天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【映画】ナチスとミケランジェロ

一ヶ月も恐ろしい世界大戦の前兆がある中で、プーチンからヒトラーを連想する人も少なくないでしょう。それで見ていなかった「ミケランジェロ・プロジェクト」をやっと見ました。友人のお気入りなんだけど、監督や俳優、ちょっと見た映像場面から見る気がしなかった作品です。でもやっぱり美術関係の映画はできるだけ見ているので気にはなっていました。

ナチの手から救出されたMadonna col Bambino, Michelangelo

思った通り、私は全然ダメでした。

The monuments Men

邦題:ミケランジェロ・プロジェクト(The Monuments Men)は、2014年のアメリカ映画。有名俳優目白押しのいかにもハリウッドらしい、わかりやすいドラマ。大戦末期の悲惨な様子や戦争の残虐さなど、緊迫感ゼロ。唯一ユダヤ人の金歯が詰まった樽を発見する場面が一瞬ある。確かに30、40代のジョージ・クルーニーはめっちゃいい男ですがここではもう年だし、いわゆる娯楽映画の俳優っていうのが私の印象で、やっぱり気が抜けた感じ。マット・デイモンの「ボーン・アルティメイタム」は呆れたかっこよさだし、結構ボケた役もハマって嫌いじゃないけど、ケイト・ブランシェットとのロマンスとか馬鹿馬鹿しい限り。何よりもアメリカ万歳!「英雄はアメリカ人」感、満載でうんざりです。

Mein bester Feind

邦題:ミケランジェロの暗号(Mein bester Feind)は、2011年のオーストリア、ドイツ映画。この映画も見るに堪えない凄惨な戦争映画っていうわけでは全然なくて、ウィットを効かせた部分もあって戦争サスペンス・コメディ映画と言う人もいるけど、かなり好きな映画。主役のモーリッツ・ブライプトロイはもの凄く良い俳優です。ドイツ人だしユダヤ人役をよくやるので日本では一般的に知名度は低いけれど、正直モニュメンツ・メン全員を一人で蹴散らすくらい力がある、と私は思っています。話はずっと凝っていて、先が読めずストーリーも面白いし、緊迫感もある。

実際の写真

美術愛好家からみると「ミケランジェロ・プロジェクト」は一応事実に基づいた歴史映画の物語版で、主役は美術史家や美術関係者。一方ノンフィクションだけどより説得力のある「ミケランジェロの暗号」は美術商の息子。ヒトラーの略奪美術コレクションには深く美術商が関わっているので、その点に注目した話でした。私だったら絶対「ミケランジェロの暗号」をお薦めするし、一般的な映画評もずっと高いみたい。

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