天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】なぜ古典を読むのか(個人的な作家辞典)

題名:なぜ古典を読むのか 

著者:イタロ・カルヴィーノ

訳者:須賀敦子

出版:みすず書房、1997年

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日本語訳は河出文庫が最も入手しやすいと思われる

*いくら自分のためのメモと言っても変換ミスなど多過ぎたので修復します(読んでくださった方、すごく読みにくかったと思います。すみません。)

 

私はみすず書房版で再読。河出文庫Kindleなどにもなっています。

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イタリア語版

題名はPerche` leggere i classici という原題の逐語訳です。須賀敦子という人は、とてもファンの多い人で、訳だけでなく自著も含めてイタリア文化を日本に紹介した第一人者の一人。だから日本人にとって、この本はとても一般読者向けとは思えない内容なのに、何回も再販されて読めるのでしょうか。私のようにカルヴィーノの本だから、または西洋古典を知るために読む、という人はかなり少ないと思います。須賀敦子さんに感謝。

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Francesco Montanariにより上演される

ただ須賀さんの著書が好きでこの本を読んだ人は難儀したのではないでしょうか。最後まで読んだら凄いものです。カルヴィーノは決して大衆向きの作家ではないし、大体西洋文学における古典なんてどれだけの人が知っているでしょう。子供の頃から読書好きで、小学校の図書室で「一粒の麦もし死なずば」や「クオ・ヴァディス」(両方と聖書の言葉)を読んだ私でも、この本に出てくる半分も読んでいないのです。でも読書とはなんなのか、文学とは何か、教養や文化、人間とは何かを改めて考えさせてくれる良い機会になったので、読書好きの人には是非、挑戦してほしい本です。

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私が読んだのはレメディオス・ヴァロ画のサンリオ文庫

カルヴィーノは私が愛する10人の文学者に入る作家です。カルヴィーノを初めて読んだ時の衝撃は大変大きく、それ以後ほとんどの小説が平凡に思えたものです。トマス・ピンチョンの『競売ナンバー49の叫び』やジョイスの『ユリシーズ』は、全く平凡どころではありませんが、あまりにも前衛的というか抽象芸術というのか、小説からかけ離れていて読むのが大変です。が、カルヴィーノは確かな伝統という土台に築かれた新たな小説という印象で、革新的ながら楽しく読めます。当時は気付きませんでしたが今考えてみると、それはまさにイタリア人ならではという気がします。古代ギリシャやローマの伝統を忘れたことがないイタリアならでは。その彼が『なぜ古典を読むのか』を書くのは筋が通っていると感じました。

 

カルヴィーノは小説家、評論家そしてイタリア文化を担った出版社エイナウディ(日本では岩波が比較できるでしょうか。)の傑出した編集者で、この本に収められた多くはエイナウディ文學叢書の前書きです。私は、前書きや後書きも重要だと思っていて、時には内容より参考にします。しかしカルヴィーノの前書きほど、それ自体が作品になるようなものは滅多にないでしょう。

 

以後、自分のメモとしてカルヴィーノに紹介された作家と作品を挙げます。アイウエオ順。赤は古代の作家、緑はイタリア人。📕 読みたい、または再読する本。肖像写真の下には可能な限り原語で名前。美術作品がある場合は写真に替えた場合もあり。生年没年、年齢(1年ほどのズレ有り)、出生地(国籍。イタリア人の場合のみイタリア語で詳細)、主な活動内容。解説というよりは自分のためのメモですので、異なる見解は大いに予測されます。

  

ア行

アイスランド・サガ アイスランド。中世。

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いくつかは日本語訳もあるsögur

古ノルド語の散文作品約二百点。同時代のエッダ(北欧)やゲルマン系民話が英雄伝なのに対し、出来事を記す。

 

アリストテレス(aC.384-322, ?才)マケドニア(古ギリシャ

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Ἀριστοτέλης

『動物史』http://www.let.osaka-u.ac.jp/genshi/mori/great/aristoteles.htm

 

アリオスト(1474−1532, 58才) Leggio Emiglia,Ferrara。将校、外交官、小説、詩。

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TizianoによるLudovico Ariosto

『狂乱のオルランド Orlando Furioso』💖   Ippolito primo d'Este の将校、外交官、Garfagnanaの総督  📕

 

アンダーソン (1876-1941, 65才) 米。小説。

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Sherwood Anderson

彼の「Poor white 貧しい白人」という概念はトランプと極右の現代アメリカ問題を予言した言葉に思えてならない。

 

 ヴァレリー (1871-1945,74才) 仏。詩、小説、思想。

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J.E.BlancheによるA.Paul T.J.Valery

父はコルシカの税官吏、祖先は船乗り、ジェノヴァ人母はトリエステ領事館令嬢。仏第三共和制の知性。そうかヴァレリーは随分イタリアと深い関係があるのか。『若きパルク』『ヴァリエテ』

 

ウィルソン (1931-2003, 72才) 英。小説。

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Colion Wilson

アウトサイダー』ちょっと惹かれた。

 

ヴィットリーニ (1908-66, 58才) Siracusa-Milano. 詩、小説、記事、編集、翻訳。

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Elio Vittorini

フランコ政権に対するレジスタンスの金字塔『シチリアでの会話 Conversazione in Sicilia』この本はペルージャ外国人大学を卒業する時、現代イタリア文学の授業で読まされた本の一冊で、一対一の面接形式の試験の前には、ちゃんと読めていなかったため手の皮が剥けた(ものすごく緊張するとそうなる)思い出がある。近世の芸術運動中最も意味のあった運動の一つイタリア・ネオレアリズムにおいて、ヴィットリーニは大きな役割を果たした人。

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「人間と人間にあらざるものと」松籟社のイタリア叢書でイタリア文学に出会った

文法試験以外の口頭試験全科目で満点を目指していたのに、現代イタリア文学が一点マイナスだったため実現しなかった。私にとっては嫌な思い出だけどヴィットリーニは良い作家に違いない。唯一の自慢だから書いちゃうけれど、中世史、哲学史、教会史では満点称賛だった。引退直前の中世史の教授が、人生で満点称賛をあげるのは貴方が二人目だ、と言ってくれたのが忘れられない。今、私は西洋美術史とイタリア史の講座を持っているわけで、いかに自分が偏っているかよく分かる。好きでないと勉強できず、語学そのものは合格点というひどい有様だった。

 

ヴォルテール(1694−1778,84才)仏。哲学、文学、歴史。

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F.M.A.Voltaire

信じ難く残酷で恐ろしい『カンディード』は啓蒙主義を代表する作品なんだとか。百科全書派。キリスト教の悪弊、反ユダヤ主義。📕 読みたくないんだけど、色々出てくるから仕方ない。

 

ヴァイアン (1907-65, 58才) 仏。小説。

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Roger Villand

映画化。ブルトンと友達。

 

ウルフ (1882-1941, 59才) 英。小説、評論。

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Virginia Woolf

20世紀モダニズムブルームズベリー・グループ、母はラファエル前派のモデル、父「英国人名辞典」編纂、豊かな文化的環境、レズビアン性的虐待を中心とするジェンダー研究、映画「めぐりあう時間たち」伝記多数

 

ウンガレッティ(1888-1970, 82才) Alessandria-Milano. Lucchese. 詩、翻訳。

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Giuseppe Ungaretti

20世紀最大の作家の一人としてノイシュタット国際文学賞受賞(1970年)。エジプトで生まれルッカで過ごしパリで学び(アポリネールヴァレリー、キリコ、モディリアーニ他)1915年大戦に参加。兵士として詩人として「生、死、自己」を見つめた新たな世界を切り開く。📕

 

エンペドクレス(aC.490−430) アグリジェント。自然哲学、医学、詩

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Ἐμπεδοκλῆς

四元素(火、空気、水、土)。弁論術の父。権力の座にある多くの政治家と違って、権力とお金を人々のために正しく使うことができた人らしい。オリンピアで優勝もしているらしい!素晴らしい!!

 

 エピクレス (aC.341-270) アテナイ。サモス島。思想、哲学。 

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Επίκουρος

ヘレニズム、快楽主義(欲望の素を断ち、隠遁生活)エピキュリアンは反対の意味に間違って使われることが多々ある。

 

エラスムス (1466-1536, 70才) オランダ。人文主義。思想、小説、評論。

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Desiderius Erasmus Roterodamus

『痴愚神礼賛』📕 作品も、彼についてもそれなりに読んだけど、彼がルネサンス最大の知識人とか言われると、残念な気がする。授業で取り上げた時は、生徒にお笑い芸人と比較された。確かにそう言うとこもある。

 

エリオット(1888−1965, 77才) 米。セントルイスー英。詩、劇作。

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1923年のT.S.Eliot

武蔵野美術大学の英語の授業で『キャッツ』を読まされた。イラストがセンス良かったけど、それ程評価が高い理由が今でも分かりません。

 

オウィディウス(aC.43-17c) 帝政ローマ。Abruzzo,Sulmona〜ルーマニア

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Publius Ovidius Naso

変身譚』これは中世美術を知るための必読書でもある。📕

 

 オーウェル (1903-50, 47才) 英、植民地インド〜ロンドン。小説、記事。

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ジャーナリストとしてGeorge Orwell

1984年』💖 映画「1984」「動物農場」オーウェリアン(監視管理社会)

ジョージ・オーウェルは、高校時代には特別な作家だった。上の言葉は、まさに今の日本のジャーナリストに読んで欲しい。

 

カ行

カイヨワ(1913−78, 65才) 仏。文芸批評、社会学民俗学

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社会学研究会 Roger Caillois

反戦運動バタイユ、レリス、コジェーヴらと社会学研究会。南米で反戦文書執筆。南米文学を翻訳。アカデミーフランセーズ会員。100分で分かるわけはないので、こういう簡単本は好きじゃないけれど、入り口としては良いし、今世界は反戦を求めていると思うから読んで欲しい。

 

ガサンディ(1592-1655, 63才) 仏。物理学、数学、哲学。

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Petrus Gassendus Prepositus

スコラ批判。唯物論の復活。エピクロス快楽主義の純潔。宇宙論におけるプトレマイオスコペルニクス、ティコ・ブラーエの重要性。パリ大学で「理性」デカルト派対「経験」ガッサンディ派。📕 

 

 カッソーラ(1917−87, 70才) Roma~Montecarlo. 小説

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Carlo Cassola

『森の伐採』反ファシズムパルチザン。ネオレアリズモ映画『ブーべの恋人』他。

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Carlo Cassola

1964年のイタリア・フランス合作映画『ブーべの恋人』は、ロッセリーニ(『無防備都市』『戦禍の彼方』他)があまりに壮絶で迫力があり、デ・シーカ(『自転車泥棒』『昨日、今日、明日』他)は叙情性と映像美と社会性もある映画を作るので、印象が薄かった。原作は長編の頑張った小説らしい。『森の伐採』を読むべき。

 

ガッダ (1893-1973, 80才)  Milano-Roma. 小説、戯曲、詩。

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犯罪書としての語り手Carlo Emilio Gadda

すぐにも読みたい『メルラーナ街の厄介きわまる件のごたごた』📕「悲しみの認識」

 

 ガリレイ (1564−1642, 78才)科学、物理、天文、手紙、詩。

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Justus Sustermans画

「黄金軽量者」「太陽の黒点を巡る歴史と立証」「世界で最も重要な二つの方式についての対話」📕

 

カルダーノ(1501-76, 75才) Milano~Roma。数学、医、占星術、哲学、賭博師。

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Leone LeoniによるGerolamo Cardano

父はレオナルドの友人で弁護士。腸チフス発見。カルダン駆動方式など発明多数。虚数の概念。カルダーノは面白い人で、ルネサンスという時代をよく表している。📕

 

カルドゥッチ (1835−1907, 72才). Valdicastello,Lucca~Bologna. 詩、古典、政治。

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切手になったGiosue` Alessandro Giuseppe Carducci

絶大な影響。イタリアで初のノーベル文学賞受賞。父はリソルジメント主義で、ローマ・カトリックがイタリア統一を阻むとし無宗教の学校を設立。サレジオ会追放後のムッソリーニがいた。

 

 カフカ (1883-1924, 41才) プラハチェコ、ドイツ語)ユダヤ人。小説、詩。

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 František Kafka

法律を学び保健局に勤めながら作品を執筆。『変身』など多数の短編、未完の長編『審判』『城』、恋人たちへの膨大な手紙が残る。20世紀最大の作家。言わずと知れた不条理の帝王で、あらゆる文学の歴史を通じて『変身』ほど独創的な作品はないのではないか。時代に先駆け過ぎていて、死後評価の高まった芸術家は少なくないが、カフカの後世への影響は絶大だと思う。💖 📕

 

カミュ (1913-60, 47才) 仏領アルジェリア。小説、劇作、哲学。

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いつもお洒落なAlbert Camus

『異邦人』第二次大戦中。随筆『シーシュポスの神話』、レジスタント記者。「異邦人」も不条理な短編だがカフカとは全く違った印象。アルジェで貧しく育った彼は、文学の世界でも政治的、思想的、人種的に異邦人。ガリマールによる車の事故死はKGB説もある。『ペスト』📕 異邦人の出だしは本当に印象的だった。映像を浮かべたくて想像を巡らす。

 

カント(1724−1804, 80才) プロイセン。哲学

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近代哲学の父Immanuel Kant

純粋理性批判」「実践理性批判」「判断力批判」ドイツ古典主義哲学の祖。思想や哲学の概説や歴史では常に接しているけれど、オリジナルは部分しか読んでいないし、読むつもりも無い。無理だもん翻訳じゃ。

 

 カンパネッラ (1568-1639, 70才) Reggio Calabria~Paris. 哲学、神学、詩。

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Tommaso Campanella

ドメニコ会修道士。『太陽の都 Citta` del Sole』1602 💖 ナポリではカンパネッラの幽閉されていた場所で、30年の幽閉生活で書き綴ったものに思いを馳せた。いつか故郷のStiloにも行ってみたい。私はカンパネッラの大ファンです。ガリレオを助けるために書いた論文(全く助けにならなかったが)など、色々ある中、やはり代表作のユートピア小説『太陽の都』はすごく短いし、読んで欲しい。勿論16世紀の人なんだから、今では到底受け入れがたいことも書いているけれど、基本的に彼の思想が私は好きです。

 

キップリング(1865−1936, 71才) 英、ムンバイ〜ロンドン。小説

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J.Rodyard Kipling

イギリス統治下のインドを舞台にした物語、児童書で人気作家。『ジャングルブック』イギリスは世界中に植民地を作り悲惨を生み出してきた。香港問題だって、イスラエル問題だってイギリスのせいだとまでは言わないけど言いたくもなる。文学史で見ると植民地のイギリス人作家って結構いる。あまりに非人道的だったり、異文化に触れたりする経験から良い作品が生まれるのかもしれないなと。

 

ギボン(1737−94, 57才)英。歴史。

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Edward Gibbon

ローマ帝国衰亡史』西洋史をやる人の必読書。ギボン、有名すぎる。こんな顔かー、ちょっと残念。その後のローマ帝国研究書と比較すると、書かれた時代の変化も眼に見えるように分かって異議深い。

 

キャロル(1832−98, 66才)英。数学、論理学、詩、小説、写真。

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写真が趣味のLewis Carroll: Charles L. Dodgson

Alice in Wonderland💖  Through the Looking-Glass, and What Alice Found There「白雪姫」「人魚姫」「眠り姫」などお姫様ものより圧倒的に不思議ものが大好きだった私は、当然「不思議の国のアリス」が大好きで、気持ち悪いルイス・キャロルの挿絵付き、英語原典も持っていた。ドジソンが小児性愛者だったと知った時はそれなりにショックだったが、彼の作品にはナボコフの「ロリータ」とは正反対に直接的なエロスの影は全くない。悲しい海亀の歌他、マザーグースを連想させる謎に満ちた唄には酷く惹かれたし、バラを塗るトランプやクリケットの動物らと泳いだり、やたら怖い女王や豚の赤ん坊など映像を想像するだけで楽しい。世界に冠たるディズニーだが、本来の作品の持つ暗さ、怖さが全くないディズニーの不思議の国のアリスは骨抜きもいいところ。

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写真家として

ディズニーとは正反対にヤン・シュバンクマイエルの1988年の映画 『アリス』Něco z Alenky はドジソンのオリジナルの雰囲気をどことなく感じさせる。かつて社会主義だった国では芸術的なアニメーションが沢山作られ、完全にその流れで『ファウスト』は圧巻。

 

ギンズブルグ(1939~)Torino- 歴史(近現代)、思想。

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いつでも楽しそうなCarlo Ghinzburg

ミクロストリア。著名な両親、父レオーネはウクライナ出身の小説家、母ナタリア(Levi) はユダヤ系イタリア人の小説家、劇作家、俳優。「チーズと蛆虫」多数。バルザン賞。💖

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i Benandanti

イタリア史、西洋史をするものにとって「ベナンダンティ•16−17世紀における悪魔崇拝と農耕儀礼」は必読書。Benandantiとは「善く歩く者」という意味で、北イタリアの境界フリウーリの農民伝承に基づく。彼らは五穀豊穣を願い、睡眠中に体から抜け出し邪悪な存在と闘う者たち。異端審問で告発され滅びた。📕

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日本語版は『ピエロ・デッラ・フランチェスカの謎』

カルロ・ギンズブルクの本は私には、一世を風靡した画家ピエロ・デッラ・フランチェスカの研究が一冊目で、美術史を勉強し始めた頃に、日本の美術史の本と違って、なんて奥深く面白いのかと考えさせられた。📕

 

クノー(1903−76, 73才)仏。小説、詩、批評。

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決まってるRaymond Queneau

地下鉄のザジ」「文体練習」「ポータブル宇宙進化小論」「百兆の詩」ガリマール百科事典「棒、数字と文字」「縁」「ギリシャへの旅」「ヘーゲル弁証法の根底批判」バタイユとエンス共著「我が友ピエロ」「雑多な時代」「聖グラングラン祭」「芸術とは何か」「最多と最小」「レモンの子供たち」「ルイユから離れて」「人生の日曜日」「青い花」「模範的な歴史」「カシワの木と犬」ルイ・マル監督「地下鉄のザジ」はヌーヴェルバーグの先駆け📕

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クノーコレクション3

 

ニコラウス・クザーヌス(1404−64, 60才)独。哲学、神学、数学、枢機卿

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ブリクセン大司教としてのNicolaus Cusanus

公会議派だが東西教会の和解に尽力した。ピウス二世の十字軍へ従軍途上でトスカネッリに看取られた。

 

クセノポン(aC.431-354) クセノフォンとも。 アテナイ。軍人、哲学。

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Ξενοφών

ソクラテスの弟子の一人。『アナバシス』敵中横断六千キロ!📕

 

 クレイン (1871-1900, 28才) 米。小説。

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Stephen Crane

ビートルズのSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandのジャケットに居る。アメリ自然主義の先駆者らしいけど、売れずにアル中と貧困とはいえ、死ぬには若過ぎた。

 

クロソウスキー (1905-2001, 95才) 仏。小説、画、思想。

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自分の描く絵と似ているPierre Klossowski

