天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】ミケランジェロについての様々な本:漫画から学術書まで

夏休みだからかリモートにも関わらず、授業間隔があいているので、ミケランジェロについての色々な本を紹介します。何回も書いているのですが、ミケランジェロは流石、西洋美術最高最大の芸術家と多くの人が考えているだけあって、なかなか出版物も多いです。

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ミケランジェロ・ブナローティの生涯

ミケランジェロ・ブオナローティの生涯』

デイビット・ハムソール 著 2020年

この本は愛読書の一つです。『芸術家列伝』の著者であり美術史の父と謳われるジョルジョ・ヴァザーリミケランジェロを崇拝し、手紙のやりとりをする間柄で、彼はミケランジェロについて何冊か書いているのですが、これはその決定版に当たるのではないでしょうか。冒頭は著者ハムソールの解説ですが、中心はマニエリスム期に出版されたヴァザーリの著書の翻訳です。入門書とは言えませんが、ある程度知識があれば、非常に臨場感があり、堪能できます。

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ミケランジェロ

ミケランジェロ

木村長宏 著 2013年

中公新書は知識をつけるための非常に有効なシリーズです。様々な分野の、入門からかなり専門的な内容のものが出され、値段も大きさも手頃で、日常的に色々読んでいます。これは題名もズバリ「ミケランジェロ」。ところが内容は一般的なミケランジェロの解説ではなく、美術史の定番となっている解釈や解説とは違った内容なので、初めて読むのに適当とは思いません。いわゆる美術史より思想史寄りで、情動や感覚に重点を置いた独自の解釈をしている点が、拍手を送る人も、反対の人もいるでしょう。何冊か読んで深めたい人にお勧めします。

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システィーナのミケランジェロ

『システィーナのミケランジェロ

青木昭 著 1995年

完全な入門書です。写真中心、非常に平易な文章と、美術や歴史の知識がなくても十分読めるので、少し古い本ですがお勧めします。図書館やネットで探してください。著者は、1981年に始まったシスティーナ礼拝堂修復の大プロジェクトの中心にいました。自身を含めた日本テレビの制作スタッフ、修復家たち、その他のプロジェクトに実際に関わった人々などの個人的な挿話にかなりの頁が割かれるので、テレビの番組制作(今は全然違っているけれど)などに興味のある人など、幅広い読者を獲得できると思います。当時の修復技術の問題などは他では読めないものですが、反対に、システィーナに関わる聖書の基礎知識なども一応記されているとはいえ、学術的な印象はないのでもっと美術史やルネサンスの歴史が知りたかったのだと言う人には物足りない印象です。

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神のごときミケランジェロ

『神のごときミケランジェロ

池上英洋 著 2013年

西洋美術、イタリア美術などに関する著書が多数ある池上先生の本が、これまた読みやすい「トンボの本」シリーズで出ています。このシリーズは写真で構成された入門書として大変親しみやすい(簡単に入手できる、簡単に表面的な知識がつく)シリーズで、私も子供の頃から何冊読んだかわかりません。今でも数冊は持っています。

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神のごときミケランジェロさん

『神のごときミケランジェロさん』

みのる著 2015年

少年チャンピオンの漫画です。残念なことに私は読んでいません。大人になっても漫画しか読めない人を、私は問題だと真剣に考えていますが、これは漫画を絶対否定するものではありません。子供の頃は私も漫画漬けでした。読んでみたいです。

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システィーナ礼拝堂を読む

システィーナ礼拝堂を読む』

松浦弘明、越川倫明、深田麻理亜、甲斐教行 著 2013年

この本はその外観からは想像できないほど非常に本格的な内容なので、誰にでもお勧めはできません。西洋美術、ルネサンス史、聖書の知識がある程度身についていないと難儀すると思います。ただもう色々読んだからもっと知りたいのだっ!という人には素晴らしい内容ですので挑戦してはいかがでしょうか。私もこの本からは多くを学びました。思い入れのある一冊です。

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世界の巨匠シリーズ

最後に紹介したいのは大型本です。

美術出版 1966年

『世界の巨匠シリーズ』にはミケランジェロだけでも四冊の本があります。「ミケランジェロ素描1」「ミケランジェロ素描2」「ミケランジェロ彫刻」「ミケランジェロ」というように分かれていて、「ミケランジェロ」は絵画が中心となっています。写真はいつも使っている「日本の古本屋」のサイトからお借りしました。

www.kosho.or.jp

今ではこのような本格的な大型本はすっかり姿を消してしまいましたが、私は子供の頃からこういった本に埋もれて育ったので、大変愛着があります。日本の住宅事情を無視したボックス入りの重く、大きな何十冊もあるシリーズですが、大きい上、当時最高の印刷技術で刷られているので、美術作品を見るには最適だと思います。非現実的なほど鮮明なネット画像に慣れている現在の若者にとっては、残念な印象かもしれませんが、勉強する価値は十分にあります。何より、ミケランジェロだけについて四冊も、それも大画面で素描を堪能できるような物は他にありません。文章は現在の淡々とした論文調の学術書とは大いに違った、ロマン・ロランの評論を彷彿とさせる感動的なもので文学的で、色々と考えさせられる内容です。ミケランジェロについて日本語で読める、最もまとまったものだと思います。お手軽さの正反対ですが、ミケランジェロや西洋美術を愛する人には感動もののシリーズです。図書館や古書で探してください。

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