天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【ドラマ】驚愕の「弔い写真」

海外ドラマファンです。海外といってもほぼ欧米ものです。たまに南米とかアフリカ映画とか観ます。理由は、単純に画像と物語構成や主義主張が合うからですが、英語やイタリア語(多少はフランス語やスペイン語)だと、言葉の勉強になると言い訳ができます。北欧ものになるとこの言い訳は通じないのだけれど・・。

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英国ドラマ Dead Still

最近見たドラマで、知って驚いたことがあります。日本語の題名は【弔い写真家の事件アルバム】というものです。邦題は常に原題より説明的になっています。

www.mystery.co.jp

話の内容は不愉快極まるもので、流石、幽霊や心霊物が大好きで、しかも皮肉の効いたイギリスらしいものでした。素直で健全なものが好きな人はみてはいけません。ホラーに慣れている私も気持ち悪くなった程です。映像が気持ち悪いわけではなく、死んだ人の写真を愛するという行為が気持ち悪過ぎ。拷問も大嫌いなので、そういう写真の蒐集家の大権力者たちのお話だから二度と観たくない。ってネタバレだけど・・。ドラマを擁護すると、英国ミステリーといってもビクトリア朝時代のアイルランドが舞台で、映像は普通に綺麗です。エドガー賞も受賞した高評価の作品ですし、何より知識が増しました。

まさにこの内容の記事を書いている人がいました。日本語です。

karapaia.com

ドラマを見ていて、こんなこと本当にあるんだろうか?とか、どこまでが創造で、どこまでが歴史的真実だろうかと考えます。ドラマだけでなく、私はそういうふうに生きているというべきかもしれませんが。それですぐネットで調べます。ネットが無いと生活はどれだけ変わるかわかりません。日本語でも調べますが、できるだけ現地の情報や多角的に調べるようにしているので英語や現地の言語などでも調べます。

Post-mortem photography - Wikipedia

memorial portraiture

en.wikipedia.org

英語のwikiサイトです。

誰かが亡くなると、その人に生きているようにポーズを取らせ、家族の集合写真のようにしたり、飾り付けて撮影するという風習が欧米で流行したそうです。

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Louis Jacques Mandé Daguerre

歴史的にはダゲレオタイプと言う写真の撮影法を発明したルイス・ダゲール(写真)によって始められ、1840年台から弔い写真は広まったようです。しかし元を正せば、ヨーロッパには古くから死者を描く習慣がありました。それにヨーロッパの聖堂を巡っていれば、あちこちで蝋人形のようになった聖遺物(本人そのものもある)に出逢うし、眠っているようなミイラも各地にあります。

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1648年頃のデンマーク王の絵画

キリスト教の歴史は、信仰深く、汚れなく、尊敬に値する偉大な人の聖遺物(持ち物も含むが、本人なら最高に効果がある)が奇跡を起こし、人々や街を助ける話で一杯です。中世の人々は聖人の体の一部(皆が欲しがるので切り刻まれる)に慣れていましたが、バロック時代から近世にかけては権力者が一族の者の記念に上のような絵を注文するようになりました。写真の発達と共に一般の人にもそういった習慣を真似ることができるようになり、絵画はなくなって行きます。

ja.wikipedia.org

世界一美しい遺体として有名なシチリアのロザリアちゃんのように、幼い子供が亡くなると、親が悲しみのあまり、焼いたり、土に埋められたりするのが可哀想で、ベッドで寝ているようにしてあげたいと思う気持ちから、上のような行為が行われるのは理解できます。弔い写真にも子供が多い気がするのは間違いでしょうか。

 

しかし、湿度の高い日本だからか、私は日本に似たような習慣を見つけることができませんでした。思想、宗教観などさまざまな理由があると思いますが、西洋美術を勉強していると、かなりの感覚の隔たりを感じる場合が多々あると思います。この歴史もまたその一例でした。

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