天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【西洋美術】ルネサンスの曙;知られざる最高の彫刻家たち

美術が好きだという人、西洋美術、イタリアは特にいいねとか言う人に「どんな作品が好きですか?」と質問して、答えてくれる人はほとんどいない。たまにミケランジェロが好きとか、やっぱりダヴィンチでしょ、とか言う人がいる。

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Matteo Civitali

私はそんなつもりはないのに、人を追い込んでしまう。幼い頃からそうで、母を質問責めにして嫌われた。いつも父に聞けと言うので、母は何も知らないのだと思うようになった。会話を続けるためにも、無知だと思われないためにも何事か答えるのは必要だと思う。別に美術作品なんて、誰のどの作品が好きだって自由で、答えが間違ってるなんてことも無いんだし。バロックとゴシックを取り違えていたり、たまに大間違いなことを言う人はいるけど。

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Jacopo della Quercia

中世から近世への移り変わりの時期、ルネサンスの曙期には素晴らしい芸術家が山ほどいる。中でも彫刻家に傑出した人が多い。にも関わらず一般に知られているのは盛期から後期ルネサンスのレオナルド(ダヴィンチのこと)とミケランジェロ、ラッファエッロさえ知らない人がいる。これはとても残念だ。美術好きな人にぜひ知ってほしい。今回の旅ではトスカーナを訪問するので彼らの作品に多く出会うことができるでしょう。

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Jacopo della Quercia

シエナのヤコポ・デッラ・クエルチャはミケランジェロも研究した当時最大の彫刻家で、夢のようなゴシックの街シエナを作るに大いに貢献し、最も美しいと様々な詩に読まれた墓碑彫刻をルッカに残した。このイラリア・デル・カレットの墓はその美しさのゆえに破壊を逃れた作品で、何世紀も眠り続ける彼女の足元には心配そうな子犬がいて哀れを誘う。

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Agostino di Duccio

フィレンツェ空前絶後のドナテッロを輩出したが、ギベルティ、ブルネッレスキ、ヴェロッキオなどルネサンスを起こした大立者が揃うだけあり、ここで活躍した彫刻家も多い。上のアゴティーノの作品はなんだか現代彫刻のような趣きさえあるが、古代研究を示すフィレンツェルネサンスの一例。

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Mino da Fiesole

この有名なミーノ・ダ・フィエーゾレ作コジモ・デ・メディチの胸像は、いよいよ古代ローマルネサンス。中世には考えられなかったような立体感を持ち、堂々としている。初期ルネサンスがどれだけ勢いのあった時代かが慮られる。

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Desiderio da Settignano

誰よりも繊細で脆い、儚さを表現することができたデジデリオ・ダ・セッティニャーノの作品には、珍しく子供が多い。子供が美術作品として表現されるようになったと言うこと自体、父権的封建的な古代からの脱却を感じさせる。彼が早世したのはつくづく残念だ。

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Antonio Pollaiolo

筋肉と骨格の人体解剖学に高い関心を示したポッライオーロは、格闘する男性の肉体表現で一躍人気を博したが、こんな美しい女性像も作っている。兄弟で活躍した。

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Bernardo Rossellino

美しい女性像は沢山あるが、やはり聖母子にかなうものは無い。大理石の質感を生かした優しくも威厳のある聖母子像があちこちで見られる。

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Matteo Civitali

状態は悪いが、私には大変美しく映る聖母子。もうお分かりの通り私はマッテオ・チヴィターリを愛して止まない。木彫やテラコッタなど、素朴な素材を使った作品が特に素晴らしく、フィレンツェと入れ替わりに栄華を失ってゆくルッカの反映か、より宗教的で精神的な雰囲気を持っている。

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Matteo Civitali

これは私が撮影した数えきれない作品の中で最も気に入っている写真。名刺に使ってる。マリアの優美さもさることながら、生まれたてのイエスがいきなりマリアを拝むその姿が汚れない。釈迦も生まれたてで天を指差し「天上天下唯我独尊」といったと言うから、やはり神に近い人は違うね!

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Luca della Robbia

チヴィターリも一家で活躍したが、一族で長年隆盛を極めたのがデッラ・ロッビア家。焼き物を芸術の域に高めヨーロッパ中へ作品を送った。何人も一流の美術家がいるが、時代とともに雰囲気も変わる。私は初期のシンプルな力強さに満ちた作品が好き。

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Benedetto da Maiano

最後に最もルネサンスらしい、中世の神からこの世の人間への意識の転換、を如実に表すのがベネデット・ダ・マイアーノだ。いつ見てもその迫力に圧倒される。聖人像も素晴らしいが、モデルを写した作品には鬼気迫るものさえある。

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チヴィターリの像

ルッカの街の中心、古代ローマのフォーロにある大天使ミカエル大聖堂を前にしたマッテーオ・チヴィターリの像を後ろから。

 

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