天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】ミケランジェロ:絵本や子供向け伝記もいっぱい!

またかの緊急事態宣言直前、うんざりな私は都立大OU(オープンユニヴァーシティ)の夏季講座の準備に勤しんでいます。どこへも行けないのでひたすら近所にお手かけ。ということで図書館(これは私の人生のおなじみだけど)を隅々まで見ているうちに、子供コーナーまで踏破してしまいました。子供の本って、くだらない大人の本よりよほど良いものが揃ってる。偉人伝記シリーズなんか、小学校時代を思い出します。全部読んでおくんだった。

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世界の歴史:ミケランジェロエリザベス女王

世界の偉人にミケランジェロは入っているようで、あちこちのシリーズで見かけたけれど、ミケランジェロエリザベス女王ってのは珍しい。

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石の巨人:ミケランジェロダビデ像

全部読んだわけじゃないけど、子供向けミケランジェロで一番気に入ったのは「石の巨人」です。デザインも文章もとても良い。子供モノは文字数が少ない分、いよいよ単純で短絡的(決まり文句のような)になりがちだけど、ある程度は仕方ない。実際の歴史はそんな簡単なもんじゃないのに、大人向けのルネサンスの本だって、馬鹿の一つ覚えみたいに「人間復興」とかメディチ家バンザイみたいな内容が多いんだから。

絵本にしては、とても真面目に時代考証ができていて、イラストにそれが反映されていた。いつも私の推薦図書が難しいと言ってる人、そうでない人にもお勧めします。授業の前に読みましょう。10分で読めますが、絵を堪能して1時間くらいかけてあげて欲しいです。

一般書ではやたらレオナルドばかり目について、ミケランジェロの本なんか普通の本屋さんには絶対売ってないけど、絵本の世界ではミケランジェロ、結構人気で嬉しかった。やっぱり作品がしっかり残ってるもんね。作品の写真をイラストと合わせている絵本も一杯あります。

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レオナルドとミケランジェロ

これは「もっと知りたい世界の美術」っていう一般書のシリーズがあって、その子供番。子供版の方が大きいから作品が見やすくて良いかもしれない。ただ私は元々このシリーズが好きじゃない上、子供版は、大人版の情報をそのまま入れ込んでいる部分と、本文の子供へのお話口調が乖離していて変な感じ。絵本というより簡単な資料がまとまってる点が特徴。

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ミケランジェロBL出版

正直言って表紙は全然魅力的じゃない(ミケランジェロが良い男だったら全然違う)けど、内容はとても良い。デザイン(装丁)も文章もレベルが高く、十分に大人でも読める。というか、ミケランジェロの授業に参加しようかなと思ってる人には、第一にお勧めします。地図も歴史も作品もきちんとした資料です。

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イレーネ・ステッリングヴェルフ著

子供教養シリーズの美術版で、イタリアで各国語が売られている中の日本語版です。これはレオナルドだけど同シリーズで「ミケランジェロを手伝ったよ」というのがあります。写真と様々な技法を駆使したイラストで表現され、何より現代の子供がタイムスリップしてレオナルドやミケランジェロに会うという設定が変わってる。

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ミケランジェロを手伝ったよ

差別化を図ろうとするのはわかる。けど内容はかなり酷い。誰も研究者や編集者が内容をチェックしなかったのか、めちゃくちゃなことが堂々と書かれています。レオーネ五世って誰ですか?レオ十世の間違いですよね?最後の審判ミケランジェロに発注したのはパオロ三世(パウルス)じゃなくてクレメンス七世だけど。ミケランジェロは天井画を描いた時寝転んでいませんよ、マルクス・アウレリウスの騎馬像はコンスタンティヌスと勘違いされていたからカンピドーリオの真ん中に据えられたんです。とかとんでもない歴史的な間違いが多々ある上、翻訳もかなり問題あり。凝ってるんだけどさ。もったいないね。専門家にみて貰えば良かったのに。

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ヴァザーリ芸術家列伝

これは子供向けじゃないけど、本が苦手な大人向けシリーズ。ボッティチェッリとリッピもあったと思う。

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ミケランジェロの封印をとけ

変わり種としては、ファンタジー小説ミケランジェロが使われたりもしています。

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子供のための美術史

ミケランジェロで本を検索すると、まだまだ沢山出てきます。最後に「子供のための美術史:世界の偉大な絵画と彫刻」もどうぞ。子供向けの方がいいところは、とにかく版が大きいので作品が見やすい点です。最近老眼で文字が読みにくいとか、忙しいとか、読書するにもエネルギーが足りないとかいろんな言い訳で、なかなか読めない人、子供向けだって、すごく役に立つので手にしてみてね。何にも読まないより百倍もいいよ!

 

 

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