天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】国立と銀杏書房、絵本の紹介

国立はクニタチと読みます。知らないとコクリツと読んでしまうのですが、住人にとってはコクリツがクニタチに見えてしまう程です。東京の中央線、国分寺と立川の間だから国立という味もそっけもない名前なのですが、街はとても良い街です。というか良い街でした。一橋大学を中心に発展した文教都市で、駅前にパチンコ屋や風俗店のない「住みたい街」の上位に来る街として知られていました。

f:id:Angeli:20210221153650j:plain

1.Tiepolo by Daniel Kiecol

私は国立生まれではありませんが、小学生時代から国立が最寄駅です。海外も含めあちこちに引っ越しましたが戻ってきました。だから国立駅周辺は私の最も馴染んだ場所で愛着があります。

f:id:Angeli:20210221152205j:plain

2.The Vinegar works by Edward Gorey

国立が素敵な町だった大きな理由は、日本では珍しい駅から伸びるまっすぐな大通りを中心とした都市計画と、そこに並ぶお店が個性的だったことです。

f:id:Angeli:20210221152309j:plain

3.Henri's walk to Paris,illustrated by Saul Bass, story by Leonore Klein

世界中のタバコやパイプ、ライターのコレクションがある専門店が、郵便局になりました。郵便局は必要ですが、他の場所にあったし、これから郵便局の時代とも思えないのに、合理的などこにでもあるつまらないプレハブに毛の生えたような建物になりました。タバコ屋さんの時は前を通るだけで、色とりどりのデザインが楽しめて小さな博物館みたいだったのに。今は全く吸いませんが、色んな国の変わった匂いのタバコを買ったものです。

f:id:Angeli:20210221152527j:plain

4.Tueseday by Devid Wiesner

何軒もあったレコード屋さんは、クラシック中心のアポロを除いてとっくの昔に無くなりました。流行とは無関係な欧米のロックやSSR(シンガーソングライター)ものはどれだけ買ったかわかりません。

f:id:Angeli:20210221152706j:plain

5.One City,Two Brothers-A story from Jerusalem by Chris Smith & Aurelia Fronty

レストランや喫茶店も個性的なお店がたくさんありました。金髪ロン毛のお爺さんマスターがいた邪宗門は最高でしたが、打ち捨てられています。なんとかロージナには残って欲しい。

f:id:Angeli:20210221152847j:plain

6.Crocodile Crocodile by Peter Nickle

装飾品関係のお店も随分少なくなりました。ランプや時計などの本格的なアンティークやフランスやアメリカの古着、そんなものにも散財しました。

f:id:Angeli:20210221153107j:plain

7.The boy who bit Picasso by Antony Penrose

100円ショップやコンビニ、飲食店も洋服屋さんも何でもかんでもチェーン店。個性など無い決まりきったお店が私はどうしても好きになれません。仕方なく使うこともあるけれど、日本中の多くの街が似たり寄ったりで、機能性と経済効果しか考えない殺伐とした(私にはそう見える)街になっていく。国立にはヨーロッパの美しい街並みをどこか連想させるものがあったのに、それも過去の話になろうとしているのが本当に残念です。イタリアのルッカ市と姉妹都市提携するためのお手伝いをしている最中なので、益々ルッカの美しさを思い浮かべてしまいます。文化都市を謳っている国立なのに・・。

f:id:Angeli:20210221153217j:plain

7.Under the windou by Kate Greenaway

個性的なお店がどんどん無くなって行く中、ついに最も愛する銀杏書房まで今月末で閉店が決まってしまいました。銀杏書房は文化都市国立のまさにシンボルでした。本当に悲しい。え〜ん😭 

f:id:Angeli:20210221153319j:plain

8.Der Struwwelpeter by Heinrich Hoffmann

そんなわけで、思い入れたっぷりの銀杏書房で、収入激減にも関わらず有り金はたく勢いで買ってしまった最近の本も含めて、とっても素敵な本たちを紹介します。

f:id:Angeli:20210221151938j:plain

9.Happy Birthday,words by Andrea Beaty, pictures by David Roberts

贈り物によくここで絵本を買いました。昨日もイタリア語の生徒さんの赤ちゃんにピーターラビットと猫のトムを買いました。赤ちゃん用の厚紙で型抜き。彼女は英語も好きなので読んであげてくれるに違いありません。

