天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【イタリア語・美術】Tutti i Giorni❣️L'italiano:ere動詞とルネサンスの栄光と頽廃

leggere 読む

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Pontormo e Brongino

先にamareare動詞を紹介しました。

イタリア語の動詞の末尾は

-are  -ere  -ire

の三つです。

圧倒的にare動詞が多く、しかも規則的に変化します。(このブログの「愛について」を見てね)

ere動詞は歴史的に古く数は多くはないですが、面倒なのは原形(不定形)のアクセントの位置が不規則であること。今日は読み書きのere動詞を取り上げます。

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Filippino Lippi

leggere レッジェレ

まず問題なのは、基本では、アクセントの位置は後ろから二番目のシラブルにつくのでレッジェーレになるところ、ere動詞では多くの場合(全てではない)頭にアクセントが移動することです。

 

io leggo レッゴ 私は読む

tu leggi レッジ 君が読む

lui/lei legge レッジェ 彼(彼女)が読む

noi leggiamo レッジャーモ 我々は読む

voi leggete レッジェーテ あなたたちは読む

loro leggono レッゴノ 彼らは読む

 

さらにleggereの場合はG(Cも)という文字の特殊性もあって、音が均一に変化しません。ゴとジという、カタカナで書くと「か行」と「さ行」で違ってしまうのも注意。

 

are,ere,ire全ての動詞に一致する変化部分は

io _o   tu_i   noi_iamo   voi_te   loro_no

です。

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Subiaco

写真はローマ近郊のスビアコにあるSan Benedetto(聖ベネディクトゥス)のSacro Speco(聖洞窟)天井フレスコ の一部です。

 

一般的にsanti(聖人)やpapi(教皇)の名前はラテン語表記されることが多く、ベネディクトゥスと書きましたが、イタリア語ではベネデットです。私自身もその時々で表記を変えますが、一読者として困るのはラテン語発音、英語発音、イタリア語発音、間違った発音と、同じ聖人や教皇でも違った表記が溢れていることです。例えば、英語でもイタリア語やフランス語、ラテン語など外国語の名前を、そのまま表記したり英語風に直したりするのを見かけますが、日本語で読む場合この問題はずっと頻繁に、複雑になります。ここではイタリア語の勉強という目的で、本来ならばラテン語表記すべきところをイタリア語表記でいきたいと思います。

 

話は戻ってSan Benedetto(サン・ベネデット)のaffresco(フレスコ画) は中世盛期の典型的な天井といえます。Gotico(ゴシック様式)のリブボールトで四つに分かれた空間に天使や聖人を配するというもの。頻繁にみられるのは四福音書記者ですが、ここは人里離れた大修道院の総本山なので、ベネディクト会子が最も尊敬し、彼らの生活に密着した内容として崇拝する聖人たちが描かれています。全ての聖人は書物をしたり読書をしています。

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Subiaco

別の天井をアップにしてみました。書見台や本棚から覗いた書物がはっきり見えます。西洋文化を牽引した人々で読み書きのできない人は極めて稀です。特に中世の教会文化は読み書きのできる人によって担われました。一番目の画像は福音書記者マタイですが、手に持っているのは言うまでもなくマタイの福音書です。

 

scrivere スクリーヴェレ(書く)

 ここでもアクセントの位置が基本のスクリヴェーレではなく、スクリーヴェレとなっていることに注意。

 

io scrivo 私は書く

tu scrivi 君は書く

lui/lei scrive 彼(彼女)は書く

noi scriviamo 私たちが書く

voi scrivete 君たちは書く

loro scrivono 彼らが書く

 

leggereと違いscrivereは原型のアクセント位置が基本でないだけで、後は基本通りで、特に発音が乱れることもありません。

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Filippino Lippi

この絵はルネサンス期の大変有名な一枚です。実は私のブログのタイトルはこの写真の一部を使っているのですが、判りました?左端の顔を寄せ合った天使たちがポイントです。読書なしには物事を考えることは不可能に近いと思っている私は、ブログのタイトルバックをどうするか考えた時、すぐにこの絵が浮かびました。もちろん中世やルネサンスが話の中心になると言うのも理由の一つです。これは千年に及ぶ中世で最も影響力のあった聖人、シトー会の聖ベルナールが、彼の前に出現した聖母の言葉を書き留めている図です。この作品はフィレンツェのど真ん中にあるにもかかわらず、観光者が行かない場所にあります。フィレンツェにはウッフィーツィやアッカデミーアなど見るべき博物館、美術館が幾つもあり、作品で溢れかえっているので普通の人はそれだけで疲れてしまい、おかげでサン・ベルナールと美術史上最も愛らしいと言われる天使たちは、いつも静寂か祈りの声に包まれているのです。作者のフィリッピーノ(生前はフィリッポと呼ばれていた)は、偉大な画家と同時に無類の女好きで有名な父フィリッポ・リッピから才能を、父の最高の弟子サンドロ(ボッティチェッリ)からは技術と愛情を受け、世界一の芸術の都フィレンツェ国葬されるような成功した人生を送りました。それなのに、彼の作品には不安や悲しみが感じられ、父とは大きな違いを見せています。それは後期ボッティチェッリにも共通するもので、繊細な作風が示すようにルネサンスの栄光と頽廃を映し出しているように、私には思えます。ボッティチェッリもフィリッピーノもルネサンスの文化的中心にいたので、職人画家とは全く違いました。彼ら以前やイタリア以外の画家たちは多くの場合、読み書きを知らない職人でしたが、彼らにとって書物は最も貴重で愛するものでしたから描き方も違います。本を非常に注意深く、丁寧に描いているのです。ブログのタイトルバックをみたら、思い出してください💖

 

 

 

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