天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【イタリアの旅】世界遺産や地獄めぐりのトスカーナ

毎年行っている秋のイタリアの旅ですが、2019年はロンバルディーアの旅を終えた参加者と入れ替えにトスカーナを旅する人たちがミラーノへ到着。訪問地の一口紹介をします。

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Museo, Pisa

Milano(ミラーノ)

アリタリアだと大抵ミラーノ到着は夕方遅くになり、初日は夕食に出るくらいしかできません。飛行機の疲れもあるし翌日は早く出たいので、ホテル周辺でちょこっと食べたいという要望でした。で、いきなり地元ちっくにケバブ屋へ連れて行きました。日本と違い、ヨーロッパにはずっと前から多くのケバブ店があり、すごくリーズナブルな上、野菜がとれるので私は大好きです。もうすでにヨーロッパの都会の食事を担っています。慣れない人はイスラムの人たちのことを怖がるけれど、彼らは皆苦労しているので非ヨーロッパ人である私たちには親切です。

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ミラーノの司教座聖堂

午前中しか彼女たちはミラノにいられません。何も知らなければ、やはり司教座聖堂広場へ連れて行くべきでしょう。巨大建造物の場合、どこから目に入るかも印象に大きな違いを与えます。ドゥオーモ広場への出口は沢山あるのですが、真っ正面から出るようにしました。階段を上がりながら「うわ〜っ!」という声が聞こえます。テレビや本で見ている物でも目の当たりにすると、その大きさや質感が圧倒的な印象で迫ってきます。ただ、残念ながら昼には車上に居ないといけないので、長い列には並ばず、ヴィットリオ・エマヌエーレの大ギャラリーを通過し、スカラ座へ向かいます。と言っても、その前のレオナルドの記念碑で説明し、ホテルへ荷物を取りに戻ります。午前中だけでしたが、イタリア初心者には大変な感動でした。

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Prato

ミラーノからプラートへ向かいます。先のグループよりもトスカーナ組は長距離を移動します。イタリアの場合、国鉄は早く買うと非常に割引になります。でも私は基本的に早割を使いません。時間に縛られたくないので。常に天気やみんなの疲れ具合など見て予定を微調整するからです。早割は払い戻しが効かないのです。今回はみんなの帰国日のフィレンツェ・ミラーノ間だけ先に買いました。飛行機は乗り遅れできないもんね。実は今回唯一の残念なことが起きました。ミラーノ・チェントラーレ駅で列車に乗り込んだ時、どさくさに紛れてスリにあった人が出てしまったのです。すごく親切そうに堂々と近づき、カバンを置く手伝いをしようとしたようです。美少女二人と少年だったとか。私が被害に遭った二人だけが席にいないのを見て、どうしたのかと声をかけた時には、スリたちは下車したところでした。5千円ほどの被害とはいえ、気分が悪いですよね。旅の前にはなんども注意を呼びかけましたが、乗車の時言うべきでした。ごめんなさい。しかし明るい彼女らは健気に、後を思いっきり楽しんでくれました。旅先ではくよくよしたら、ますます損だから切り替えが肝心です。

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Cattedrale, Prato

列車の乗り換えはとてもスムーズに行きましたが、トスカーナ組は天候には恵まれませんでした。なのでプラート駅からはタクシーで中心地の宿へ。ホテルではなく鍵を渡してくれるアパートタイプです。それぞれの部屋は作りが結構違い、当たり外れがありますが仕方のないことです。場所は歴史中央地区内なので気楽に出入りできます。日本の普通のツアーだと、新しいホテルに泊まるため歴史中央地区から遠い場合がよくあります。気軽に部屋に帰れないので、私は好きではありません。プラートはかなり好きな街です。確かに大好きな街だらけですが、無数にあるイタリアの街ですから、再訪するかどうかでどれだけ好きかが決まるでしょう。プラートには何度も行ったことがあるし、また行きたいです。メディエヴァリスタ(中世愛好家)にとって、プラートはフランチェスコ・ダティーニの街で、ルネサンス好きにはフィリッポ・リッピの街、ファッション関係者には布の街かもしれません。私は全てに当てはまるのです。リッピの大作フレスコの隣にはウッチェッロのフレスコもあります。

