天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

ミュッシャではなく

Google+からの乗り換えで過去の記事を写しています。2017年

 

http://www.mucha2017.jp/

公式サイト

 

ミュシャ展:国立新美術館(六本木)

 

ここは所蔵作品を持たずに運営するため、全て借り出しだから作品数が少なく高い。私のように一年中美術館へ行く人には、あまり行きたくない所。西洋美術館に比べてかなりコスパが低い。でも今回の展覧会は行く価値があるとお勧め💖

 

借り物だから一切撮影できないのが普通だけど、今回は頑張って一部屋撮影できるのも楽しい。小さな男の子がデジカメ(携帯じゃない)で真剣に撮影してたのが印象的。私は安物携帯なので雰囲気だけですが

 

 

写真は「スラブ菩提樹の下で行われるオムラジナ会の誓い」(部分)

 

ミュシャ。まずその名の表記に絶対異議を唱えたい。ミュシャという表記はフランス語をカタカナにしたもの。モラヴィア(現代はチェコ)生まれの彼の名はムハ(ムッハ)になる。といってもチェコ語は非常に発音が難しくカタカナでは表記できないが仏語だって表記できないわけだし、何より今回の展覧会の目玉であり彼の追求したかった故国スラブという問題を考えれば、間違っても仏語にしてはいけないのだ!!!「こっちの方が馴染んでる」って理由だろうけど、本当気軽すぎて許せない。だってこんなにも祖国や民族の独立、自立、オリジナリティを描きたかった芸術家に極めて失礼だし、分かってないんじゃないかと疑いたくなる。日本人はありがたくも植民地化された経験がない(莫大な税金が使われていても、気付いていない)ので、そういう感覚が鈍いのだ。ミュシャナチスドイツの拷問後に死んだというのに。

 

私も子供時代は、有名なパリで活躍していた頃のデザインポスターなどが大好きだった。ポスターや挿絵は生活のため(勿論楽しんで制作しているに違いないが)だったが、余裕のできた彼は祖国へ帰りチェコ民族の壮大な歴史(スラブ系語族が同じ源を有しているという空想の歴史)を描いた。20年を要した大画面の「スラブ叙事詩」、異端運動としては最大級のものとなったフスを聖人として描き、多くのチェコ愛国的なステンドグラスや、無償で行った切手のデザインなど、全てはスラブ(鑑賞者は奴隷だと認識しているだろうか)に対する熱い想いから来ているのに・・・。

 

彼が可哀想で私も熱くなってしまいました。

 

圧倒的に最初の部屋が素晴らしいですが、後半は世界有数のムハ・コレクションを持つ堺市の美術館から、初期のポスターなどの版画などがあって、その辺は一般向けに見やすい所。でもやはり全体としては「独立のための戦い」が最も重要な展覧会になっている。

 

美術的な点に関して。聖歌隊にいた彼は音楽を愛し、「スラブ叙事詩」もスメタナ(19世紀のチェコの音楽家)から発想したともいう。全ての作品が音楽的な雰囲気を持っているのは、構図にリズムを感じるから。彼の構成力(デザイン)が突出しているのを痛感する。

 

チェブラーシカと違って私は知らなかったモグラの国民的キャラも素朴で可愛い。

 

 

 

 

 

 

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