天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【展覧会】佐伯祐三:自画像としての風景

重要文化財明治生命館が長い修復を終えて見学できるというので、以前から行きたかったのが、Mさんのおかげで昨日やっと実現。行動力抜群のMさんはステーションギャラリーの半額チケットも持っていたので「佐伯祐三展」も行きました。

郵便配達

水曜日の午後の明治生命館が結構混んでいて少し驚きでしたが、ステーションギャラリーは大盛況って感じでしてた。年配の人ばかりの展覧会を寂しく感じる私ですが、それなりに若い人もいて、熱心にメモを取ってる女性もいました。美大生かな〜。自分の美大時代を思い出します。ただ、美大時代の私は、日本の20世紀初頭の油絵より欧米の現代美術に断然惹かれていたけれど。

Oldenburg

ほんと、美大時代でなく今でもそういうところはあるかな。というのは下落合のせいぜい数軒の家を描いた油絵より、いろんな手法で製作された楽しい作品の方が好みかもしれない。(ラウシェンバーグ、オルデンバーグ、ジャスパー・ジョーンズとか色々)佐伯祐三は、日本では必ず美術の教科書に載るような有名な画家です。世界で最も美術史上名高い日本人西洋美術画家は藤田嗣治だと思うけど、日本での知名度はそれに次ぐような人ではないでしょうか。もちろん現代美術では、奈良美智とか村上龍とか草間とか、何人も世界的に活躍する人がいるけど、現代美術は別の枠組みで考えたくなるので。

下落合

佐伯祐三の時代は、パリに憧れて油絵を描く時代です。印象派も早くから日本に紹介されました。佐伯がゴッホを知って大変感銘を受けたのが手に取るようにわかります。下の作品は、ほとんどゴッホと同じ角度で描いた同じ聖堂です。私はこの絵を見ると同時に、悲劇を連想してしまいます。だって佐伯もゴッホも悲劇の人だから。

ゴッホに共感した佐伯

激しいタッチや、強烈な色彩を置く所などは野獣派の人々の影響を至る所で感じさせます。全体に暗い色調なので、時々置かれるバーミリオンのオレンジがかった赤や、生々しいチタニウムやパーマネントの白が強烈なハイライトになるところも、野獣派を研究した結果でしょうか。元々そういう色彩感覚があったと思われるけれど・・。

レストランで

佐伯祐三というと、アルファベットを書き殴ったようなパリの街が代表作だと思いますが、今回の展覧会には実に大量の佐伯作品が並んでいて、全然知らないタイプの作品もありました。最も「やられた!」のは「人参」でした。暗い背景に真っ赤な物体が横たわっていて、上には「蟹」の絵がかかっているので「烏賊」だと思い込んでしまいました。カニイカが1匹づつ描かれている絵、というだけで西洋には無い日本らしい感じですが、題名を見るとイカじゃなくてニンジンでした!謎の暗澹たる空間に横たわる真っ赤な人参一本・・・。うーむ。ムツカチーッ!

今回の展覧会の主役の一つとして初期に描かれた多数の自画像があり、中でも下の作品が大々的に取り上げられているのですが、この作品の裏には上下逆に「ノートルダム寺院」が描かれています。素敵な額縁はノートルダム寺院の方が表面だと言っていますし、この自画像は顔の部分が剥がれて壊れかけてもいるし、佐伯は自画像じゃなく裏のノートルダムを見て欲しかったのでは無いかと思いました。

自画像

ま、建物より人間の方に親しみが湧くのも健全でしょうし、有名人に弱い日本人にはこっちの面の方がウケるとは思われます。ノートルダムはめちゃくちゃ暗い色調で、目の悪い人には何が何だかわからない感じだし、このパレットを持つ自画像には、どこか人を惹きつけるものがあるのは確かです。特に素朴派好きの私にはそう思われますが。

今週末で私の都立大オープンユニバーシティの冬講座が終わります。春講座の募集が始まっているので、ぜひ応募してください。残念ながら応募期間が短いのでお気をつけて。佐伯の作品と違い、ミステリアスではあってもずっと面白い作品ばかりだから、ぜひ来てください!飯田橋で待ってます🎨

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