天使たちの西洋美術

美術、イタリア、読書を愛する西洋美術研究者SSの思ったこと

【講座】世界の美術館

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Cattedrale di Siena

www.ou.tmu.ac.jp

来年の、都立大オープンユニバーシティの講座の募集が始まっています。

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Pinacoteca nazionale, Siena

私が担当するのは【世界の美術館】です。とはいえ上記の講座内容を読んでいただければ分かる通り、世界の美術館と言っても、ただ紹介するのではなく美術館博物館を紹介しながら、「西洋美術」の通史が何となくでも分かるように、という意図を持ってやります。

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Casa Mansi, Lucca

2021年は、システィーナ礼拝堂を非常に詳細に見てきたので、ルネサンスや美術史に興味津々の人には見応えがあったのではないかと思いますが、これから西洋美術を見てみようかな〜とか、週末のプチ旅行に美術館へ行こうとか、コロナ明けにはヨーロッパへ旅に行きたいなどと考えている人を対象にした、気軽なコースとなる予定です。

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Musei Vaticani, Roma

そうかといって、今まで私の授業に出てくださっている方々を忘れるわけもなく、肩の張らない西洋美術史を、美術館を一緒に訪ねる気持ちで楽しみましょう。お近くに美術史の知識ゼロでも西洋美術に関心のある方がいらしたらぜひ誘ってください。新しい楽しみが見つかりますように。

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東京都現代美術館

西洋美術通の方は今までとは違った見方を一緒に深めましょう💖

【講座】西洋美術史の講座内容で悩む私

都立大のオープンユニヴァーシティ講座は三ヶ月、年四回(春夏秋冬)ですから、その一回ごとに内容をどうするか考えます。コロナになってからペスト関連の資料を読み漁り、絵画や美術の変化を確認しました。これは私が、日本の西洋美術史におけるペスト研究の第一人者である石坂先生に無理やりついて行ったイタリア研究旅行の時(大昔って事!)から知っていたことです。でも長引くコロナで、1年以上経って再開した授業では、いい加減コロナから離れたくなり、西洋美術の王道ルネサンスに挑みたいと思い、2021年の講座は、システィーナ礼拝堂を中心に据えたミケランジェロとラッファエッロになりました。自分で言うのもなんですが、なかなか濃い内容になったと思います。参加者も大勢いて、素晴らしいコメントをいただいています。

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Franco Fontana, Deep in Colors

今のラッファエッロの授業が終わったら、冬季授業では初めての試みをします。世界中の美術館を所蔵作品で紹介するって言うもの。世界中に美術館は無数にあるので、当然選ぶし、当然西洋美術の作品を紹介します。今までと違う点は、日本やアメリカ、イタリア以外の地域も対象となるってこと。あ〜ネタバレしちゃったー。楽しみにしてて!

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Franco Fontana, Appunti Siciliani

今回悩んでたのは、次の春講座の内容です。冬講座の「作品とともに美術館を紹介する」を続けようかとも思ったんだけど、一応春講座は年度はじめで、人は春、新たなことをやろうかなって気になるらしいから、初心に帰りながら再確認するつもりで、西洋美術史の通史をやることにしました。西洋美術の通史は、都立大OU他、カルチャーセンターや放送大学の面接授業などで、時々やってきました。その度に私は、できる限り沢山の作品を用意して、あまり知られていない作品も紹介してきたんだけれども、今回は真逆に、一回一作品で深〜く観て行くのです。

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Beatus de Liebana

あ”〜大変だーっ!散々悩んだ末に結局、最も苦手なことになった。私、無駄なことを省いて、簡単に、サラ〜っと説明するの苦手どころかできないんです。詳述しちゃう。思想や歴史も作家の性格も、個人的な出来事や、美術的な要素は勿論。

いつも、もっと説明したいのに時間がないからできないとなっちゃうから、1講座一作品にしてみた。それはいいんだけど、今度は通史を十作品で紹介しなくてはならない。悩む〜っ!!!

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Hyperion

ルネサンスが圧倒的に大好き!とか、ロマネスク💖!とか、あとは作品より描かれた内容解読にひたすら興味がある、みたいに嗜好が一貫してればいいんだけど、私、ミケランジェロもよければフランコ・フォンターナも超カッコいい!中世のヘンテコは大好きだし、ヘヴィメタ・ファンが好きそうなグロテスク間際の超絶美術も好きだし・・・

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Henri Rousseau

ルソーよりもっと本気のナイーヴ・アートやブランクーシの彫刻に心惹かれるかと思えば、鳥獣戯画が大好きに違いないフラナガンは、高校生の時、銀座の画廊で見て以来大好きで、リトグラフ買いそうになったくらいだし・・。

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Brancusi

今ここに載せてる作家を皆知ってる人は相当美術に詳しい人。とにかく私は、何時代が好きとか、どの様式が好きとかではなくて、あらゆる時代や場所に心打たれる作品も、受け付けない作品もある人です。なので10個(講座は全十回)選んで2千年の西洋美術を表現するのは、苦し〜っ!!!

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Barry Flanagan

フラナガンのウサギのように、ひょう〜っ!と身体表現したくなります。

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Carlos Schwabe

でも気の早い話だけど、来年は幅を広げた一年にしたいと思っています。どうぞよろしく💕 と言うようなことを、2番目の写真にあるフォンターナの「シチリアの覚書」を眺めながら思った次第でした。

【本】ラッファエッロ・絵本から本格的なものまで

前回の講座「システィーナのミケランジェロ」の後、休みなく始まった「ローマ(システィーナ礼拝堂を中心に)のラッファエッロ」ですがちょっと休憩している間に、突然秋が深まりました。私は一年中変わりないけど、一般には読書の秋です。ぜひ読みまくりましょう!

