天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【旅】イタリア旅計画:入門編

 

対象:イタリアへ行ったことがない人、長旅のできない人へ。

f:id:Angeli:20200618115833j:plain

イタリア州別地図

ローマ(濃いピンク色のラツィオ州) フィレンツェ(藤色のトスカーナ州) ヴェネーツィア(青のヴェーネト州)を一週間から10日で回る旅。

 

f:id:Angeli:20200618125353j:plain

ローマの庶民的人気も高く観光スポットでもあるナヴォナ広場

 

ローマ Roma

かつて古代ローマ帝国の首都であり現在も教皇庁のあるキリスト教の中心地ローマは何がなんでも一番重要。見所は無数にあり何年居ても見尽くせないが最重要な場所は以下。

f:id:Angeli:20200618141634j:plain

ヴァチカン博物館の目玉ラファエッロの間フレスコ

ヴァチカン市国とその博物館 Citta del Vaticano con Musei Vaticani 聖堂クーポラ(大ドーム)へ登ったり、地下墓地を尋ねれば世界一の博物館と合わせて丸一日は十分かかる。博物館には西洋美術史上最も有名なラッファエッロの「アテネの学童」、ミケランジェロの涙が出るほど美しい「ピエタ」、ベルニーニの天才が発揮された聖堂や彫刻が目白押し。

古代遺跡群はローマをぐるぐる歩けば、至る所で目にすることができるが、まとまっているのはカピトリーノ博物館 Musei Capitolini。古代ローマの恐ろしさが良くも悪くも堪能できる。

大天使城とその橋 Castel Sant'Angelo 古代ローマ皇帝の巨大墳墓に端を発し、教皇の隠れ家、牢獄など時代と共に変化しながら変化した要塞。今は博物館で、素晴らしい眺望のカフェもある。

コロッセーオと凱旋門 Colosseo , Arco trionfale ローマを訪れてこれを見ないのはあり得ないのが凱旋門と並んで建つコロッセーオ。遺跡好きならその横には広大なフォロ・ロマーノが広がっている。

 

ローマは道や町が大きいだけでなく、世界で最も重要な建造物や記念碑、芸術作品が凝縮している。上記三つだけで疲れ切るはず。食事は、観光客向けの店は最悪。

 

f:id:Angeli:20200618141952j:plain

サンタ・マリア・デル・フィオーレ司教座聖堂ファサード

フィレンツェ Firenze

ルネサンス発祥の地フィレンツェは、日本人に最も愛される街でもある。ローマほど巨大ではなく、町中に素晴らしい聖堂や博物館、美術館があるので比較的疲れない。総合的なフィレンツェカードはお勧めしない。大急ぎで回りきらなければ損。日程と体力にあわせて見られる分だけ購入する事。

 

花の聖母聖堂と大聖堂博物館 Santa Maria del Fiore, Musei dell'opera del Duomo ルネサンスを象徴する司教座聖堂のクーポラ(巨大ドーム)は、大聖堂横の大聖堂博物館から目の当たりにできる。聖堂内は、博物館にほぼ全ての美術品が運び出されがらんとしているので、何時間も待って入場する必要なはい。博物館は圧巻で、美術愛好家なら卒倒しそうなほど。

ジオットの塔 Torre di Giotto とにかく高いところが好きなら登ったらいい。この塔は外観の彫刻が美術史上極めて重要なので、外から眺めるだけでもいいし、高いところ好きなら隣の大聖堂のクーポラに登る方が面白い。

洗礼堂 Battistero di San Giovanni 大聖堂や塔より、歴史的美術的によほど価値があるのが、大聖堂の目の前にある洗礼堂。世界一有名な扉(ミケランジェロが「天国の門」と呼んだ)はオリジナルが大聖堂美術館にある。天井モザイクが素晴らしく、最後の審判の地獄絵図が大迫力。修復されたばかりなので一番の見頃。

この三つは固まっているので時間がなければこれだけ観る。

 