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Cappella di Filippo Lippi, Prato

丁度週末で大聖堂広場やあちこちに屋台が出て、活気がありました。私もシルクの服を買いました。ゴッホの花柄でかなりのお買い得。気に入っています。みんなジェラート(アイスクリーム)で元気をつけて、大聖堂美術館を見学します。なぜか無料ガイドをしてくれて、最後にメインのリッピの礼拝堂に到着します。優雅で繊細なボッティチェッリの美しい線も、リッピと出会っていなかったら違ったことになっていたに違いありません。ミサが始まるギリギリまで鑑賞しました。

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プラートの博物館フレスコ

フィリッポ・リッピの息子フィリッピーノも大好きな画家ですが、修復された彼の作品を楽しみに博物館へ。イタリアの常で館自体に当時のフレスコが残り、魅力的な上様々な時代の作品があります。油の大祭壇画や後期ゴシックの作者不詳の作品など興味深いものが沢山あります。屋上からは街が一望できます(プラートの最初の写真がそうです)。特にブルネッレスキがデザインした聖堂は彼らしい威厳があり目立ちます。結婚式も上から覗いてしまいました。飾らない感じの新婦を囲んで皆楽しそうにしています。毎年9月から10月にかけてイタリアへ行くのでよく結婚式を目撃します。今年もいくつか見ましたが、去年プーリアはビトントで遭遇したものや、ナポリの演歌歌手の結婚式程派手ではなく、北イタリアの結婚式は落ち着いた感じでした。

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ティーニの家

中世の際立った人物として名高いフェデリコ二世のお城を眺めつつ夜更けまで、新感覚バールで生魚料理で飲んだ事もとても印象的でしたが、個人的にはフランチェスコ・ダティーニの家に行けた事が嬉しかった。ダティーニは、このサイトでは何度も書いていますが、中世の立身出世の見本のような大商人です。彼がアヴィニョン教皇庁で大儲けした後、故郷に錦を飾った家が残っています。孤児のような状態から貴族をも凌ぐ金持ちになった彼なので、やはり貴族の真似事のようなフレスコです。貴族の最高の楽しみ、狩の主題は多くのサロンを飾っていました。猟犬の目が怖いです。帰りは歩いて駅まで行く途中、また雨が降って来ました。通りすがりの夫婦が傘に入れてくださって、道案内してくれます。彼らお勧めのバールで休んで、温泉地モンテカティーニ・テルメへ。

 

Montecatini Terme(モンテカティーニ・テルメ)

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Tettuccio, Montecatini Terme

モンテカティーニ・テルメを初めて訪れた時、みんなを連れていきたいと思いました。ヨーロッパのブルジョワジーの歴史や社会習慣を肌で感じられると思ったからです。ところが残念なことに、当時と比較し格段に寂れていました。中心の施設は完全に修復が必要な状態で、一番の売りの様々な地方の飲料水も、以前は全てが常に流れていたのに少ししか出ていないし、カフェや高級店舗も閉まっていました。あれではガラガラなのも頷けます。その上ずっと雨が降ったので、予定していたモンテカティーニ・アルトでの夕食を新市街の大衆料理店へ変更。私としてはかなり残念な感じでしたが、みんなはお買い物に精を出し、何より洞窟温泉で、煉獄や地獄を巡り、森林に囲まれた屋外プールでジャグジーを堪能したのでとても喜んでくれました。

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Grotta Giusti

それに、雨が止んだ合間を縫って、走るようにしてモンテカティーニ・アルトへ登山電車で登り、小さな丘の上の街巡りも果たせました。パードレ・ピオの日だったのですが、参加者たちは聖ピオの祭壇の前で熱心に話しかけられて、皆分からないのに、熱心に聞き入っているところなど流石日本人です。もちろん後から説明したけれど。ホテルと駅はカートを引いて歩ける距離で、列車の時間が迫っていたので歩いて移動。ところがその最中に土砂降りに!ジオックスの靴を履いていた私は水の中を歩いているような状態でした。呼吸する靴ジオックスは、底に無数の穴が開いているのが売りな、イタリアの靴ブランドです。

