最近こもりっきりで読書したり書いたりしていたら、難しいと立て続けに言われました。思想的な問題など書いてないつもりなんだけど難しいっていうのは、私が悪文だからというのもあると思うし、自分のためのメモのようなつもりで書いた分もあるからでしょう。
ということで西洋美術に興味のある人みんなに向けて分かりやすいシリーズを始めます。毎回連載ではないけれど、単純に印象に残る作品を紹介するというもの。写真は全て自分で撮影しています。素人撮影でお許しください。
作者:ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ
内容:メデューサの胸像
年代:1644-48年
高さ:68cm
所蔵:カピトリーノ博物館
作品番号:inv.MC1166
ローマには何年居ても見尽くせない作品があり、これを所蔵するカピトリーノ博物館だけでも、慣れない人だとうんざりする程見るところがあります。カピトリーノって単数系ですが幾つかの部門が集まっているので、イタリア語ではmusei Capitoliniって複数形にします。建築物自体が観る者を圧倒してくるのに、ものすごく質の高い作品が所狭しと並んでいるのです。凄い!凄い!の連続、しかもこれより巨大な作品がいくつもあるにも関わらず、この作品の前で足を止めない人は居ないでしょう。
バチカンの壮大で独創的な回廊だけでも屈指の芸術家に違いありませんが、ベルニーニはあらゆる時代を通じて世界中の彫刻家の中でも王座に君臨する芸術家です。もちろん素晴らしい技術を持った弟子がいて、全てが彼の力というわけではないにしても、数え切れない大量の彫刻作品、ローマ中にある建築や記念碑、世界の王侯貴族が彼の作品を欲した事などを考えれば当然です。確かにミケランジェロのような熱烈な思想、レオナルドの持つ暗い神秘、ボッティチェッリの持つ深い悲しみ、デル・サルトやポントルモの持つ繊細さはありません。でも技術の無い芸術は存在しないと私は思っているし、やはり彼は職人の域に止まるにはあまりにも偉大です。ご多分に漏れず、人間的には褒められた人ではなかったけれど、それもある程度作品から読み取れます。そこが万人に分かりやすい作品となっている原因の一つではないでしょうか。
メデューサのギリシャ神話は大変有名です。私は子供の頃、髪の毛が無数の蛇というだけで強い印象を受けましたが、その顔を見ると石になってしまうので、ペルセウスが彼女自身に鏡を見せて、本人を石に変えてしまう。というその勝利の方法も心に残りました。ただ腕力が強くて勝つのでは無いところが好きです。神話にはいくつもヴァージョンがあるのですが、ペルセウスは鏡のように磨がれた剣を見ながら眠っているメデューサに近づき首を切った、という方が主流だとはずっと後になってから知りました。メデューサはペガサスやサンゴ、蘇りの血など死んだ後も色々なものを生みました。
カラヴァッジョやルーベンス、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの大御所から無名の人まで実に大勢が、切られたメデューサの首を制作しました。ところがベルニーニの作品は英雄ペルセウスに切り取られた首ではなく、まだ生きているメデューサです。ペルセウスに鏡を見せられた直後、自らの力によって石に変わっていく、もしくは首に斬り付けられた直後の、死に直面した変容の瞬間をとらえています。思うように写真が撮れず、角度や光のせいで伝わらないかも知れませんが、このメデューサは数あるメデューサの中でも際立って美しい作品です。死への恐怖、馬鹿にしていた相手(人間、と言ってもペルセウスは半分人間ですが)の策略にはまった悔しさ、そしてもとは大変な美少女であったが故に海神ポセイドンの目に留まりアテナの神殿で交わったため(もしくは単に美し過ぎたので)アテナの怒りをかい、とてつもない怪物に変えられてしまった悲しみを表しているのです。
ローマへ行ったら是非見てください。
難しくなかったでしょ?
有名な作品に拘らず、写真を整理していて気になった作品を紹介していくつもりです。コロナが収束するまで授業ができないので、西洋美術の参加者がせめてこれを読んでくれればと思います。もちろんお目にかかった事の無い方が、興味を持ってくださればこんな嬉しいことはありません。❣️