ポーランド貴族出身のパリ人、両親、弟バルテュスは画家。リルケを通じアンドレ・ジッドの秘書となる。リヨン大学神学部で修道院生活時代、バタイユ、カイヨワ、コジェーブと共にコレージュ・ド・ソシオロジーに参加。ウェルギリウス「アエネイス」逐語訳。ドゥルーズフーコーらとニーチェ会議。「バフォメット」「バルタザールどこへ行く」映画出演。美術作品らしきものも沢山あって見れば見るほど変態、に私には見える、ただひたすら性行為の絡み合いを描いた作品が多く、私はバルテュスが良いと思った事がない、っていうか嫌い。読んだことはないが、彼はカラヴァッジョなど芸術家の作品を下敷きにしてもいる、と私は思っている。

 

クンデラ (1929-?) チェコ、仏、モラヴィア生。小説、批評、詩、劇作。

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活動家っぽいMilan Kundera

父はピアニスト、自身もプラハ音大卒。非スターリン化、プラハの春で発禁処分となり、レンヌ大学(フランス)へ出国。1979-2019年までチェコ国籍剥奪。「存在の耐えられない軽さ」などフランス語でも執筆。チェコスロバキア秘密警察協力疑惑がある。📕

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1967年処女作では主人公が密告される

 

ロブ・グリエ(1922−2008, 86才)仏。小説、映画。

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結構表紙になってるロブ

「覗く人」「消しゴム」映画脚本「去年マリエンバードで」「不滅の女」アカデミーフランセーズ会員。言語の視覚的表現。

 

 ゲーテ (1749-1832, 83才) 独。小説、自然学、政治。

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C.D.RauchのJ.W.von Goethe

「ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代」

 

コジェーブ(1902−68, 66才)ロシア。哲学。

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Alexandre Kojève

フランス哲学、ヘーゲル、「精神現象学」。私が20世紀フランス思想(哲学)を読み始めたのは学生時代、イタリアからの帰国後、大学院時代にもう一度と途切れ途切れに何度か挑戦した。サルトルソシュール(フランス語圏という意味で)初め、デリダレヴィ・ストロースラカンフーコーなど構造主義現象学など一応読んでみた。言語学の授業をとっていたからだが、面白かったのはイタリア人のエーコ「完全言語の探究」やアメリカ系の言語学者たちで、フランス人は違うな〜っと。玉砕しました。しかしその時「これはフランス語で考えているからだ!」と身をもって感じました。この頃から私は、人間の思考は言語によって相違があると信じていて、何かを表現したい時に、日本語より英語だったりイタリア語の方が表現しやすい事があるのを体験しています。と言ってフランス人研究者が嫌いなわけでは全くなく、むしろアナール派以降の書物は、私の勉強の基礎となっています。

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コジェーブについてフィローニ

 

ゴーリキー(1868−1936,68才)露、ノブゴロド。小説、記事。

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ロシアの民族衣装を着たМакси́м Го́рький

家具職人の子、10才で孤児、祖母の死後、自殺未遂(1887年19才)その後ロシアを放浪。新聞記者。「記録と物語」「どん底」はスタンニフラフスキーの上演。ニコライ2世によりアカデミー会員取り消しを受けチェホフらも会員辞退。1905-7年にはレーニンの下革命に多大な援助をする。アパートがボリシェビキ事務室に。レーニントロツキーから離れ、1921年より結核療養でイタリアはソレントに暮すも困窮。スターリンに与したため批判されているが、スターリンにより毒殺の可能性も。社会主義リアリズムの父📕

 

コールリッジ (1772-1834, 62才)  英。小説、評論。

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S.T.Coleridge

牧師の13人兄弟の末。神童、新プラトン主義、ケンブリッジ大、フランス革命に共鳴しアメリカのサスケハナ(ペンシルヴァニア)に理想の平等社会パンティソクラシーを計画するが資金不足で渡米できず、仲間割れ後、中退。結婚後、政治と宗教問題をテーマに出版活動を行うも廃刊。ワーズワース兄弟らとイギリスロマン主義詩人として成功する。「抒情民謡集 Lyrical Ballads」1798年ウェッジウッド兄弟の研究助成によりドイツへ留学。ワーズワースに拒否されリュウマチもあって阿片中毒に。保養のためマルタ島へ、イタリア周遊後ロンドン帰国。シェイクスピアと演劇ついての講演。麻薬による幻想的な作風、神秘的で奇怪な三大幻想詩 "Kubla Khan: or, Vision of dream-A Fragment" " 老水夫行 The Rime of the Ancient Mariner" "Christabel" 作中に出るクビライ・ハンが建設したXanadu(上海)は幻想的な楽園の代名詞となり、ボルヘスホワイトヘッドも愛した。「老水夫行」などは思想を映像化する非凡な想像力として、バイロンシェリーが関心を寄せ、そこからポリドリ著「吸血鬼」や「フランケンシュタイン」が生まれた。評論「文学的自伝」「政治家の聖典」📕

 

ゴーティエ (1811-72,61才)  仏。詩、小説、劇、文芸批評、絵画評論、旅行記

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謎の帽子と毛皮を着たP.J.T.Gautier

画家志望からネルヴィル、ユーゴーとの出会いでロマン派詩人として出発。幻想的愛と死のテーマ。感情の美よりも外見の美「芸術のための芸術」形態と色彩、光沢に惹かれバレエ「ジゼル」。スウェーデンボルグの影響(迷信家)。ナポレオン三世の宮廷でボードレールに「完璧なるフランス文学の魔術師」と言わしめた。若きラフカディオハーンも愛した。📕

 

コペルニクス (1473-1543, 70才)  ポーランドプロシア司教座聖堂参事会員。天文学(地動説)、経済学。

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Nicolaus Copernicusの生家

グレシャムの法則「悪貨は良貨を駆逐する」。名は銅(コペルニコ)を扱う富裕な商人に由来。ボローニャ大学時代著名な天文学者Domenico Maria da Novaraの弟子に、パドヴァ大学では医学を習得、フェッラーラで教会法学者に。「天体の回転について」1543

 

コンスタン (1767-1830) スイス、仏。自由主義思想、宗教論、政治。

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H.Benjamin Constant De Rebecque

心理主義小説の先駆け「アドルフ」フランスロマン派小説の代表。パリでサロンを開くスタール夫人の愛人となり政治活動するもナポレオン・ボナパルトに追放。政治哲学の大著「政治原理」「百日天下回想録」奴隷売買反対キャンペーン。七月革命指示。熱狂的に民衆の支持を得た。

私はコンスタンを読んでいない。経歴を見ると熱烈で平等主義者だったんだと思う。これだけで私にとっては良い人ではある。でもこういう人にありがちなことに、人種や階級差別には反対するくせに、女癖が悪く、子供は私生児になってしまう。「知性の悲観主義、行動の楽観主義」が理想だけど、こう言うタイプは完全行動派なんだろうね。

 

コンラッド(1857−1924, 67才) ロシア帝国キエフ生。小説

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キエフだけありどことなくアジアンなJ.Conrad

文学研究者の父はポーランドの没落貴族で、独立運動のためシベリアへ送られた。3才の時に住んでいた家はショパンの父と妹の家だった。ポーランドへ帰還するも孤児となり叔父に身を寄せ、父の海洋文学に魅了され16才で船乗りとなるべくフランス商船に乗り込む。船は武器密輸、国際的政治陰謀に関わってをり、自身はギャンブルで借金まみれとなり拳銃自殺未遂を起こす。21才で英国船員となり各国を巡り、84(27才)年には帰化。95年マレーシアを舞台とした処女作 Almayer's Follyを出版。ポーランド、ロシア、フランス、英語を習得した。「大海原」「颱風」「ロード・ジム」「ヴィクトリア」など冒険小説が特徴。Heat of darkness は西洋文化の闇をアフリカでの経験をもとに書いたもので、エリオット、フィッツジェラルド、オニール、オーウェルなどに影響を及ぼした。1979年に「地獄の黙示録」として映画化。映画関連では「エイリアン」の宇宙船ノストローモ号の名は、彼の1904年の小説Nostromoに由来する。それは我々の人間(男)という意味。コンラッドディケンズドストエフスキーらの古典文学とモダニズム小説の中間に位置する。彼自身が冒険映画の主人公のようだ。

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 サ行

サッフォー 紀元前7末−6世紀(570c) 古代ギリシャ、レスボス島。詩。

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ナポリ考古学博物館で

生前から詩人として高名で、シチリアのシュラクサイに亡命した時、彼女の彫像が建立された。プラトンは十番目のムーサ(芸術に使える9人の女神)と高く評価し、オイディウスは彼女の名はあらゆる都市で知られていると書いている。彼女が厳選した若い女性だけの学校を主宰し、愛をテーマとする詩、音楽、演劇などを教えたことからレスビアンの言葉の由来となった。どんな人だったんだろう。女性が人間と考えられなかったような時代、当時の暮らしを見てみたい。

 

サド (1740-1814,74才) 仏。サド公爵。小説。

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Marquis de Sade

サディズムの由来。とっくに死刑のはずが貴族だったからか、殺されず獄舎で書き殴った小説は発禁処分された。後、シュールレアリストたちが、彼の文章のめちゃくちゃさに(文法破綻)感動し、復活する。翻訳や映像化作品なども裁判になる。

美大時代にサドやマゾにかぶれた黒ずくめの女性達がいたのを思い出す。虚〜な雰囲気を演出していたけれど、彼女らは今頃どうしているんだろうか?私は、思想統制表現の自由を縦にやりたい放題の人々を芸術家だとは全く思わない。どう考えてもサドは何人もの人に激しく危害(性暴力中心)を加えたのだから死刑になって欲しかったと思ってしまう。なぜ、言論の自由とか芸術表現とか言ってサドを擁護する人々は、犠牲者の立場を思いやれないのだろうか。ま、思いやりの精神があればサディストにはならないだろうから、元々の人格破綻者なんだろうけれど。表現の自由を建前にした暴力、残酷、冷酷は現代社会でいよいよ大きな問題となっていて、サドは彼らに言い訳を与えた。思想史的には確かに革新的だったのかもしれない。それまでの一切の縛り、くびきから自由な境地を表現したという意味では。見て見ぬ振りはよくないから、人間には恐るべき残酷な面があることを認識するとして、そこまで高く評価する必要があるのか疑問に思う。

 

サーバ (1883-1957,74才) Poli,Trieste-Gorizia 詩人。

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Umberto Saba

オーストリアハンガリーハプスブルク帝国下にユダヤトリエステ人の母から生まれる。ヴェネツィア貴族の家系で商人の父は、彼の誕生前に去り、不幸な子供時代を過ごす。父に代わって愛してくれたPeppa Sabazと呼ばれたスロヴェニア人の名を名乗りSabaと言う。中学も出ずに見習い水夫となり働き始める。1903-4年(20才)にはピサ大学に在籍し文学、考古学、ドイツ語、ラテン語などの授業に出るが友人との仲違いでトリエステへ帰る。1907−8年サレルノで兵役。1909年、ユダヤ語の詩などを置く古書店を開き結婚。国際都市トリエステには文化人の集まるカフェがあり彼も通う。1911年詩集を出版するが、彼とは正反対の壮麗でヘルメスティックなダヌンツィオがスターだった時代で売れず。派閥に無関心なサバではあるがムッソリーニの参戦論に賛同し、彼のIl Popolo d'Italiaに協力する。大戦下で精神的に追い詰められ1917年にはミラノで入院。Italo Svevoと同じフロイドの同僚である精神科医の影響。1938年以降ファシスト政権下のユダヤ人政策のためパリへ避難、フィレンツェでCarlo Leviなどの家々を回って隠れて暮らす。戦後Corriere Della Sera(ミラノの新聞)で働きながらミラノで過ごし1946年に様々な賞を受けるように。カトリックに改宗。妻を亡くした9ヶ月後に未完の自伝Ernestoを残して没した。日本では須賀敦子が思いを込めてサーバを紹介しているので、イタリア語の詩なのに日本人に知名度があるのが驚きだ。

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須賀敦子

私のことを知っている人なら当然お分かりの通り、個人的にサーバには興味を持たざるをえない。トリエステでサーバの書店や銅像を見た時にもなんとも言えない気持ちになった。ユダヤ人は世界史で特異な存在で、非常に有能な偉人や大金持ちを排出する代わり悲惨な運命に晒されてきたことは周知の事実。彼も大変辛い思いをしたに違いないが、決して闘志(レジスタンスに参加した作家は数多い。若き日のカルヴィーノもその一人)ではなかったので生き延びた。彼の詩は、驚くほど簡素で寂しい。須賀さんの訳はきっと素晴らしいので日本にこれだけファンがいるのだと思うけれど、原文を読むと彼女の翻訳と私の印象に大きな差があるのを感じる。それはサーバに限らないので、時代の差かもしれないし、日本語に対する感覚の違いもあるのだと思う。詩訳は何より難しい。私の好みかと言えば、答えはNo。苦しい状況なら、立ち向かう英雄的な人に憧れるし、そうでないなら独創的なものが好きだから。彼の作品は純粋に寂しいのだ。

 

サルトル (1905-80,75才) 仏。思想、小説、評論。

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Jean-Paul Charles Aymard Sartre

「テル・ケル」「嘔吐」サルトルと私の共通点、それは斜視。いつの日か再挑戦するかなー?

 

サン・シモン (1760-1825,65才) 仏。社会主義思想家。

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Claude Henri de Rouvroy : Saint-Simon

シャルルマーニュの末裔。16才でラファイエット義勇軍士官としてアメリカ独立戦争に参加。ロベスピエールのフランス恐怖政治下で幽閉され晩年は貧困に苦しみ自殺未遂。社会のために富を産まねばならず、産業階級は貴族や僧侶より偉い=テクノクラート主義「50人の物理学者・科学者・技師・勤労者・船主・商人・職工の不慮の死は取り返しがつかないが、50人の王子・廷臣・大臣・高位の僧侶の空位は容易に満たすことができる」との言葉を公にし告発された。1819年以後は新しいキリスト教の形(キリスト教道徳の兄弟愛を持って富裕者、成功者は貧者を救済すべき)と言う人道主義者になった。サン・シモン主義は社会主義思想全般に影響を与えナポレオン3世も彼の信奉者だったので、フランスの重商主義が進んだ。

現在のどうにもならない閉塞感のある社会では信じられないほど純粋な思想で、感動的でさえある。ロックバンドがあるのも理解できる。

 

シオラン (1911-95,84才)  ルーマニア。小説、思想。

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気合のある髪型のEmil Mihai Cioran

流石トランシルバニアだけある。と言いたくなってしまう。暗く、重く、陰惨で恐ろしく、幻想的だと言う意味で。シオランは後半を過ごしたフランス語読みで、ルーマニア人としてはチョラン。ルーマニア正教の司祭の息子。ブカレスト大学時代にイヨネスコミリアーデと友人になる。第二次大戦初期までルーマニア極右組織である鉄衛団Garda De Fierに積極的に参加し多く寄稿するが、後反ユダヤ主義を後悔し良心の呵責に苛まれる。1934年の処女作「絶望の極みで」に読み取れると言う。母の「それほど不幸になるなら堕胎した」という言葉は彼を吹っ切らせたと言う。「私の存在は偶然に過ぎない。なぜそれほどに深刻になる必要があろうか」と、彼に喜びを与えた。1937年から奨学金を獲、パリで生活。パスカルグノーシス、マイスター・エックハルト、十字架のヨハネなどキリスト教神秘主義思想、ニーチェさらには仏教にも関心を寄せた。📕

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最強のペシミストシオランの思想、生きる理由の一つになる

日本にこんな本があるのを知らなかった。この本は読んでいないので良いかどうか内容は知りません。機会があったら手にしてみます。私はマイスター・エックハルトパスカルグノーシス、十字架のヨハネなどに関心があります。パスカルエックハルトグノーシスについては結構読みました。十字架のヨハネはきちんと読まねばと思っています。それに日本も含め世界中で右思想が蔓延する中、シオランは考えるきっかけになるのではと思うのです。📕

 

シェイクスピア (1564-1616,62才) 英。詩、劇作。

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東大総合文化研究科、教養学部の本 William Shakespeare 

マクベス」「テンペスト」非常に裕福な家庭に生まれたが父が羊毛闇市場に関わったため市長職を失った。両親はカトリックだったと思われる。18才で26才の女性を妊娠させ結婚。長男は幼くして没するが双子の娘がいる。1592年(28才)でロンドンの劇場に名前が現れるまでほとんど記録はない。エリザベス朝演劇の興隆で、役者をしながら脚本を書くようになる。自分が一番と自惚れていると中傷されるほど劇作家として成功。94年には役者、劇作家にしてLord Chamberlain's Menと言う劇団の共同所有者、グローブ座の共同株主となる。1603年ジェームズ1世が国王になると国王一座へ改名。作劇論。高等教育も受けておらず役者は紋章を得る資格がなかったが、彼は紋章を授かる。この頃から社会的地位や名誉の回復をテーマに書く。「ハムレット」では先王の幽霊を「お気に召すまま」ではアダムを演じる。資産は増え故郷ストラトフォードで二番目の大邸宅を入手。49才で引退し故郷に帰り、52才で腐ったニシンを食べ、伝染病で死んだとされるが謎。聖三位一体大聖堂内陣にある彼の墓は多額の献金(十分の一税)による。

中学の頃何冊も読んだけど、楽しめたのは大学時代に見たBBCシェイクスピア劇場の舞台。The Whoのヴォーカル、ロジャー・ダルトリーが出てた「間違いの喜劇」が印象的でした。私にとっては滅多にいないイギリス人芸術家の一人にして、イギリスにとって最大の作家。イタリアを舞台にしたものが多い(ロミオとジュリエットヴェローナだし、ヴェニスの商人はそのまま、他にも)ので、親近感はあるけれど私の英語力だと残念ながらそんなに文学史上最高の作家と言うのが分からないです。

 

ジェイムス(1843−1916,73才) 米生まれ英の作家。モダニズム文学の先駆者。

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Henry James

父は宗教哲学者、兄はプラグマティズム哲学者、アイルランドスコットランド移民。アメリカとヨーロッパを知る。モーパッサン、フロベル、テニスン、ゾラと知古。1878年「デイジー・ミラー」1898年「ネジの回転」で怪談を語る心理小説へ。

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ネジの回転

そうだ、英語でネジの回転を読んでみよう📕 短編だし、先が知りたくなって読みやすいと思う。

 

ジッド (1869-1951,82才) 仏パリ、小説家。父はパリ大学法学部教授。

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32才年下の愛人とAndré Paul Guillaume Gide

自身はアルザス大学を放校となり神経を病むが、ヴァレリーマラルメと知り合い執筆活動へ。29才、北アフリカオスカー・ワイルドと娼館へ通い同性愛に目覚める。彼は自分の作品を三つのカテゴリーに分けている:物語的なレシ「背徳者」「狭き門」。一人称、茶番劇、批判的諧謔精神のあるソチ「パリュード」「法王庁の抜け穴」。いわゆる小説であるロマン「贋金作り」と区別。肉体関係を持たず心から愛した妻マドレーヌ(従姉)と32才年下の愛人マルク、マルクの愛人の子供の代父を切望するなど、彼の愛は複雑怪奇。1926年の「一粒の麦もし死なずば」でカミングアウト。フランス植民地支配に抗議し、反ファシズムからソビエトに近づくが、ゴーリキーを見舞うために訪れた同地で現実を知りスターリン批判へ。第二次大戦前に反戦、反ナチを明確にした。1945年にはゲーテ賞、ノーベル文学賞。死後教皇庁の禁書となる。

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法王庁の抜け穴

学校の図書室で読んだ時には何%分かったのか分からない。再読できる時間があれば良いけど・・・。マルクと映った写真を見ているとなんだか「ヴェニスに死す」の最後を思い出してしまう。トマス・マンの原作でなくヴィスコンティの映像で。📕

 

ジャリ(1873-1907,34才)  仏。劇作、小説。

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いかにも!なAlfred Jarry

悪趣味と退廃に満ちた生活で結核が悪化し34才で死んだ。形而上学を超える研究であるPataphysiqueを提唱した。現代科学の理論のパロディで、それを実行する者をパタフィジシャンという!デュシャンジョン・ケージなどがそう。

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シュルレアリスム演劇の先駆者

パリで「Ubu roi ユビュ王」の舞台が観たい!!とんでもないろくでなしだけど作品はカッコいい!

