天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】ある巡礼者の物語

題名:ある巡礼者の物語 イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝

訳・注解:門脇桂吉

出版:岩波 2000年

 

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Ignacio de Loyola

写真は当然岩波のではなく、スペインで2017年に公開された映画から取りました。岩波の本は昔ながらの装丁で、青です。岩波文庫ほど売れ線と無関係に出してくれるところはないので、本当に感謝しています。岩波が素晴らしい所は、日本人の解説ではなく原文の訳を出してくれる所。解説、概説はもちろん役に立つし、最初はそこから入るべきとも思うけど、やはり当人が書いた物が当然、最も真実に近い。因みに私はほとんど青か桃色です。岩波文庫は色によって内容が違うんだよ。

 

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Ignacio de Loyola

出てすぐに読もうと思って後回しになっていました。私の授業(イタリア史と西洋美術史)でずっと宗教改革期を扱っているし、世界的に不寛容な庶民的国粋主義傾向が続く中、宗教改革の只中で世界に打って出たイエズス会創始者が気になっていました。読む前は、正直言ってつまらないのを我慢して読むかもしれないと思っていて、頁を開いたら冒頭で訳者が、これは大変読み難い本で・・云々といきなり言い訳のようなことを言ってくるので、そ〜か〜、と思ったのもつかの間、どんどん読めた。感動した。

 

誰でもどんどん読めて感動するとはとても思えないけど、とにかく私は大変感動しました。薄い本で、解説は日本のニュースみたいにただ同じ事をなぞるだけ、みたいな内容が多いので、すっ飛ばしてイグナチオの書いたもの(口述だけど)だけ読めば本当に薄いから、西洋史を勉強する人は絶対に読んで欲しい。

 

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Loyola

まずロヨラの人となりをリアルに感じられ、神の軍隊と言われたイエズス会の大雑把なイメージを修正し、イメージが持てた事。でも何より考えさせられたのは、彼が生きた時代は、西洋史で言うところの宗教改革真っ只中、ルネサンスの合理精神で良くも悪くも近代化された時代。なのに、スペインは全く状況が違ったようで、中世盛期の聖フランチェスコや聖ドメニコにむしろ近いと感じられる、ただひたすらな神への愛を実践し、教皇他権力に逆らわない服従の精神。ペンと言葉で激戦したルターやカルヴァンとは何世紀も違った時代に生きているようなのだ。スペインやフランドルではみんなが恵んでくれるが、イタリアでは誰も恵んでくれないなど、イタリアは近代化されていたのだろうと思う。やたら厳格だったプロテスタントと対照的に改宗ユダヤ人のために家を建てたり、各地へ宣教するに土地の言語を勉強したり、ある意味恐るべき寛容の精神。ザビエルも日本人に感服して、地球の裏側からやってくる気合の入れようだ。とにかく、世界史で習う(学校の世界史なんて入り口でしかないが)西洋史とは随分同じ時代でも、地域により差があることが明確になった。以前から南米に関して、古代に感じられるが実はルネサンス期だったりと、時代感が異なる事を認識していたが、ヨーロッパの中でもかなり差があったのだと実感できた。歴史を勉強する上で、縦軸と横軸の関連は最も重要で一律には説明できないのを、肝に銘じたい。

 

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続けてこれを読みたいと思ってる。ロヨラと、最初のイエズス会士ファーヴル、それにロヨラと同時に聖人となった、日本人には最も馴染みのあるザビエルの本。

 

 

 

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