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Raffaello il pittore della dolcezza

ということで授業に合わせてラッファエッロの本の紹介です。二回目の今回は、もう少し本らしいものを用意しました。でもまず絵本から。イタリア語では非常にたくさんの絵本が出ています。デジタル絵本もあるので最後に紹介しています。絵本の中では上のシリーズが大好きで何冊か持っています。全部ではないですがラッファエッロやレオナルド・ダ・ヴィンチ、ジオットなどは邦訳もあります。残念ながら邦訳は何故か装丁がダサいのですが・・・。このシリーズの好きなところはなんといってもセンスが良くてイラストだけで無く装丁が好きなのに・・。

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Raffaello

イタリアの子供向け絵本です。語学をやっている人はネットでも買えるし、旅先で買ってもいい。もう少しで(あと、どのくらい待てばいいのだろう?)またイタリアへ行った時に。

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Gioca con Raffaello

まさに今年授業でやってきた内容の本が下。「ヴァチカンにおけるミケランジェロラファエロ:システィナ礼拝堂」不思議なことに表紙の絵はミケランジェロでもラファエロでもなくペルジーノの絵です。ペルジーノの名では本にできなかったのでしょうね。中公新書のカラー版は、さすが「カラー版」というだけあって写真が豊富で内容の割に非常に低価格(たった千円!)で、散々お世話になっています。著者の深田麻里亜氏は次に紹介する本でも書いていて、日本の若手の美術史家で、とてもまともな書き方。美術史の正統派という感じがします。美大出身の私からすると、ほとんどの美術史家は歴史家ですから当然とは思うんだけど、絵自体の、芸術というか美術の見方がズレてる気がしてなりません。構図や背景に描かれている物や、どの作品の誰との共通性(影響関係)などが真面目に事細かく語られますが、それってそんなに重要なことなの?って気がしてしまう。そんな共通性を探さなくてもタッチや雰囲気だけで、初期のラファエッロがペルジーノとそっくりなのは絵が好きならあまりにも明快。構図の共通性を示されないと師弟関係に気付けないとすれば、よほど絵を見る素質が無い、と思ってしまう。大抵は研究者も分かってるんだろうけど、中には、とんでもなく違った作風の絵を、文字資料や細かい共通項で関連付けてるのを目にして、心底びっくりする。昔はファンアイクとヴァンダイクがごっちゃにされてた事もあったくらいで、時代も全然違うけど、何より恐ろしく作風が違うのに、いかに研究者が作品でなく資料に頼っているかが判ります。

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ラファエロ ルネサンスの天才芸術家

次に紹介するのは「ラファエロ:作品と時代を読む」で、どれか一冊選ぶとすれば、この本かもしれません。ミケランジェロの時にも紹介した同じ研究者たちの共著です。越川、松浦、甲斐、そして上述の深田先生たちです。ただ「システィーナ礼拝堂を読む」があまりに本格的な内容だったので、それに比較するとちょっと一般的になってる感じ。といっても美術史の知識がない人には苦しい本です。多少、美術やルネサンス史を読んでいる人にお勧めします。

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ラファエロ 作品と時代を読む

ルネサンス関連では当然触れられるし何冊もあるんだけれど、ラッファエッロ一人についての本はやはりかなり少ないので古い本も紹介します。

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ラファエロ

このシリーズは、イタリア留学時代に散々買い集めたので思い入れがあります。イタリアへ行って感動したことは山ほどありますが、美術が好きで滞在していた私にとっては、これほど多くの美術家の資料(本他)が商品化されているということが感動でした。日本では全く名前も聞いたことがない美術家が山ほどいて、素晴らしい作品が次から次へと出てくるし、画集も非常に豊富です。このシリーズは一人一冊で手頃だったのでよ買いました。有名な画家については邦訳が出ています。最新の研究ではないですが、まず一通り知るのに便利ですし、なんといっても大判で作品が見られます。

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グレート・アーティスト49 ラファエロ

1990年から毎週一冊出た「ザ・グレート・アーティスト」は全巻100冊で49番目がラッファエッロ。何でだろう?どういう順番かはよく分からないけれど、現代美術まで入るすごく面白いシリーズでした。オールカラー36頁という超とっつきやすい物ですので、入門者には絶対お勧めです。表紙がこれかっ?ていうのも興味深い。ネットにちょこちょこ出るみたい。今、全部欲しくなってるとこ。困った。

bussolascuola.blogspot.com

ネットのラッファエッロ紹介。イタリア語ですが雰囲気だけでも💖 簡単なYouTubeでラッファエッロの人間関係や人生や作品を見られます。アニメではラッファエッロがヴァチカンの「署名の間」で英語を話していて楽しいです。

【聖書】こども聖書アプリ、お勧め!

西洋美術史の講座をずっと持っています。

当然参加者の興味は様々です。

1、美術が好きな人

2、歴史が好きな人

さらに

3、旅(私の場合は特にイタリア)に興味のある人

でも4、聖書に興味のある人

も結構います。

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こども聖書アプリ

文学や映画、ロック音楽でさえ聖書を知らないと理解できない作品は珍しくありません。現代史を理解する上でも宗教の知識が必要なので、古代や中世では宗教の知識は必須です。この一年ずっと追ってきた「システィーナ礼拝堂の美術」では、西洋美術史を代表する名高いミケランジェロの作品や、2020年に修復されたラッファエッロのタピスリーをテーマに取り上げています。聖書の知識なしでは、何一つ分からないと言えるので、授業の中で聖書を一緒に読んだりしています。でも事前に一人で読んでおけば、理解の度合いは全く違いますから、聖書を読むことを勧めています。

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ノアの方舟

頭から全て読める人は滅多にいないので、授業で取り上げる美術作品に合わせて、読む場所を指定しています。私の授業にずっと参加してくださっている方々は、実によく勉強して、聖書に興味を持っている人が多いですが、一般には、なかなか覚えられなかったり、美術や映画を知るためにも知りたいのに、読み進められない人がいるでしょう。そんな人に【こども聖書】をお勧めします。無料アプリで、可愛いし、テストもついていて頭も使います。

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旧約聖書」の「創世記」から

なんといっても素晴らしいのは、聖書は、流石世界のスーパー・ミリオンセラーだけあり、恐ろしく多言語から選ぶことができるので、語学の勉強にもなります。アフリカ語、バハサ・インドネシア語から始まるだけでも驚きます。日本語とイタリア、英語などは非常に明快な発音で似たようなフレーズを繰り返すので、実に効果的な勉強法ではないでしょうか。毎日10分やってみてはいかがでしょうか?
onehopejapan.net