 

Pisa(ピーサ)

いよいよ今回のトスカーナの旅のメインでもあるピサへ。

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かの有名なピサの斜塔

ホテルでは思わぬ事がありましたがそれは後ほど書くとして、とにかくピサは奇跡の広場に見所が集中しています。たっぷり二日取り、塔へ登り、司教座聖堂ガリレオの話をしたり、世界に類のない素晴らしい洗礼堂も上階へ登り、カンポサント(お墓)では最後の審判のフレスコなどを堪能し、さらに私がやったことのなかった壁上も歩きました。かつては中世のヨーロッパ都市の多くが壁で覆われていて、ピサにもかなり残っています。壁の上を歩くと、当時の街の大きさが理解できるし、観光スポット以外の様々な情景を見る事ができます。ガリレイやジョルダーノ・ブルーノなど偉大な学者たちが教えたピサ大学を眼下に見ながら、穏やかなピサ人の日常風景の中に出て、壁は途切れました。

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司教座聖堂の説教壇

西洋美術史上、ピサはピサーノ親子という天才的な彫刻家を輩出した街として知られ、父と子の手による最高品質の説教壇が、洗礼堂と司教座聖堂にあります。まだルネサンスは遠くゴシック時代にあって、これだけ自然主義的な生々しい表現の彫刻は皆無に近く、彼らがいかに古代ローマ研究をしたか知る事ができます。親子の作品を比較するのも楽しく、息子が天才彫刻家であった父を越えるために大変な努力をしたのが伝わってきます。

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San Sisto, Pisa

一般には全く無名ですし聖堂へ入ることすら難しいですが、私にとってピサで最も重要な聖堂は1080年創建の聖シストです。生涯の研究テーマとなった勝利の磔刑像がここにもあるのです。神父さんの携帯へ電話し、無理やり約束を取り付け撮影させてもらいました。遠方から私のためだけにやって来てくださった神父様に心から感謝します。もちろん、みんな一緒に見学しました。真のロマネスク聖堂です。当然博物館にも時間を使い、買い物もして愛しの街ルッカへ。

 

Lucca(ルッカ

トスカーナ州フィレンツェとピーサに次ぐ大きな街ルッカ。でもその割には観光地化され過ぎていず、中世の佇まいを最も残した街です。最初に一ヶ月語学留学したのも、論文のテーマに選んだのも、地元国立市との姉妹都市提携まで、様々な点で私にとっては全く特別の街です。最大級に愛する彫刻家の一人チヴィターリもルッカを愛する理由の一つ。ルネサンスの人間味より、中世の聖なる印象が強い彼の作品は、隣町フィレンツェの俗な印象と大いに異なります。

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Matteo Civitali

ルッカ市長と会う約束もあり、二日ではとても紹介しきれず、町中を走るようにしてみんなを連れ回してしまいました。前回ルッカへ皆を連れて行った時は、自転車で市壁の上を回ったのですが、転んだ人がいたので今回は事故を恐れて無しに。司教座聖堂はじめ幾つかの重要聖堂、博物館、塔にも登り金満家のお屋敷も訪ね、アンフィテアトロ(古代競技場)跡で夜中まで飲んで、可愛いお店や由緒正しい宝石店も訪れ、最高のレストランで二度も特別料理を堪能しましたが、私的には全然足りません!

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Cattedrale, Lucca

街によっては一人歩きが危険ですが、ルッカは本当に安心な街。清潔で穏やかで観光ズレしていなくて、美術作品にあふれ最高です。完璧な壁に街全体が覆われているので歴史中央地区には、ほとんど車も来ません。

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塔の頂上に出る直前

観光的に有名なのは、中世には何本もあったという頂上に木の生えた塔。今はグイニージの塔だけですが狭い頂上は観光客で一杯です。街の中央にあるので、ぐるっと街を見渡せます。ルッカが小高い山に囲まれた土地であるのも風景が美しくなる要素です。どこを見ても煉瓦色の屋根とロマネスク聖堂に塔(他にもある)が、緑の丘と空を背景にしています。穏やかなトスカーナらしい景観です。

