影場所を訪れたり、郊外のサッカー場へ行ったり。だからモダンアート(近代美術)館なんて、写真のように立派な建物なのにいつ行ってもガラガラです。広大なボルゲーゼ公園の中にあって丘から見下ろせる広々とした良いとこなんだけどサ。
普通Tシャツって部分印刷だけどこれはウルトラ全面印刷。作品ではなく美術家の名前がグニョ〜っと、ジンクホワイト(青みがかった真っ白)ではなくアイボリー(自然に黄味がかった象牙色)に彩度の低い(渋い)色で表されています。文字の大小は多分作家の知名度、重要度なんだと思う。当時は体重が40キロそこそこだったからブッカブッカにも関わらずこれを選んだ理由、それは文字の大きさから、思っていた美術家の評価がかなり違ったから。イタリアではこういう風に考えられているのかと思い印象深かった。
美術家を完全に私の好みで一言紹介します。絵の下には名前、生年、誕生地が記されていて、作品の制作年代ではありません。
●最大級の扱いは未来派を代表するバッラと素朴派に転向したカッラー。
Giacomo Balla
思い切りが良くシャープで時に笑える、これぞイタリア人のバッラ。授業でも紹介するほど好きです。
Carlo Carra`
この「ローマの松」というシリーズは、カルロが未来派や形而上派を経験し素朴派に落ち着いた初期の作品で私も大好きです。これを観たくてアオスタの展覧会へ行きました。
●次に大きい文字
Lucio Fontana
美術とは何か、絵画とは何か?という現代美術の疑問を考えさせる作家の内、最も美しい色彩と形状を実現させる。「美」が感性そのものであることを実感させてくれるフォンターナ。💖
Umberto Boccioni
東京は九段のイタリア文化会館入り口にはこの作品のシルエットが。アーティゾンと改名した元ブリジストン美術館にはこの小品があります。私は彼の絵の方が好きですが。
●大きい文字
Giorgio Morandi
日本では美術史の岡田温司先生が愛し、利益を度外視して何冊も本を出しています。私は、観ると寂しくてたまらなくなるので、逃げいています。
Giorgio De Chirico
キリコは世界的にかなり有名です。形而上学派を立ち上げ、カッラーなど世界で多くの芸術家に影響を与えましたが、結局彼ほど面白い作品を作った人はいないし、自分でもそれを超えられず、晩年は若い頃の作品の焼き直しを作りました。どこか懐かしく、物語性があって子供の頃ハマり、模写もしました。
Emilio Vedova
アクションペインティングって苦手
Filippo De Pisis
父もこんな絵を描いてた。昭和初期の油絵って感じ。
Giulio Turcato
晩年のマチスとは違うけど、デザイン的で明るくて結構好き。
Ettore Colla
未来派のカッコ良さ。すっきりした抽象彫刻。
Marcel Duchanp
現代美術がめちゃくちゃになった張本人というか革命家というか。トイレを置き直しただけのこの作品を知らない人は、間違いなく美術史の本を読んだことがない。
Antoni Tapies
タピエスも現代美術の大スターだったけど、私には分からない。
Jackson Pollock
アクションペインティングを大流行させた人。嫌い。
Jannis Kounellis
インスタレーションは美大時代に結構やりました。イタリアのアルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)運動の延長上にある。彼の作品は、空間全体(インスタレーション)なんだけど、全体的には汚れたような煤けたような地味な色彩で構成されるのに、統一感があり美しい。「醜の美」という考え方を好む人とは感覚が合わない私だけれど、彼はコンテンポラリー・アート、コンセプチュアル・アートを美術だと感じせせてくれる、非常に数少ない巨匠だと思う。素材の質感と空間の扱い方がかっこいいギリシャ人。
●中くらいの文字の人たち
Arturo Martini
神話や宗教を感じさせる内容で、素朴な雰囲気を保ちつつすごくプロっぽい仕事。
Carla Accardi
このTシャツで唯一の女性画家。女性の得意分野であるテキスタイル系の仕事が綺麗。
Marino Marini
ひたすら元気いっぱいの馬と少年で大成功した。フィレンツェには彼の美術館もある。
Alighiero Boetti
日常的な素材で制作するアルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)運動は1970年代に始まる。彼はそのメンバーでコンセプチュアルアートの思想家。エコ(環境問題)活動が一般化した現在、アルテ・ポーヴェラは世界中の若い美術家にも影響を与えていて、中には日本人もいる。コンセプチュアルアートは文字通り、「コンセプト」が優先され「造形」が後回しになる場合が多く、そうなると私には美術とは思えない。美術と感じさせる作品もあるが、彼の場合はデザインに近い。