観光客用のお土産屋やレストランが無数にあるが、高い不味いので、できれば川向こうなど少し離れると、ずっと良いお店に出会える。

 

f:id:Angeli:20200618145347j:plain

Brano di Venezia ブラーノ島

ヴェネーツィア Venezia

ヴェネーツィアはその土地の特殊性もあり昔から外国人の憧れの街だったので、世界大戦が終わった後世界一裕福だったアメリカ人たちがこぞってやって来た。ヴェネツィアを舞台とした白黒の古典的な映画などたくさんある。『旅情』『夏の嵐』『ベニスに死す』が代表的なところ。近年は気候変動や町の構造の問題で、島ごと海に沈みそうなため、いつまで観光可能か心配なこともあり、沈む前に行く価値はあり。観光には素晴らしい海のある街を好む傾向の強いイタリア人には、一般に人気の無い場所なので、街にいる外国人率は驚くほど高い。ヴェネツィア埋立地で街中を運河が流れているため、移動が非常に不便。目の前にある建物でも、運河に阻まれ、定期便の水上バスを使うか観光ゴンドラなどに乗って移動するので、町の大きさに比較し時間がかかる。

 

聖マルコ大聖堂と博物館 San Marco con tesori 問題なく一番外せない建造物は、西洋における最大のビザンチン様式聖堂の一つサン・マルコ。「ヴェニスの商人」ならずともうんざりする程ヴェネツィアではいちいちお金がかかり、大聖堂もいくつもの部分に分かれて支払う仕組みになっている。歴史や美術に特別な関心が負ければ、飛ばしてもいいのかもしれないが、私にとってはそれはあまりにも勿体無い。東ローマ(ビザンチン)帝国陥落を思い出す様々な略奪品が展示されている。モザイクを間近にみられる博物館やファサードの上から海や運河が眺められ、気分も上がるはず。

 

ブラーノ島 特に美術に関心がなければ、ティントレットやティツィアーノなどヴェネティア派の巨匠の作品を見に行くより、船に乗って島を訪ねるのがお勧め。最大でも2時間ほどで多くの島へ行ける。あまりにも有名なヴェネツィアン・グラスの工房があるムラーノ島もあるが、私はレース博物館のあるより小さなブラーノ島が好きだ。ひなびた漁村だった島は、漁師たちが自分の家を見分けるためにカラフルに好きな色に塗ったと言われていて、本当に可愛い。大変小さいので歩いて島中を巡ることができる。観光客でごった返す(コロナがなければ、島が沈みそうなほど混んでいる)本土と違って、地元の人が使う海沿いの食堂で、時間を忘れてワインを傾けてみたらどう?

f:id:Angeli:20200618150441j:plain

サン・ピエトロ大聖堂大ドームから見たヴァチカン博物館

一週間から十日もあるのにたった3都市だけ?と思う人がいるかもしれない。イタリアは世界文化遺産圧倒的第一位の国で、フランスやスペインを凌駕している。中でもローマは世界中の町の中でも、唯一の特別な存在だ。たった一つの聖堂や博物館を見るだけで、次から次へ怒涛の如く現れる恐るべき質の高い美術作品にヘトヘトになる。しかもパリのルーブルやロンドンのナショナルギャラリーと違って、それらは本来そこにあるものが基本となっている。寄せ集めではなく本物なのだ。

 

先に見るものリストを作り、それをチェックしながら駆け足で訪ねるより、気に入った聖堂や作品、風景を前に自らの感受性に意識を集中して欲しい。ヴェネツィア以外、歩ける人は徒歩で、経済的に余裕のある体力に自信のない人は車でどうぞ。

f:id:Angeli:20200618152613j:plain

暖かい時期には音楽イベントがいっぱい

美術館や聖堂、風景を楽しむためにも無理しないで回って欲しいから、午前中一つの美術館、数時間リラックスできる素敵なレストラン、午後遅めにまた聖堂や博物館、そして忘れてならないのは夜の町歩き。しっかりした昼食だったなら、ワインかビール(最近はイタリアのビールも美味しい)と小皿をいくつかを、気持ちの良いレストランや居酒屋で過ごす。夜になると湧いて出てくる町の人々を眺めながら、完璧な1日が過ぎゆく。時にはお洒落して歴史建造物でのアリアやコンサートに行ってみる。こんな旅が私のお勧めです。

西洋美術、イタリアの旅、読書が大好きな貴方へ、中世西洋美術研究者SSが思う事いろいろ