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塔の上から

ルッカは中世初期に発展した珍しい街の一つで、ボッビオを通じてアイルランドの修道士とのつながりがあり、ケルトとロンゴバルドの融合のような作品が数多く残っています。古代ローマルネサンスの大美術とは全く違った、下手でも自由で、キリスト教も異教もゴッチャになった信仰が読み取れます。どこか可笑しく、微妙に不気味でもあるところが魅力。写真の柱頭でも動物は明快ですが、左下にいるのが天使なのか聖母なのかハッキリしません。角には顔が彫り込まれています。

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他では目にすることのない柱頭彫刻

ルッカは、聖顔(ヴォルト・サント)を持ってヨーロッパ最大の巡礼地の一つでしたから、巡礼のための資料館のようなものがあります。時間になっても閉まっていたのを無理やり大声で呼んで開けさせました。若いお兄さんは寝ていたのでしょうか?いくら滅多に人が来ないと言っても、開けていなければ来ようもありません。中世後期の建造物の壁一杯に、巡礼の歴史を映画仕立てで映し出すので、その世界に入ったようになります。映像はセンス良く、写本などを交えて中世のルッカの街が理解できます。

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巡礼ポイントの映像

ルッカにも連泊したので歴史中央地区のど真ん中に泊まりました。他の街と異なり、壁の中に歴史的景観を残すことに大変注意を払っているので、現代的ホテルは皆壁の外にあります。かつては洋裁工房だったというサロンで朝食をとり、全ての部屋の作りが違います。感じが良いので評判でもあります。あっという間に2晩が過ぎ最後の街フィレンツェへ。

 

Firenze(フィレンツェ

日本人に最も人気の高い街で、確かに世界に誇る美術作品の宝庫ですが、観光化の嵐に晒されたため、街の景観は酷くめちゃくちゃになり、物価は周辺の街と比較しうんと高く、私は住みたいと思ったことはありません。しかし長く閉まっていた大聖堂美術館が、大々的にリニューアルオープンしたのでぜひ行きたいと思っていました。残念ながらみんなにその時間はありません。

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Cattedrale, Firenze

フィレンツェは最大の観光地なので、日本のツアーも幾らでもあり、個人的に訪問しても簡単に行ける場所です。日本からの飛行機は、ローマかミラーノへ着きますが、フィレンツェにもアメリゴ・ヴェスプッチ空港はあるし、国鉄も、わざわざローカル電車に乗って小さなフィレンツェの駅で降りるなどしない限り、間違えようもありません。だから私の旅ではいつも、ツアーや個人ではなかなか行きにくい場所、説明が無いと楽しみにくい所へ連れて行くことにしています。

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Santa Croce,Firenze

ミラーノ同様、初めての人にはやはり司教座聖堂を見せるべきと思い、駅近くのB&Bから洗礼堂とファサードを眺めながら、ポンテ・ヴェッキオを通過し、ミケランジェロ広場へ。予定ではその上の聖ミニアート・アル・モンテを見学して、ミケランジェロ広場からフィレンツェを一望しそこで夕食、のつもりだったんだけど、みんな翌朝の朝食の買出しに出かけたので聖ミニアートは行けませんでした。私なら朝食より、聖堂を取るけれど、みんなスーパーへ行くのが好きなんですね。それでもライトアップされた眼下の街とダヴィデ像で大いに盛り上がって撮影しまくり、最後の夕食を終えました。夕食は「観光地は高い不味い」の典型ですが、場所代です。いかにルッカの食事が素晴らしかったか、理解できるというものです。

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ミケランジェロ広場から眺めるフィレンツェの街

トスカーナ組は先のロンバルディーア組より1日早く、翌朝帰国しました。私はフィレンツェで合流した大学院時代の友人と街に残りましたが、イタリアの友人たちがマルペンサ行きバスに乗せるところまでお世話してくれました。彼らに感謝💚

 

私と親友の旅はこの後も続きます。

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