 

ジョイス (1882-1941、59才)  アイルランド。詩、小説。

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James Augustine Aloysius Joyce

ダブリン近郊の裕福な街、中流カトリック家庭の10人兄弟の長男。母は敬虔なカトリック、父は小規模事業を営む冗談好きな男で、ジェイムズが5才の頃ダブリン市役所の徴税人となり市中へ。家族の経済的困窮は続き、度重なる引越しなどで現在彼の家は存在せず、ジョイス記念館は彼とは無関係。父が熱心に支持した政治指導者「アイルランドの無冠の帝王」C.S.パーネルの死に際し、なんと9才のジョイスは詩を読み印刷しヴァチカン図書館へ送った!同年父は破産宣告を受け酒浸りとなり一家は貧困へまっしぐら。イエズス会神学校などで学ぶが、神父は考えられず、16才でアイルランド総合大学で現代アイルランド語、英語、フランス語、イタリア語で才能を発揮。ダブリンの演劇や文学サークルでも作品を発表した。17才でイプセンの評論を発表し、ノルウェーでこれを読んだイプセンに感謝状をもらった。これは彼の公のデビュー。アイルランド文芸復興運動の象徴のようなイエイツとも知り合う。卒業後パリへ留学するが父譲りの経済感覚の欠如で激しい浪費生活を送る内、母が癌で死に帰郷。以後酒浸りになる。教師や歌手(アイルランドって良い曲に溢れてる)でなんとか生活。22才「芸術家の肖像」を書くが発表できず。これは美学をテーマとした随筆風物語で、これを元に小説「スティーブン・ヒーローStephen Hero」を構想。同年6月16日コネマラ山育ちでダブリンでメイドをしていたノラと出会う。自堕落な生活で喧嘩、逮捕などもありノラとダブリンを脱出。チューリッヒトリエステ(当時はオーストリア・ハンガリー帝国)、クロアチアなどでベルリッツの英語教師をして暮らす。1909年「ダブリン市民」出版のため帰郷し、ダブリン初の映画館にも着手したが失敗。トリエステへ戻り高校教師と家庭教師をして妻、娘、息子と生活。生徒にはイタロ・ズヴェーヴォ(Italo Svevo イタリアのシュヴァーヴェン人という意味のペンネーム。本名Aron Ettore Schmitz.小説の他、評論、童話、戯曲、歴史など多数)と親しくなり彼の La Coscenza di Zenoを激賞した。「ゼーノの意識」はトリエステの狭い空間で辛辣に語られる手法が「ダブリン市民」と似ている。スヴェーヴォは後の代表作「ユリシーズ」の主人公レオポルト・ブルームのモデルとなる。第一次大戦勃発後チューリッヒで眼病に悩まされながらも、エズラ・パウンド(詩人、音楽家、批評家、モダニズム運動の中心人物。)やフェミニスト、ショーウィーヴァーなど強力な支援者を獲得し、パリで「フィネガンズ・ウェイク」を執筆。1941年十二指腸潰瘍の手術後没。

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どんな訳にしたって理解不能と言うことか

二十世紀最大の作家と言われる人は何人かいると思うが、ジョイスは多分その中で最大の人、という認識を私はかなり子供の頃から持っていた。「ダブリン市民」(1914年)を読んだのは高校生の頃で日本語訳で読んだが、その美しさに強い印象を受けた。それは安部公房の「夢の兵士」を私に思い出させ、これが短編の理想ではないかと思ったほどだ。後に「ユリシーズ」で苦闘し「フィネガンズ・ウェイク」は数頁で投げ出した。これは私にとって非常に珍しいことだ。どう考えても日本語で読むものとは思えなかったので、もっと英語ができるようになってから読もうと思って時間が経ち、後年英語版に挑戦するも撃沈。誰か言語の苦労なく読んだ人に、正直な話を聞きたいです。それでもジョイスは天才に違いない、憧れの人です。ズヴェーヴォはやはりペルージャ外国人大学時代、現代文学で読まされ辛かった思い出がある。あまりに辛かったので、帰国するときに捨ててきた極僅かな本の一冊に入ったのでした。それでも📕

 

ショーロホフ (1905-84, 79才)ロシア帝国ドン〜ソビエト連邦。小説。

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Михаил Александрович Шолохов

コサックの村に生まれ、15世紀からコサックが自治を守ったことが彼に絶大な影響を与えた。コサックとはウクライナ〜南ロシア地域の農奴制から逃亡した農民や没落貴族による軍事共同体。18世紀に帝政ロシア自治を剥奪された後は、国境警備や民衆反乱鎮圧の先鋒に立った独特な歴史を持つ。中学時代にロシア革命勃発。赤衛軍の食糧調達部隊となり奔走した経験を描こうと思い立つ。モスクワで石工などしながら勉強し1924年に文壇デビュー。1925年にはドンへ帰郷し、コサック社会の変遷をテーマとした「静かなるドン」は雄大なスケールを持つ作品となった。第二次大戦では従軍作家としてプラウダなどにルポルタージュを書き、ナチスの残虐さを告発する作品「憎しみの科学」を発表。1938年にはソビエト連邦最高会議代議員に選出。1965年ノーベル文学賞。代表作「静かなるドン」はソビエト文学の最高峰といわれる作品で、読まなくてはーと思ったりしながら、その長さと真面目さに負けて読んでいません。いつか読める日が来るのでしょうか。ロシア文学は結構読んでいますが、疑問。

 

スターン (1713-68,55才)英。牧師、小説。

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狂気な雰囲気の絵ばかりなLaurence Sterne

未完の長編『紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見』祖父はヨーク大主教ケンブリッジジーザスカレッジ学長、決闘で死。ローレンスは田舎牧師となり結婚。46歳で自費出版した「トリストラム・シャンディ」がロンドン中で大評判となり社交界で人気。9巻まで出した後、人妻と恋愛沙汰の後に「センチメンタル・ジャーニー」を書く。主人公トリスタムがなかなか登場せず、レイアウトに凝り、記号を駆使したメタフィクションジョイスプルースト、ウルフなどに影響を与えた。スターンを私は知らなかった。是非オリジナルを手にしてみたい(全部読めるとは思えないけど)📕

 

スタンダール (1783ー1842, 59才) 仏。小説、記事。

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Stendhal : Marie Henri Beyle

「アンリ・ブリュラールの生涯」「リュシアン・ルーヴェン」「赤と黒」「パルムの僧院」「エゴティズムの回想」「イタリア年代記」📕

 

ティーヴンソン(1850−94)英、エディンバラ。随筆、小説。

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Robert Louis Stevenson

砂丘のあずま屋」「バラントレーの若殿」「新アラビアンナイト」『宝島』『南欧に転地を命ぜられて』📕『ジキル博士とハイド氏』各地を転々とし、サモア諸島で没。10歳年上の妻と二人の連れ子、冒険小説

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RLS

「ジキルとハイド」って多重人格ものの草分けでしょ。英語の少年少女版を、遥か昔に読んだ。今の映画やドラマは彼に感謝しなきゃね。

 

ステルン (1921-2008, 87才)Agiago/Vicenza 小説、翻訳。

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軍服姿のMario Rigoni Stern

ナチス・ドイツ強制収容所からの生還者。ロシア戦線からの悲惨な撤退を経験し「雪の中の軍曹」を書く。自身で英語翻訳。カルヴィーノは最高評価を与えてる。

 

スヴァーリン (1895-1984, 89才)ウクライナキエフ〜パリ。随筆家、記者。

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ボリス・スヴァーリン著

フランス共産党の創立メンバー。

 

スピノザ (1632-1677,45才)蘭、アムステルダム〜ハーグ。思想。

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縦長の顔だったらしいBaruch De Spinoza

『エチカ』読まねば・・・

 

セリーヌ (1894-1962,68才)仏。医者、小説。

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Louis-Ferdinand Céline

『夜の果てへの旅』『なし崩しの夜』過激な内容、破格の文体で話題をさらい、若きサルトルボーヴォワールらの実存主義に影響を与えた。左翼かと思いきや戦時には反ユダヤ主義の評論や政治パンフを多数書き、戦後は亡命生活を送った。

 

セルバンテス (1547 -1616, 69才) 西、マドリード。貴族、戦士。小説。

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Miguel de Cervantes Saavedra

ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』下級貴族。コンベルソか否かは意見が分かれる。1569年教皇庁特使アックアヴィーヴァ枢機卿の従者になりローマ、ナポリへ。スペイン海軍に入隊。スペイン最盛期の1571年レパントの海戦で被弾、左腕の自由を失うも従軍。本国へ帰国する戦場でチュニス、アルジェ、トリポリなどの海賊の捕虜となり5年間の囚人生活で四度脱出を先導し失敗。キリスト教慈善団体に保釈され帰国。士官になれず38才で処女作『ラ・ガラテーア』。父が没すると姉、妹、妻、娘など女ばかりの六人家族を支えるため無敵艦隊の食糧調達係などして働くも、英艦隊に撃破され失職。預金をした銀行が破産し、とてつもない負債が払えず投獄。獄中で構想を練り、1605年『ドン・キホーテ』は出版と同時に大評判となったが版権は安く生活は楽にはならなかったが、制作活動は続いた。スペイン語圏初の世界的作家であり、同時代のシェイクスピアの他、ディケンズメルヴィルドストエフスキージョイスボルヘスなどへ多大な影響を与えた。スペイン語圏最大の文化人として彼の名が使われている。

ドンキホーテっていうと多くの日本人は、ごちゃごちゃのお店を思い出す人が多いような気もするけれど、私にとっては圧倒的に当然セルバンテスで、日本語、英語で読み、子供の頃には漫画も見た。彼をテーマにした絵も描いたことがある。時代遅れの騎士道精神というか、幻想というより妄想の理想世界と現実の悲哀がリアルに力強く描き出され、不思議な魅力がある。もうちょっと年取ったらまた読んでみたい。📕

 

ソクラテス(紀元前399年没)アテナイ、古ギリシャ。哲学

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Σωκράτης

釈迦、キリスト、孔子ソクラテスを世界の4大聖人というらしい。私には彼らが同列には思えないけれど・・。中学の時『ソクラテスはかく語りき』を読んだ。翻訳の問題も大きいとは思うが、分からなかった。今読んだらどうだろう。西洋文化に絶大な影響を与えた人にも関わらず、何も書いていない。(イエス仏陀も自分では書いてない)タイムスリップして、古代ギリシャ語がわかるようになって当時の彼をみに行ってみたい。

 

ゾラ (1840-1902,62才)仏。小説、評論、随筆、手紙。

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Emile Zola

ヴェネツィア人の父が運河工事の技術監督だったためパリからエクスプロヴァンスへ引越しセザンヌと友達になる。父が死亡したためパリへ戻り苦しい生活の中バカロレアに失敗、書店で働き始める。人種、環境、時代などが人格形成に与える影響に関心を示した『居酒屋』は大当たりしたが評価は割れ、アカデミー会員にはなれなかった。スパイ容疑をかけられたユダヤ系ドレフュスを擁護したことで右翼に睨まれ、亡命、さらに反ドレフュス派により煙突を塞がれ一酸化炭素中毒で亡くなった可能性がある。

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マネの描いたゾラ

ゾラは読もうと思って結局読んでいない作家の一人。でもセザンヌとの関係や印象派を中心とする美術評論などで親しんで来た。良い人だったに違いないし、センス良かったに違いない。セザンヌとは喧嘩別れしたように言われてきたが、晩年の手紙が発見され生涯親友だったであろうと考えられるようになった。どうせ喧嘩したってセザンヌのせいに違いないし。📕

 

タ行

タッソー (1544-95,51才)Solento-Roma 詩、劇作、思想。

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Jacopo BassanoによるTasso:イタリア人らしい良い男

父も詩人。パドヴァで法律を学ぶもFerraraの枢機卿 Luigi d'Este の宮廷詩人として "Rinardo"1562 "Aminta"1573 "La Gersalemme Liberata"1575 を書き名声を得、フランス宮廷、帰国後は Alfonso d'Este の宮廷で花形となる。多くの追従者も出る。公の妹レオノーラに多くのソネットを捧げた。おりしも対抗宗教改革の中『解放されたエルサレム』が異端宣告を受けることを異常に恐れ何度も書き直すが、ついに1577年公によってSant'Anna(当時の精神病院のような施設)に収容された。一度は脱出するも7年間幽閉された。退院後Gonzagaのマントヴァ宮廷で受け入れられたが放浪しながら詩作を続けた。クレメンス八世は戴冠詩人としてローマへ招聘した。聖オノフリオ修道院で没。

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Torquato Tasso

才能に恵まれ社会的成功も納めながら狂気に苛まれ数奇な人生を送ったタッソーは、南欧最大の詩人として多くの芸術家を魅了した。「解放されたエルサレム」を主題とした絵画作品は無数にあり、ゲーテは1877年に5幕劇『タッソー』を書きドラクロワは精神病院のタッソーを描いた。ゴドフロワ・ド・ブイヨン率いる第一回十字軍の歴史物語ではあるが、ガリラヤ公タンクレーディ以外全て架空の人物で、ムスリムの女性たちがキリスト教徒の騎士と恋に落ち改宗する。バイオハザードなみに強い女騎士の活躍などファンタジックな内容で、やはりエステ家に仕え大成功したアリオストの『狂乱のオルランド』の系譜だが、時代なのか彼の性格のためかより劇的で悲痛な内容となっている。その分美しいような気もする。日本語ではとても読めないので、原文でスラスラ読めるようもっとイタリア語を頑張らなきゃね。留学時代の思い出の作品なので、コロナが開けたらタッソー参りがしたい。📕

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Sant'Onofrio修道院の記念碑

 

ダニエル (1180-1200頃) 南仏。吟遊詩人

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Arnaut Daniel

ダンテは「神曲」で、彼のオック語による凝った6行詩が北イタリアの清新体派に影響を与えた、と書いている。

 

ダヌンツィオ (1863-1938,75才)Pescara- GardoneRiviera 詩、政治、ファシスト

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Gabriele D'Annunzio, Gaetano Rapagnetta

チビでハゲでも世界中の女性を魅了できると証明した人。裕福で社会的地位の高い家庭で神童として育ったせいか、とてつもなく自信家で、良くも悪くも激情型ロマンチストだと思う。詩人、劇作家としては壮大で劇的で難解なデカダンスな文章を綴り、司令官としては自らの軍隊を率いてフィウメを占拠(戦後まで問題は残った)した。熱狂的愛国主義者なので、天皇のもと、個人を排してまとまる日本に強い関心を持ち、ローマから東京までの1万8千キロをプロペラ機で飛行するというとつつもない計画を立てていた。ドビュッシー、トスティ、レスピーギ初め、西欧のみならず三島由紀夫など大勢を魅了した。小説『死の勝利』映画『カビリア』聖史劇『聖セバスチャンの殉教』ダヌンツィオは突出した人物で、退廃的で壮大でゴージャスな趣味で異常に自己顕示欲が強く、裸になりたがる。こう言うタイプは人気を博すものだけど、私は嫌い。ペルージャ外国人大学時代、ダヌンツィオの研究者だった現代文学の先生は、自分を良い男だと思っていたに違いなく、よく女子生徒に囲まれていました。私も時々、そこに居たけど、彼のしていた金色のネクタイは象徴的だった。

 

ダンテ (1265-1321,56才)Firenze-Ravenna  政治、詩、思想。

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BotticelliによるDante Alighieri

本名はDurante(いつまでも続く)でダンテは短縮形。『神曲』は後世に絶大な影響を与えた。『新生』では、9才でベアトリーチェに出会い、18才で再開、大片思い、彼女はダンテよりずっと金持ちの銀行家と結婚したが24才で昇天。と、3の倍数が三位一体などキリスト教的聖数となっていて、それは『神曲』の構成自体にも適用されている。イタリア文学の父とよく言われる。「ルネサンス文化の先駆者と位置付けられている」って日本語ウィキには書いてあるけれど、それはペトラルカの間違いではないかな?ダンテはその強烈な党派意識(小貴族だったから白派)とキリスト教絶対主義(そもそも地獄、煉獄、天国にいる人たちやその構成)において非常に中世的だと思うんだけど。何でもかんでもルネサンスって言うと良いみたいな傾向があるな〜と思うし、トレチェントは確かに中世からルネサンスへの橋渡し時期だとは思う。ラヴェンナのお墓は中世の面影ゼロで、ガッカリしました。『神曲』に関しては、一時期藤谷先生の講座に通ったこともあるんだけど、先生の講座は実に詳述で、私には時間かかり過ぎでした。藤谷先生は日本が世界に誇るダンテ研究者。でも私はあれだけ読んで人生終われないので離脱しました。

 

チェスタートン (1875-1936, 61才)英。小説、評論

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Gilbert Chesterton

美術学校にも行っている。推理小説「ブラウン神父」は神父探偵もののハシリでテレビドラマも大ヒット。なんとなくドラマの神父と似てる。

 

チェーホフ (1860-1904,44才)ロシア。劇作、小説。

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Анто́н Па́влович Че́хов

質素な家庭から出た天才少年で、中学から執筆を始めモスクワで医者と執筆活動を並行して行った。初期には家計を助けるためユーモア小説を書いていたが、才能が認められ短編、長編戯曲などで大スターとなった。通りを歩くだけで女性から囲まれ、花をさし出されたという。チェスタトンがブラウン神父と似てるのと正反対に、アントンはかっこいいもんね。『イワン・イリイチの死』を書いたトルストイへのオマージュのような『イワーノフ』が初長編劇。自ら役者も務めていたが最後となった『かもめ』の時には結核がひどくなっていてドイツの療養所で没した。長編しか小説ではないと思われていたロシアで、短編の素晴らしさを知らせたのは彼だった。甥のミカエル・チェーホフスタニスラフスキーと共にモスクワ座で『ワーニャ伯父さん』など多数演じる俳優。私にとってチェホフはドストエフスキーと共にトルストイ以上にロシア文学を思い出させる人であり、演劇と言ったらチェホフと思うくらい。📕

