天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【イタリアの旅】2019年の街:修道士から王室、それにお買い物

全てのイタリアの州を一応回った(カラーブリアだけはちゃんと観ていません)私の今年の旅は、原点でもあるミラーノとトスカーナでした。

f:id:Angeli:20191108120909j:plain

Pavia

ミラーノは初めてイタリアへ行った時に一ヶ月滞在した街だし、トスカーナは研究論文のテーマであるルッカがある州です。回った全ての街(前編のロンバルディーア)と一言コメントを記します。

f:id:Angeli:20191108121556j:plain

Monza

Monza(モンツァ

マルペンサに着きミラーノへ行かずにモンツァへ直行しました。夜の便だったので急いでもらい、時には180キロ近いスピードで飛ばし40分ほどでホテルに到着。メルセデスベンツユダヤ製の警察車両も察知するナビの力を実感したひと時でした。王宮と大聖堂博物館を中心に見学。王宮ではいつものように、女性ガイドを私が通訳しながら部屋を周り、近代の王室の生活が身近に感じられ面白かった。モンツァの人々はいつ観てもおしゃれな人が多く、小さな町が豊かなのが感じられます。司教座聖堂ファサードの修復が終わった頃、再訪したいです。

 

Pavia(パヴィーア)

パヴィーアは住みたいと思うほど、お気に入りの街。ホテルは駅前。歴史中央地区が駅と離れていない場合は、駅近に宿を取るのが断然楽。

f:id:Angeli:20191108130328j:plain

Certosa di Pavia

パヴィーアといえばチェルトーザ・ディ・パヴィーア(カルトジオ会修道院)が圧倒的に観光地として有名ですが、ルネサンスの俗な趣味に毒されたド派手な修道院に住んだ、孤立無援の沈黙の修道士たちを想像するのはかなり困難です。でも博物館もあるしルネサンスを知るには、その建築も合わせて名高いので最初に訪問しました。初めて訪ねたのは20年以上前で、若いアフリカ系の僧が英語で解説してくれました。今回また会えるとは思ってもみませんでしたが、今回はグループツアーで無く、個人的に話が聞けました。当時は二人だった修道僧は7人に増えていました。小さな僧坊のいくつかはきれいに手入れされていて、そこで暮らしているのが分かります。

f:id:Angeli:20191108131148j:plain

小さな僧坊が並ぶカルトジオ会独特の中庭

修道院からパヴィーアの街へ戻り、二日の滞在中にヨーロッパでも珍しい中世初期から中期にかけてのロンゴバルドやケルトの匂い漂う聖堂などを回ります。

f:id:Angeli:20191108125156j:plain

San Michele Maggiore,Pavia

街で最も重要な聖堂は司教座聖堂(カッテドラーレ、ドゥオーモと言われたりもする)とは限りません。教会行政的にはそうですが、歴史的、芸術的には別のことも多く、パヴィーアでは何と言ってもサン・ミケーレ・マッジョーレ(聖大天使ミカエル)です。モンツァで見たヨーロッパ最古の王冠は、この聖堂で戴冠されたのです。他にも独特のこの時代の様式の聖堂や、何と言ってもキリスト教世界全体に絶大な影響を与えたアウグスティヌスのお墓のあるサン・ピエトロ・チェルドーロ聖堂、ルネサンス期のパヴィーアの街を知ることの出来るフレスコを始め、内部が魅力的なサン・テオドーロ聖堂は絶対外せません。

f:id:Angeli:20191108132530j:plain

San Pietro Ciel d'Oro

司教座聖堂は、近世の聖堂にしてはかなり興味深く、その巨大さやシンプルな構造、現代彫刻の取り入れ方などなかなかオリジナリティがあります。夕刻迫る聖堂前広場でアペリティフを飲みました。暗くなり重要建造物がライトアップされてゆく中で、スプリッツアペリティフの一種)をゆっくりと取る。広場の丸い石畳も独特で、映画の中にタイムスリップしたような雰囲気のある時間です。夕食には地元の飲み屋でオッソブーコも体験して、みんな、あまりの内容の濃さに大満足の二日目を過ごしたのでした。

 