f:id:Angeli:20210221155339j:plain

10.The tale of Little Pig Robinson by Beatrix Potter

ピーターラビットは私にとって初めての英語勉強の購読本です。しかも何故かピーターではなく小豚のロビンソンのお話。小学生の時に父が選んだのですが、何故だろう?10才にもならない普通の日本人の子供に、いきなり難しいに決まってると思わなかったのか不思議です。昨日買った幼児向けの文字数の少ない本ではなく、ふっつーの本です。大体日本語で言われてもわからない言葉だらけ(船用語とか)が沢山あって、珍紛漢紛でした。

f:id:Angeli:20210221160043j:plain

8.Der Struwwelpeter by Heinrich Hoffmann

自分で買えるようになってからは、ビクトリアン・スタイルのシールとかドールハウスを切り抜いて作ったり、モリスやアール・ヌーヴォーアール・デコのスタイル・ブックを参考に絵を描いたり刺繍したりしました。カントリー・スタイルのキルトやフラワー・ムーブメントのリフォーム・ファッション、ヴォーグのデザインやストリート・アートなどの写真集も好きで、ジーンズに絵を描いたりスパンコールや反戦マークを貼り付けたりしたものです。正直今でもやりたい気分💖

f:id:Angeli:20210221160820j:plain

11.アールヌーボー・デザインブック

歴史的に有名な絵本に一時凝ったので、色々集めました。世界で初めての絵本と言われる「もじゃもじゃペーター」(図8)など、オリジナルのドイツ語版だったのに入手。日本語を勉強しているドイツ人に教えてもらったのですが、彼の日本語もかなり怪しく読めませんでした。印象的だったのは「黒人」を彼はクロヒトと言いはって、いくらコクジンと読むと言っても一歩も引かず頑迷なドイツ人の印象を私に与えました。でも怖いのは分かった。そういえば日本の昔話も怖いですよね。昔は世界が怖かったんだろうな。問題になったカルピスのロゴマークも思い出す「ちびくろサンボ」は大好きな絵本で、オリジナルの、全然可愛くない絵のも持っています。あの話が差別だからいけないと言って抹殺されてしまうのは悲しい。少年は可愛いしお母さんのパンケーキは凄く美味しそうなのに、差別なんでしょうか?ハラスメント問題の難しさを感じます。ハンプティ・ダンプティはじめマザーグースがいかに不思議な内容か知ったのも銀杏書房で買ったからです。これには谷川俊太郎の訳があったので参考にして読みました。

f:id:Angeli:20210221163021j:plain

12.Where the wild thing are by Maurice Sendak

今ではTシャツ・ブランドのグラニフでも買えるほど有名ですが、センダクのWhere The Wild Thing Are(図12)もあそこで知りました。邦訳は「怪獣たちのいるところ」ですが、残念ながら全く本来の題名が持っている雰囲気が失われてしまっています。映画の方がワイルド感が凄いです。「小さなお家」や「素敵な三人組」、エリック・カールなど、グラニフは素敵な絵本を他にも使っています。安いしね。

f:id:Angeli:20210221175617j:plain

6.Crocodile Crocodile by Peter Nickle

絵やデザインが何より好きなので、知らない本でも一眼で気に入ったものも少なくありません。ミュンヘンの作家ペーター・ニクル(図6)には一目惚れしました。「クロコダイル・クロコダイル」が有名ですが、これもドイツ語版しかなかったので英語版を待たずに入手。シュールレアリスムと御伽噺が合体した夢の風景のような絵本です。非常に丁寧な筆裁き、沈んだ青系の色彩に差し色のピンクが映えること!幾つかの場面は複製しましたし、カレンダーやポストカードも大事に持っています。素敵すぎて使えないの。模写したといえばケイト・グリーナウェイの絵もずいぶんやりました。彼女の絵は素直に可愛いので、これをもうちょっと平凡にしたようなイラストレイターはよくいます。グリーナウェイはそれなりに有名なので展覧会に出たり、今でも絵本が出ていますが、私の持ってる版の装丁がかっこいいのです(図7)。本にはやはり装丁も非常に重要で、日本語版では装丁やデザインが急にダサくなることがよくあって、何故なのか悩みます。銀杏書房には革のアール・ヌーヴォー時代の高価な装丁本も沢山あって、イギリスの独特な芸術家ウィリアム・ブレイクの本などもあります。


