天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【展覧会】エゴン・シーレ;ウィーンが生んだ若き天才

明後日、東京都美術館で開幕する展覧会のエゴン・シーレの紹介

どうでもいいと思うかもしれないけど、展覧会のサブタイトルにまず引っかかった。「若き天才」ん?天才は生まれながらのものだから若いも年寄りもない、と言うのが私の認識です。授業内で、才能は生まれながらのものと言う話をよくしてるから。

ルイ・ガイユマン著

1%の才能と99%の努力って言葉もあるし、そう言う人も中には居るだろうけど、私に言わせればその人の才能は「努力できる」とう才能なのだ。努力したくてもそれ程できないのが普通の人でしょ。芸術、しかも美術の場合、才能は非常に大きいけれど、ただ高いデッサン力や色彩感覚を持っているからと言って、必ずしも素晴らしい芸術作品が生まれるわけではなく、逆に、天才的な素描力や構図の感覚など持っていないのに、人を感動させる作品が描けたりするところが難しい。

坂崎乙郎

シーレの場合、天才かどうかはともかく、かなり生まれながらの才能があったことには同意する。素描力も色彩感覚も優れているし、独自のモノ(オリジナリティ)を持っている。若きって、サブタイトルにあるのは28才で死んだからだと思うけど、それは特に劇的な死に方ではなく、非常に大勢の人の命を奪った歴史上有名なスペイン風邪によるもの。

水沢勉著

日本では30年ぶり2回目になる大展覧会なので、現在私がやっている都立大OU講座「西洋美術愛好会」で取り上げた。いつものように書籍をチェックすると、想像を遥かに超える本が見つかった。ただ表紙は違っても同じ著者の本を新たに出してる場合もある。本屋と図書館でできる限り頁を繰って、数冊読む。勿論初めて知ったわけはなく、以前の展覧会の時も知っているから、知識の確認と新たな見解を知るため。

黒井千次

芸術関係の本に関しては、図版を見るためには新しくて大判の本が当然良いけど、内容を深く知りたければ、むしろ古い本の方がいい場合もしばしば。何しろ最近は、文字数が少な過ぎて最小限のことしか書けないから。私が一番気に入ったのは1970年代に出版されたフィットフォード著のエゴン・シーレだった。歴史背景を無視する傾向の強い、薄い本と違って、歴史の流れの中で当時のウィーンの文化的背景とシーレの作品を関連付けている点が、まるで違う。

展覧会ガイドブック

私はエゴン・シーレが昔から大嫌いだから、この展覧会に行こうかどうしようか悩むところ。西洋美術の講師なんだから行くべきかとも思うけど、イタリアなら研究者はタダで入館できるけど、日本には学問を軽んじまくる恐るべき態度があって、全く割引がないのでそれも問題。シーレは当時からポルノ画を描く画家として蒐集家に人気があった。芸術と言わなければ犯罪でしかないような作品も数多く、今でもそのことに対する興味は多分にあるのだろう。しかし当然、それだけでは芸術家といえないし、先にも書いたように彼には独自の感覚があるし、残虐非道のサドと共通の、人の迷惑顧みず、やりたい放題の人間だからこそできる表現力がある。

表現主義エゴン・シーレ

マチスなら喜んで行くのにな〜。好きな人にとっては大好きっ!て感じの画家。

西洋美術、イタリアの旅、読書が大好きな貴方へ、中世西洋美術研究者SSが思う事いろいろ