 

チターティ(1930ー)Firenze. 小説、伝記、随筆、批評。

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Pietro Citati

シチリアの貴族出身でトリノで教育を受ける。「不可能な世界のなかで最も優れたもの」アレキサンダー大王、ゲーテカフカプルーストらの評伝、カルヴィーノの回想録。ガッダの影響。問題喚起が得意。📕

 

ツキディデス(前460c-395,65才位か)アテナイ 歴史

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Θουκυδίδης

歴史の父ヘロドトスと並ぶ古代ギリシャの歴史家。自軍に肩入れしない語り口、時には一人称の語りを入れる小説性が特徴。スパルタとアテナイ間で戦われたペロポネソス戦争の記述から、アメリカの政治学者が「ツキディデスの罠」と言う言葉を作った。互いに望まなくとも覇権争いで戦争状態に陥る危険性を表す。無関係だけど、父が高校生の頃、歴史の先生が「築地です(ツキヂデス)、渋谷では有りません」と言ったとか。

 

ツルゲーネフ (1818-1883,65才) 露。小説、随筆。

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Ивáн Серге́евич Турге́нев

19世紀ロシアの三大文豪はドストエフスキートルストイツルゲーネフなんだとか。貴族。パリに長年暮らしたのでヨーロッパとロシアの文学交流に尽力した。ドストエフスキーの『悪霊』野中に、革命家の仲間として登場するのを怒っていた。世代間の社会、思想格差をテーマとした『父と子』は傑作、と言うが読んでいません。

 

ディケンズ (1812-70,58才) 英。小説。

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Charles John Huffam Dickens

貧乏な上に金銭感覚のない両親のおかげで、今だったら間違いなく児童虐待だけど、12才の時、靴工場で働き牢獄の家族(借金などで逮捕されていた)を一人で支えた。折角の勉学の機会も母(自己中のダメな母親の典型)に奪われ、そうした経験が作品に生かされている。様々な仕事をした後22才で新聞記者となりコラムが成功。『クリスマスキャロル』初め、毎年の季節ものとして子供向けにも書いた。多作家なので作品にはムラがある。後には社会批判も加わるが、人物描写が高く評価されている。「ピクウィック倶楽部」「大いなる遺産」「我らが共通の友」世界初の推理小説『バーナビー・ラッジ』。話が不自然(新聞や雑誌の連載だったので)、大衆的過ぎるなどあるが現在はイギリスの国民的作家として認知されている。もう読んだのは遠い昔だけれど、私はあんまり好きじゃなかったな。暗くて意地悪な人ばかり。再挑戦して良さを探そうと思います。📕

 

ディドロ (1713−84、71才) 仏。哲学。小説。

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Denis Diderot

啓蒙時代の百科全書派の中身人物。神学を学んだ後無神論者になった。彼の美学は、私には違和感があります。『運命論者ジャックとその主人』📕

 

ディフォー(1660−1731,71才) 英。記者、小説。

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Daniel Defoe

革命の挫折と王政復古の時代、非国教会派の質素な家庭に生まれ、1665年のペストやロンドンの大火など経験。様々な商業活動で大金を稼ぐかと思えば文無しになるなど浮き沈みの激しい生活の中、パンフレット作者として活躍する。「常備軍論」「生粋のイギリス人」など政治活動に参加し晒台にあげられたりしたが大衆に人気があり、トーリー党の幹部に引き立てられ、様々な人物に変装しスコットランドに潜入。活動の甲斐あって1707年イングランドスコットランドは合併に至った。グレートブリテン王国の中心で活動したが子供のいないアン王女が死ぬと、ホイッグ党に政権が移り逮捕される。が、スパイ活動の能力が認められ執筆を継続。59才で書いた『ロビンソン・クルーソー』が大ヒットし次々発表。70才で失踪し翌年死亡が確認された。映画や児童書など無数にある。作品と同じ冒険そのものの人生だ!凄い。原題は自分以外全員が犠牲になった難破で岸辺に投げ出され、アメリカの浜辺オルーノクという大河の河口近くの無人島で28年もたった一人で暮らし、最後には奇跡的に海賊船に助けられたヨーク出身の船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と不思議で驚きに満ちた冒険」(The Life and Strange Surprizing Adventures of Robinson Crusoe, of York, Mariner:Who lived Eight and Twenty Years, all alone in an un‐inhabited Island on the Coast of America, near the Mouth of the Great River of Oroonoque;Having been cast on Shore by Shipwreck, wherein all the Men perished but himself. With An Account how he was at last as strangely deliver’d by Pyrates)。最近本が売れないからなんとかして売ろうとして、やたら長い題名をつけるとかあるけれど、これには負ける。📕

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ポールちゃん

家には以前いろんな動物がいて、ヨウムっていう鸚鵡がいました。名前をポールと言ったんだけど、これはロビンソンが飼っていた鸚鵡からとったものでした。ポールちゃんはめちゃくちゃ言葉が堪能でなんでも真似できて、気が荒く王様のように振る舞っていました。

 

デカルト (1596-1650,54才)仏。哲学、数学。

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Frans HalsによるRené Descartes

オランダ絵画の巨匠フランス・ハルスによる素晴らしい肖像画なので大きくしてみました。合理主義(近代)哲学の祖と言われるたいした人。Cogito ergo sum「我思うゆえに我あり」は思想史など読んだことのない人でも聞いたことがあるのではないでしょうか。中世スコラからの脱却、と言っても日本人はすぐに宗教の否定と取るけれどそれは全然間違いで、ルネサンス人である彼は当然信仰の上に、理性の光(合理主義)を考えていた。『方法序説』では神を合理主義的に証明しようという試み。ラテン語でなくフランス語で書いたところも中世的ではない。フランス王アンリ四世の自宅をイエズス会の学校としたラ・フレーシュは彼の基礎となり、神学、数学、ポアティエでは法学、医学を修め、22才、ドイツで軍隊に入隊し、戦わずに自然科学者や近代物理学の草分け的な人々と親交を結ぶ。27〜29才、数年ヴェネツィア、ローマを旅しパリに落ち着き、ホッブスガッサンディと知り合う。枢機卿のサロンで初めて自らの哲学を披露し、大いに支持される。隠遁生活ができるとしてオランダに移り『世界論』に取り組むが、ガリレオが異端審問にかかったことで断念。45才、パリで話題になるが無神論者として避難も始まる。53才、変人で有名なスウェーデンのクリスティーナ女王の要望で毎朝5時に講義をし風邪をこじらせて肺炎になり没。クリスティーナのカトリックへの改宗はデカルトの力があるとも。それにしてもクリスティーナは人騒がせな人で、あちこちに顔を出す。

 

デ・サンクティス(1817-83,66才)Napoli 思想、小説

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Francesco De sanctis

イタリア統一運動時代に最大限生き生き生きた人。思想家(美学)、政治家(文部大臣)として、科学的で自由な学問を説いて回り、グラムシ、クローチェ、ラブリオーラなど後世へ絶大な影響を広範に与えた。自由な思想を持ったため迫害された才能ある人々に関する強い関心からブルーノ、ガリレイヴィーコ他についての評伝、特に『イタリア文学史』は名高い。政治家と言ったら腐敗の代名詞の現代と違って、健全な政治と文学で貫かれた、まさに立派な人生だった。📕

 

トゥウェイン(1835−1910)米、ミズーリ。小説。

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BeckwithによるMark Twain

最初の真のアメリカ人作家。見た目もそんな感じだし、ペンネームは蒸気船の合図 by the mark, twain からとったそうだ。圧倒的に『トム・ソーヤーの冒険』で有名だけれど、そのスピンオフ『ハックルベリー・フィンの冒険』の方が魅力的。それは彼の母親替りの女奴隷と、遊び相手のその子供たちなど当時のアメリカ社会が鮮明に描かれていること。でも健全なアメリカの代名詞のような作品とは別に「ハドレイバーグを堕落させた男」「ミシシッピに生きる」「三万ドルの遺産」など社会派の作品もあり、彼がアメリ反帝国主義連盟の会員で、フィリピン合併に反対したことなどが納得できる。きっと良い人だったんだろうな。無関係だけど、弟が高校時代に英語劇でハックの役をやったことがあった。家には子供の頃からトムソーヤーでなくハックルベリーの本があったから。あれはどこへ行っただろう?📕

 

ドゥフォントネイ (1819-1856, 37才)仏。小説。

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Charlemagne Ischir Defontenay

SF作家の父。 日本では国書刊行会から出ています。ボックス入り、マーブルの独特のハードカバー。西洋幻想文学といえばこのシリーズで、私も大好きだからたくさん持っています。流石に全集は揃えてないけど、以下が国書刊行会のサイト。

https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336025227/

以下は国書刊行会の幻想シリーズについてシリーズを紹介してくれた人がいるので、そのサイトです。単純なSFというより壮大なスペースオペラから謎の作品までみんな読みたくなる〜📕

https://ncode.syosetu.com/n5296by/

 

ドストエフスキー (1821-81,60才)露モスクワ。小説、思想。

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ヴァシリー G.ペロフによるФёдор Миха́йлович Достое́вский

小説界の帝王。貧民救済病練の医師であった父の領地とモスクワで、15才まで兄弟と暮らす。病気で発音に不自由が生じる。16〜22才まではサンクトペテルブルクの工兵学校で中尉まで昇進したが作家に転身。24才で発表した『貧しき人々』が激賞され「第二のゴーゴリ」として最高のスタートをきったが、空想的社会主義のメンバーとなったため死刑判決を受け、銃殺直前に恩赦でシベリアへ流刑。33才まで服役した経験から『死の家の記録』『白痴』などが誕生。キリスト教人道主義へ転向し『罪と罰』で評価は決定的となったが賭博癖のため困窮し、出版社と過密な契約を結ぶ。社会評論、宗教論、反ユダヤ主義、アーリア民族至上主義などの思想的背景は、後に『作家の日記』となった雑誌連載に見て取れる。『カラマゾフの兄弟』が自身の集大成となった。

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ロシア語版。本らしい!かっこいい。欲しい。

ドストエフスキーの、人権における圧倒的不平等な思想を知ったのは、大人になってからで驚いた。あれ程貧しい者や、ダメな人間に対する救いを描いているのに、そうなんだ、と。中学生の夏休みに『カラマーゾフの兄弟』を読んだ。虜になって、途中で止めることができず、ほとんど寝ずに三日間ぶっ通しで読み耽った。三兄弟はそれぞれ全く違った性格で、純潔で愛に満ちた弟アリョーシャ、賢く難しい宗教論を展開する捻くれた次男イワン、賭博好きで切れやすく、次々に問題を起こすてんかん持ちのとんでもない長男ドミトリー。が、何十年もたった今でも鮮明に浮かぶ。長男は彼自身の反映だけれども、実は三人とも彼自身で、人間の複雑さを描いている。許しが得られる人間がいるのかどうかが問題なんだと思った。中学以来読んでいないので、きっと今読めば随分違うことだろう。いつだか知らないけれど、人生の最後に、もう一度読めたらと思う。📕 大体多くの日本人には「許しが得られる」と言う発想自体が無いのではないか。

 

トマス (1914-53、39才) ウェールズ。詩

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Dylan Marlais Thomas

ボブ・ディランの名の源。愛人の前で18杯ウィスキーを飲んで死んだ。アングロ・ウェールズのみならず20世紀最大の詩人の一人と言われたりする。1960年代ぽい。


トルストイ (1828−1910,82才) 露。小説。

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イワン・クワムスコイによるЛев Николаевич Толстой

ロシアを代表する最大の文豪。貴族の四男。次々に家族を亡くし、9才でモスクワ、最終的にはカザンの叔母へ引き取られた。受け継いだ広大な農地の経営はあっという間に破綻し、何をやっても失敗し放蕩三昧の日々。22才から小説を書き始め、激戦地を経験したことで非暴力主義へ。農民解放や教育問題に関心を寄せた。多少読んだけれど『二人の軽騎兵』『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』は読んでいないし、きっと今後も読まないだろう。世界三代悪妻の一人を妻とし(奥さんは間違いなく大変だった)、印税や著作権を家族でなく国に与えようとしたりして、社会運動家として国民的な人気があった。きっとトルストイは良い人だったんだと思う。勇気ある良い人の家族は大変な目に合うものだ。娘は日本の滞在記を書いている。トルストイドストエフスキーの大きな違いは、トルストイでは、誰が善で、どうすれば正しいかが明確に決まっているのに対して、ドストエフスキーは線引きをしていない。書きながら再読すべきと思えてきました。📕

 

トロンペーオ(1886ー1958、72才)Roma, Ivi 小説、随筆

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Pietro Paolo Trompeo

 

ド・シラノ(1619−55、36才)仏。剣術、思想、理学

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Savinien de Cyrano de Bergerac

ロスタンの戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』で有名になったが、パリ高等法院の弁護士の父の第4子。ブルボン朝三十年戦争期に百人相手に闘うなどの武勇伝に溢れ、同時にデカルトの論敵の自由思想家ガッサンディなどに学び、同性愛者として手紙を残し破天荒な小説を書いた。『太陽世界旅行記』『月の国家と帝国の愉快な物語』はSF小説の先駆け。梅毒で死んだ。読みたいと思って何年も経つけど、イラストはよく知っている。📕

 

ナ行

ニエーヴォ(1831-61, 30才)Padova-ティレニア海。作家。軍人。

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Ippolito Nievo

19世記中葉の最も重要な作家。歴史、詩、近未来小説など多数。  Confessioni di un italiano. 死んだ場所がティレニア海、遭難したらしい。

 

ネグリ (1818-2000, 82才)Pesaro -San Marino 小説、パルチザン

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Cristoforo Moscioni Negri

第二次大戦で従軍し負傷。1943年イタリアがドイツ、日本との枢軸軍を脱退、英米の連合軍に降伏すると、ドイツ軍の逆襲が始まる。対してペザロのガリバルディ隊を率いて戦った。リゴーニ・ステルン同様彼の経験は「長い銃」に結集している。📕

 

ノディエ(1780-1844,64才)仏。小説

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Charles Nodier

11才で革命演説をし、後反ナポレオン活動に明け暮れ「瞑想社」という結社を作る。18才で昆虫に関する書を書き、パリの私設図書館に職を得、そこでサロンを開催。デュマ、ユーゴーなどがいる。妖精や吸血鬼など民衆の伝承を用い悪夢や幻想を描いた。辞書編纂。インキュナブラの膨大な蒐集。フランスにゲーテバイロンを紹介するなど大きな影響を持った。てんかんだったらしく狂人の描写が得意。凄いなー。そんな風に生まれたかったかなー、っと思ったりする。

 

ハ行

バイロン (1788-1824,36才)英。詩。

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Thomas PhillipsによるGeorge Gordon Byron

バイロン肖像画が結構大きいのは画家の技量を讃えるためで、バイロンが好きってわけじゃない。10才で領地を相続し男爵になって、放蕩と怠惰の人迷惑な生活を送り、多くの女性を楽しませかつ傷つけた。お金と地位があるからいきなり出版できる。という典型的なろくでなし貴族。でも彼の良いところは、ろくでなし貴族でも保守派ではなくて、世の中の欺瞞を皮肉り、労働者や植民地の側に立った行動をしたところ。ギリシャ独立戦争で死んでいる。娘も頭が良くて世界初のコンピューターに関わっている。

 

パヴェーゼ (1908−50,42才) Santo Stefano Belbo,Piemonte-Torino 小説、翻訳、批評

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Cesare Pavese

『雄鶏が啼く前に』『丘の上の家』『月とかがり火』『レウコーとの対話』20世記イタリアの最大の知識人、ネオレアリズム文学の代表者などと言われる。6才の時トリノ裁判所で働く父が病死、母の死後は姉の家で書き続けた。ホイットマンが卒論で、ジョイスアメリカ文学をイタリアへ紹介した。高校教師の職を得るため不本意ながらファシスト党員となったが、ギンズブルクらのエイナウディへ執筆。1935年にはギンズブルクの後200人の文化人がファシストに逮捕され、パヴェーゼも流刑。1938年にはエイナウディの編集責任者となり50年にはイタリア文学界の最高峰であるストレーガ受賞。その2ヶ月後にトリノのホテルで自殺。死後カルヴィーノを中心に遺稿が整理され全集が出た。📕

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レウコとの会話

ファシズムに対するパルチザン活動は文学と非常に深く結びついていて、レジスタンス活動をした作家は非常に多い。特にイタリアでは北部のパルチザン運動と文学界は切っても切れない関係にある。思い出すのはイタリア留学時代、哲学の先生と話をしているときの「知識人は皆左翼だ」という一言だ。それはあまりにも何気ない日常的な言葉をのようで、日本では考えられないことだった。彼は実に穏やかで当たり前のことというように私を見ていた。そういう人間にとってパヴェーゼはスターであり、彼の死を思う時あまりにも辛い。何年もずっと後になっても、仕事のために入党したファシスト党のことを悔やんだ手紙を姉に書き送っている。それは彼の信念を曲げ良心を踏みにじる行為だったから。トリノへ行くと駅の近くに宿やお店が並ぶ回廊があって、そこにレトロなピンク色のネオンでホテル・ローマの文字が見える。パヴェーゼが最後の1日を送った部屋は一泊60€だそうだ。📕

 

パスコリ(1855-1912, 57才)San Mauro Pascoli, ForliCesena-Castelvecchio di Barga

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Giovanni Placido Agostino Pascoli

10人兄弟と裕福な家庭に生まれたが12才の時、農園管理者だった父が暗殺され、母も後を追うように亡くなった。父の死体を乗せたまま馬だけが帰ってきたことがLa cavallina stornaに反映されている。16才でアンドレア・コスタの影響で社会主義に興味を持ち人生の転機となった。サボイア君主制に反対しウンベルト一世暗殺を企て逮捕されたジョヴァンニ・パッサナンテ逮捕に抗議しボローニャで短期間投獄。ボローニャ大学ジョズエ・カルドゥッチに出会い卒業後高校教師に。妹達と不思議な家庭生活を築こうとする。ローマの教育省に呼ばれ様々な土地で教えながら詩作するが、常に作風は故郷の田舎の風景。世界でも知られるようになり文学賞の受賞金でバルガに家を買い、妹と生涯暮らした。世界大戦参戦、ファシズムなどがいよいよ彼を不安と厭世主義に導いた。📕

 

パステルナーク (1890−1960,70才) 露。小説

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父レオニードによるБорис Леонидович Пастернакと弟

西欧特にイタリアでは、映画化もされた『ドクトル・ジバゴ』は大変有名な作品で、パステルナークはその著者。ユダヤ系画家の父と音楽家の母はロシア正教への改宗者で、トルストイの挿絵を描き、彼から絶大な影響を受けた。冷戦時代にソビエトに残りながら批判的作品を書いたことで5回もノーベル賞候補となっている。受賞は政府により阻まれ『ドクトル・ジバゴ』は発禁処分とされたがイタリアで出版され、世界でのソビエト政府批判の種となった。戦争に翻弄されながらも愛を失わず生きるという大河小説は、極めてキリスト教的であるとともに普遍的。私は大河小説が苦手なので実は読んでいない。

