私は学生時代からイタロ・カルヴィーノの大ファンです。先日、今まで知らなかった彼の本を発見しました。それがこの「カナリア王子」です。児童書なので気付かなかったのです。でも読んでみると、流石の内容でものすごく面白かったので、ぜひ大人の方にもお勧めしますし、当然ですがお子さんたちに読んで欲しいです。
ご覧の通り、イラストも安野光雅で素敵です。表紙だけで無く、中にも沢山入っています。安野光雅ってイタリアが本当に好きなんだなーと思いました。イタリアの画集を何冊も出しているし、2020年も「イタリア憧憬」が出ています。大変上手な人なので是非手にとって見てください。いつもとても繊細で丁寧な仕事ぶりです。
題名:カナリア王子
出版:2008年 福音館
編集:イタロ・カルヴィーノ
650円と安いし、子供向けで平仮名だらけで読みにくい点はありますが、文字も大きく、本当に大人にもお勧めします。ちなみに福音館は当然キリスト教書店ですが、良い本を結構出していて、特に児童書は誰にもお勧めできるモノです。
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=1163
福音館書店のページです。
この本はカルヴィーノが取り組んできた仕事の一つです。イタリアの埋もれた民話を収集し、200編ほどにまとめたのです。この中から選ばれた7編が日本語になっています。児童向けでは無いですが、1984年には岩波から上下巻で「イタリア民話集」も出されています。こっちはとっくに読んでいましたが、児童版にはイラストも含め、また別の良さがありました。
カルヴィーノは、とても児童書とは思えませんが、上記の「マルコヴァルド」も書いていて、これも翻訳があります。イタリアの昔話の良さは、イソップや日本昔話と違って、道徳教育的では無いところ、全く自由なところが最高です。本当は、イソップなどもそうだったのかもしレませんが、子供はこんなこと知ってはいけないとか、残虐だとか言って、本来の姿をどんどん変えて、味も素っ気もない教科書のようにしてしまうのは、どうかと思います。
やたら勝気で負けず嫌いなお姫様たちが太陽の娘に対抗して、自らグツグツ煮えた御釜に入ったり、耳をちょんぎったりしてバタバタ死んでしまったり。あまりの突飛な展開や、映像化でもすれば過激な表現になるだろう行動も、爽やかなまでにさらっと書かれていて驚きます。これ、どこかで読んだことがあると思うお話がよく出てくるのですが、実はイタリアがルーツだったりするのです。グリム童話も本当は、結構恐ろしい内容ですが、イタリアのは恐ろしいというより、おかしいのが特徴です。
カルヴィーノは決して童話作家では無く、戦時下の子供の目を通して描かれた「蜘蛛の巣の小道」のように社会派の面もありますが、一言で言えば、物凄く知的で独創的な作家です。いわゆる幻想小説というカテゴリーでは収まらない作風で、作品はいちいち違った文体や、構成を持っている上造語も多く、イタリア語で読むのは大変です。古典作品や、いわゆる文学全般にも非常に通じている上、エッセイも実に興味深いもので、来日したときの日本の印象など、特に日本人には面白いと思います。芸術一般、科学などあらゆる分野に関心のある彼ですが、世界の起源に迫った「コスミコミケ」は、学生だった私に深い印象を与えました。「人類の起源三部作」の「真っ二つの子爵」「木登り男爵」「不在の騎士」の初期作品は、全く非現実的であるにもかかわらず大変感動的です。本で家が潰れそうなので、大量に処分したのにカルヴィーノの本は捨てられませんでした。読み返す価値のある本だから、似たようなものは無いから。
イタリア語も持っていますが、最初に翻訳してくださった方々の努力なしには、私など読めませんでした。心から感謝したいです。
読書こそ文化の源、どうぞ手にとって未知の世界を覗いてください。もし、貴方が特に西洋文化について知識があるなら、さらに面白く読めるに違いありません。