【本・映画】芸術家の人生:ラファエッロ

Ciao Tutti! お休み楽しんでますか?私はいつもと変わらず本とコンピューターに浸かっています。

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La Fornarina, 1944

いよいよ来週がミケランジェロの授業の最後となりました。以前はシスティーナの天井画と祭壇壁画【最後の審判】を2回に分けてやろうかと考えた事もあったんだけど、この1年以上盛期ルネサンスシスティーナ礼拝堂にかかりっきりで私も疲れたので、次の秋講座でシスティーナとはオサラバしようと思います。

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Raffaello, 2017

ミケランジェロは物凄く本格的に見てきたので【最後の審判】は、また別の機会があればって事でよろしくお願いします。いつもの私の望み通り、やたら有名な同じものばかりやるんじゃなくて、知られざる素晴らしい作品や作家を紹介したいので、ウルトラ有名な【審判】に関しては、どうぞ本を読んでください。

www.ou.tmu.ac.jp

ということで来週がミケランジェロの最後で、休みなくラッファエッロが続きます。オンライン授業の開講は普段の対面授業より人気が無いみたいで、なかなか大学も苦しい戦いをしている中、秋講座の開講もとっくに決まり、私の授業に参加してくださる皆様に本当に感謝しています。Grazie mille!(ありがとうを一瞬で千回言います)

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Raffaello, 2021

再来週から始まる「ラッファエッロ」もシスティーナ礼拝堂の作品を追うので、美術史に燦然と輝く傑作【アテネの学童】も触れるけど、中心は「使徒言行録」のタピスリーです。ミケランジェロが異様に複雑で難解極まる表現だったのと裏腹に、素直な内容なのでご心配なく。

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Raffaello, 2017

そこでラッファエッロについて資料を紹介しようと思ったら、まともな研究所(美術史や歴史など)の本はミケランジェロやレオナルドとは比較にならないほど少なく、その代わり映画や漫画がありました。それもほぼ恋愛ものです💕

私はイタリアに住んでいた時「イタリア人ならラッファエッロが好きだ(レオナルドやミケランジェロやカラヴァッジョなんかより)」という事を言われたことがあります。日本の美術に関心のある人の間では、間違いなく評価が低いので印象的な発言でした。個人的には、ミケランジェロは突出した大芸術家だと思いますが、レオナルドをそう思ったことがないし、ラッファエッロがいいと思えるようになったのは結構大人になってからでした。私は外見とは真逆に尖った人間ですが、これでも人間が丸くなったのでラッファエッロの良さが分かるようになったのかもしれません。

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ラファエロ その愛

やっと今回の内容に入ります。里中満智子の漫画はズバリ少女漫画ちっくに「ラファエロその愛」です。研究書を探しに都立の図書館へ予約してまで行ったのに大した本がないし借りられないから、ひっさしぶりに少女漫画を読んじゃいました。2、30分で読めるので良いかもしれません。一緒に行ったMさんは「ラッファエッロがモンのすごく良い人」に描かれていたと感じたそうですが、私は「優柔不断極まりない人」に描かれていたと感じました。本当はどうだったのかもっと正確な資料を読まないとだめですね。

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La Fornarina, 1944

ごく一般的な入手しやすい本としては「ラファエッロの秘密」があります。これはカラヴァッジョなどの「秘密」シリーズで、イタリアのテレビで美術番組を作っていた人が書いただけあり確かに読みやすいものです。でも正直、私はこのシリーズ(著者)が好きではないので、何も知らない人で読書経験のあまりない人にはお勧めしますが、本の読める人はもっと別なものを読んだ方がいいかもしれません。

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ラファエッロの秘密

レオナルド、ミケランジェロ、ラッファエッロの三代芸術家を主人公にした入門書は何冊か出ています。どれも絵が多く、3人で一冊だしとっつきやすいと思います。西洋美術の通史も漫画があります。今では何でもかんでも漫画じゃないとダメなのかと思うと、日本の将来は暗いですね。漫画には漫画ならではの良さがあると思いますが、歴史や思想などはやはりもっと文字数の多い本で、さまざまな角度から深く考えながら読みたいものです。

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ルネサンスの三代芸術家

このマンガ西洋美術史シリーズは一冊ではなくルネサンスは2になります。ボッティチェッリダ・ヴィンチ(イタリアならレオナルドと書くところですが)、ミケランジェロラファエロティツィアーノ(ここまでがイタリア人で)エル・グレコルーベンスとなっています。私のイメージと絵が違い過ぎで、誰が誰だか???

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マンガ西洋美術史

小説もあります。ちょっと古いですがいわゆるミステリー(犯罪もの)でそれなりによく出来ています。意外にきちんと調べてあって、ず〜っと昔読みました。

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ラファエロ 贋作事件

先にゴッホの映画を紹介したのでラファエッロを探したら日本語のは見つけられませんでした。引き換えイタリア語は沢山あって、先述のリヴィオの言葉を思い出します。1944年製作の映画は少女漫画の上をいくロマンスで題名もラッファエッロではなく、その悲劇の恋人と言われている「ラ・フォルナリーナ:パン屋の娘」です。史実では全然恋人かどうか分からないし、どれが彼女なのか、描かれているのかさえはっきりしないのにね。

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La Fornarina

レトロなポスターがカッコいいので色々載せてみました。ウィキから拝借しています。(ちなみに私はめっちゃくちゃ少額ですがウィキ・サポーターです。これを読んでくださっている方は知識を大切に考えてくださる方々だと思うので、寄付してみてはどうでしょうか)今年製作された映画はネット配信されています。3番目の図「繊細な天才ラッファエッロ」です。

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Luca Viotto

最後に超イケメンの写真で締めます。ルーカ・ヴィオットは2017年のヴァチカンも協力して製作されたテレビ映画で「芸術の王子(君主)ラッファエッロ」で主役を演じました。ミケランジェロには望めない喜びです。

 

【映画】美術家たちの伝記:ゴッホ・展覧会も

 

ゴッホの展覧会に合わせて、観たかった映画を見たので感想です。

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At Eternity's Gate

先日見た映画は2018年製作の「永遠の門 ゴッホの見た未来」です。いつものことですが原題は単に「永遠の門にて」です。言うまでもないことですが<永遠>とは<神>に他なりません。日本で公開される前から観たかった映画です。