Telemaco Signorini
絵も描けない美術家が多い中、画家らしい画家。イタリアの日常生活を穏やかに美しく切り取るのが得意。こんな絵が飾れたらどんなに良いかという絵がたくさんある。
Francesco Hayez
絵筆を手に生まれてきたような人。「接吻」はあまりにも有名。
Tommaso Minardi
下手くそなラッファエッロかと思うような宗教画や古代に取材したロマン派の画家。
Pietro Tenerani
カノーヴァが代表する「冷たいエロス」風な新古典主義の彫刻家。神話のプシュケーはかなり知られている。大理石の産地カッラーラならでは。
Giovanni Segantini
雄大な自然の中に暮らす民衆を威厳を持って描く画家。上野の西洋美術館も所蔵している。本来は私の好みではないんだけれど、有無を言わせぬ力強さがあっていつも見惚れてしまう。この遠くにゴシック聖堂の見える絵は、ガリラヤ湖に浮かぶ聖家族(庶民の父母と幼児イエス)に羊飼いを連想させる。
Giuseppe Pellizza Da Volpedo
歴史上の社会運動をリアルタイムで捉えたこの大作は、非常に心に残りました。平等を求める労働者たちの権利を素直に描き出しています。点描法のような練られた技法が、画面に静かな熱意をもたらしているように感じました。
Giovanni Dupre
古代神話やキリスト教の主題、お墓のモニュメントなど。ウッフィーツィ美術館の英雄の回廊にあるジオットと聖アントニーノは彼の作品。カノーヴァ以後「冷たいエロス」が大流行し、その延長線上にあると思われます。カノーヴァの作品をよりリアルにした感があって、リアルな分エロティックな印象が強まります。特に彼は古代ローマで流行ったエンデュミオンが気に入ったらしく眠る彫刻が得意。エンデュミオンは永遠の若さと引き換えに永遠の眠りにつくのだけど、それって生きてる意味あんの?なんて考える凡人と違い、美術家は理想の美を見出したんでしょうね。彼の場合、眠ってるのは美青年か美少年で、女性は起きてる場合が多い。上の作品は好きかと言われればどう答えて良いかわからないけれど、結構印象的な作品で初めて見たときはかなり気になりました。
●小さい文字
Antonio Canova
虫じゃなく道具のノミを手に生まれてきた人。「冷たいエロス」の大巨匠。新古典主義とロマン派の頂点を極めたような彫刻を朝から晩まで一年中彫りに彫った。立地も考えた理想の美術館を作った。
Medardo Rosso
ユダヤ人の子供、病気の子供、不安そうな子供、笑う老人など。溶けそうだったり、透けて見えるようだったり、上手過ぎて怖い、才能ある彫刻家。
Piero Dorazio
純粋に色彩構成する美術家。深くないけどいつも綺麗で洗練されている。
Silvestro Lega
パリで印象派が活動している頃イタリアではマッキアイオーリ(染み派)という運動が起こっていました。光と色に対する考え方は似通っています。はっきり言いますが、印象派の方が革命的ですがマッキアイオーリの方がずっと上手いのです。セザンヌもゴッホもルノワールもみ〜んな酷いデッサン力ですが強い個性を持っています。イタリアの画家たちは、美術の王道を歩み続けてきた歴史の束縛からなかなか自由になれませんでした。レーガは間違いなく良い画家です。地味ですが。庶民というより中産階級の生活を描いたり、ガリバルディやマッツィーニのようなイタリア建国運動の英雄たちを描いているので、イタリア関連を勉強していれば目にする画家です。
Andrea Appiani
ルネサンスの頃を懐かしむような新古典主義の画家。フレスコの大画面を描ける点で技術は確かなんだろうけれど、さっぱり面白くない。ナポレオンを何枚も描いています。
Giovanni Fattori
イタリアの近代画家中マッキアイオーリを代表する大画家として知られ、故郷リヴォルノには彼の美術館がある。いつになるか分からないけどコロナ開けの旅でぜひ行ってみたい。ファットーリは教育もない質素な家庭で育ったが歴史小説が大好きで、イタリア建国運動に参加した。必死に親に止められたし、素晴らしい画才があったので兵士の道を捨てたけれど、軍隊生活の主題は多い。生き生きとした力強い歴史画が得意で、飛ぶように走る筆は、激しい動きも白壁にあたる光の輝きも逃さない。
Filippo Palizzi