ブレイクは(歴史的には)数少ないイギリス人芸術家ですが、銀杏書房は美術書(図1)も必ず置いてあって、しかも大型の本屋にある専門書の重くて高いのと違って、薄っぺらいペーパーバック系のものからあり親しみやすいのも本当によかった。最も気軽に買えるシリーズはドーヴァーです。

f:id:Angeli:20210221185149j:plain

13.Great Anatomical Drawings by Masters

ドーヴァー・シリーズ(図13)は色々と知りたいのにお金の無い人間には、ありがたい友です。美術関係、歴史系、デザインやボタニカル・アートのような趣味のものなど様々な内容があってCD付きだったりします。その上1000円前後のものからあるので散々お世話になりました。ルネサンス期のヴェサリウスというパドヴァで活躍した有名な解剖学者の本は、学術書にも関わらず非常にデザイン的で素晴らしいイラスト付きだったので一世を風靡しました。骸骨が不思議な風景を背景に悩んでいたり、喜んでいたりして異様で、多少気持ち悪くもあるけれどおかしくもある、そんな彼の本は銀杏書房でも大ヒットだったそうです。

f:id:Angeli:20210221203608j:plain

2.The Vinegar works by Edward Gorey

骸骨といえば、私が銀杏で買った最も高い本の一つがエドワード・ゴーレイの「ヴィネガー・ワークス」です。1963年の七冊入りのボックスで、アメリカのサイトで899ドルで売っているのを見ました。ばらで一冊1万円くらいのもあった。凄っくおまけしてもらったよ〜!嬉しい!!以下ウィキからゴーレイ(ゴーリーとも)の紹介記事を掲載します。

「絵本という体裁でありながら、道徳や倫理観を冷徹に押しやったナンセンスな、あるいは残酷で不条理に満ちた世界観と、徹底して韻を踏んだ言語表現で醸し出される深い寓意性、そしてごく細い線で執拗に描かれたモノクロームの質感のイラストにおける高い芸術性が、「大人のための絵本」として世界各国で熱心な称賛と支持を受けている。また、幻想的な作風とアナグラムを用いたペンネームを幾つも使い分けて私家版を出版したことから、多くの熱狂的なコレクターを生み出している。」さらなる説明は以下で

というような人なのだ!この人も銀杏書房で知った。今まで高くて買えなかったけど、ついに閉店ということで思い切って買いました。信じ難く負けてくれたし、内容も期待以上でした。明日にでもまた銀杏書房へ行って、取材ついでに喜びを伝えて来ます🌟

f:id:Angeli:20210221205416j:plain

2.The Vinegar works,The Gashlycrumb Tinies by Edward Gorey

上の骸骨が傘をさしている作品は「ギャシュリークラムのちびっ子たち」という訳で作家が亡くなった後、初めて出た邦訳がある作品。アルファベット順に「Aは・・・Bは・・・」というリズムをつけた昔ながらの定番様式に則ってはいるものの、内容が普通じゃない。訳は確かに頑張っているものの、オリジナルの淡々とした怖さが薄れている感じです。隣の黒っぽい表紙のは「中国のオベリスク」という題名でやはりアルファベット・ブック。先のが子供だったのに対して今度は主人公は男性一人、でもやっぱり死んじゃう。

f:id:Angeli:20210221215234j:plain

2.The Vinegar works, The Evil Garden by Edward Gorey

彼は、不条理な残酷な結末の物語を音楽的な言葉でもって紡ぎ出すのが得意なんだけれど、絵だけの不思議な物語も得意。????????なんだけど自分で色々と想像して解釈を作る。黒一色のか細い線のクセに、妙に存在感があって空間を感じさせる。B級SF映画の芸術版みたいだったりもする。