決して分かりにくい映画ではないのですが、ごく普通の伝記映画ではありません。ゴッホの心情と彼の視点に焦点を当てて制作していると思いました。そのため、映像は普通の視点ではなかったり、それこそピント(焦点)が合わなかったりと、かなり意図的なものとなっています。監督のジュリアン・シュナーベルは1996年の『バスキア』で一躍有名になりました。「バスキア」は発表後すぐ観たし、なんといっても本人が死んでからすぐ(1988年に亡くなった)だったので非常に印象的でした。あの映画もとてもスタイリッシュな映像でしたが、それがバスキアの作品と何となく合っているようないないような感じを受けたものです。そう言う意味では今回も同じですが、彼の映像には一貫した様式美を感じます。

かつては大変身近だった上野は、コロナ禍の私には永遠に感じられるほど遠いので展覧会に行けるかどうか疑問ですが、都美術館でゴッホ展をやっています。いわゆる有名な作品もありますが、彼のごく初期の作品や心情を反映した素描など、素晴らしい内容でぜひ行ってみたいのです。

ゴッホは、現在ではそれこそ最も知られた美術家の一人に違いありません。が生前は全く評価されず、悲惨な生涯を遂げました。作品の魅力に加えて文字通り劇的な人生のためか、彼についての作品は大変沢山あります。本や画集は無数に出ていると言いたくなるほどだし、映画も何本もあります。

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Lust for Life

映画としては1956年のヴィンセント・ミネリ監督、カーク・ダグラス主演の作品が、古いですが有名です。「天国の門にて」と違い、いわゆる伝記映画として、人生の初期から死までを、ハリウッド・ドラマらしく表現しています。

ゴッホに関する映画を集めたブログを見つけました。全ての作品は見ていませんが、好きな作品もあります。

 

フリーダ・カーロの映画紹介の時にも書きましたが、私は映画も好きだし、作品や作者を理解する助けにもある程度なると思っているから紹介しているのですが、何より美術好きだからか、やはり本人の作品を見てほしい、それに勝るものはない、と感じてしまいます。

【美術】ミケランジェロの次はラッファエッロ💖

このところずっとシスティーナ礼拝堂を詳細に観ています。昨日も大勢が大変熱心に講座へ参加してくださり、心から感謝します。ここで紹介している本もずいぶん読まれていて、入門とはかけ離れた本にも飽き足らない様子の方に、授業でやっと納得したと言っていただけました。もっと詳述しているものはないかと探されている人も何人かいるのですが、紹介した日本語の物以外をお求めなら、論文か英語かイタリア語文献しかないでしょう。しかし論文は部分的な、実に専門的な研究なので、私としてはそこまでするよりもっと多くの芸術家や、世界史、美学としての哲学など幅を広げた方がいいのではないかと思います。

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Raffaello Sanzio, Borghese

参加者は全員、歴史、美術、文学、作品の背景や画家の個人的な人生など、皆それぞれの興味を持ち、それを深めているのが伝わり、本当に嬉しいです。

今取り組んでいる「ミケランジェロの天井画」は、空前絶後の複雑な内容を持っているので、一回の授業が実に盛り沢山できっと頭が疲れることと思います。私の授業はいつも盛り沢山ですが、今回は、様々なことを同時に考えるので特別大変です。でもみんなで違った訳の聖書を読んだり、一人ではできないこともできて楽しいです。昨日は、神様に楯突くヨナをみんなで読みました。

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Raffaello, 自画像

10月からの三ヶ月、秋講座ではラッファエッロを取り上げます。ミケランジェロとは性格も画風も、人生も全く違った天才です。悩み、怒り、猛烈で、孤高であると同時に、本当はとても暖かい人だったミケランジェロとは違い、明るく、社交的で、みんなに愛され、誰とでも上手くやれた美男子ラッファエッロは、実は非常に冷静で、大変若くして成功の頂点を極めました。

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ラッファエッロの間

この一年システィーナ礼拝堂に取り組んでいるので、メディチ家の史上最年少教皇レオ十世によって発注されたタピストリー(織物)を中心に見てゆきますが、ミケランジェロの授業とは違い、ずっと肩の凝らない授業となるでしょう。複雑怪奇な作品ではない上、画風も晴れ晴れとしたラッファエッロらしい美しいものです。もちろんミケランジェロも美しいですが、彼の作品とは戦わなければならないのに引き換え、ラッファエッロの作品はゆったり堪能できるのです。

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システィーナ礼拝堂にかけるための織物

作品解説がそれほど難しくないので、彼の人生の話に時間が割けます。ローマでの話を中心に、取り巻きたち、女性関係、発注者たちも華やかな人ばかりです。ラッファエッロは女好きがたたって死んだと言われてきましたが、本当でしょうか?信じ難い量の仕事をこなしながら、いくら大勢を使うのが上手かった彼とはいえ、そんなに遊びまわっていられたのでしょうか?

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Villa Farnese, Roma

屈強な男性の裸体で溢れるミケランジェロの授業とは正反対に、柔らかな女性たちが大勢出てきます。ミケランジェロとの対比も見ものです。

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パン屋の娘?

コロナで本気で自粛している私は、全く美術館へ行けていません。そういう方も多いと思います。今年の最後はラッファエッロの美しい作品で、癒されて終わりたいと思います。来年はルネサンスと離れて全く違った内容で始める予定ですので、盛期ルネサンスに興味のある方、ぜひこの機会によろしくお願いします。

 

秋講座の申し込みが始まっています。上記、大学のサイトからお願いします😃

【本】ミケランジェロについての様々な本:漫画から学術書まで

夏休みだからかリモートにも関わらず、授業間隔があいているので、ミケランジェロについての色々な本を紹介します。何回も書いているのですが、ミケランジェロは流石、西洋美術最高最大の芸術家と多くの人が考えているだけあって、なかなか出版物も多いです。

