天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

美術とスポーツ

都立大OUの講座【世界の美術館】は「印象派」まで来ました。それで印象派のことをいろいろ調べているうちに、スポーツとの関連を見つけました!オリンピックたけなわの今、記事にするのがいいかなと思って書いています。

 

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Boudin

印象派は近代美術の幕開けに相応しいものです。描き方という点でも、美術界のあり方という点でも、作品のテーマという点でも新たな試みを開始したからです。上の絵は1865年に描かれた「海水浴」というウジェーヌ・ブーダンの絵です。ブーダンを知っている人はなかなかいないと思いますが、質の高い良い画家で、印象派に絶大な影響を与えました。というか第一回印象派展に出品しています。そのことは授業で話したので、おいといて、印象派は風俗画を進化させました。中でも流行の風俗に興味を持ったところはかつて無かった事です。といってもシスレーのように、そういうことには無関心だった人もいますが。

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Seurat

この有名な点描画「グランドジャット島の日曜日の午後」というスーラの作品も、流行の風俗を描いていて、遠くに海水浴やボート遊びの人々がいます。日本語ではピンと来ませんが、英語では「スポーツ」をすることを「遊ぶ(play)」というのも思い出したいところ。スケートボードなんか見てると、いかにもカッコよくて楽しんでる感じが伝わってきます。オリンピックに出るような人は命懸けだろうけど。

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Caillebotte

ボート競技は日本ではマイナーなスポーツですが、イギリスでは本当によく見かけました。これらの絵は皆、スポーツをテーマとした絵で、美術史において、皆無ではありませんが新しいテーマでした。そこでスポーツとは何か?

太古の昔から、どんなに小さな集団でもその社会をまとめるため(社交)に、さまざまな儀式をしてきました。キリスト教はやりませんが、メブラーナのように宗教でもダンスやスポーツのような儀式を奉納することは珍しくありません。何より日本にはお相撲という世界屈指の特徴あるスポーツがありますが、あの変わった髪型や衣装、何より儀式など奉納試合の名残です。中世には戦争のための訓練として、馬上騎馬試合などが流行りましたが、次第に見せ物に変化します。オリンピックもどんどんショービジネス化が進んで大変なことになっていますよね。

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Caillebotte

確かに古代ギリシャ人やローマ人はスポーツをある程度は健康と結びつけて考えていましたが、印象派の頃になって現代風の健康維持というような考えができるようです。

「踊り子」で有名なドガも、体の動きに興味を示した作品を多く残しています。カイユボットは何枚もボートを漕ぐ人や、飛び込む人を描いています。これは明らかに後々の飛び込み競技に通じるものですが、最初のブーダンの絵を見てください。海水浴の塩水は健康に良いとされましたが、まだ女性が肌を露出することが許されない時代なので、絵にあるように馬に轢かせたテントの中で浜辺と海水を行ったり来たりしたそうです。あの白いテントこそ、題名の「海水浴」に関係するものでした。ごく自然な何気ない絵でも、よく見てみると理解できない不思議なことがままあるものです。とにかくスポーツ・テーマは印象派によって積極的に取り入れられた、新たな視点でした。

 

PS: 絵といえば印象派、という時代がありました。私は正直いって、子供の頃から印象派があまり好きではないので、それが不思議でした。現在は「絵と言えば印象派」世代は、高齢者世代のような気がします。授業には、中世美術や現代美術に興味のある人など様々います。美術の世界にも少しづつ平等が進んでいるのかな。

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