f:id:Angeli:20210222101247j:plain

2.The Vinegar works, The Evil Garden by Edward Gorey

私の買った作品はスイスにあったみたいで、チューリッヒのマニアックな図書館(だと思う)宛のハガキも入っています。調べたてみたら今もシンプルでかっこいいウェブサイトがありました。ゴーレイは今でも世界中に大ファンがいる才能のある人なのに、生涯猫と暮らしました。第二次対戦中に毒ガスなどの研究所で働かされたせいもあるかも知れません。戦争反対!例え夢物語と言われようが、武器商人がこの世から消えてくれる事を祈ります。

f:id:Angeli:20210222103750j:plain

9.Happy Birthday Madame Chapeau,words by Andrea Beaty, pictures by David Roberts

暗澹たる作品から可愛くて綺麗な作品へ。例えば渋谷のクレヨンハウスのように、子供の本や絵本を集めているところは、日本にも多くはないですがあります。でも銀杏書房のように大人の絵本作品に出会えるところは滅多にありません。しかも神保町の専門店より安くてセンス抜群! お洒落でデザインを学べる、飾りたくなるような頁の本。

f:id:Angeli:20210222104615j:plain

3.Henri's walk to Paris,illustrated by Saul Bass, story by Leonore Klein

「ヘンリーはパリへ歩く」はシルクスクリーンのような質感を持つ、美術作品絵本です。1頁1頁が異なった色彩とデザインで、とてもネットでは再現できない美しさ。漫画やアニメには決してできない美の世界です。日本人にとっては、この手のものは英語の勉強になるというよりカッコいい写真集同様目に麗しいものですが、それでも少ない文字数でも言葉と絵が響き合うのが絵本ですから、やはり読めた方がいいですよね。その点、ドイツ語が読めない私には何冊も残念な本があります。

f:id:Angeli:20210222110215j:plain

4.Tueseday by Devid Wiesner

 僅かな文字数で何度も受賞しているディヴィッド・ワィズナーの本では、なんといってもこの「火曜日」が最高。アメリカの良さが現れたような、親しみやすく明るい職人的な描き方は天才イラストレイター、ノーマン・ロックウェルの影響がまだ残っているのを感じます。絵本に与えられるコールデコット受賞作品は必ず何冊かは置いてあって、「星からの(キラキラ輝く)使者、ガリレオ」は、イタリア美術を仕事にしている私ですから、迷う事なく買いました。この頁、フィレンツェの夜、塔に唯一の灯りが見え、その中に小さな人影が。よく見ると望遠鏡で観察している姿と分かります。

f:id:Angeli:20210222111430j:plain

14.Starry Messenger-Galileo Galilei by Peter Sis

美術的な質が高く、言葉の勉強になり、しかも一般教養も身につく絵本を私はいつも求めていました。ところが中々こういう本はありません。子供を馬鹿にしているのか、もしくは子供に教養がつくと操れなくなるからまずいと思って、一億総白痴化政策の一環なのかとさえ思ってしまうほど、良い本はありません。このガリレオの本はそういった物を全て持った本です。近代化学の父といわれる人物の簡単な伝記ですが、地理の他「落下の法則」など彼の発明と同時に一般知識、さらには宗教裁判などの歴史にも触れられるのだから。絵もとっても素敵ですが、短く数学や化学の法則の説明もあり。その上凄く安い。

f:id:Angeli:20210222114105j:plain

14.Starry Messenger-Galileo Galilei by Peter Sis

自分が語学を勉強するのに、多読が絶対だからと思ってレベル別ペンギン・ブックスなど色々読みましたが、日常生活の話や簡単な推理小説などよりこういう本が欲しかったのです。そういえば英語の勉強に銀杏書房で買った本の中に、セサミストリートの百科事典がありました。ずっと前に友人の子にあげてしまったけれどあれは役に立ちました。とても書ききれないので、この辺で。

 

 

西洋美術、イタリアの旅、読書が大好きな貴方へ、中世西洋美術研究者SSが思う事いろいろ