 

バタイユ (1897-1962,65才) 仏。思想、小説

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Georges Albert Maurice Victor Bataille

バタイユって聞くと大学時代を思い出す。『眼球譚』はいかにも悪っぽさを気取った学生が好みそうな変態的な内容だし、私にはモローの版画を思い出させる。無神論者の両親の下、自らカトリックに改宗し、その後カトリック道徳とは正反対の道を辿る。ニーチェ生の哲学の系譜にあり、フーコーデリダのような人々に影響を与えた。時代の特徴でもあるけれど、どうもフランスには「エロスと死」を中心に据えた社会病質者みたいな思想が生まれやすいみたいに、私には思えちゃう。狂いそうになりながら普通に結婚して子供もいる。図書館司書で、知的な民主共産主義サークルのメンバーであったかと思うと神秘主義にのめり込む。そういう揺れの幅の大きさが狂気と関連するかもしれない。当然の如く映画や類似作品が多数ある。

 

ハムスン (1859-1952,92才) ノルウェー。小説

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Knut Hamsun

貧困、虐待、移民、職業を転々という生活の後29才でコペンハーゲンアメリカでの経験などを書き始める。30才で書いた『飢え』がベストセラーになり、続々出版する。1914年にはナチスの大ファンになり不評を買う。33年には息子がナチス親衛隊になりヒトラーにも謁見。『土の恵み』ノーベル文学賞(1920)で世界的な名声を得るも、ナチスを支持し続け失脚。読んでみたい気もするが、何しろ北欧の言語は全く違うから無理か。

 

バルト (1915-1980,64才) 仏。哲学、批評

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Roland Barthes

西洋世界が「意味の帝国」なのに対し日本は「記号(表彰)の帝国」だというのには、結構同意します。

 

バフチン (1895-1975,79才) 露。思想、批評

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Михаил Михайлович Бахти́н

ずっとバフーチンだと思っていたらバフチーンだと言われたりバフチンだと書いてあって正解が知りたい。字を見るとバフーチンはなさそうだけど、アクセントはどこにあるのだろう?ロシア語は昔からちょっと勉強したいと思いながら旅行会話ぐらいしか知らない。よく乗り換えに使うモスクワ空港では、英語がかなり通じないから。名前が正確に知りたい程、彼は私にとっても重要な人に思える。ドストエフスキートルストイの比較や、ソビエト美術が輝いていた1920年台の美術・芸術論争に深く関わっていたり、中世の社会史「広場のカーニバル性」も面白い。今では当たり前になった「心性」の開拓者の一人かな。📕

 

バルザック (1799-1850, 51才) 仏。小説

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Honoré de Balzac

読んだ読んだ読んだ!バルザックは好き。私も少なくない本を読んできたと思うけれど、非常に印象的に覚えている作品の一つがバルザックの短編。物凄く悲しい、嫌な話で人間の真実を描き出している。高潔な人物は苦悩の末に死んじゃうし、今ではもう読めないかもしれないけれど、サマセット・モームが「彼は確実に天才」と言ったのには同意します。『フェラギュス・職業人の頭領』『十三人組』『人間喜劇』『ゴリオ爺さん』『金色の目の娘』などペンを持って生まれてきた人。お母さんが彼に冷徹で(30才も年上の夫を愛してなかったせいだと私は思うけれど、だからって子供は愛して欲しいよね)生涯母親を恨んでいた。女性、お金、食欲、仕事あらゆることを豪快にたっぷり行った。食べ過ぎが元で死んだらしい。📕

 

バロン(1905−86,81才)仏。詩。

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トリスタン・ツァラと一緒のJacques Baron

ダダ運動からブルトンと出会うことでシュールレアリズム運動の創設メンバーとなり1921年に最初の詩 Aventure 発表。知識人らしく民主共産主義運動に参加。ブルトンと決別したシュルレアリズム後ピカソへの詩やギリシャ神話に主題した小説など。

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バロンの詩集

私も高校から大学にかけてダダに関心を持ってずいぶん読んだり観たりしました。多分一般的にはマグリッドの絵やマン・レイの写真が有名ですが、常にそうなんだけど美術運動は元はと言えば文学から来ている場合が多く詩人や思想家が核です。だからダダのツァラやシュールのブルトンのような詩人・思想家の作品を読まないとと思ったんだけど、やはり言葉の芸術はその言葉自体を深く理解していないと無理です。それでも彼らの考えの一端は知ることができるので、美術史を志す者には必須だと思っています。フランスには言葉遊びと思えるような思想展開が多い気がするけれど、これはパリ大学がスコラの牙城だったことと関係あるのでしょうか。

 

ビゴンジャーリ (1914-97,83才) Navacchio/Pisa-Firenze 詩、文芸批評

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Piero Bigongiari

Ungaretti, Montale, Quasimodo の後継者。後期 Ermetismo の理論家で純粋詩の系譜を追求。フィレンツェ大学の近現代イタリア文学の教授。人間と自然の関係回復、風景と精神の照応を主題とする La Figlia di Babilonia など多数。

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純粋な詩を求めてか古代ギリシャに高い関心を寄せた

エルメティズモ(ヘルメス主義)は苦手だ〜。よほど語学能力と歴史その他の知識が豊富でないと。詩は大好きだった。覚えている限り、人生で最初の愛読書は北原白秋の詩集で、今も幾つか暗記している。今考えると、大正ロマンの香りが残る古〜い本だったのでアールデコな挿絵が好きで手に取ったのかもしれない。でも白秋の詩は、深い思想的なものではないけれど、とてもリズミカルで、愛らしい自然や子供の映像が目に浮かんだのも確か。

 

フェッラータ (1907-86, 79才) Milano 小説、文芸批評

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Giansiro Ferrata

 

フォークナー (1897-1962,64才) 米、ミシシッピ。小説。

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William Cuthbert Faulkner:Falkner

弟も小説家。独自の手法で、様々な表現スタイルを追求しガルシア・マルケス大江健三郎など後世に非常に影響を与えた。カルヴィーノも近い。南北戦争で自身の故郷南部が負けた事と日本の敗戦を比較している。ヨクナパトーファ・サーガ『サートリス』『サンクチャリ』など自身の曽祖父以後の家族に想を得た作品が多い。アメリカの現代小説に対する、強力で独創的な貢献に対しノーベル賞が授与された。でも何で世界でなくアメリカに対するのにノーベル賞なんだろうとは思う。ノーベル文学賞は政治だね。『アブサロム・アブサロム』は今読めばどう感じるか再読したい。📕

 

プーシュキン (1799-1837, 38才) 露。小説、詩、戯曲

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キプレンスキーによるАлександр Сергеевич Пушкин

ロシア貴族だけど祖先に黒人奴隷の血が混ざっているところが興味深い。積極的に口語を取り入れたロシア初の国民詩人。上流社会に属しながら体制批判をやめなかったため、様々な嫌がらせを受けた。その嫌がらせの一つが美人で有名な妻の誘惑で、結果決闘となりその傷が元で死んだ。それまでにもプーシキンは何度か決闘をしているが負けることはなかった。その死はレールモントフの『詩人の死』となり、長女はトルストイの小説『アンナ・カレーニナ』のモデル。気概のあるカッコいい人だ。

中学生の時に家にあった『スペー ドの女王』を読んだ。数ある岩波文庫の中でも特に薄かったのですぐ読めると思ったから。でもよく分からず、凄く気になった。今思えばあれが私の幻想小説初体験だったかもしれない。いつか再読しようと思っている。📕

 

フィッツジェラルド (1896-1940,44才) 米。小説、脚本。

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Francis Scott Key Fitzgerald

1920年台のジャズ・エイジロスト・ジェネレーションを代表する作家で生前は長編4作のみの発表にも関わらず20世紀アメリカ文学の代表者と言われる。ひたすら『グレート・ギャッビー』が有名で映画や劇にもなってるけど、私には全く魅力的じゃない。ヴィジェーヴァノの靴博物館でフィッツジェラルドの靴を見たのが一番楽しかった。

 

フレーザー (1854-1941, 87才) 英。社会人類学、原始宗教

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Sir James George Frazer

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Frazer

 

フーリエ (1772-1837,65才) 仏。哲学、倫理学空想的社会主義

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Francois M Charles Fourier

裕福な商人の息子だが子供の頃より商業に批判的だった。リヨン包囲に巻き込まれ投獄され財産を失ったことが、政治革命に対する不信感につながった。代表作『四運動の理論』では宇宙には物質的、有機的、動物的、社会的の四つの運動があるという。ニュートン万有引力が物質的運動で起こるように、社会運動において「情念引力」があるという。当時はわずかの支持者以外獲得できなかったが家庭と農園における共生生活という彼の理想は世界中に影響を与えた。ヒッピームーブメントや日本ではヤマギシ会や宮沢賢治イーハトーブなども当たるのではないか。思想的にはエンゲルスが評価しており、マルクスエンゲルスが現実に目指した理想の共生社会(社会主義共産主義)に対してフーリエの思想を空想的社会主義という。バルト、ベンヤミンクロソウスキードゥルーズオクタビオ・パスなど彼に関心を持った人は多い。分かる気がする。

 

ブルーノ (1548-1600,52才) Nora-Roma 修道士、思想

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Giordano Burno

ブルーノはサヴォナローラと並んで私のスターです。ルネサンスについて書かれた本は多く、日本語でもかなりあります。でも人間復興とかヒューマニズムの再生などという、嘘っぽくて短絡的なルネサンスの思想には不信感がありました。学生時代からずっと色々読んだり観たりしてきた今、一般的に言われているルネサンスの人間復興がいかに一面的なものであったかを確信できるようになりました。直感を大切にするってことですね。そんな人間を再発見したお決まりの、中世を貶しルネサンスを褒め称えるそこら中にある本と違って、とても印象的だったのが『ルネサンスの偉大と頽廃:ジョルダーノ・ブルーノの生涯と思想』(清水純一著)です。題名からして頽廃ってところがいい。退廃だけは嫌いですが、偉大も退廃もきちんと観なくては歴史とは言えません。この本で焼きついたイメージがあります。ブルーノは朝から晩まで寝ずに書きまくるのですが、何と一本足で交代して書いているというのです。何十年も前の記憶だから読み直すと多少違ってるかも。再読します。📕

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初めて買ったブルーノの本

上の写真はローマのカンポディフィオーリ広場のど真ん中に立つジョルダーノです。彼は1600年に火刑になりました。証言によると、彼は死刑執行人等に向かって「お前たちの方こそ真理を前に恐怖で震えているではないか」と言ったため口を覆われ、堂々と死んで行ったそうです。「それでも地球は廻っている」と言わなかったガリレイとは大違いです。書物は発禁となりましたが、既にヨーロッパ中に出回っていた分が密かに出版され、現在も残っています。1600年に焼かれた彼は1979年にその嫌疑であった異端が取り消されました。今は様々な屋台で賑わう広場の真ん中で、足元には野菜のかけら、頭には鳩が止まっていますが、彼は焼かれた、まさにその場所に立っているのです。私にとってサボナローラは、富と権力を金持ち(権力者)から奪い貧民に分け与えようとした純粋に善なる人です。宗教家のくせに政治に手を出したのが間違いとかいう人は、政治は初めから腐敗したもので道徳など存在しないと認めているようなものです。勿論昔ながらの信仰だけで政治ができるとは当然思いませんが、理想的な政治は全てを包含したものでしょう。ブルーノは飽くまで知識を愛した人で、知ることができる限りの様々な知識を取り入れ研究しました。あらゆることに興味を持った頭の柔らかい人です。17才でドメニコ会の修道士になって以来、パドヴァではガリレオに教職の席を奪われましたがヨーロッパ中の様々な大学で教え、突出した記憶力の持ち主でした。二人とも人の目を気にせず信念に直情的に従ったために命を落としました。日本語版は永遠に出ないでしょうが彼の生涯を綴った映画もあります。

 

ブルトン (1896-1966,70才) 仏、ノルマンディー〜パリ。詩、思想

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André Breton

フロイトに影響を受け、ダダに参加するがツァラと対立しシュルレアリスムを起こす。ちなみにシュルレアリスムとはレアリスムの上、超現実主義。トロツキーの『レーニン』に感動しメキシコのトロツキーを訪ね共著もあるが、共産党の批判を受けた。シュルレアリスム運動の流行が過ぎ去ってもただ一人、生涯シュルレアリスムを貫いた。Paolo Uccello が好き。『溶ける魚』『通底器』『シュルレアリスムと絵画』など中学や高校時代に影響を受けました。でも「自動記述」など結局作品としては好きになれません。

 

プリニウス(前23−79,56才)古代ローマ。Como -Stabiae。軍人、政治、博物学

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Gaius Plinius Secundus

ストア派、論理学、自然哲学、倫理学。軍務を除き読書と執筆。読書以外は全て無駄な時間と考え浴槽でしか本を離さなかった。『ローマ史31巻』『博物誌37巻』200枚ほどの手書きが存在する。79年のポンペイとヘラクラネウムの地震の時、ナポリ近郊で司令長官職にあり、地震に対する科学者としての興味と、知人たちを救出するという責務から現地へ行き亡くなった。美術についても書いているし、きっと生きているうちに全ては読めないけれどできるだけ読みたいと思う。面白い。📕

 

フロイト (1856-1939, 83才) オーストリアモラヴィア。 医学、神経学、心理学。

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Sigmund Freud

ヒステリー治療から自由連想法を使い精神分析と名付ける。PTSD概念の祖。「無意識」の存在に気付く。世界史に名を残す多くのユダヤ人の一人。弟子もほとんどがユダヤ人だった。マルクスダーウィンフロイトが20世紀最大の思想家と言われる。

ユダヤ人でナチスドイツや大戦の時代に生きたことに彼自身の性格も加わり、孤独で辛い人生だったにもかかわらず生き抜いた。独特の才能がある天才だったのかもしれないけれど周囲の人、特に妻は非常な苦労を強いられた。明かにある意味で変態だけれど、そのため深く研究することもできたのだろう。ただ何でもかんでもセックスに結びつける『夢判断』の辞典(もう捨てた)はとても常人がついて行けるものではない。

 

ブローク (1880ー1921,41才)露。詩。

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Алекса́ндр Алекса́ндрович Блок

ロシア象徴主義を代表する詩人。ロシア革命への期待と幻滅。『Ⅻ』は革命期のペテルブルクの赤軍兵士12人をキリストの使徒に見立てたもの。辞書片手にロシア語に挑戦するか!📕

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ロシアアヴァンギャルド時代の表紙を持つ『12』


プルタルコス ( 47頃〜127年, 80才) テーバイ、ギリシャ。詩、評論、随筆

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デルフォイのΠλούταρχος像

名門貴族でアテナイで学び、サルディス、アレクサンドリア、ローマなどを使節として訪れ、227も著作がある。ハリウッドの歴史大スペクタル映画も彼の『対比列伝』からの翻訳が源らしい。

 

プルースト (1871-1922, 51才) 仏、パリ。小説、批評、随筆。

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Valentin Louis Georges Eugène Marcel Proust

失われた時を求めて』はあまりにも有名で、彼は20世紀三大作家の一人と言われたりもする。あとの二人はジョイスカフカで、その二人は納得できるけれどプルーストにはついていけませんでした。時間をおいて何度か読もうと挑戦したけれど、挫折した。翻訳だからいけないのかな、語り口について行けない。成功した医師の父と裕福なユダヤ人の母に甘やかされまくって育ったプルーストは、喘息で虚弱体質だったこともあり夏でもコートを着て、食事中も毛皮を脱がなかった。同性愛者なのは、私には全く問題無い。ドナテッロとかボッティチェッリとか好きな芸術家はよくそうなので、芸術と同性愛の関係性には興味があるけれど、凄いマザコンだったからか友達のお母さんに興味を持ったりセックスレスで女性と結婚しようとするのは不愉快です。でも女性に暴力をふるうような最低男でないことは確か。貴族ではなかったけれど、経済力と親の力と得意な物真似で、社交界に入り浸り、優雅な軍隊生活を送り、政治的には腰が座っていなかった。全く働く気がなく、無頓着に大金を使って、完全に自由に描きたい小説が書けた。確かに、プロットと最後の終わり方は(きちんと読んでいないけれど知っている)独自。私がカフカジョイスには感動したのにプルーストが嫌いなのは、育ちのせいかな?好きな二人は生きるのに苦労したけれど、プルーストの辞書に苦労という文字は無い。そんな人に芸術が作れると、私には思えない。彼らの人生を知ったのは作品を読んだ後だから、先入観があったわけではありません。

 

フォン・クライスト (1777−1811, 34才)神聖ローマ帝国ブランデンブルク選帝侯領〜プロイセン。劇作、記者。

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Heinrich von Kleist

軍人の家系で少年兵としてフランス革命に対して従軍したが、20才の時、我慢ならない軍隊生活を放棄し、家族に反して富、地位、名誉を捨て研究生活を送ると宣言。いいね!数学、物理、ラテン語、家族向けに官房学を納めたが、婚約したため官職につき大学を辞める。産業スパイのような仕事で悩み、カントのような楽天的「判断力批判」が不可能であると知り、啓蒙主義の故郷パリへ行くも、そこは思っていたのとは正反対の非理性的な状況にあった。今度はルソーに感化され、農民生活をしようとして婚約者に捨てられた。パリ時代に作劇に着手。革命軍に参加して死のうとするが止められ、ドイツへ帰京し働くが、スパイ容疑で監獄へ。監獄でも執筆し、30才で自由の身になりベルリンでは様々な人と知り合う。ゲーテは、作品に驚きつつも理解できなかったと返信している。反ナポレオンの機運が高まる中、オーストリア愛国主義団体とドイツ解放運動のための機関紙『ゲルマニア』を構想したが、オーストリアの無条件降伏で発行されなかった。彼は「ドイツ人のための大人も子供も使えるスペインを手本とした教理問答」「フランスジャーナリズムの教科書」などを執筆。グリム兄弟などと「キリスト教的ドイツ晩餐会」の会員となり、ベルリン夕刊に寄稿。検閲が厳しくなり生活苦の中、癌に侵された女性と共に拳銃自殺した。純真で良い人だったに違いない。かわいそうだよー。この人は知らなかった。

 

フロベール(1821−80, 58才)仏、ノルマンディー、ルーアン。小説。

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Gustave Flaubert

圧倒的に風紀紊乱罪に問われた『ボヴァリー夫人』が有名で映画にもなってるけれど、カルヴィーノは『三つの物語』と『プヴァールとペキシェ』について書いている。「ボヴァリー夫人は私(フロベール)だ」とか言われちゃうと、欲望の虜の若い女性が実はおじさんなのかと変な気がすると同時に、プルーストを思い出す。プルーストの描く少女や女性のモデルは大抵男性だったりするから。なぜ主人公をわざわざ女性に変えるんだろう。時代の要請なのか、それとも普遍的に性欲で悩むのは女性であった方がウケがいい、売れるからなのか、もっと別の理由なのか、その辺が知りたい。二人とも全くお金の心配をしないで生活できた(フロベールは最後は裕福じゃなかったけど、みんなが助けてくれたから働かなかった)んだし、生涯普通の家庭生活をしないで娼館通いで死んだから、きっともっと複雑な理由なのかもしれない。異常に神経質で、精緻な文体の改作、変更、推考を重ねるとこと共通点は他にもある。20世紀に入って再評価されているんだけど、読む気にならない。