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ミケランジェロ・ブナローティの生涯

ミケランジェロ・ブオナローティの生涯』

デイビット・ハムソール 著 2020年

この本は愛読書の一つです。『芸術家列伝』の著者であり美術史の父と謳われるジョルジョ・ヴァザーリミケランジェロを崇拝し、手紙のやりとりをする間柄で、彼はミケランジェロについて何冊か書いているのですが、これはその決定版に当たるのではないでしょうか。冒頭は著者ハムソールの解説ですが、中心はマニエリスム期に出版されたヴァザーリの著書の翻訳です。入門書とは言えませんが、ある程度知識があれば、非常に臨場感があり、堪能できます。

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ミケランジェロ

ミケランジェロ

木村長宏 著 2013年

中公新書は知識をつけるための非常に有効なシリーズです。様々な分野の、入門からかなり専門的な内容のものが出され、値段も大きさも手頃で、日常的に色々読んでいます。これは題名もズバリ「ミケランジェロ」。ところが内容は一般的なミケランジェロの解説ではなく、美術史の定番となっている解釈や解説とは違った内容なので、初めて読むのに適当とは思いません。いわゆる美術史より思想史寄りで、情動や感覚に重点を置いた独自の解釈をしている点が、拍手を送る人も、反対の人もいるでしょう。何冊か読んで深めたい人にお勧めします。

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システィーナのミケランジェロ

『システィーナのミケランジェロ

青木昭 著 1995年

完全な入門書です。写真中心、非常に平易な文章と、美術や歴史の知識がなくても十分読めるので、少し古い本ですがお勧めします。図書館やネットで探してください。著者は、1981年に始まったシスティーナ礼拝堂修復の大プロジェクトの中心にいました。自身を含めた日本テレビの制作スタッフ、修復家たち、その他のプロジェクトに実際に関わった人々などの個人的な挿話にかなりの頁が割かれるので、テレビの番組制作(今は全然違っているけれど)などに興味のある人など、幅広い読者を獲得できると思います。当時の修復技術の問題などは他では読めないものですが、反対に、システィーナに関わる聖書の基礎知識なども一応記されているとはいえ、学術的な印象はないのでもっと美術史やルネサンスの歴史が知りたかったのだと言う人には物足りない印象です。

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神のごときミケランジェロ

『神のごときミケランジェロ

池上英洋 著 2013年

西洋美術、イタリア美術などに関する著書が多数ある池上先生の本が、これまた読みやすい「トンボの本」シリーズで出ています。このシリーズは写真で構成された入門書として大変親しみやすい(簡単に入手できる、簡単に表面的な知識がつく)シリーズで、私も子供の頃から何冊読んだかわかりません。今でも数冊は持っています。

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神のごときミケランジェロさん

『神のごときミケランジェロさん』

みのる著 2015年

少年チャンピオンの漫画です。残念なことに私は読んでいません。大人になっても漫画しか読めない人を、私は問題だと真剣に考えていますが、これは漫画を絶対否定するものではありません。子供の頃は私も漫画漬けでした。読んでみたいです。

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システィーナ礼拝堂を読む

システィーナ礼拝堂を読む』

松浦弘明、越川倫明、深田麻理亜、甲斐教行 著 2013年

この本はその外観からは想像できないほど非常に本格的な内容なので、誰にでもお勧めはできません。西洋美術、ルネサンス史、聖書の知識がある程度身についていないと難儀すると思います。ただもう色々読んだからもっと知りたいのだっ!という人には素晴らしい内容ですので挑戦してはいかがでしょうか。私もこの本からは多くを学びました。思い入れのある一冊です。

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世界の巨匠シリーズ

最後に紹介したいのは大型本です。

美術出版 1966年

『世界の巨匠シリーズ』にはミケランジェロだけでも四冊の本があります。「ミケランジェロ素描1」「ミケランジェロ素描2」「ミケランジェロ彫刻」「ミケランジェロ」というように分かれていて、「ミケランジェロ」は絵画が中心となっています。写真はいつも使っている「日本の古本屋」のサイトからお借りしました。

www.kosho.or.jp

今ではこのような本格的な大型本はすっかり姿を消してしまいましたが、私は子供の頃からこういった本に埋もれて育ったので、大変愛着があります。日本の住宅事情を無視したボックス入りの重く、大きな何十冊もあるシリーズですが、大きい上、当時最高の印刷技術で刷られているので、美術作品を見るには最適だと思います。非現実的なほど鮮明なネット画像に慣れている現在の若者にとっては、残念な印象かもしれませんが、勉強する価値は十分にあります。何より、ミケランジェロだけについて四冊も、それも大画面で素描を堪能できるような物は他にありません。文章は現在の淡々とした論文調の学術書とは大いに違った、ロマン・ロランの評論を彷彿とさせる感動的なもので文学的で、色々と考えさせられる内容です。ミケランジェロについて日本語で読める、最もまとまったものだと思います。お手軽さの正反対ですが、ミケランジェロや西洋美術を愛する人には感動もののシリーズです。図書館や古書で探してください。

【ドラマ】驚愕の「弔い写真」

海外ドラマファンです。海外といってもほぼ欧米ものです。たまに南米とかアフリカ映画とか観ます。理由は、単純に画像と物語構成や主義主張が合うからですが、英語やイタリア語(多少はフランス語やスペイン語)だと、言葉の勉強になると言い訳ができます。北欧ものになるとこの言い訳は通じないのだけれど・・。

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英国ドラマ Dead Still

最近見たドラマで、知って驚いたことがあります。日本語の題名は【弔い写真家の事件アルバム】というものです。邦題は常に原題より説明的になっています。

www.mystery.co.jp

話の内容は不愉快極まるもので、流石、幽霊や心霊物が大好きで、しかも皮肉の効いたイギリスらしいものでした。素直で健全なものが好きな人はみてはいけません。ホラーに慣れている私も気持ち悪くなった程です。映像が気持ち悪いわけではなく、死んだ人の写真を愛するという行為が気持ち悪過ぎ。拷問も大嫌いなので、そういう写真の蒐集家の大権力者たちのお話だから二度と観たくない。ってネタバレだけど・・。ドラマを擁護すると、英国ミステリーといってもビクトリア朝時代のアイルランドが舞台で、映像は普通に綺麗です。エドガー賞も受賞した高評価の作品ですし、何より知識が増しました。

