天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【展覧会】ボテロ展 ふくよかな魔法

私の心と体の栄養である展覧会へ行ってきました。

Fernando Botero

展覧会場の中庭にある「小さな鳥」と記念撮影しました。360度どこからみても楽しい、巨大でふくよかな「小さな鳥」です。ボテロは圧倒的に絵が有名なので、彫刻が手で触れるような距離で見られるのは滅多に無い機会です。

渋谷の文化村には、1989年にできた頃から親しんでいます。吹き抜けになった中庭付きの建造物も好きだし、地下の展覧会場、芸術的な内容に特化した映画館、現在の作家たちのギャラリー、美術に特化した本屋さんなど、私の好きなものだらけでできています。この辺は、松濤美術館も遠くないし、壮絶にマイナーな謎の映画館アップリンク(大変悲しいことに2021年に閉鎖。今は吉祥寺と京都にある)、アンティークや美大生っぽいファッションのお店など、小さくて収益度外視の、内容にこだわったスペースが幾つもありました。

ファン・アイクを元にしたボテロ作品

私がお金持ちだったらあの近辺に住んで通い詰めてもいいような場所でしたが、それは現実離れしたお話。上野公園周辺に住みたいという希望は常に持っていますが・・。で、ボテロについて。

Fernando Botero

私がボテロのことを知ったのは子供の頃です。家には印象派キュビズムなどの様々な画集があり、物心ついた時からよくそれらを眺めていた私は、その後もずっと絵が好きだったので、自分でも描き美大にいきました。人は自分の興味のあるものには、目が行くものです。同じ道を通っても、全く見ているものは違うし、頭に入る情報量も違います。目的地に行くことしか頭にない人は、横見をせずにさっさと通り過ぎるかもしれませんが、私はどこでもあちこち眺めながら歩くので、街のポスターや看板などは当然目に入ります。本屋さんで見る表紙も重要な情報源です。私がボテロを知ったのは洋書の棚にある画集です。ところが当時日本ではボテロについて全然情報がありませんでした。

画集の表紙

今回調べてみたら、日本では26年ぶりの展覧会でした。なので初めて私が実物のボテロに出会ったのは海外です。ヨーロッパにいた時ボテロの展覧会をやっていて、画集も入手できました。一眼で好きになりました。子供の頃からデブで自分のスタイルが嫌いだった私だったので、太った人をこんなに魅力的に描いてくれる画家も好きになりました。太った人を描いた作品は珍しくありませんが、ボテロの素晴らしいところは、決してそれを否定的な意味で扱っていないことが、観るものに伝わることです。

ラッファエッロを元にしたボテロ作品

私はその後必死にダイエットして40キロを切るくらいになったけれど、それは無理をしていたので体に悪く、長続きしませんでした。ボテロの太った人たちは、大らかで優しそうに見えます。全然デブを気にしていなくて、自信を持っているように見えます。大袈裟ですが、私は周囲を気にして生きるのが何よりも嫌いです。悪いことさえしなければ、好きなような格好をして、好きなように話し、好きな事をすればいいと思っているのに、日本ではなかなかそうはいきません。だからますます、ボテロの描く、人を気にしないで自由に生きる人々が好きなのかもしれません。

静物画も描く

でも彼の描く人が太っているからだけで好きなわけではありません。彼の生物画も大好きです。何より色が綺麗ですが、構図や線の考え抜かれた形状も職人的です。イスパノアメリカ的な、暖かくて大胆で生命力に溢れているにも関わらず、同時に静謐な印象を与えます。そこが全く彼独自のところで、最大の魅力だと思います。

ピエロ・デッラ・フランチェスカを元にしたボテロ作品

実は今回、思っていたよりずっと彼のデッサン力が高く、天才的な画家だったのだと痛感させられました。子供の頃から絵で稼いでいるだけのことはあるし、イタリア留学などして古典的でアカデミックな勉強もしています。有名な作品を、彼流にアレンジして描いていて、元の作品を知っている者にとってはさらに興味を惹かれます。余談ですが、今回の展覧会の最高なところは、撮影していいところです。日時と関係するのでネットで調べてください。名画周辺を撮影している時、私のボロ携帯(写真機能はメモ程度にしか使えない)は、なぜか「食べ物モード」に切り替えそうになりました。彼の描く形や色が、お菓子のように見えたのでしょうか?なんだかピッタリで笑ってしまいました。

祖国の現状を嘆く聖母子像

最後に、ボテロはふざけたように見えながらも、社会性の高い作品や、伝統的なキリスト教や民族文化をテーマに描いた作品もたくさん作っています。その証拠にヴァチカン美術館には、ボテロの作品が展示されています。ヴァチカンには死ぬほど観るべき物があるので、最後まできちんと見ている人がどれだけいるか知りませんが、最後の部分は現代美術です。そこに彼の作品が掛かっています。

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