天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】戦争に反対するシュールな本たち

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映画のシュルレアリスム

都立大OUで行っている【世界の美術館】で西洋美術史を知る、講座もいよいよ終わりに近づきました。古代ギリシャに始まり、現代美術で終わり。「子供の頃に、リアルに知っている時代になった」と参加者から言われました。ここ二回ほどは世界大戦の時代です。二回の大戦と原爆の悲惨から学ばない人々がいる事が目の前に突きつけられている今、この時代の美術を知ることは、普段以上に意義のあることだと思います。ウクライナの人々が救われますように!

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ダリ:シュルレアリスムを超えて

前回の講座はダリ劇場美術館とサルバドール・ダリを中心にダダイズムシュルレアリスムの話をしました。この美術館は本当に個性的としか言いようがないもので、まだ行けていない、是非訪問したいところの一つです。ダリは大変有名なので、参加者は何某かイメージを持っていましたが、授業で、自分のイメージが違っていたり、確認したり、最後の質疑応答もなかなか興味深いものでした。

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ダダ・シュルレアリスムの時代

私は、講義をする前にできる限り調べ直します。元々よく知らないことはテーマに取り上げませんが、再読したり、最新の情報を確認したりします。内容によっては日本語資料がなかったり、資料そのものがそれほど多く入手できないこともありますが、今回は十分な書籍がありました。特に古い本も合わせればかなりの量を読むことができます。

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シュルレアリスムという伝説

1992年出版の「シュルレアリスムという伝説」は、シュールの流行が過ぎ去って久しい頃に出された、日本の本なので、解説的で問題なく読めます。というと、こんな難しい本読めませんと言われそうですが、ツァラブルトンベンヤミンのような当事者たちの書いたものを読んだ後では、大変簡単に感じるに違いありません。シュレレアリスムという運動や、時代、特に文学に興味のある人には入門書の次、という感じの解説書です。

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シュルレアリスム

これは私が大好きな画家、タンギーの作品が表紙なので大きく載せてみました。当然ですが美術史や芸術に関わる出版物も、国によって結構違います。大型本は高い、重い、扱いにくいので最近は本当に減りましたが、美術を愛する者にとっては、小型の安い印刷とは雲泥の差なので、どうしても必要不可欠です。床が抜けないように祈るばかり。

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シュルレアリスムの需要と変容

この本は2021年の新しい本で、フランス、アメリカ、日本の比較文化論です。それも男性原理と女性芸術家というジェンダー系のテーマなので、性差別(区別)問題などに関心のある人にむしろお勧めです。

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シュルレアリスムとは何か

ちくま学術文庫は、入門書として常にお勧めです。今となっては読みにくい著者ですが、逆にシュルレアリスムに関心が集まった時代の雰囲気が伝わってきます。表紙は最強のシュルレアリストであり現代美術家と思われるエルンストの作品です。

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シュルレアリスムと絵画

トリスタン・ツァラアンドレ・ブルトンポール・エリュアール(彼の翻訳は入手困難)など、シュルレアリスムそのものの人たちの翻訳も、古いですが結構出ています。分からんなーっと思いながらも、高校時代から大学時代にかけてずいぶん手にした本たちです。今回、パラパラ頁をめくって一応通して読んでみましたが、当たり前だけど高校生の時とは全く違って、それなりに理解もできました。それに当時は、無意味に「カッコいー!」と感じた文章が、それほど意味のあることなのかどうか疑念も湧いて、少しは冷静に判断できるようになりました。シュルレアリスム宣言はダダイズム宣言ほどカッコよくないけど、「溶ける魚」を読まないでシュルレアリスムについて語るのは、ピカソの作品を一度も見ないで、ゲルニカについて語るようなものだから、シュルレアリスムに興味のある人は、せめて数頁でも読んでください。

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シュルレアリスム宣言・溶ける魚

「長い間待ち望んできたこの戦後が今描き出している灰色の単彩画・・・・・・また歴史の全過程において多種多様な国民の意識を自由の思想の象徴として総合したのは知識人の努力の結果である。・・・文化が停滞したり後退したりしないためには、人間解放という一つの目的に向かって導かれねばならない。」トリスタン・ツァラ

 

思想統制絶対反対!真実のジャーナリズムを追求するのが、どれほど困難か理解できるけれども、政府がテレビやネットを統制する世界は心底恐い。

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