天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【イタリアの街】中世ヨーロッパの国際的大都市ピサとルッカの重要建築

ヨーロッパ建築関連の本を手にすれば間違いなく大きく扱われているのがピサの司教座聖堂とその一帯の空間「奇跡の広場」。一番新しく圧倒的に奇妙で世界の七不思議の一つになる程有名なピサの斜塔は、その一角にある。奇跡の広場を訪問したことがある人は世界中に大勢いて、日本のツアーにもよく組み込まれている。でも多くの人からツアーで寄っただけだからちらっとしか見ていないと聞かされる。なんというもったいない話だろう。一日でもいられる程の歴史や美術が詰まった場所なのに。

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S.Michele in Foro,Lucca

一方フィレンツとピサからすぐにあるルッカを訪れる人は、その2都市に比較し物凄く少ない。私が大好きなのももしかしたら関係あるかもしれない。観光地化によって汚されていないで頑張っているから。両方へ行ってみれば一目瞭然なことがある。それは重要建造物の様式が非常に似ていること。1枚目の写真は、ルッカの街のど真ん中に位置する聖ミカエル大天使聖堂。古代ローマのフォロ上にあるのでサン・ミケーレ・イン・フォーロという。ルッカローマ帝国の歴史を変える重要会談のためにカエサル(イタリア語ではチェーザレ、英語ではシーザー)が滞在した場所で、当時の面影があちこちに残って居る。

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Duomo, Pisa

ピサはとても有名だから色んな人が結構素敵なサイトを作っています。イタリア語だけれど写真だけでも十分綺麗で分かるから以下のサイトを見てみて。

https://www.itinerariapicta.it/pisa-piazza-dei-miracoli-il-battistero-e-il-duomo/

イタリア全州を旅して辺鄙なロマネスク聖堂まで観て回っている私の感覚では、建築様式は土地によって非常に大きな差がある。ヨーロッパが初めてで何も知りませんっていう人だと、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ドイツはなんとなく違うね〜、くらいかも知れないけど。中央ヨーロッパも全然違うし、ロシアをヨーロッパと言わないならば、それにしては似ているとか、アラブやアジアにもヨーロッパ風の建造物があるねとかから始まって、なんでも知れば知るほど違いが判るようになるのは当たり前。

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S.Martino Duomo, Lucca

ルッカの聖堂写真が夜の写真なのは、ルッカで一番重要な日9月14日の光の祭典(聖顔ヴォルト・サントの祭典)の時に、夜中の12時過ぎまで町中歩いて行列を追ったりするんだけど、その時のものだからです。上の写真は、非常に残念なことにファサードの頭が未完成なまま放置されてしまったルッカの大聖堂。合体した塔、意匠の意味を紐解き始めると、オタクなので何日でも居られます。私の論文のテーマとなった聖顔の十字架はこの中に御坐す(おわしますって読む)。

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S.Maria Forisportam, Lucca

重要聖堂を見ただけで様式がそっくりなのが誰にでも判ると思うけど、より小さい聖堂にもこのピサ・ルッカ様式のロマネスクが見られます。ロマネスクってゴシックと違って、地域差が大きくこれもロマネスク様式なの???と感じる人は少なくありません。でも西欧中のロマネスクで最も華やかかつ繊細なのがこのピサ・ルッカ様式。

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S.Giusto, Lucca

ロマネスク聖堂はどれも古代ローマの半円アーチを持っていますが、ルッカ・ピサ様式では、コロッセーオを思わせる円柱の回廊が何段にも重なってファサードに現れる。

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S.Paolo a Ripa, Pisa

華やかなのは化粧板に大理石の聖地カッラーラの真っ白な石を基礎にプラートの緑の石を横島に入れ幾何学的にまとめて居るため。

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Doumo, Pisa

近くからよく見ると細かい意匠が所狭しと施されています。色大理石の他にマヨルカ焼きの陶器やガラスの練り物も使われます。それでもピサのファサードルッカに比較し、ずっと落ち着いて見えます。それは柱に衣装が無いから。

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S.Martino.Lucca

これは私のデスクトップ写真ですが、ルッカ司教座聖堂ファサード一部です。空間が怖い病気ではないかと疑いたくなる程、浮き彫りや象眼細工がなされています。全ての円柱は異なったデザインで、近くから見ると統一感どころではありません。浮き彫りはいかにもロマネスクらしく、足を開いた人魚や噛みつき動物や謎の動きをする人などがいますが、どこかアラブ的、イスラム的東方的です。

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S.Michele in Foro,Lucca

中世初期、コロンブスはまだまだ現れません。そんな時代に遠隔貿易を盛んに行えていた地域は少なく、ピサやルッカは最先端な国際都市でした。ヨーロッパ最古の中世のお金はルッカのものだし、絹織物を産業にしたのもルッカが最初でした。商品は布に包まれていますが、この布の模様が職人たちを刺激し新たな文様や意匠が生まれたというのには説得力があります。日本のカステラの語源説も一つはこれです。カステラとはお城が訛った言葉ですが、あのお菓子が包まれていた布の模様だったとか(本当かな?)。

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Piazza dei Miracoli, Pisa

共通点はまだあります。イタリア語ではFacciata a salienteというのですが、上昇するファサード、飛び出したファサード、目立ったファサードなどという意味です。起源はローマの教皇座旧聖ジョヴァンニ・イン・ラテラーノですが、実際の建造物よりもファサードを大きく作る方法です。

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神田

昔は日本にもこれを真似した建物がたくさんありました。神保町辺りへ行くと未だにお店がそんな作りになっていて面白い。

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S.Michele in Foro, Lucca

この見せかけファサードとか書き割りと言ったりもする建築方法はヴェネツィアなど他の地域にもありますが特にルッカ・ピサ様式には多く、その極まった例がルッカの大天使ミカエルです。これは大天使を後ろから撮影したところ。どこかとぼけた脇の甘い天使たちは黙示録の終末を告げるため、最後の審判の笛を吹き鳴らしています。これを撮影するためには塔に登らなければなりません。

 

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