天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【イタリアの街】プーリア州:海に突き出したロマネスクの大聖堂

プーリアは個人的に特別な思い出もあるところで、本当に好きなんだけど、日本人の旅行では全然紹介されない場所です。なぜかって言うと、昔はひったくりとか多くて(現在も居るにはいる)軽犯罪一位の危険地帯だったから、って言うのもあるし、北イタリアのような観光情報に溢れたとはとてもいい難い場所だからです。忘れもしない、プーリアの州都の一つフォッジャに降り立った時、いつものようにインフォメーションを探しました。観光案内がしまっていても、どこかの売店で簡単なガイドが入手できると思っていた私は甘かった。観光案内所自体が無いのにまず驚き、地図や街の情報が欲しいと言うと、いきなりコムーネ、警察、憲兵所までたらい回しになり、最後にたどり着いたのが、ウルトラ強烈な神父でした。彼については本が書きたいなー、本気で。

 

 

Trani

 

フォッジャの話をしたいけど、まず観光ってことでいうと、やっぱり初心者が行くべきなのは、アドリア海に突き出した絵のように美しいロマネスク聖堂訪問です。トラーニの大聖堂は先に紹介した「イタリア・ロマネスクへの旅」池田健二著(中公新書)の表紙に選ばれているほど。2014年に修復が始まったので、行く頃は最高に良い状態ではないでしょうか(分からんけど)。もし直前でも修復してるようならば、場所を変更したほうがいいけれど、まず紹介すべき場所です。私が行った時には塔の上まで上がれて(写真で見て想像してね)、ツルツルに磨り減った石段を登るのがワクワクしました。

 

 

イタリアのロマネスク聖堂は、入り口にかなり力が入っています。首がもげてしまっているけれど、二人で必死に聖堂を支えているのが健気です。

 

 

 

 この内部に感動できる人は相当の通ですが、完璧なロマネスクの身廊が、豪華絢爛な聖堂を見慣れた目には、非常に新鮮です。小さい祠みたいな聖堂に、信仰心を感じることがありますが、巨大な聖堂こそ人々の信心無しには絶対に建立はありえません。マトロネーオ(二階)部分に、修復のためか網がかけられていますが、本来は網のようなものはなくスッキリしています。この聖堂は、イタリアのロマネスク聖堂としては珍しく、高さを感じる聖堂で、本来ならばあったはずのフレスコはほとんど残っていません。そのため逆に、現代的な感覚でいうと、建築構造が明確になり、シンプルな美しさが印象的です。

 

 

プーリアのロマネスク聖堂では、ゴシックのようにいきなり建造物から突き出す動物たちがあちこちで見かけられます。でもフランスのガーゴイルのように怖くなくて、どれも可愛くひょうきんな表情をしています。私はバーリの聖ニコラの象(像の間違いでなく動物のゾウさんです)がお気に入りです。

 

 

後陣(アブシデ)方面から見たところです。大聖堂の向こうには、要塞が見えます。この辺は完全に、中世ノルマン帝国の刻印が押されている地域で、あちこちに信じ難い分厚さの、異常に頑丈な要塞が残っています。

 

 

Molfetta

 

トラーニの方が間違いなく有名ですが、私個人としてはモルフェッタの旧司教座聖堂に、心を動かされました。フランスの北、ノルマンディーからはるばる海を越え、成功を夢見てやってきた男たちがこの地に作った聖堂には、やはりフランスの香りがします。どうしても塔が二つ作りたかったんだね。と語りかけてしまいたくなるような、同じ高さの二本の塔が建っています。イタリアの場合(フランスでも見かけますが)、一本だけ先に建てて行くと、途中で金銭切れになり一本は無いも同然だったりするものですが、ここではそういうことはありません。両腕をまっすぐ上に突き上げたようなシルエットが心に刻まれます。

 

 

ミニマムアートを思い起こしさえする、この聖堂の美意識はどうしたものでしょう。私はこれに似た聖堂を見たことがありません。今までどれだけ見たか分からないほどなのに。独自の美しさを持っています。遠方からは見えませんが、近づくとロマネスクらしい浮き彫りが、重要な位置にポツンと施されていたります。海と空と聖堂の石があまりにマッチしています。

 

 

航空写真でも二本腕がはっきり見えます。モルフェッタはカッテドラーレ(司教座聖堂)と名のつくものを二つ持っています。こちらは旧聖堂 Cattedrale Vecchiaで、新司教座聖堂は街の中にあります。上の航空写真を見てください。昔はここは島でした。地続きにはなっていなくて、島全体が市壁で覆われていたのです。だから聖堂自体が、まるで市壁の一部を成しているようにデザインされているのです。

 

 

 

 

Cattedrale

 

新市街に新司教座聖堂があり、駅もありますから、そちらから歩いてくると、旧市街に入った途端に、雰囲気がガラリと変わります。まるで映画村(中世のヨーロッパの撮影でもしてるのか、みたいな)にでも入ったように、突如道幅が狭く曲りくねり、ドアの前に椅子を出して座った人がいます。一人の時もあれば数人で話していたり、手仕事をしていたり。日焼けした子供達が遊んでいます。本当に映画みたい。「ペルメッソ(すいません。通してください)」と何度も言いながら通ります。

 

 

 

Befana

 

1月6日はベファーナがやって来る日です。ベファーナには幾つか伝説がありますが、イエスの誕生をお祝いするために贈り物を持って行くのですが、彼女はそれがどこだか見つけられません。(三賢者に冷たくしたからという話もある)それで彼女はいまだに2000年も彷徨っているのです。良い子にしていると、素敵なものをくれますが、悪い子だと炭をくれると、私が住んでいた時もみんな言っていました。私たちが訪問する頃にはベファーナはもう街角には居ないでしょうが現在は、旧市街で宙ぶらりんで子供を見ているのです。かっこいい展示です。

 

 

新市街から旧市街へ入る門の一つ。夜はまたさらに夢想の世界ですが、絶対に言葉もできない観光者が一人で夜歩いたりしないように。残念ながら本当に危険かもしれないから。

 

旅:プーリアのロマネスク聖堂はノルマン・イタロ・ロマネスクで、今日紹介したトラーニとモルフェッタの他にも素晴らしい聖堂がたくさんあります。最も重要なものは間違いなくバーリの聖ニコラです。それらは、初めて訪ね歩いた時には、「これが一番好きだ」と思うほど私の気に入りました。あれからまたずっと詳しくなり、様々な地域の聖堂を見た後に見たら、どうでしょう。印象は違うでしょうか。印象は変わるものです。年齢、体調、環境、何より知識などによって、音楽、映画、本、美術作品でも、街でさえ印象は変わります。でもどの印象も自分のもの。必ず新たな発見があり、さらに進化するはずです。

 

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