Piacenza(ピアチェンツァ

数年前にも行ったばかりですが今回は生徒の方々を連れて再訪します。ここはパヴィーアより大きく、歴史中央地区を歩いて回るだけでもそれなりに時間がかかります。幾つかの聖堂と特徴ある元ファルネーゼの館の博物館が最重要。

f:id:Angeli:20191108134943j:plain

San Savino, Piacenza

ロマネスク好きなら思わず顔がほころんでしまうような聖サヴィーノでは、白黒の愛らしい床モザイクの他、記念碑的な木彫磔刑像が堪能できます。

f:id:Angeli:20191108135230j:plain

Museo Farnese, Piacenza

ファルネーゼの巨大な館はガイドと共に回ります。数年前には私一人だったので、ひたすら中世のフレスコについて彼女と話したのですが、今回はグループだったので決まった全コースです。甲冑や武器、ファルネーゼ家の建築について、中世初期の彫刻とフレスコ、ルネサンスからバロックのフレスコや絵画、最も有名な作品としてはボッティチェッリのトンド、際立った特徴である馬車の大コレクション、世界に誇るエトルリアの肝臓などです。ゆっくり見れば半日は必要なほどの素晴らしい博物館です。

f:id:Angeli:20191108140306j:plain

Cattedrale.Piacenza

とても面白かったのはクロノスという司教座聖堂の裏などを回るツアーです。写真は聖堂のクーポラ(ドーム)の内側に登ったところ。細いむき出しの天井裏を歩き回り、ファサードにある十字形窓から外を眺めたり最高です。そこには現代彫刻が展示され、現代風に映像を使ったイベントスぺースもあります。ちょこっと失敗でしたが(^◇^)

ピアチェンツァへ行ったなら絶対にオススメのツアーです。私たちはイタリア語と私の通訳ですが、多分英語もできるはず。

 

Bobbio(ボッビオ)

f:id:Angeli:20191108141523j:plain

ponte,Bobbio

ボッビオはウンベルト・エーコの「薔薇の名前」のモデルになった場所です。要するに中世ヨーロッパ世界の知の集積地でした。世界中から様々な修道士が集まってきましたが、ここを創建したのはアイルランドからやってきた修道士たち。ケルト文様がいたるところに残っています。

f:id:Angeli:20191108141711j:plain

mosaici、Bobbio

中世初期を知ることは難しく、むしろ古代ローマの方がよほど物が残っているのですが、ここボッビオはそれを可能にしてくれるところです。ケンタウロスとキマイラが戦っています。この床モザイクには十字軍当時の西欧の人々の思い描いた、現実と空想の世界が融合した世界が展開されています。

f:id:Angeli:20191108142147j:plain

De Chirico, Bobbio

ボッビオには先にも書いたように、かつては西欧世界最大の図書館があり、素晴らしい蔵書があったのですが、皆ヴァチカンやアンブロジアーナなどへ持って行かれて、残っているのはケルト文様の断片などです。面白いのは、博物館ではケルトの初期中世に始まり現代美術まで一気に見ることができるところ。キリコのような有名な画家の他、現代美術の巨匠フォンターナの滅多に見ることができない初期作品(磔刑の陶器)や、親しみやすい水彩など幅広く、1時間ほどで1500年の美術を概観できます。巨大美術館は疲れるという人にも最適です。今ではメインストリートは一筋しかない小さな村ですが映画館もあり、質のいいお土産屋もあり避暑地としてはすごく良い場所なので、近隣のイタリア人が週末に訪れます。ピアチェンツァから温泉に来たという夫婦に、郊外のレストランを紹介してもらい、こんな田舎で最高に都会的なおしゃれな食事をしました。

 