まさにこの内容の記事を書いている人がいました。日本語です。

karapaia.com

ドラマを見ていて、こんなこと本当にあるんだろうか?とか、どこまでが創造で、どこまでが歴史的真実だろうかと考えます。ドラマだけでなく、私はそういうふうに生きているというべきかもしれませんが。それですぐネットで調べます。ネットが無いと生活はどれだけ変わるかわかりません。日本語でも調べますが、できるだけ現地の情報や多角的に調べるようにしているので英語や現地の言語などでも調べます。

Post-mortem photography - Wikipedia

memorial portraiture

en.wikipedia.org

英語のwikiサイトです。

誰かが亡くなると、その人に生きているようにポーズを取らせ、家族の集合写真のようにしたり、飾り付けて撮影するという風習が欧米で流行したそうです。

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Louis Jacques Mandé Daguerre

歴史的にはダゲレオタイプと言う写真の撮影法を発明したルイス・ダゲール(写真)によって始められ、1840年台から弔い写真は広まったようです。しかし元を正せば、ヨーロッパには古くから死者を描く習慣がありました。それにヨーロッパの聖堂を巡っていれば、あちこちで蝋人形のようになった聖遺物(本人そのものもある)に出逢うし、眠っているようなミイラも各地にあります。

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1648年頃のデンマーク王の絵画

キリスト教の歴史は、信仰深く、汚れなく、尊敬に値する偉大な人の聖遺物(持ち物も含むが、本人なら最高に効果がある)が奇跡を起こし、人々や街を助ける話で一杯です。中世の人々は聖人の体の一部(皆が欲しがるので切り刻まれる)に慣れていましたが、バロック時代から近世にかけては権力者が一族の者の記念に上のような絵を注文するようになりました。写真の発達と共に一般の人にもそういった習慣を真似ることができるようになり、絵画はなくなって行きます。

ja.wikipedia.org

世界一美しい遺体として有名なシチリアのロザリアちゃんのように、幼い子供が亡くなると、親が悲しみのあまり、焼いたり、土に埋められたりするのが可哀想で、ベッドで寝ているようにしてあげたいと思う気持ちから、上のような行為が行われるのは理解できます。弔い写真にも子供が多い気がするのは間違いでしょうか。

 

しかし、湿度の高い日本だからか、私は日本に似たような習慣を見つけることができませんでした。思想、宗教観などさまざまな理由があると思いますが、西洋美術を勉強していると、かなりの感覚の隔たりを感じる場合が多々あると思います。この歴史もまたその一例でした。

【時事】2021東京オリンピックとイタリア

オリンピックが終わって少し落ち着いたところで、イタリアとの関連を書きたいと思います。

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流石のイタリアチームのユニフォーム

私はオリンピック開催が決定するずっと前から反対の立場でしたが、始まってしまえばスポーツ観戦好きなので、当然可能な限り応援しました。世界中の人が集まって最高のパフォーマンスを披露したり、平和的に競い合うのは素晴らしいことです。でも実際には経済的に余裕のある国の人しかほぼ参加できないし、経済的な利害が深刻に結びついた人々によって開催される、しかも政治的な側面も少なくないイベントなのが大きな反対理由です。さらにオリンピックが経済的効果を生むというのは、いつものことですが政府の御用学者が弾き出す数字で、現実には極めて酷い赤字です。それには私たちの税金が投入されるのだから、税金の使い道について市民、国民には意見を言う権利があると思います。私だったら、日本中の古くなったインフラ整備や、病気やさまざまな理由で苦しんでいる人々の福祉に使いたいし、具体的には小学校から高校までの給食の無料化に使って欲しい。日本の子供の貧困がどんどん進んでいる現状を無視して、何がレガシーでしょうか。

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佐野研二郎東京五輪シンボル

特に今回の東京オリンピックは、醜い側面がどんどん湧いて出て、どうにもならない政治不信を決定づけました。まずパクリデザイナーと言われた佐野研二郎のオリンピック・ロゴデザイン。ベルギーの会社に訴えられてから、サントリー多摩美などでもどんどんパクリが発覚。新国立競技場のデザインも根底から大変更。最初のザハさんのデザインの方がずっとカッコ良かった。お金がかかりすぎるとか言うの変じゃないですか?最初にもっとしっかり詰めるべきでしょ?

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ザハ・ハディド、デザインのスタジアム

何より最低なのは、ジョコビッチが怒ったのも当然の「スポーツするには過酷すぎる天候」。日本の8月はスポーツに最適とかいう嘘。東京生まれ東京育ちの私は、イタリア人の友人たちに「春か秋に来て!夏は最悪だから」と常に言っていますが、あの蒸し暑さの中で極限状態で走ったら死ぬ人も出るんじゃないかと思った人も少なくなかったのではないでしょうか。事実、救急車で搬送されたり途中棄権する選手続出の反アスリート主義の東京五輪でした。オリンピックが終わった途端、突然涼しくなってなんと言う皮肉!

news.yahoo.co.jp

組織委員会厚顔無恥な腐敗ぶりは、オリンピックに費やした全金額と全損失を決して公開(後悔も)せず、使途不明金は当然闇に葬られようとしています。私は、純粋にスポーツ観戦が大好きです。こんな背景の無い、心から楽しむことができるオリンピックが開催されることは可能でしょうか?

www.japanitalytravel.com

イタリアのオリンピックはっていうと😃

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BBCユーロヴィジョンから

日本は、アメリカと中国に次メダル獲得世界3位でしたが、イタリアは10位でした。この数字をどう見るかは人によって違うと思いますが、イタリアではかなりな評価を獲得したようです。なんと言っても夏の五輪の最大の花とも言える、世界一早い男はイタリア国籍のマルセル・ジェイコブス選手でした。ちょっと勉強すれば分かるように伝統的なイタリア人の名前ではありません。子供の頃移住したとか。彼の金の直前には、これぞイタリア人って感じのジャンマルコ・タンベーリ選手が高跳びで金。他に空手やテコンドー、強歩などなどで金。ヨーロッパでは、イギリス(EUじゃ無いけど)やロシア(ヨーロッパでは無いけど)が4、5位で7位からオランダ、ドイツ、フランス、イタリアと続きます。あんな気候でなければサッカーとか、もっとヨーロッパ勢は活躍できたと思うけどさ。