 

レヴォ (1697-1763, 66才) 仏。小説、聖職者。

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Antoine François Prévost d'Exiles

イエズス会から何度か逃亡して軍務につくなどした経験がかの有名な『マノンレスコー』となった。正式な題名はHistoire du chevalier Des Grieux et de Manon Lescaut(デ・グリュ騎士とマノン・レスコーの物語)で、妖艶な少女マノンが次々に男たちをダメにして行き、最後は自滅する物語でファム・ファタール(運命の女)転じて、運命的に男を堕落させる女という類型を生み出した。その後モロー 他大勢にインスピレーションを与え、1949年の映画で一般的になった。

 

ベーコン (1561-1626, 65才) 英。貴族、哲学、神学、法学、政治

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Francis Bacon, 1st Viscount St Alban

Ipsa scientia potestas est(知は力なり)。父はエリザベス朝初の大法官兼庶民議員、母はエリザベス一世の側近の妻の妹。熱心なプロテスタント的環境で育ちケンブリッジでは後のカンタベリー大主教ホイットギフトから、確かな証拠に基づかない議論はしない(拍手したい面と、完全には賛成しかねる面があるが、当時の思想界を考えれば革新的。)事を学ぶ。現実に無益なアリストテレス学問を捨て自然科学に関心を寄せる。フランス留学中に父が死に、政治と法曹界へ入る。ピューリタン英国国教会カトリックの過激な対立に反対する論文、スペインとの戦争に対する特別税に対し、庶民の見方をするような発言で女王の怒りをかい孤立したが、女王の後を継いだスコットランド王がジェームズ一世として即位すると順調に出世し貴族となり大法官へ。しかし政治で失脚し、四日間だがロンドン塔に幽閉され引退。鶏に雪を詰め冷凍実験を行ううち気管支炎で死んだ。結婚生活では持参金に救われたものの、結婚と言う制度、行為を否定している。『新アトランティス』は架空の島で、理想的社会を描いた小説。

ベーコンは高校の倫理の教科書で知ったような気がするが、それ以来関心がある。私の最も尊敬する「良い人(聖人のような善人)」のタイプではないけれど「知を愛する人」の類型だし、決して悪い人ではなかった。彼なりに社会や人々のことを考えていたからこそ「ニュー・アトランティス」が書かれた。それに同名のフランシス・ベーコンは彼の遠縁で、20世紀最大の画家の一人ってこともある。📕

 

ベケット (1906-89, 83才) アイルランド。ダブリン、パリ。劇作、小説、詩。

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Samuel Beckett

1969年には不条理劇の中に現代の悲惨を描き、芸術的な新たな形式を想像したことに対してノーベル賞。裕福な中流家庭出身。トリニティカレッジで英、仏、伊語を学び、パリの高等師範学校で教師となる。パリではジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』のため口頭筆記や複写などを手伝う。フランスがナチスに占領されるとレジスタンス運動に加わりゲシュタポに追われ潜伏生活をしながらも執筆、戦後は作品を発表し、52年『ゴドーを待ちながら』で演劇界に衝撃を与え、その斬新さと普遍性で代表作となる。俳句、能、エイゼンシュタインを研究し、演出に活かした。発表後5年後には20カ国語以上で上演され、それは現代も続ている。

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舞台を見てすぐに入手したカントールの本

最近、全然舞台を見ていないけれど、実は私は大学で舞台美術を勉強して凝っていた時期があるので、当然『ゴドーを待ちながら』も観たことがある。その時はタデウシュ・カントールの『死の演劇』を観た後だったので、インパクトが弱く感じた。日本語だったことも大きいと思う。ベケットは言葉や行動のリズムを非常に大切にしたらしいし、彼の作品は詩に近いので言葉は重要だ。コロナの心配なく、集中して舞台が観たい。

 

ペトラルカ (1304-1374, 70才) Arezzo-Arqua,Padova 詩、人文主義

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Francesco Petrarca / Petracco

イタリアで文学史をやればダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョから始まる(それ以前もあるにはある)。ルネサンスはペトラルカに始まる。ほんとかなと思うことはいくらでもあるけれど、自然を発見(自然の美を歌う)したのもペトラルカが初ってことになってるし、とにかく凄く重要な人。今では圧倒的にダンテが人気だけど当時はペトラルカの方が遥かに評価され、大成功した人生だった。父はダンテとも関係のある政治家(古代ローマから学のある成人男性は政治に関わるのが当然とされた)で、ダンテのようにグエルフィが政治闘争に敗れた時街を追放され、一家は当時教皇庁のあったアヴィニョンへ移住。モンペリエボローニャで法学を修めたが文学を愛し9才年下のボッカッチョと親しくなる。父の死後は教皇庁で書記をしながら、古代ローマの正しいラテン語(中世ラテン語古代ローマラテン語とかなりかけ離れていた)の研究をした。37才でローマのカンピドリオの丘で戴冠詩人となった。結婚せず子供はいたが、家庭生活などは知られていない。皮肉なことに、研究の集大成のように誰より正しいラテン語で書いた壮大な叙事詩『アフリカ』ではなく、暇つぶしに俗語で書いていたラウラに対する恋愛詩『カンツォニエーレ』が歴史的に高い評価を与えられている。📕

 

ヘロドトス(前490−80年頃ー430年以降)古代ギリシャ(ハリカルナッソス?)歴史

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Ἡρόδοτος

歴史学の父。存在する完本で世界最古の『歴史』を書いた。古代文明研究史にとってギリシャバビロニアアナトリア、エジプト、クリミア、ペルシャを知る基本資料。『歴史』はギリシャ人とペルシャ人の戦いの原因や業績を後世に伝えるために書かれた。同時代史であるため聞き取り調査や自らの体験が元になっているが、伝承なども記している。その時に彼は裏を取ることをせず、聞いたことをありのままに伝えているため「冥府」へ降りてゆく話などもカッコ付きで(このようなことを信じられる人は信じれば良い、と書いている)掲載している。重くて床が抜けそうだったので、ハードカバーの『歴史』を捨てた。立派な石の家に住めない悲劇。📕

 

ヘミングウェイ (1899-1961, 61才) 米。小説、詩、記者。

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Ernest Miller Hemingway

「二つの心臓の大きな川」「清潔で、とても明るいところ」「ギャンブラーと尼僧とラジオ」「フィエスタ」「武器よ、さらば」「我らの時代に」「河をわたって林のなかに」「背バストボル短編集」「キリマンジャロの雪」は最低、とカルヴィーノの『なぜ古典を読むのか』にはこれだけ彼の作品名が登場する。1954年には『老人と海』に代表される、現代(1950年代)の叙述に絶大な影響を及ぼし、ノーベル賞を受賞した。銃を持った肉体派で簡潔な文章という典型的にアメリカ的な人だったが、二度の飛行機事故の後遺症などで最後は散弾銃で自殺した。ちなみにヘミングウェイは猫が大好きで、六本指の猫を貰い、幸運の象徴と信じていた。フロリダのヘミングウェイ博物館にはその子孫が今も何十匹も生きていて、六本指の猫もいる。

 

ベンヤミン (1892-1940, 48才)独。哲学、思想、批評、翻訳。

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Walter Bendix Schoenflies Benjamin

ベルリンの裕福なユダヤ人家庭に生まれる。文化史、精神史に精通しプルーストボードレールなどフランス語の翻訳もある。幾つも版がある『複製技術時代の芸術』や『写真小史』などに彼のアウラ理論が観て取れる。ナチスから逃げる途中ピレネー山中で自殺、もしくは暗殺された。全く素人の私からするとフロイトの影響が凄く感じられる。

 

ボアロー(1636−1711,75才)仏。詩、批評「詩法」

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Nicolas Boileau Despreaux

過去の作家ばかり偉くて現代には優れた人はいないという考え方は常にあるけど、彼は同時代人の優れた点、特にモリエールなどを擁護し、形式や理論ばかりで才能の無い作家を明確に批判したらしい。不動の人気があったからこそ、こんな彫像がある。

 

ボイアルド(1441-94, 53才) Scandiano,Emiglia-Reggio Nell'Emiglia 詩、政治

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Matteo Maria Boiardo

人文主義的教養を身につけた理想的な貴族で、ルネサンス宮廷で最も華やかだった宮廷の一つエステ家のボルソに随行し、神聖ローマ皇帝教皇庁へ出入りし、ゴンザーガ家の娘と結婚し、郷里レッジョ・エミリア、一時モデナの知事。アリオストが引き継いだ『狂乱のオルランド』はボイアルドの『恋するオルランド』が始まり。

 

ホーソーン (1804-1864, 60才) 米。小説

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Nathaniel Hawthorne

クエーカー教徒の迫害や魔女狩りの裁判官という、権力側で弱者を虐待した父方の祖先、近親相姦の嫌疑で迫害された母方の親族を持つことで、迫害、罪と神の許しを主題とした『非文字』で脚光を浴びたが、アメリカは資本主義経済の波に飲み込まれつつあり、小説も商品となったことで、薄っぺらな作品が大衆受けすると悩む。アメリカ最高の作家という人もいる。ホーソーンは中学の時に知った。彼の名を様々な別の本でよく目にしたこともあり、非文字の象徴性なども印象的。📕

 

ポー (1809-49, 40才) 米。小説、評論、編集

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Edgar Allan Poe

旅役者だった父は蒸発、母は早くに死んで、親戚のアラン家で過ごした。成績優秀で才能は抜群だが、大酒飲みで賭博好きという破綻した人間。24才の時たった13才の従妹と結婚するが14年後には貧困の果て彼女は結核になり死亡、彼もその2年後に謎の死。

人間的には絶対関わりたく無い人だが、小説家としては世界の歴史に名を刻んだ。世界初の推理小説『モルグ街の殺人』を始めゴシック・ホラー、SFなど現代最も中心的なテーマとして映画、ドラマなどで扱われる作品の原点だ。ポーは小学生の頃から読んだ。『アッシャー家の崩壊』の映像的な怖い美しさは、映画好きの私には、あまりにも大勢の監督に影響を与えたと思えるし、『黒猫』も形を変えながら様々な作品となっている。今も忘れられない、怖くて気持ち悪い短編があるんだけれど、今読んだら分かるだろうか。気持ち悪いのが好きな訳じゃなくて(私はホラー好きなんだけど、拷問シーンとかリアルに汚らしいのは耐えられない。勝手だね。)、その作品で書かれていることを頭に浮かべようと何度も努力したのに映像が浮かべられなくて、それは一体どういうことなんだろうという気持ち悪さがず〜っと後を引いたから。再読したい。📕

 

ポーロ (1254-1324, 70才 ?)  Venezia 商人、旅人、物書き、大使。

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マルコ・ポーロ 素敵なイタリアの児童書

13世紀の商人なんだから当然明確な事はわからない。遠隔貿易の商人であった父と叔父に連れられ、アジアで24年間過ごす。帰国後ジェノヴァ海戦で捕虜となり囚人仲間に語った遠方での話が『東方見聞録(原題はil Milione)』として世界中、後世に絶大な影響を与えた。「黄金の国ジパング(日本との関係には諸説あり)」始め、信じ難い豊かな異国を求めての大航海時代を用意した。📕

マルコは初めてアジアへ行ったヨーロッパ人では無いし、初めてアジアのことを書いた人でも無いけれど、大受けする話をした人であるのは確か。授業でちょっとやったことがあるけれど、様々な研究がありまたいつかやってみたい。

 

ボードレール (1821-67, 46才) 仏、パリ。小説、評論

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Charles-Pierre Baudelaire

元司祭で芸術に関心があり上院議員だった父は彼が6才の頃亡くなり、若く美しい母は1年半後に軍人と再婚する。極度に傷ついた彼はエディプス・コンプレックスの典型で、生涯引きずった。上昇志向の強いブルジョワ家庭の俗悪を軽蔑するように、破滅的な散財のため海外旅行へ追放されたが、愛するパリへ舞い戻る。異常なおしゃれ、退廃的で反道徳的な生活が極まり、狂人扱いされ弁護士の監督下に置かれ自殺未遂したのが24才。ポーの翻訳。34才でドラクロワ賛美を書き、美術評論で認められ始め、36才で出版した『悪の華』は裁判にかけられ、部分的に削除される。義父が死んだので母の下へ戻る。40才、数篇を足した『悪の華』第二版を出すもアカデミー会員になれず、梅毒で苦しみ出す。借金から逃げ、母や後見人に金を無心し、最後は老いた母親に付き添われて病院へ収容される。死後、晩年の随筆『パリの憂鬱』が出版される。

前にも書いたけど、退廃好き、アンニュイだわ〜っとか言っちゃうような人が、感覚的にダメだからボードレールは大っ嫌い。無責任と身勝手(=幼稚)で迷惑かけまくるくせに、自分は凄い才能があると思っているけど、学校でもそれほど優秀だったことはなく、海外に興味を示さなかったことからも、彼が反知性的なのが分かる。フランス語ができないからなんとも言えないけれど、エログロデカダンオタクのヒーロー。でもここまで書いて、アヘンとか大麻の詩じゃなくて、美術評論を読んでいないことに気付いた。美術関連を読んでから評価が変わるかどうか、自分でも多少興味が湧きます。📕

 

ホメロス(前8世紀末頃?)古代ギリシャ

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Ὅμηρος 紀元前5世紀の像のローマの復元

西洋文学史上最初期の文学作品である『オデュッセイア』『イーリアス』を書いたらしい。ホメロスという言葉は人質、従者を義務付けられた者という意味。紀元前6世紀には韻律を伴った叙事詩の確立者として、西洋文化史場に君臨し続ける。ギリシャ人怖るべし

 

ボルヘス (1899-86, 86才) アルゼンチン、ジュネーブ。詩、小説。

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Jorge Francisco Isidoro Luis Borges Acevedo

ブエノスアイレスの教養豊かな家庭に生まれた。父は弁護士でかつ外国語教師養成学校で心理学を英語で教えていた。父にはイタリア系ユダヤ人(セファルディーン)の血、祖母はイギリス人、母はウルグアイの旧家出身で高齢になってからも、ホーソーンサローヤンなど英語の翻訳を行っている。膨大な書庫に幼い時から出入りしていたボルヘスは、10才でワイルドの『幸福な王子』をスペイン語に訳し新聞に掲載された。1914年の大戦前夜にジュネーブに移住し、そこでフランス語、ラテン語、ドイツ語を習得する。19才の時一家は帰国を決意、途中バルセロナに住むがそこでボルヘスは南米の前衛ウルトライスム文学運動に参加し、文筆活動を始めている。1921年ブエノスアイレスに戻ってからは本格的に活動し、賞金を獲、A.B.カサレスと共同執筆も始める。1937年初めて定職につくが図書館司書は非常に暇で読書が進んだ。ペロンの軍事政権になると危険人物として、職を失い監視され、家族も監禁や軟禁状態におかれた。1955年、10年にわたる軍事政権が倒されると、ボルヘスはアルゼンチン国立図書館館長となり、ブエノスアイレス大学で教授に就任。国際的に評価は高まるが、遺伝で50代後半には盲目状態となるも、口述筆記を続け、古英語とアイスランド語の研究に尽力した。ノーベル文学賞の判定基準に疑問を挟む時、ボルヘスの名が必ず上がる程、生前から名声は高まったがノーベルは受賞ならず。これはチリのピノチェト独裁政権)から賞を受けたことが要因と言われる。68才で級友と結婚するが続かず、死期を悟った時教子兼助手の日系アルゼンチン人のマリア・コダマ・シュバイツァーと結婚した。彼女も作家でありボルヘス財団を立ち上げ活躍している。『幻獣辞典』『伝奇集』『バベルの図書館』『エル・アレフ』『アルモタシムへの接近』『二股に分かれた小道のある庭園』📕

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現代の世界文学シリーズ

この本は私が初めて買ったボルヘスの本。図書館で借りたり、とにかく読んだ。一番好きってわけじゃないんだけど、必ずそれなりに興味をそそられて、イメージが浮かんだし、ボルヘスを読んで知った単語や歴史、人名などが沢山ある。軍事政権下では辛い思いをしたけれど、羨ましい限りの環境と才能。

 

ポンジュ(1899−1988, 89才)仏。詩、評論。

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Francis Ponge

戦後フランス文学を代表する詩人。人間中心の主観的な既存の価値観に対して異議を唱え「物の味方」をした。というだけで読んでみたくなる。カミュサルトルが絶賛し、ヌーヴォーロマンの先駆。デリダも論文を書いている。裕福なプロテスタント家庭に生まれ自然の中で、フランス語辞典を読み耽った幸福な子供時代だったという。15才で大戦勃発、後に兄の戦死を受けて志願兵となるが軍隊生活で、政治や愛国精神を失う。20才でフランス社会党へ。父の死と大戦後の西欧文明の価値観の崩壊は、彼を狂気の手前まで連れて行き、失語症に悩んだ。結婚後、就職し共産党へ入り労働運動に参加し活躍する。シュールレアリストと交流しながらも「真の前衛とは優れた古典を受け継ぐ」と言い、ピカソ、デュビュッフェ、ダリらとホラティウスエピクロスを同様に愛した。戦後脱党。生活は晩年まで苦しかったが69年にはレジョンドヌールを受賞、以後数々の受賞がある。読んでみたい。原語で・・。📕

 

マ行

マイアー (1825-98, 73才) スイス。詩、小説。

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Conrad Ferdinand Meyer

チューリッヒの裕福な門閥に生まれたので生涯働かずに好きな執筆ができた。繊細な性格で学校には馴染めず、15才で父が死ぬとカルヴァン教徒の厳格な母の教育に苦しんだ。31才の時母が自殺すると転機が訪れ、イタリア旅行ではミケランジェロに酔心し、40才で妹の尽力で『あるスイス人の20篇のバラード』を出版。1871年ドイツ帝国成立に感激し書かれた『フッテン最後の日々』が成功を収めた。19世紀ドイツ語文化圏のスイスを代表する作家となった。

 

マッキア (1911-2001, 90才) Trani - Roma 文芸批評、評論

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Giovanni Macchia

ローマには彼の蔵書を基とした図書館がある。仏文の歴史を始め、受賞多数。イタリア・アカデミー会員。

 

マキャヴェッリ (1469-1527, 58才) 外交官、政治、思想

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Niccolo' Machiavelli

世界初の政治学者と言われるのは『君主論』初めとする論文による。フィレンツェの由緒ある家系に法学者の父を持って生まれ、当然、幼少期からラテン語ギリシャ語を習得し、フィレンツェの書記官として活躍する。雇った傭兵軍に痛いめに合わされたため書かれた、自国軍が必須であるという信念は、現代まで世界中の国々へ深い影響を及ぼしている。

