天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【映画】美術家たちの伝記:フリーダ・カーロ

いよいよ「システィーナ礼拝堂を詳述する」シリーズ第一弾が終わろうとしているところです。次はミケランジェロだからみんな都立大OUの私の授業に来てください!

とか言いながら常に映画やドラマは見観ちゃってて、昨日は「フリーダ」を観ました。

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フリーダ

題名:Frida フリーダ
監督:ジュリー・テイモア
製作:2002年 アメリ

アカデミー賞2部門受賞だし、何より美術を知る人には有名人だから当初見たんだけど再見。美術を知る人にはって書いてから気付いた。美術を知らない人にも結構有名だ。その証拠に彼女をモチーフにした商品ってびっくりするほどたくさんある。バカっぽいプリントのパンツや雑貨から彼女の写真や作品を配したシャツやカバン、靴まである。ヴォーグの表紙はファッション好きの人なら誰の目にも留まるものだし、映画も何本か、本もいっぱいある。

今年2021年もフリーダに魅せられた人たちが作品を作った。これによると「世界で最も賞賛される三人の芸術家」はレオナルド・ダ・ヴィンチピカソフリーダ・カーロなんだそうだ。ふ〜ん。私には、美術っていうより人生や性格に関心があるように見えるけど。

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フリーダ・カーロに魅せられて

フリーダ・カーロは最高に上手いわけでも美しいわけでも深い思想性があるわけでも無いけど、人を圧倒する迫力がある。彼女の作品は気持ち悪過ぎ、怖過ぎ、悲しくなるかと思えば温かい気持ちにさせる。正直言って全然私の趣味じゃ無いけれど、フリーダの家に行ってみたいとずっと思っている。フリーダと才能あるろくでなしの夫リベラが住んでいた南米としか言いようのない色の家。現在は博物館だから。

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死を目前にした共産主義者フリーダ

映画は、単純な伝記映画の作りで大事件には触れているけれど、彼女を特徴付けている政治性や思想が描けていないと思う。上の写真が証明しているようにコミュニストとして、愛国者としてのフリーダのことがあまり感じられなかった。スターリンから逃げてきたトロツキーと恋仲になる場面があるくらい。体を締め付ける拷問具のようなコルセットに、ベッドの上に据えられた鏡を見ながら自分で描いた社主義者、共産主義者としての印。その下には胎児が見える。

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1945年の作品

上の作品には彼女が影響を受けた人々がぎゅうぎゅう詰め込まれている。すぐ分かる通り、右も左も無関係に自分で気に入った思想を選んでいる。これとは全く違った見た目だけど、私も大学の卒業制作で、自分が影響を受けた人々の肖像を、その人の思想や生き方をイメージしながら製作したことがある。ただ情熱的に奔放に恋愛やセックス、大酒飲んで生きた人じゃないとこが、すごいと思う。恋人の中にイサム・野口が全然出てこなかったけど問題あったのかな。

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子供を失い、身体は切り刻まれた彼女ならではの作品

一応彼女の人生は分かるし、一応似てるし悪い映画じゃないよ。知らない人は見てください。でもやはりなんと言っても彼女の作品を見てほしい。文字通り壮絶だから。

最後に、私の意見では「女にしか描けない作品」の代表はフリーダ・カーロ、アルテミシア・ジェンティレスキ、ジョージア・オキーフかな。

 

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