天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【本】ユダヤ人と聖書

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題名:賢者たちの「聖書」伝説

著者:H.N.ビアリク他(編集)

編訳:ミルトス編集部

出版:ミルトス出版 2001年

 

思いの外面白かった。ユダヤ人とは何か?国民国家とは何か?民族意識とは何か?が強く問われている現在、宗教、歴史に無関係な人にも意味のある本ではないかと思った。

 

「聖書」というとついキリスト教を思い描いてしまうけれど、これはユダヤ人にとっての聖書、つまりキリスト教徒からみた「旧約」のこと。解説書ではなく、文体は平易で文字数も少なく明らかに一般読者を対象にした作りとなっているが、内容は専門的で他ではなかなか読めないもの。

 

紀元前から大勢によって伝えられ成文化された聖書は、紀元前後のユダヤ人にとっても理解が難しかったので、様々な賢者によって解釈がなされてきた。一致した見解のものもあれば多くの解釈があるものもあり、それはミドラッシュ、タルムードといった形で聖書の何十倍もの膨大な文献となって成文化された。

 

とか書いていると専門書で固そうと思うだろうけど、内容は時にお伽話のようであり、語呂合わせやギャグ(ふざけてるのかっ?)のような時さえあって面白い。もちろんそこから、ユダヤ人の置かれた状況や歴史に想いを馳せるべきだけれど、紀元2〜16世紀に至る人々の全体の考え方、特に賢者と言われた人々がいかに「文字」「言葉」を真剣に受け止めこだわってきたのかが伝わる。歴史研究をしている人、西洋史をする人には絶対役立つしそうでない人も楽しめると思う。そして現在の不穏な世界情勢を思う。

 

             

 

上下二冊。注釈も多く資料としても使える。安いし軽い。

 

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