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チェーザレ・ボルジャを表紙とする「君主論

君主論』は時には、あまりに面白くて声を出して笑いながら一気に読んだ。政治を行う者はどうあるべきか、いかに馬鹿な民衆を騙せばいいのか、そんなことが大胆に表現されている。とても現代では問題になりそうな内容だが、正直そのもの。彼の生きた時代は、フィレンツェが最も華やかな時から転落へ向かう時期で、世界史上稀に見る、修道士の独裁と火刑(サヴォナローラ)という極端な時代だった。📕

マキャベッリ研究は、私が大変お世話になった藤沢道郎先生のテーマの一つだったこともあり色々と読んだ。けれど正直言って、私はマキャベッリが嫌い。研究者が好きとか嫌いとか言っちゃいけないと言われるけれど、私は政治学者でも思想史でもなく美術史だから、いいのだ、問題ないと言い訳。芸術にとって好みというものは本質的な問題で、好きも嫌いも感じないようならば芸術は分からないと私は思っているし、好みじゃないけどデッサン力は素晴らしいとか、この稀に見る構図とか、とにかく作品を正当に評価できれば研究者だと思う。

マキャベッリは、不可能な古典古代とキリスト教の融合というルネサンスの理想主義の人々と違って、現実はそんな生優しいものではないと明言したし、コメディなども書いていて頭もいいし才能ある人に違いない。共和主義者かと思えば暴力的な独裁者が理想だと言ったり何度も乗り換えたから、真面目な人々からは非難されたけれど、結局、彼が現実主義ということなのだと思う。政治が根本的に難しく、誰がやってもみんなを満足させることができないのは明快だけど、政治をするにも理想は必要だと思う。そうでなければただひたすら権力を握るための政治に陥って、少しも社会のためにならないだろう、今のように。理想主義と現実主義の両方が同時に必要なのだ。

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マキャベッリのラベルを持つワイン

個人的にはマキャベッリは、残酷で自己中心的な人だった。良い父、良い夫とか書いてあるのを見るとどこでそんなことが言えるのかと思う。自分が買った娼婦を平気で罵り殴る人だ。当時はそんなことは当たり前というかもしれない。でも当時だって女性や子供を殴らない優しい人はいた。サヴォナローラは殴らなかった。フィレンツェを愛してるという理由で侵略や戦争を幾らでも正当化できるのだろうか。蹂躙された小さな村やピサの人々はどうなってもいいのか。これを書いている今日8月9日は原爆が落とされた日。今世界中がマキャベッリのような人々に翻弄されているのを心から悲しく思う。付け足し、マキャベッリの娘の末裔がやっているワインがある。普通の味。

 

マラルメ (1842-98, 56才) 仏。詩。

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Stéphane Mallarmé

「幸いにも私は死んだ」と言って、この世の一切が虚無であることに遭遇し、神の死を悟り、ロゴスとコギトが解体され、存在の根拠を失った。確かに。だから神が必要なんだってば。ジェシー・カスター(コミックとそのドラマ化『プリーチャー(牧師)』の主人公)だって探してる。

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ドラマの主人公を演じるドミニク・クーパー。牧師のくせにカラーチップがカッコイイ💖

マラルメは死んだくせに魂と詩の源を追求し、ついに「美」を見出す!何が書いてあるのか判読不能な詩でもって、人間と詩の根元を問いただしたのだそうな。

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マネの描くマラルメ

マラルメの名言に「世界は一冊の書物に至るために作られている」というのがある。
この原文は le monde est fait pour aboutir à un beau livre (仏語)なんだけど
everything in the world exists in order to end up as a book (英語)で
私がピエロ・デッラ・フランチェスカの研究所へ行ったときにもらったバッグには Il mondo e` fatto per finire in un bel libro(伊語)となっている。翻訳の難しさがはっきりしたというか、日本語、英語、フランス語、イタリア語のニュアンスが皆違ってる感じ。特に日本語と英語では「美しい」という単語が抜けている。彼にとって最も重要だった「美」と「文学」が「一冊の美しい本」に表れてるんだから、なぜわざわざ抜いたのか理解できない。英語は特に意訳っていうか超訳になってるし、フランス語に最も近いイタリア語でも一単語が違っていて、それで翻訳が難しくなってる。ポストモダン的な立場なら、どう解釈するも自由なのかもしれないけれど、私はそういうの苦手だ〜。どうすれば良いのーっ!

 

マルロー (1901-76,75才) 仏。小説、政治。

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André Malraux

最初の妻の持参金を投資で全て擦り、窃盗で投獄され、インドシナのフランス植民支配に反対する同盟を立ち上げ、レジスタンスで何度も死にそうになり、腹違いの弟は二人ともレジスタンス活動でドイツに殺され、後二回結婚し、子供も事故で失い、45才で出会ったドゴールと意気投合し政治家となり、作品をドイツ軍から救ったルーブルの館長を追い出し、毛沢東や日本を訪ね・・書いてるだけで疲れそうな息つく間もない活動的な人生を送った。その合間に作家活動も旺盛に行った。いくら激動の時代を生きたとは言え、親しい人が何人も悲惨な死に方をしているだけで普通の人ならめげそうなのに強靭な体力と精神力があったに違いない。写真などで芸術の複製が可能になった時代を反映した「空想美術館」や、神道に魅了されて書いた日本の手記などを見ると、思想的には結構単純で、感動しやすい人だったように思う。内向的で繊細な作家の真逆を行ってる。

 

マン (1875-1955,80才) 独。小説。

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Paul Thomas Mann

リューベックの富裕で有力な商人の次男で、兄ハインリヒも著名な作家。学業は振るわず高校中退(兵役が短くなる年月のみ通学した)。父の死後100年の歴史を誇ったマン商会は解散。トマスは保険会社で見習いとして働きながら執筆活動をした。18才の処女作『転落』が話題となり作家に専念、22才で兄と共にローマへ移り絵本を執筆しながら、先祖を取材した小説『ブッデンブローク家の人々』を発表しベストセラーとなる。この作品はノーベル賞の受賞理由の一つ。対戦中はスイスで裕福に暮らしながらドイツ人へナチスに抵抗するよう呼びかけたが、これは後に批判の対象となった。旧約を題材とした『ヨセフとその兄弟』、友人マーラーの死の翌年ヴェネツィアを訪れ『ベニスに死す』を書いた。📕

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Luchino Visconti

正直言って、私にとっては圧倒的にヴィスコンティの映画『べニスに死す』です。着色版じゃなく、オリジナルの白黒。ずっと綺麗。映画史上最高の美少年と言われたビョルン・アンドレセンが大人になって来日した時はやめて欲しかったけど、高校生の私には様々な点が理解不能で勉強になった。でもとにかく綺麗で、退廃的なブルジョワを描かせたらヴィスコンティにかなう人はいない。舞台化も。

 

マンゾーニ (1785-1873, 88才) Milano 詩、小説。

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HayezによるAlessandro Francesco Tommaso Antonio Manzoni

それにしても5つも名前がなくても良いんじゃないかと思う。これが貴族ってもんかな。祖父は世界初の人権派弁護士チェーザレ・ベッカリーア。23才、パリで結婚しヤンセン主義からカトリックへ改宗。妻もカルヴァン派からカトリックへ改宗。オーストリア支配からの独立運動には息子を送り出し、1860年イタリア王国の誕生と共に上院議員となった。イタリア人なら誰でも知ってる『許婚』で、一国一言語としての標準イタリア語の精錬に生涯を捧げた。私も外国人大学時代、全部じゃないけど読まされた。舞台や映画、ドラマもあり。📕

 

 

ミラー(1891−1980, 88才) 米、ドイツ系カトリック。小説。

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Henry Valentine Miller

75才になって猛烈にラブレターを書きまくって、本人曰く8人目の妻となる50才も年下の日本女性にアタックするほど活力に満ちた女好きで、5回結婚している。『北回帰線』などで過激な性描写が問題となり差し押さえや裁判になる。旅と放浪の人生。三島由紀夫の腹切りには「三島ほど頭の良い人が、大衆の心を変えられると思ったとは信じ難い。アレキサンダー大王、ナポレオン、仏陀、キリストも、とにかく誰も大衆を変えることはできない。人類の大多数は惰眠を貪っていて、原爆で絶滅する時でも眠りから覚めないだろう」というようなことを言っている。近視眼的に見ればそうだ。でもそうであって欲しくないし、数千年の歴史を見れば、大衆も少しずつ進歩している。


紫式部 (970〜978ー1019年以降)日本。作家、歌、官僚。

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土佐光起による

『なぜ古典を読むのか』の中で西洋一辺倒だったのに「ときに気がむけば」とはいえ紫式部が登場!全編通して「日本」がカルヴィーノにとって特別なのが理解できます。藤原道長の要請で宮中の生活を書いた『紫式部日記』や世界初の散文小説と言われる『源氏物語』を書いたとされる。世界中に研究者がいて、翻訳も多。古文は苦手で読んでません。

 

メルヴィル (1819-91, 71才) 米、NY。小説、詩。

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Herman Melville

『白鯨』はあまりに有名(教科書初め文学史他、あちこちで見かけた)だからいつか読もうと思いながら、自然と冒険の海洋小説というイメージが勝手にあって読んでいない。これを書くために彼の資料を調べて初めて興味が湧いた。できればオリジナルで読みたいが、あまりに難解だそうだから私などはまず和訳を読むべき。裕福な商人の下に生まれたが11才頃から家計が怪しくなり父が多額の借金を残して死んだ後は、家族は取り立てに苦しんだ。16才で教員免許を取り小学校で教えるも経済は回らず、船員に。船員の生活はあまりに厳しく、脱走と新たな船乗を繰り返しながら、先住民と出会ったり南太平洋の島々で捕虜になったり、助けられたり苦労の連続だった。ホーソンと親交を結ぶが、彼の小説はあまりに難解かつ悲劇的で生前は全く売れなかった。評価され始めたのは1921年にレイモンド・ウィーヴァーの『ハーマン・メルヴィル、航海者にして神秘家』が出版されて後。貧困の中、長男の自殺、次男の家出と客死、家の火事など不幸な人生だった。こんな人生で生きるには神秘家になる必要があったと思う。📕

 

メルロ・ポンティ(1908−61 ,53才)仏。哲学者

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Maurice Merleau-Ponty

高等師範学校サルトルボーヴォワールレヴィ=ストロースと親交。21才にフッサールの講義で現象学に傾倒。37才で『知覚の現象学』を発表し、戦後はパリ大学で児童心理学、教育学に取り組んだ。メルロ=ポンティの、身体を無視してはいけないという考え方は新しかったと思う。知覚の主体は身体なのだから、世界の見方に影響が出るのは当然に思える。最近の脳科学の発達と併用して考えるべき。教育は何よりも大切。

 

モンターレ (1896-81, 84才) Genova-Milano 詩、小説、翻訳、記事、編集。

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Eugenio Montale

薬品問屋の6男で環境に恵まれていたわけではないが、働きながら文学、哲学を受講し図書館へ通いオペラも習った。大戦時には志願兵になっている。31才以後、中心地フィレンツェでサーバ、カルダレッリ、ヴィットリーニ、ガッダなどと知り合いコリエレ・デッラ・セーラ他に執筆。作品数は多くないが20世紀におけるイタリア詩の最高峰が『烏賊の骨』だという。「その理由」「あらし、その他」1960年代には世界的な名声を獲、様々な大学の名誉教授となり75年にはノーベル賞受賞。Ossi di Seppia しか読んでいないけど、彼の詩は、素人の私にはどこか俳句を思わせる。とてもリズムが美しくて、同時に単語は即物的だったりすると、オキーフの絵を勝手に連想したりもする。オキーフの作品とは、内容的には全く違うんだけれど、どこか達観した印象なの。

 

モンテーニュ (1533-92,53才)仏、モンテーニュ。貴族、法官、政治、思想。

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Michel Eyquem de Montaigne

貴族で裕福で、市長を務める父の下、6才までラテン語だけで英才教育を受けた。母はセファルディーンの家系。父の死により故郷に戻り37才で法官を辞、後世界中に影響を及ぼす『エセー』の執筆にかかる。カトリックプロテスタントの両陣営の王や公に侍従として求められ、穏健派として融和のために橋渡しをした。死後ドイツ、オーストリア、スイスを経てイタリアへ旅し、詳細な記録(宗教的、文化的相違を克明に記す)が見つかり1774年に『旅日記』として出版。飛び飛びに読んでいるだけなので、きちんと読みたい。ペスト時期も重なってか、6人中5人の子供が死んじゃってかわいそうだけど、落ち着いた賢人だったに違いない。📕

 

ヤ行

ユゴー (1802-85, 83才) 仏。詩、小説、政治。

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Victor-Marie Hugo

フランス革命期に生きた、めちゃくちゃ幸運で思いっきり生きた人。羨ましい限り。『レ・ミゼラブル』には10年を要したけれども、その甲斐はあった。文豪としてパンテオンに眠っている。個人的には、あまり魅力を感じない。

 

ラ行

ラファイエット (1754-1834, 74才) 仏。貴族(侯爵)、軍人、政治

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Marie-Joseph Paul Yves Roch Gilbert du Motier, Marquis de La Fayette

19才の時ベンジャミン・フランクリンと意気投合し、自費で船を買いアメリカ独立戦争の英雄に名を連ね、ジョージ・ワシントンによってフリーメイスンに加入した。帰国後は「人は、自由かつ平等なものとして生まれ・・」というかの『フランス人権宣言』を起草。7月14日(バスティーユ)には国民衛兵総司令官として戦ったが、その後は失態を重ね、本国では栄光は失墜した。晩年はアメリカで英雄として華々しく歓迎され、冥土の土産となった。日本において思想(発言)の不自由が増す今、人権宣言は全く素晴らしいもので、それは現在でも未だ世界中で具現化されていない。しかしラファイエットは結局は立憲君主制を目指すのであり、完全な平等を求めたジロンド派ジャコバン派とは根本的に異なっていた。19才で軍艦が買えるような人にしては頑張った。

 

ラスキン (1819-1900, 81才) 英。評論、美術評論、思想。

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J.E.ミレイによるJohn Ruskin

裕福な商人の一人っ子としてロンドンに生まれた。母親が熱心な福音派で家庭教師に教育されたため友人はなく、家族で訪問した地で自然観察やスケッチを始める。大金を払い入学したオックスフォード大学クライストチャーチには馴染めず、母が引っ越して世話をし週末には家族3人で過ごすという過保護ぶり。詩と美術を愛し、ターナーに捧げる随筆から美術批評に着手。22才から40才頃までかけて書いた『近代絵画論』のためには幾度となくヨーロッパへ家族旅行している。30才で10才年下のエフィーと結婚するが、5年後には支援していたラファエル前派のミレイ(上のラスキン肖像画の画家)に奪われてしまう。翌年エフィーはラスキン不能を申し立て離婚成立。彼女はすぐミレイと結婚し8人の子を持つ。50才、オックスフォードで職を獲チャールズ・ドジソン(ルイス・キャロル)と親しくなりアリス・リデルの家庭教師などする。40才頃から教えていた9才のローズに恋し彼女が16才になると何度も求婚した。彼女が早世すると精神を病み、ホイッスラーに名誉毀損で訴えられ名声は地に落ちた。晩年は湖水地方ナショナル・トラストの運動などに力を注いだ。

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The stones of Venice,1851-53

ラスキンは、ラファエル前派やイギリスの美術に関心の高い社会主義思想家たち(最も有名なのはウィリアム・モリス)との関連で非常に重要な人だけど、どう考えても酷いエディプス・コンプレックスロリコンだった。真面目で優しい社会主義者という点ではモリスも同様で、そういえばモリスも奥さんを取られているけれど、モリスは好き。思想も抜群のセンスも。極端な理想主義だったのかな。私は、ロリコンっていうのが絶対に嫌だっていうだけでなく彼の美術思想にもついて行けない。

 

ライプニッツ (1646-1716, 70才) 神聖ローマ帝国ザクセン選帝侯、ライプツィヒブラウンシュバイクハノーファー。哲学、数学、思想、政治。

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Gottfried Wilhelm Leibniz

デカルトスピノザ等と共に近世大陸合理主義の代表。17世紀までの学問(科学)を統一し体系化した。それは「モナド」の思想に現れている。モナドジーはそれまで精神(魂)と肉体(物質)を別個のものとして捉える(二元論、存在論、認識論)伝統に反して一元的に世界を捉えるというもの。世界はモナドの集積なのだ。微積分法を発見。彼が6才の時に死んだ父はライプニッツ大学教授。数学、哲学、法学、史学などを納め選帝侯など宮廷に支え多くの学者と接したが、当時のドイツは後進国であり彼を理解する人は各地に広がった一部の学者だけであったため、千人を超える文通相手が唯一の慰めとなった。これほど能力がありながら、これほど影響を与えなかった人は少ない、と言われたらしい。『中国自然神学論』などの著作も手伝い、現在は世界に研究者がいる。微積!勉強で初めてつまづいた記憶!!