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古代ギリシャの跳躍

国別メダルの順位って、これも問題じゃない?だってオリンピック憲章6で「国家間の競争ではない」って明記されていて、「選手個人」の競争となっています。源に帰れば古代ギリシャのポリス国家間の戦争を一時的にでも止めるために、始まったらしいし。ヒトラーがオリンピックを最大限に利用したのはあまりにも有名な話だし、政治利用も経済利用もしちゃいけないって書いてあるのに、現状は真逆。

 

明るいニュースの無い世界で、視聴者に一時的でも明るい話題を提供したのは事実で、イタリアでも毎晩オリンピック番組が特集されたようです。コロナ下、無観客、反対多数の中、強行されたことも報道されていて、それに対して「お疲れ様、ありがとう」と言うような空気があるのは理解できます。

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BMX

私は愛するボクシングは別にして、自転車BMXを最高に楽しみました!スケートボードやサーフィンもかっこいいよね💖

 

【本】ミケランジェロのトンデモ本から考える

題名:隠されたヨーロッパの血の歴史
副題:ミケランジェロメディチ家の裏側
著者:福島隆彦

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表紙

う〜ん、普段全く読まない類の本で、数行読んでビックリしちゃった。こんなメチャクチャな・・・で、著者を検索したらトンデモ本の中でも最高のとんでも本大賞を受賞しているような人だった。これも表現の自由の難しさだな〜っと。でもすごく宣伝されているし、ファンがいてこの本も購入者からは支持されているのが分かって、民主主義の難しさを感じる。もっと難しいのは、中々良い事言ってたりして、そうだそうだと共感できる部分もあったりする。右翼的なのに左翼を公言してる。

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ロレンツォ・デ・メディチを讃えまくる!と著者

どっちにしろ思索より行動の人なのは明確で、何冊も書いてます。
社会運動もアカデミックな学会も両方知ってると、熟考と行動について考えさせられる。要するに、歴史や思想などを理解するには、非常に多くの知識が必要、しかもそれは多角的、総合的にとらえる視点が必要。さらにある事実を普遍化することはできず、ある歴史には必ずその時固有の偶然も絡んでくるもので、単純に言い切れば必ず無理が出る。だから論文をたくさん発表しようとすると極限定的な内容に絞って、資料偏重でつまらないものを量産することになる。今の学会がこういう傾向にあるのは、誤った内容をできるだけ避けようとする態度もあるからで、それは当然正しいとは思う。でも昔の学者はもっと思想的で壮大な内容を発表したから、ずっと感動的で面白いものが書けた。今ではそれは勘違いだったりするのが証明されたりもしているけど。

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著者の大師匠、羽仁五郎著「ミケルアンチ”ェロ」

特に経済学や社会運動系の思想などを研究している人は、実社会でそれがどれだけ役に立つかという点と切り離せないけれど、真剣に考えれば考えるほど問題は複雑で行動が取れなくなるのに対して、そんなことをしているから学者は役立たずだという人たちが出てくる。で、そういう人たちはさまざまな行動に出るんだけれど、研究者から見れば、そんな単純で乱暴な方法でいいのかと疑問を持ってしまう。

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感動小説ミケランジェロの決定版はロマン・ロラン

だけど、編集者に言われて、初めてちょこっとフィレンツェに行ったような人に、ルネサンスミケランジェロの真実を観切った!!とか言われちゃうと、真面目に長年研究してる人がいるのにあまりに不真面目だと思う。でも考えてみると日本のテレビってそういう人で満ち満ちてる。その話題なら、専門家がいくらでもいると思うのに、無知な芸能人の内容のないおしゃべりに終始する。スポーツだって欧米なら、普段からそのスポーツに特化したプロの記者が解説したり質問するのに、日本では試合の内容や技には無関心な素人記者が、無理矢理ありがとうって言わせようとする。私はスポーツが好きなので、泣き顔が見たいわけじゃありません。選手に失礼だ。そういう人だって少なくないと思う。

真実はいつも複雑で難しく、見極めることは人間には不可能だ。単純化したものは大勢に、直接的に訴えるし、やはり、その歴史や思想に何かしら意味を見出したいと、私も思ってしまう。

 

ミケルアンチ”ェロは、いま、生きている。
うたがうひとは”ダヴィデ”を見よ!
羽仁五郎

【本】ミケランジェロ:絵本や子供向け伝記もいっぱい!

またかの緊急事態宣言直前、うんざりな私は都立大OU(オープンユニヴァーシティ)の夏季講座の準備に勤しんでいます。どこへも行けないのでひたすら近所にお手かけ。ということで図書館(これは私の人生のおなじみだけど)を隅々まで見ているうちに、子供コーナーまで踏破してしまいました。子供の本って、くだらない大人の本よりよほど良いものが揃ってる。偉人伝記シリーズなんか、小学校時代を思い出します。全部読んでおくんだった。

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世界の歴史:ミケランジェロエリザベス女王

世界の偉人にミケランジェロは入っているようで、あちこちのシリーズで見かけたけれど、ミケランジェロエリザベス女王ってのは珍しい。

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石の巨人:ミケランジェロダビデ像

全部読んだわけじゃないけど、子供向けミケランジェロで一番気に入ったのは「石の巨人」です。デザインも文章もとても良い。子供モノは文字数が少ない分、いよいよ単純で短絡的(決まり文句のような)になりがちだけど、ある程度は仕方ない。実際の歴史はそんな簡単なもんじゃないのに、大人向けのルネサンスの本だって、馬鹿の一つ覚えみたいに「人間復興」とかメディチ家バンザイみたいな内容が多いんだから。

絵本にしては、とても真面目に時代考証ができていて、イラストにそれが反映されていた。いつも私の推薦図書が難しいと言ってる人、そうでない人にもお勧めします。授業の前に読みましょう。10分で読めますが、絵を堪能して1時間くらいかけてあげて欲しいです。

一般書ではやたらレオナルドばかり目について、ミケランジェロの本なんか普通の本屋さんには絶対売ってないけど、絵本の世界ではミケランジェロ、結構人気で嬉しかった。やっぱり作品がしっかり残ってるもんね。作品の写真をイラストと合わせている絵本も一杯あります。