可愛い家畜や朴訥な少年少女、質素ながら明るい女性など健全そのもののような絵を描いた。九人兄弟で三人が画家。パリ万博の「ノアの方舟」は評判となりウィーン万博では審査員をし、イタリア統一運動ではナポリのバリケードに参加(革命軍)し、父が法律家であったことからも分かるように筆も立ち、イタリア美術の推進に力を入れた。
Francesco Podesti
バチカンの「無原罪の御宿り」の間は彼のフレスコ で覆われている。マリアの絶対的な聖性を称えた大フレスコ を託された、間違いのない画家。甘美であり同時に真面目な職人画家。新古典主義って必ずそれなりに仕上がるけれど面白くない。
Stefano Ussi
フィレンツェの美術の血筋は残っていた。アイエツと共通する生まれながらの才能と歴史を主題とした作品群に、ロマン派の特徴であるエキゾチック趣味(東方とは言っても日本ではなく中近東への憧れ)が感じられる。この絵は「サヴォナローラの火刑の執行」部分。
Giuseppe De Nittis
ずっと上手でデッサンがしっかりしてるけどイタリアのルノワール。ブルジョワ(貴族ではないけれど貧民ではない)の少年と女性の楽しげな日常。
Giovanni Boldini
表現主義的な激しいタッチで、退廃的な女性やタキシードの男などを描く。ロートレックが大衆的になったみたいなところもある。嫌い。
Paolo Troubetzkoy
どうも裸でサッカーをしているようです。アイルランドの作家バーナード・ショウが絶賛した彫刻家はロシアの王子様で、イタリア人に師事しました。王族らしく騎馬像が好きだったようです。私はほとんど作品を見たことがないか、覚えていないかです。
Vincent van Gogh
泣く子も黙るゴッホが小さい文字で印刷されています。
Claude Monet
日本人が大々大好きモネも小さな扱い。
●Tシャツの袖に小さく
Jean Fautrier
「磔刑」はフォートリエにしてはとってもまともな作品で、ほとんどが抽象なんだけど、どこかしら生物っぽくて気持ち悪い作品が多いです。すごく怖いっ。
Paul Cezanne
印象派の革命児。いつものように不安定な林檎。父はセザンヌが大好きで褒め言葉を聞いて育ったのだけれど、良さが分かるようになったのはず〜っとず〜っと後だった。確かに彼の絵は、他の印象派の作品とずいぶん趣が違う。自然に描写しているようで非常に抽象的なの。全くおもねった感じがしないのも芸術家らしい。
Amedeo Modigliani
映画「モンパルナスの灯」が作られる程、美男子で女性を不幸にしたダメ人間で、悲惨な生涯を送ったモディリアーニは、死後世界中で人気を博し、日本でも緩いS字にくねった細長い、瞳の無い肖像画のファンは多い。中高生の時は好きでした。悲しい。
Renato Guttuso
中南米系のどぎつい色彩でパワフル。美術史上重要な作品のパロディなどもあって、カッラッチの「豆を食う人」ならぬ「パスタを食う男」(自画像だと思う)などある。
Cy Twombly
イタリアで死んだアメリカ人画家。この人にしてはこの絵は真面目な方。
Enrico Prampolini
好き!イタリア未来派万歳って感じの画家で、グチャグチャ、めちゃくちゃに線を引いたり、絵具を飛ばしたりせずに、いつもきちんと描いているとこが好き。白黒写真のインスタレーションもかっこいい。
Alberto Burri
焦げたり、溶けたり、ヒビ割れたり、破けたり。イタリア前衛美術の大巨匠。
Henry Moore
このヘルメット・シリーズは好き。現代彫刻の大家だから日本にも作品はある。
Domenico Induno
なんでイタリアの画家ってこんなに上手いんだろう、って思わせてくれる画家。ミラノのブレラ美術館ではアイエツの有名な「接吻」の隣に並んでいるので霞んでしまうけれど、彼に負けずに才能がある。重厚で確かなデッサン力と色彩、空間を捉えた素晴らしい構図、それにプラスして物語性がある。素晴らしい。
Gustave Courbet
このみんなが真似したくてたまらなくなる自画像を描いたクールベは、真面目で地味なインドゥーノと正反対に目立ちたがりで不道徳だろうが真実を描き出そうとした。よく言えば大変勇気があり、悪く言えば品性下劣。動物や自然の絵は迫力があるし、規則に縛られず湧き上がってきた情念を描き出す芸術家という、現代の芸術家感にぴったりの人。
Fortunato Depero
ラブ💖 大好き!彼のポスターほどかっこいいものは滅多に無い。曲がりなりにもデザイナーをしていた過去がある者にとって、こんな仕事ができたらどんなに良いだろうと思うような人。芸術家っていうより洗練された都会的な質の高い商業デザイナーで、カンパリなど今も彼のデザインした商品が出回っている。この作品はあの世への橋渡しカロンかな?