 

ラブレー (1483?-1853, 70才) 仏。人文主義者、医学、政治。小説。

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François Rabelais

盛期ルネサンス宗教改革期なので、本人も考えが変化したのかもしれないし、思想的というより逞く生き抜くタイプだったのか、教皇庁とフランス王、聖と俗を行来した。エラスムスを尊敬していて、頭が良く、語学力高く、痛烈な批判、下品で民衆的な民間伝承に親しむ点が共通している。禁書『ガルガンチュワ物語』などは、民間伝承の巨人ガルガンチュワの短編が流行したので、それに別の中世伝承である小悪魔的なパンタグリュエルを加えて続編としたもの。フランス語の形成に寄与した。カルヴァンは彼を放蕩者と言っている。ひろい読みしかしていない。📕

 

ルーセル(1877−1933, 56才)仏。詩、小説?。

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Raymond Roussel

19世期末のパリ、成功した株式仲買人の父と資産家の母の間の三男。17才でピアニストより詩人になるべきと気付き、執筆中に栄光の感覚を体験し、自費出版するも全く評価されず、以後うつ病の発作に悩まされる。23才から4年兵役に就いたがその間も韻文に凝った作品を書き続け、1909年32才で『アフリカの印象』を新聞で連載、出版。誰にも理解されないが母の別荘の隣人だったロスタン(『シラノ・ド・ベルジュラック』の劇作家)の勧めで演劇へ。子牛の臓物でできたレールやチターを奏でるミミズの登場に非難轟々の中、アポリネールデュシャン、ピカビアや子供だったミシェル・レリスが居て、彼の支持者になる。1922年には有名俳優や脚本家を総動員して上演した『ロクス・ソルス』が、拍手喝采するサクラのシュルレアリスト達と観客の間で揉め、一時中止になり話題となったため小説も注目される。2年後の『額の星』の公演では乱闘騒ぎに発展しこれを「シュルレアリストのエルナニの戦い」という。26年の『塵のように無数の太陽』では、ストーリー展開があったためシュルレアリスト等支持者を落胆させ、相続財産は尽きた。49才で無一文となったので伯爵夫人の姉に身を寄せる。55才で発表した『新アフリカの印象』はいよいよ難解となり喜んだのはダリだけだった。以後チェスと睡眠薬に時間を費やし、56才、長年の愛人とパレルモで薬物三昧の果て病院へ向かう途中死亡。「私はいかにしてある種の本を書いたのか」という原稿を、死語刊行してくれるよう印刷所へ預けていた。1989年トランクルームからパリ国立図書館に9個の段ボールが持ち込まれた。ルーセルの原稿や収集品であり「20世紀フランス文学界における最も異様な発見」と話題になった。フーコーロブ=グリエクリステヴァなどが注目し1977年には日本にも紹介された。

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レーモンに興味津々の子犬。靴カバーがかっこいい

映画の主人公のような人生だった。「ユリイカ」でも「夜想」でも知っている。ただでさえ詩というものは翻訳できないと思っているのに、彼の詩ではより音が大切。本人は韻の生産力を自覚していたそうだ。韻の他にも同義語で全く違った文章を作るなど、とにかくフランス語が十分にできなければ無理!悲しい。舞台はいかにもダダイストシュルレアリストが好きそうで見てみたかった。世界中にファンがいて、彼をモデルとした作品や、現代劇に書き直されて上演もされている。少年愛で訴えられたり、とにかく理解されない人だったようだけど悪い人には思えない(無責任ではある)。20世紀前半の写真が結構あって、やりたい放題の大金持ち(自分の分は使い果たしたけど、面倒見てくれた二人の姉も大金持ち)は幸せそうだ。お姉さん達はさぞ大変だったろうけど、可愛い弟だったような気もする。📕

 

ルカーチ (1885-1971, 86才) ハンガリーブダペスト。評論、美学、哲学、政治。

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Lukács György

ハンガリー総合信用銀行頭取である裕福なユダヤ人の父を持ち、彼が十代の時には一家は貴族となったが、上流社会生活に反発し社会主義へ近いた。ブダペスト大学法学部時代、文学批評、演劇論などを発表。当時一般的だったイギリスやフランス文化への関心を持たず、ドイツ文化圏と北欧文化を研究。25才の随筆『魂と形式』などで新鋭思想家として注目される。26才、フィレンツェの後ドイツへ移住。マックス・ウェーヴァー等と親交を結び教壇に立つがドイツでは戦争熱が盛り上がり、ルカーチブダペストに予備兵として収集され反戦自由主義の団体を形成する。ロシア革命に衝撃を受けマルクス主義者へ。ハンガリー革命では共産党政権の教育文化相となる。大衆への教育の大切さを念頭に置き、学校改革、労働者のための大学、図書館や美術館の充実を図った。その後も革命と戦争で亡命、逮捕されたがトマス・マン等の支援で解放されモスクワのマルクス・エンゲルス研究所勤務。右翼と左翼(修正主義者として)両方から狙われたが、戦後はハンガリーに帰国しブダペスト大学で教諭。晩年は美学、存在論の著述に専念した。ルカーチと彼の著作は何度か読もうとしたがまだ読んで無い。いつになるか?📕

 

ルクレティウス (前99頃-55,45才) 共和制ローマ。詩、哲学。

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Titus Lucretius Carus

『物事の本姓について』ではエピクロスの思想を詞で解説。理解不能な自然現象は神々の力によると考え、死後の罰に怯える人間を呪縛から解き放つために、死んだら終わり!と言う無神論を唱えた。凄いなー進んでるなー。プラトンアリステレスと異なりルクレティウスは、1417年にポッジョ・ブラッチョリーニによって初めて紹介された。ドイツの修道院ではラテン資料が保管されているが省みられていないとブラッチョリーには考え研究していたのだ。ルネサンスに衝撃を与え原子論の発展につながった!ポッジョも偉い。流石フィレンツェ人文主義。それにしてもルネサンスってキリスト教無神論をどうやって融合させるのか、ほんとに無理がある。

 

ルキアヌス (120/125-180年以降) シリア、サモサターアテナイ。弁論、風刺、他。

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Ἀληθῆ διηγήματα

父や叔父は石工だったが、哲学、医学など様々な学問を納め、ギリシャ語で執筆した。アッシリア訛りを克服しアテナイ、アンティオキア、イタリアやガリアなどで弁論家、弁護士として成功を収めた。彼の名を冠した80以上の著作が知られるが、偽作などもあるはず。イタリアやガリアなどへの旅を基に書かれた『本当の話』は月へ行くなど、世界初のSFと言われ、『ペレグリーノスの昇天』では、寛大だが騙されやすいキリスト教徒を風刺したもので、キリスト教徒の最初期のキリスト教主題の作品となっている。「ガリヴァー旅行記」他にも彼の作品から生まれた小説、映画、舞台など数知れない。成功した人生のようだったから良いけど、もしかしたら何世紀も早過ぎた人だったのかもしれない。📕

 

ルソー (1712-78, 66才) ジュネーブ、仏。哲学、政治、作曲。

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Jean-Jacques Rousseau

父母の家計は時計職人の中流家庭。生後すぐ母が亡くなるが父に高度な読書などで教育される。10才で父は投獄、兄は徒弟に出され孤児同然になり牧師に預けられ、牧師の妹や徒弟先などで虐待を受け、盗みや虚言をしながら放浪。美男で頭も悪くないので、生涯に何人もの女性の保護者を持ったが、15才で出会った29才のヴァランス夫人の元でやっと落ち着き読書もできた。カトリックに形だけ改宗。『サヴォワ人司祭の信仰告白』30才、パリで新しい楽譜表記法を考案。ディドロと出会い社交界デビュー。33才の時23才の女中テレーズと出会い、5人の子を儲け56才で入籍。楽譜転写や作曲などが生涯続いた唯一の収入源。「むすんで開いて」(村の占い師と言うオペレッタ)の作者。38才、懸賞論文『学問芸術論』で文明と進化(学問と芸術の発達)による人間の堕落と言う思想を発表し衝撃を与える。『社会契約論』『新エロイーズ』。

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Discours sur l'orgine de l'inégalité parmi les hommes, 1755

高校時代「国語」や「古文」の授業に全然興味が持てなくて、授業中に「倫理社会」の教科書を読んでいた。「倫社」の授業では全く使わない教科書だった。きっと先生は教えられなかったのだと思う。でも私にとっては唯一印象に残る教科書だった。その時に覚えた人名や言葉などが結構あって、後で図書館で色々借りて読んだものです。ルソーのことは、最初から胡散臭く思っていて、教育論、平和、契約などと一見まともで良いことを言ってるけれど、自分は良い加減極まりない人生を送り5人の子供は皆孤児院行き、あらゆる仕事は続かず、ほぼ全ての思想家と喧嘩別れして、性的倒錯者でもあり(マゾや露出狂で訴えられている)、当然の帰結として極度の被害妄想になって急死。そして後世に大きな影響を与えたと言う思想の面でも、私にはあまりにも一貫性が無く納得できなかった。おまけに、なぜか母は「タブララサ(白いテーブル)」がルソーの言葉だと勘違いしていて、ロックのだと言っても無視された。ロックとルソーは契約論という意味では共通するけれど、感覚的には全く違う。ルソーが言う人間の自然状態から「子供は白紙」という言葉を連想してるんだとは思うけど。善人でなければ何の資格も無いなどとは、当然考えていないし、人間的にはろくでなしだけれど素晴らしい芸術を生み出した人々はいる。でも理想の平等社会とか、欲望より個人の利害は共同体(国家)に委ねられるべきだとか、学問が人間を腐敗されるとか言ってる人が、その真逆だって言うのは、説得力無さすぎない?

 

ルーボー(1932-)仏。数学者、詩人、随筆家

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Jacques Roubaud

楽しそうな人だ。数学者だけあって囲碁に触発されて書いた詩集や、短歌と俳句の研究、そこから発想した数字に厳しい規定のある詩など。日本に興味がある。1970年には『Mono no aware(ものの哀れ)』や東京も案内してくれる。📕

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2011年の本だから情報は古いけど数学者詩人の感性に興味がある

この本、買おうと調べたら元値の十倍で売られているのがあってびっくり。

 

レヴェッリ (1919-2004, 84才) Cuneo. 小説、詩。イタリア軍兵士、パルチザン

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Nuto Revelli

モデナの学生を元とした軍に入隊。第二次大戦では対ロシア戦線に将校として参加し、惨劇を目の当たりにする。後ムッソリーニとドイツ軍に対するパルチザンに参加し、野営地でも書き続けた。

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岩波「二つの戦争を生きて」

『貧乏人の戦争』常に現場と底辺で生きる人々の目で真実の文章を綴った。無知の闇に沈んでいてはいけない、目を開き、知り、理解しなければ、自由こそが計り知れない宝で、それ無しには生きてはいけないと若者に訴え続けた。彼や彼の詩を基にしたロックバンドがいくつかある。Modena City Ramblers, The Gang, Massimo Privieroなど

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ (1452-1519, 66才) Anchiano-Amboise

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Leonardo Da Vinci

 レオナルドの散文は口語で書かれたルネサンスの文章の内最良のものの一つと言われている。ボッカッチョに始まると言われるフィレンツェの散文だが、より自由で新しい工夫がある。最も重要なのは有名な『絵画論 Trattato della Pittura』 


レオパルディ (1798-1837, 38才) Recanati-Napoli 詩、哲学、随筆、文献学。

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Giacomo Taldegardo Francesco di Sales Saverio Pietro Leopardi, Conte di San Leopardo

この記事の中で最長の名前。ジャコモ・レオパルディ教皇領マルケの聖レオパルド伯爵で、館には父の収集した2万冊以上の本を擁する図書館があった。家庭教師に兄と妹と付き厳格な教育を受けラテン語ギリシャ語、ヘブライ語に精通し、14才頃から試作を開始。病弱だったためか彼の代名詞「悲観主義」が既に確認される。24才で叔父のいるローマを訪れ、古典とキリスト教の聖地ローマの腐敗ぶりに深く失望するが、タッソーの墓参りをしフォスコロを訪問した。26才以後ミラノ、フィレンツェボローニャなどへ招かれ知識人の間で評価が上がり、ベルリンでの教授職を打診されたが常に抱える健康問題で受けられず。38才、ナポリで客死。晩年(と言ってもまだ30代)は脊椎カリエスで、杖なしには立てないほどだった。

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2014年の映画 il Giovane Favoroso

2015年に毎年恒例の「イタリア映画祭」で「レオパルディ」を観た。いつも不思議に思うこと。イタリア映画祭ってよく満員になるんだけど、決して楽な内容じゃ無いから、みんな面白いんだろうか?って思う。基本的に日本の映画より歴史や文化背景が分からないとついて行けない部分が沢山ある。この映画に関しては、全くレオパルディを知らない人が9割だったと思うから、本当どんなふうに感じるのか不思議に思った。たまたま生徒の人たちと会ったけど、誰も分かってなかった。私はと言うと、レオパルディが可哀想で辛かった。神童だった子ども時代が唯一幸せな時。友人役は「ヤング・モンタルバーノ」の主人公ミケーレ・リオンディーノで本当いい男なんだけど、この映画では主演のエリオ・ジェルマーノが最高でした。恋愛に憧れながらも修道士のように純真だったジャコモは一生独身だった。健康だったら違う人生だったろうけど、でも詩も全然違ったものになってたに違いない。最後のナポリと子ども時代の場面が特に印象的で、イタリアでは大ヒットした良い作品です。イタリア語を勉強してる人やヨーリッパ映画が好きな人には是非。当然映画にはレオパルディの詩が所々挿入されて、彼のエレガントで悲しい言葉が印象に残ります。

 

レス枢機卿 (1613-79, 66才) 仏。貴族、枢機卿大司教、政治、著述。

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Jean‐François Paul de Gondi, cardinal de Retz

メディチ家同様フィレンツェの振興貴族だったゴンディ家は、1505年頃アルベルト・ゴンディがリヨンに拠点を置きフランスでも有力な一家となる。ジャンフランソワポール(ヨハネとフランチェスコとペテロの三聖人の名)は三男で、親族にはレスの枢機卿職やパリの大司教職を務める叔父たちがいたため、幼少から高位聖職者を目指して教育された。母国語のフランス語に劣らずヘブライ語ギリシャ語、ラテン語、イタリア語、スペイン語にドイツ語も流暢だったと言う。羨ましい限り。10才には出世街道に乗りソルボンヌで博士号を取得後フランス国王の宰相を務めたリシュリュー枢機卿に叙階された。地方貴族の三男で超優秀というところが自分と同じと思ったのだろうか。20才近く年下のジャンフランソワを甘くみていたのか。後にリシュリューの愛弟子マザランに敵対して起こった「フロンドの乱」で活躍する。

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フィレンツェの中心にある典型的なルネサンス建築のゴンディ館

カルヴィーノが取り上げているのは晩年に書かれた『回想録』が高い評価を受けているから。歴史上最後の貴族の反乱となったフロンドの乱が生き生きと再現され、重要な歴史資料であるだけでなく文章が素晴らしい、らしい。私には分からないが当然だとは思う。会話が上手で熱烈なファンの女性陣がいた反面、当時の複雑な政治状況の中で男たちには敵も多かった。

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ゴンディ館の一部はペントハウスになっている。私が泊まることはない。

本名ではなくレス枢機卿として知られているのは、若き日の大活躍よりレス枢機卿の名で出版した『回想録』がデュマ初め、多くの著述家に与えた影響によるもの。この辺はフランス革命につながる一連の歴史の大転換期にあたり、リシュリューマザランなども素晴らしい肖像画が残っているから美術好きの人も歴史好きの人もチエックしてください。ちなみにマザランもイタリア人。

 

レーヴィ (1902-75, 72才) Torino-Roma 絵画、詩、小説、医師、レジスタンス

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Carlo Levi

ユダヤ人の医師である父と著名な社会主義運動家の母を持ち裕福で進んだ地域に生まれる。トリノ大学医学部時代にゴベッティと知り合い反ファシズム運動へ。優秀な成績で卒業するがヴェネツィアビエンナーレに出品するなど画家になると決意。パリ時代はモラビアデ・キリコストラヴィンスキーなどと交流。レオーネ・ギンズブルグ(ロシア系ユダヤ人)とロッセッリ兄弟の「正義と自由」(反ファシズム運動)のイタリア支部を指導する。1935〜36年にかけルカニア地方に囚われ、そこで目にした壮絶な貧困から不朽の名作『キルストはエボリに止まりぬ』(止まらなかった、とどまった、などの日本語訳もある)が生まれる。囚人とは言っても医師の手伝いや絵が描けた。フィレンツェでまた逮捕されムッソリーニの失脚で自由へ。大戦後はローマで執筆、芸術活動『自由イタリア』の編集など。1963年イタリア共産党上院議員、肺炎で亡くなる3年前まで務める。

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ルカニアの貧民の生活を描いた絵から映画もできた

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バジリカータ州マテーラでの撮影

映画や舞台、小説は各国語に何度も翻訳されている。📕


 

レリス (1901-90,89才) 仏。詩、民俗学、美術評論、随筆。

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F.BaconによるMichel Leiris

教養高いパリのブルジョワ家庭に生まれ、次第に芸術に目覚める。1924年の『シュルレアリスム革命』に参加。5年ほどで脱退しバタイユ、カイヨワらと社会学研究会を立ち上げる。第二次大戦では対独レジスタンスの地下運動。サルトルらと雑誌発行。特に前衛また精神分析民俗学など革新の時代であり、ジャズから美術、文学、自己探究へ。『幻のアフリカ』ではアフリカを横断しながら、博物館のために収集。日常生活における聖なるもの(憑依)から、儀礼、演劇などを研究している。多くの知識人同様共産党に期待を寄せていた彼は、建国間もない中国を訪れ資料を残した。若い時からマッソン、ジャコメッティピカソと親しく晩年には美術評論を著すが、特に注目したのは肖像画を描いたフランシス・ベーコンで、死後は大量の美術品や民俗学的作品が近代美術館に寄贈された。最先端の人だった。

 

ロスタン (1868-1919, 50才) 仏、マルセイユ〜パリ。戯曲。

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Edmond Eugène Alexis Rostand

シラノ・ド・ベルジュラック』の作者。マルセイユの豪商の家に生まれパリ大学法学部卒業後、戯曲を書く。作品には好評も不評もあったが30才頃発表した『シラノ』が異常な人気を博しパリを興奮の坩堝とした。デュマ・フィス、サラ・ベルナールらと親しく、息子モーリスは作家、ジャンは生物学者として成功し藤田嗣治が描いている。

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藤田嗣治らしい繊細さ。手にしたカエルなどのデッサンもある

『シラノ』の後に発表した作品は、時代を先取りしすぎたと言われ理解されなかった。スペイン風邪で没。

 

ロレンス (1885-1930, 44才) 英。小説、詩。

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David Herbert Richards Lawrence

炭鉱夫の父と教師の母は仲が悪く、炭鉱町で育つ。フィレンツェで書いた『チャタレイ夫人の恋人』が代表作。ぶっきらぼうで平易な言葉でセックスと恋愛をテーマにした小説を他にも書いている。発禁処分になった小説で何回も映画化されている代表的な作品。日本でも裁判になり「猥褻と表現の自由」が問題となった。一応映画はざっと観たけど、思想的でも社会や歴史問題でもなく、単純に人間の動物的な本能を賛美してるのかな。他の作品も、理性によって衝動が抑えられるのを否定するような感じがします。カッコつけたポルノでしょうか。こういうの全く好きでないけど、ずっと表現の自由が実現された今でも読みたい人っているのか知りたい。

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英語版『なぜ古典を読むのか』

長かった。疲れた。これを書くのに半年もかかった。コロナ休み(大学が無い)でもなければできなかった。書きながら著者について調べ、ときには本を読み返したりして、合間に書いていたらこんなに時間がかかっちゃった。いつもは美術や歴史の本ばかり読んでいるけれど、ルネサンスだって元はと言えば文芸復興運動なわけで、文学が分からなければ全く片手落ちだから、自分のためになりました。万一、ここまで付き合ってくれた人がいたら驚くとともに感謝します。貴方もきっと本を愛してるんでしょうね。文学について深く語れる場が欲しい。いろいろ質問したいのです。当然全てに答えがあるわけでは無いけれど、カルヴィーノのこの本を読んだだけで随分知識が増えました。

 

*感想とまとめ

 

カルヴィーノがイタリア人で、イタリア人に向けて書いているので、イタリア人が多いのは当然にしても、フランス人率が高い。やはりと言うべきか。英語(英米)作家は、アメリカが世界の頂点に立つ時期と重なっているのでそれなりに居ます。対してゲルマン系の人は非常に少なく、代わりにロシアの文学に占める重要度が明確です。アジアでは唯一、紫式部が登場するだけでなく、何人もの作家が日本に対する興味を顕にしていて、西(ヨーロッパとは西という意味)に対して、いかに日本が極東なのか、神秘の国、憧れの国だったのかが感じられます。カルヴィーノが活躍した時代、日本は破竹の勢いで成長し、私の留学時代にも円は最強でしたが、現在状況は全く違っています。日本がこれ以上没落しないようにするためにも、日本人の教育程度を上げることが急務であると、ここに出てきた多くの作家が非常に知的であるのを再確認して、思うのでありました。

 

西洋美術、イタリアの旅、読書が大好きな貴方へ、中世西洋美術研究者SSが思う事いろいろ