Vigevano(ヴィジェーヴァノ

f:id:Angeli:20191108143506j:plain

Vigevano

今回私が初めて訪ねたのが、ヴィジェーヴァノです。たまたま雑誌クレアに特集が組まれていて、掲載されているレストランへも行きました。雑誌に載っていたからではなく地元民に推薦されたからですが。広場は驚くほど美しく、文字通り舞台のようというか映画のセットのようです。広場には白い石で美しい装飾文様が描かれているのですが、それは同時に自転車の通路になっています。他の部分は灰色の丸石ですが白い部分は平らなので走りやすいのです。毎朝自転車で通学や通勤する人々がここを通ります。なんて素晴らしいのでしょう!こんな美しい景色の中を毎日通って1日を始めるなんて。

f:id:Angeli:20191108144111j:plain

Castello Visconti, Vigevano

今年はレオナルドの没後500年祭を至る所でやっていて、煩くもあり嬉しくもありました。写真は、ヴィジェーヴァノヴィスコンティの屋敷から、レオナルドの描いた人物たちが覗いているところ。なかなか素敵な演出です。いつも思いますが、ちょっとした演出が粋でセンスが良いのです。ここではレオナルドの全作品を一気に実物大で見ることができました。個人的に面白かったのは彼の、人体解剖学図とヴィジェーヴァノの修道士のそれとを比較した企画。

f:id:Angeli:20191108144838j:plain

Guido Da Vigevano

あー、恐ろしや中世。もっと穏やかに死にたいものです。グイド・ダ・ヴィジェーヴァノは中世盛期の修道士で医者でもあり人体解剖図や、光学機械を考案したりしました。レオナルドの先駆けというわけです。先に書いた靴博物館もとても面白いし、赤いパンプスを買ったけれどもっとあそこで靴を買うべきでした。何と言っても溜まった場所が、これ以上考えられないくらい素敵なところだったし、ミラノに近いのでみんなを連れて再訪したい場所です。

f:id:Angeli:20191108145436j:plain

部屋の窓から広場を眺める

Milano(ミラーノ)

ミラーノには飛行機が着くので、ここで先発隊を見送り、後発隊を迎えました。ロンバルディーアを巡った先発隊の最後は、ファッション週間だったミラノの博物館巡りと友人宅訪問です。ミラーノへ行くほとんど全ての人に私がお勧めするのは、 ポルディペッツォーリ博物館です。場所といい、大きさといい、内容といい圧倒的にお勧めします。

f:id:Angeli:20191108150234j:plain

Poldi Pezzoli, Milano

1879年に天に召されたペッツォーリの信じ難い美術収集品を元にした博物館です。彼の書斎は趣味が良いかどうかは別として、非常に印象的なもので、特にダンテをモチーフとしたステンドグラスは、コピー作品がアンブロジアーナ博物館にも飾られるなど独創的で大変美しい仕上がりです。金持ち男性が執念を燃やす、武具甲冑の大コレクションに始まり、懐中時計や仕掛け物など、絵画館では見られない収蔵品も面白く、ルネサンスの大芸術も質の高い作品があります。ボッティチェッリの全作品中、私が最も好きな聖母子もここにあります。

f:id:Angeli:20191108151357j:plain

Botticelli

館自体も、金魚の泳ぐ室内噴水に始まり愉しいし、素敵な休憩場所もあり一押しです。ここだけで十分美術作品に出会えるので、特に絵が好きでなければもうブレラに行く必要はありません。が絵画好きなら絶対に行きましょう。このブログにも何度も書いているブレラ絵画館へ。ブレラはファッションの中心、ミラーノでも最もおしゃれな地域モンテナポレオーネやスピガの近くブレラ通りにあります。ということは世界一おしゃれな地域の一つといえるかもしれません。ブレラ周辺は絵画館だけでなく、画廊やカフェ、ファッション関係のお店も何もかもと言って良いほど、アーティスティックな傾向にあり、こちらも素敵な格好をしていないと行きにくい場所でもあります。特に私たちが行った時は世界中からファッションキングやクイーンを目指す人々が集まり、馬鹿らしい格好の(しかしものすごくお金のかかった)人たちも目にできて、さらに面白かったです。

f:id:Angeli:20191108153025j:plain

Galleria, Milano

夜中まで毎日堪能して、有名な場所から全く特殊な場所まで訪問し、食事も素晴らしかったロンバルディーアを後にする先発隊は泣く泣く空港へ向かいました。別れる時にはハグしてくれました。日本人同士なのに、感動の現れととって、一緒に旅してくれたことを感謝します。

西洋美術、イタリアの旅、読書が大好きな貴方へ、中世西洋美術研究者SSが思う事いろいろ