Gioacchino Toma
伝統的なイタリア人画家らしい才能と技。この絵はよく見れば一目瞭然で時代が分かる。「小さな愛国主義者たち」はイタリア統一運動の最中、遊びに余念がない。
Gaetano Previati
イタリアには珍しい象徴主義の画家。淡い色彩で、天使のようなものが浮かんでいたりする絵が有名。たまに上の絵のような風景もあって私はそっちの方が好き。
官能的な女性がいきなり平面的で豪華な東洋風の模様と入り混ざる、というタイプの作品が人気のクリムトだけど、人のいない絵も結構描いていて、それも良い。部屋に飾るならむしろ花畑とか謎の金模様とかの方が落ち着ける。
Mario Sironi
シローニは非常に様式を変える人で、形而上風だったり未来派風だったり、素朴派かと思うと新古典様式もできるので代表作を挙げるのは難しい。射殺場面を描いた上の絵はイラストレイターとしても活躍したから。彫刻もするしデザイナーでもあった。私は素朴派が好きなので好きな作品もあります。
Domenico Morelli
ドメニコ・モレッリは私の愛する画家です。何しろローマの巨大な国立近代美術館の全作品中、これが圧倒的に心に残りました。純粋な信仰など想像もつかなくなってしまった現代では、彼のような画家は絶対に出ないでしょう。キリストや砂漠の修道士を描かせたら並ぶ者はなく、人物のいない景色でさえも感動的なのです。情熱と繊細が同時に存在するような作風です。人生は養子として始めた彼ですが、ナポリの大美術館カポディモンテの作品を管理し、アカデミーの校長になり、1886年には国王に上院議員に任命され、騎士団の勲章を得た大成功の人生を才能で切り開いた人でした。ナポリの王宮が修復されたらモレッリの天井を拝みに行きます。
●Tシャツの後ろ襟首に一回だけ登場するのが次の二人
Mimmo Rotella
1950年代アメリカのポスターとバスキア風のペイントのコラージュ。上の作品は珍しいけどイタリア人らしいので。
Vincenzo Gemito
確実なデッサン力に裏打ちされた実力者。小型ブロンズの胸像が多い。魚釣りをする少年や、時に神話的、時に宗教的な主題がいかにもナポリらしい。ナポリに行く度に、ゆっくり作品を見ています。アカデミックな美術教育は受けていなかったらしい。彼の作品は、美術では才能が一番物をいう証拠ですね。
一枚のTシャツに57人の美術家の名がありました。
Carra`:イタリア人
De Chirico:イタリア系だけど外国生まれなど
Moore:外国人
何人知ってた?
デ・キリコ、デュシャン、ゴッホ、セザンヌ、モディリアーニ、クリムト、モネ・・イタリア人はモディリアーニだけ。近世以前だったら圧倒的にイタリア人なのにね。
全員を知っている人がいたらウルトラ・スーパー美術に詳しい人。半分知っててもかなり詳しい人です。私が初めてここを訪れた20才頃、名前も聞いたことがなかった美術家は半分以上いました。今でもほとんど印象の無い人もいます。日本の近代美術館だって外国人にとっては同じことだと思うけれど、ただ残念なことに日本人より上手い人が多いし、大作も多いと思います。ある意味では2千年に及ぶ美術の歴史のあるイタリアと、西洋絵画で勝負すること自体とんでもないハンディがあるけどね。イタリア人が墨絵や浮世絵を描いたらどうなるかってことかな。ルネサンスや中世の絵じゃないと好きじゃないっていうのは間違ってる、っていうか美術が好きじゃない人。美術が好きなら「様式」や「時代」は関係無い。どんな時代にも美しい素晴らしい作品はあるのだから。ただ時代は影響するので、大美術家を多く排出する時代は確かにあるとは思う。
ここまで読んでくれてありがとう。万一気になる作品があったら、是非ネットで名前をアルファベットで打ち込んで画像検索してみてください。大きい画面でよく見れば、もっと魅力的だから❣️