天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【展覧会】メトロポリタン美術館展

met.exhn.jp

乃木坂のメトロポリタン美術館展へ行ってきました。私個人は、コロナ以来生活は全く変わって、異常事態で出かけなくなったので、本当に久しぶりの展覧会です。以前は上野の年間チケットとか、東京近郊の美術館割引冊子も持っていたのに・・。

Piero di Cosimo, Caccia

コロナ禍とか思ってるのは、私だけみたいに混んでました。一般的には公共施設の休みな月曜を狙ったのに無意味。予約制だって言うのに、全くソーシャルディスタンスもないし、みんなくっちゃべってるし、とてもじゃないけど絵を鑑賞する状態ではありません。絵の真正面に立って、列に並んで横向いてる人って何しに来てるんだろうといつも思います。ただの暇つぶしなら、公園とか行ってほしい!お願いします。

上図部分

展覧会は「西洋美術の500年」というサブタイトルがついています。イタリアルネサンスから始まって近代までの、多分一番絵として見やすいあたりなんだろうと思います。私には知ってる作家ばかりだし、多くの作品を見たことがあるんだけどピエロ・ディ・コジモの作品がどうしても見たくて行きました。彼は初期フィレンツェルネサンスの画家の中でも突出して変わった画家です。それに今回の出品作品の状態は大変良好で、彼の謎の絵の細部までよく見ることができ、その点はかなり満足です。全体的に、どの作品も修復されて見やすいものばかりでした。

Giovanni di paolo di Grazia

ベアート・アンジェリコはなぜか日本にもファンが沢山いて、彼から始まることもあり人が群がっていました。ほとんどの展覧会で、最初ほど人だかりができ、後になるほど空いてきて見やすくなります。フィリッポ・リッピの聖母子像はなかなか良かった。彼は、人間的にはろくでなしでも素晴らしい作品を作る芸術家のタイプです。シエナ派は唯一上図のジョヴァンニ・ディ・パオロの作品が出されていました。ゴシックの香りのする初期ルネサンスらしい作品ですが、祭壇画をぶつ切りにされているのが残念です。

Hans Holbein the younger

美術史をやっていると、イタリア人画家が圧倒的に多いのは周知の事実ですが、一般的にはそう思われていないのがよく分かったのは、「イタリア人が多いね」と話している声が何度か聞かれたことです。私は展覧会で世間話をする人が嫌いですが、作品についての感想などが聞こえてくるのは楽しいです。この絵も大学生位の男の子が「子ってなんだ?」と言っていたので、お父さんが有名な宮廷画家で・・と説明したくなってしまいました。ホルバインは絵を描く者にとっては、画材屋で馴染みの名です。画材メーカーの名前になる程有名な画家ですが、「大使達」以外知っている人はほとんどいないでしょう。絵には非常に生まれながらの才能が必要なので、親族で画家というのはよくありますが、父が大画家でも子はまあまあというのは普通です。ホルバインは親子共に、甲乙つけ難い力のある画家だと、この肖像は証明しています。背景は、フィレンツェの最も重要なフレスコの一つであるギルランダイオの作品を思い出させます。入り口付近は断然イタリア人が多く、次にフランドルの作品が幾つかあります。ペトルス・クリスティのピエタはとても素晴らしい作品です。

Annibale Carracci

日本の美術の教科書にも載ってるアンニーバレ・カッラッチの「猫をからかう子供達」は流石「豆を食う人」の画家だけあるもので、日常生活の何でもない場面、しかも意地悪な子供と怒った猫という目の付け所が本当に素晴らしく、知っていても感動します。彼は西洋美術史に新たな世界を切り拓いた人に違いありません。今回もメインの一点として出品されているカラヴァッジョと違い筆が走っているし、ある意味でずっと斬新です。カラヴァッジョは嫌というほど見ていますが、私は基本的に彼の気だるい感じや残酷で暗いところが嫌いなのです。確かに中には迫力のある感動的な作品もあるのは認めますが。

Salvator Rosa

バロックといえば、このサルヴァトール・ローザの自画像はいかにもナポリバロックらしい作品です。彼は貧しい育ちながら知識と美術に関心を持ち、ベルニーニを風刺してローマに居られなくなったり、フィレンツェでアカデミーを立ち上げたりとなかなかの人物でした。オランダや北方の画家達の細部へのこだわりや、フランスのロココ作品の華やかさなど、少しづつ西洋美術史が分かるように並んでいます。

Jean Baptiste Greuze

この画家を知っている人はまずいないと思いますが、真面目に全ての解説を読む日本人にとって、これはとても印象的な作品だと思います。「割れた卵」という題名は、召使いの少女の処女喪失の象徴だという内容は、誰にもわかりやすいものだから。私は、少女に手を出した若者を叱る老女と少女の関係とか、若者の社会的地位とか、手前の男の子は少女の弟だろうか、彼女はこの後どうなるのだろうかとか色々想像しました。こういった、絵画そのものとしては特に突出したところのない作品でも、内容が物語性を持って語る作品が、その場では興味を持たれても、その後どれだけ心に残るものかなど考えました。物語性と絵画的要素の両方を兼ね備えたのは「ピュグマリオンとガラテア」でしょう。作者のジェロームは一時代を築いただけあり、文句のつけようの無い技量を示しています。それにギリシャ神話のピュグマリオンの話は大変有名で、映画や舞台など様々な作品に表されてきました。理想の女性像を彫刻し、恋した結果、彼女は人間となるドリーム・カムス・トゥルー(夢の実現)物語。ピノキオもそこから発想したと言えるでしょう。絵画作品も多々ある中、足元はまだ大理石でもだんだんと人間化して行くジェロームの作品は、最も分かりやすく美しいものです。

Jean Leon Gerome

見れば見るほどこの構図が気になります。知名度の高い画家をまとめて記すと、ラッファエッロは小さいながらも繊細さと美しい顔立ちなど総合力でやはり素晴らしい。それに引き換えレンブラントプッサンルーベンスルノワールなど、評価が高すぎる気がしてなりません。最後はモネの「睡蓮」でしたがぜーんぜん良くなかった。モネ自身もそう思ったのでは無いでしょうか。エル・グレコターナーセザンヌなどは個性が際立っています。そこまで有名では無いでしょうが個性という点では私の目標だったピエロ・ディ・コジモがダントツでクリヴェッリが続くでしょう。絵の巧さではマネが圧巻でした。

A.Watteau

ロココは宮廷的で華やかで上手でも軽薄な絵が多い中、ワトーは唯一好きな画家です。私の都立OUの講座も順調に進んでいます。今はもう締め切っていますが、夏からは対面の授業も始まりますので、ぜひ注目してください。どうぞよろしく💖

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