天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

大エルミタージュとチェブラーシカ

*2017年の記事

 

エルミタージュ美術館

http://hermitage2017.jp/

 

場所:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ

 

大っていう形容詞は今回の展覧会についているのか美術館についているのか、日本語だと確定し難い。エルミタージュ美術館が大きいっていうんなら問題ないけど、展覧会がすごいんだっていうならう〜ん、大ってわざわざ付ける必要はないよね。

 

あとロシアの寂しげなかわいー有名キャラ、チェブラーシカとコラボなんだけど、ただロシアってだけが共通項。チェブラーシカが案内してくれる簡単カタログと有料ガイドは、誰を対象にしているのか本当に疑問に思う。幼稚園児のお散歩ならすごく良い企画だと思うよ。「ねえねえ、美術館ってなに?」っていうくらいなんだから。同じお金使うならもっと大人向けのしっかりした内容のカタログにして欲しい。

 

赤坂離宮がチープだと書いたばかりだけど、エルミタージュも昔からそういう印象を持ってる。お金かかりまくってるのはわかってるけど、デザインが安っぽい。「本物は裏切らない」っていうコピーなんだけど、エルミタージュの建物自体が、パビリオンぽい。(すいません。勝手に印象を書いています。)またまたイタリアの凄さを痛感する。だってヴァチカンやそれぞれの都市の大聖堂は全く裏切らない。イタリアが本家だからだ。それは展覧会の最初がやはりイタリア絵画で構成されている事でも分かる。

 

久しぶりにドルチのその名の通り甘ったるい宗教画(嫌いじゃない)やレーニなどスター画家に出会って個人的に嬉しくなる。でも面白いのは一般的には紹介されることが少ないし、名前は全く知られていないに近いカルレヴァリス、マリエスキ、パニーニ、ベッロットなど当時はすごく売れっ子だったVeduta(景観とでもいうのか)画家たちの作品で、質が高い。カナレットくらいしか知られていないのではと思うけど、実際はこういう画家はたくさんいた。ティツィアーノ展にも来ていたベッリーニ工房の系譜だと思う。

 

次のオランダ絵画は特徴をよく表し、非常に庶民的で美しく無いとこが凄い。皮肉だったり下品だったり面白い。フランドルは大好きだが今回は、ブリューゲルの冬景色くらい。

 

で「スペイン:神と聖人の世紀」ってとこ。タイトルには難癖つけたくなるが、スペインの神様度は本当に高い。今回は美術史上非常に有名なスルバランの「聖母マリアの少女時代」が来ている。画集を観て育った者には懐かしささえ感じる作品。私はスルバランが大好きだが、この作品は彼の全作品の中ではむしろ変わったもの。

 

(写真は展覧会の公式ページから)

 

フランス:古典主義〜ロココ。私は元々この辺が嫌いで、それを再確認。プッサン、ヴーエ、シャルダンら有名どころは一応揃ってるけど、個人的には宮廷美術って全然感動しない。ワトーにはたまに好きな作品がある程度。プッサンなんか評価がなぜあんなに高いのか納得できない。美術史にも政治はある。

 

で最後が「ドイツ・イギリス:美術大国の狭間で」このタイトルには思いっきり異議を唱えたい。イギリスには近代以前の大芸術は存在しないとほぼ言えるが、ドイツには中世から素晴らしい彫刻家や画家がいる。絶対一緒にできない。今回の展覧会に来ている作品がほとんどないので一緒なのかも。カウフマンは当時の女性、サロン文化を知るために最高の例だけど美術家としては素人だし、英国アカデミーの超重鎮ゲインズバラも、そんなに上手くないな〜と見るたびに思う。政治だ。最後がチケットにもなってるクラナハ。今年は宗教改革500年でルターグッズとか、書籍とか世界ではいっぱい出てる(日本では無関係でも)から、それに合わせてクラナハの作品もたくさん来てるが、当然だけどこの前のクラナハ展の方がずっと質が高く、数も多く面白かった。この「りんごの木下の聖母子」は彼らしいドギツさ、暗さ、エロチシズムなどが全部薄まってて迫力がない。

 

てことで個人的にはイタリア、オランダあたりが圧倒的に見応えがありました。

 

でも森アーツセンターは場所が良いし、展望台の空間も好きだし、チェブラーシカは別物で可愛くはあるので行ってみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 

 

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