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レオナルドとミケランジェロ

これは「もっと知りたい世界の美術」っていう一般書のシリーズがあって、その子供番。子供版の方が大きいから作品が見やすくて良いかもしれない。ただ私は元々このシリーズが好きじゃない上、子供版は、大人版の情報をそのまま入れ込んでいる部分と、本文の子供へのお話口調が乖離していて変な感じ。絵本というより簡単な資料がまとまってる点が特徴。

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ミケランジェロBL出版

正直言って表紙は全然魅力的じゃない(ミケランジェロが良い男だったら全然違う)けど、内容はとても良い。デザイン(装丁)も文章もレベルが高く、十分に大人でも読める。というか、ミケランジェロの授業に参加しようかなと思ってる人には、第一にお勧めします。地図も歴史も作品もきちんとした資料です。

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イレーネ・ステッリングヴェルフ著

子供教養シリーズの美術版で、イタリアで各国語が売られている中の日本語版です。これはレオナルドだけど同シリーズで「ミケランジェロを手伝ったよ」というのがあります。写真と様々な技法を駆使したイラストで表現され、何より現代の子供がタイムスリップしてレオナルドやミケランジェロに会うという設定が変わってる。

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ミケランジェロを手伝ったよ

差別化を図ろうとするのはわかる。けど内容はかなり酷い。誰も研究者や編集者が内容をチェックしなかったのか、めちゃくちゃなことが堂々と書かれています。レオーネ五世って誰ですか?レオ十世の間違いですよね?最後の審判ミケランジェロに発注したのはパオロ三世(パウルス)じゃなくてクレメンス七世だけど。ミケランジェロは天井画を描いた時寝転んでいませんよ、マルクス・アウレリウスの騎馬像はコンスタンティヌスと勘違いされていたからカンピドーリオの真ん中に据えられたんです。とかとんでもない歴史的な間違いが多々ある上、翻訳もかなり問題あり。凝ってるんだけどさ。もったいないね。専門家にみて貰えば良かったのに。

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ヴァザーリ芸術家列伝

これは子供向けじゃないけど、本が苦手な大人向けシリーズ。ボッティチェッリとリッピもあったと思う。

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ミケランジェロの封印をとけ

変わり種としては、ファンタジー小説ミケランジェロが使われたりもしています。

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子供のための美術史

ミケランジェロで本を検索すると、まだまだ沢山出てきます。最後に「子供のための美術史:世界の偉大な絵画と彫刻」もどうぞ。子供向けの方がいいところは、とにかく版が大きいので作品が見やすい点です。最近老眼で文字が読みにくいとか、忙しいとか、読書するにもエネルギーが足りないとかいろんな言い訳で、なかなか読めない人、子供向けだって、すごく役に立つので手にしてみてね。何にも読まないより百倍もいいよ!

 

 

【美術】暑い夏は熱いミケランジェロと

今日は大雨でカルチャーセンターがお休み(振替)になりました。豪雨で窓が開けられずコロナ対策の空気入れ替えができないからだそうです。そこで zoom 授業の最大の利点を痛感。都立大も大雪とか台風とかの時大変だった。一度なんか電車が止まって大金払ってタクシーで授業へ行ったこともある。オンライン授業のありがたさが身に沁みるなぁ。明日も元気でコンピューター越しに逢いましょう!

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Genesi 創世記

明日は都立大OU(オープンユニヴァーシティ)の我が西洋美術講座【システィーナ礼拝堂の図像探究】第一弾、最終日です。この前「もっのすごく面白かった」と言ってもらえました。こちらも、もっの凄く嬉しいです💖
春夏秋冬、三ヶ月づつの講座なので、コロナ前なら先週には終わってたはずなんだけど、今回は1年以上お休みが続いたからできるだけ長くやろうということで7月に食い込みました。新たな講座も始まる予定(人数確認があるから最後まで決定しないけど、私の講座は一度も潰れた事がありません。参加者に感謝。神に感謝。)。みんな申し込んでー!おねがいーっ!私の収入には参加人数は無関係だけど、できるだけ多くの人に来て欲しいんだもん💕

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Palazzo Vecchio, Firenze

講座【システィーナ礼拝堂図像探究】の計画は以下の通り。

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紅海で真っ二つになった海に飲まれるエジプト軍「あぎゃ〜っ」

1:初期礼拝堂。
画家はボッティチェッリ、ペルジーノ、ギルランダイオ、ロッセッリ他大勢出てきます。
画題としては「旧約聖書」のモーゼ伝と「新約聖書」のキリスト伝
歴史的には「パッツィ家の陰謀」というルネサンス史の有名事件が中心。(明日が最後)

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美青年の筋肉祭り

2:ミケランジェロの天井画。
美術家はミケランジェロが断然中心。敵対勢力や教皇も活躍(暗躍か)。
画題としては「旧約聖書」の創世記
歴史的には、メディチ独裁対サヴォナローラや共和政府の激動のフィレンツェ史に翻弄されるミケランジェロ
ミケランジェロは超長生きなので全部は語れないけど、特に誕生からローマに呼ばれるまでの初期人生、「ピエタ」や「ダヴィデ」など美術史上の金字塔を打ち立てた事など、システィーナ以外の話もします。7月の第3土曜日、17日から。乞うご期待!

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天国へ引き上げてもらうにも筋肉勝負

3:ミケランジェロ最後の審判

美術家はミケランジェロを主人公に彼の信奉者、追従者、おべっか使いから敵陣営まで。
画題は「新約聖書」の「黙示録」から特に最後の審判。聖書の内容もますます面白い!
歴史的には、宗教改革ルネサンスの終焉、中世から近世へというヨーロッパ史の大転換期。(秋講座)

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流石に美しいラッファエッロの織物

4:ラッファエッロの垂布
美術家はラッファエッロ。彼の師匠、弟子、ライバルに女性関係まで豪華絢爛。
画題は「新約聖書」の使徒言行録から聖ペテロとパウロの挿話。
歴史的には、戦う教皇ユリウスから、世界史における最も豪華な宮廷を持ったメディチ家のレオ十世へ。(冬講座)

この4回で一応「システィーナ礼拝堂図像探究」シリーズは終わる予定。コロナ明けにはローマに行きたくてたまらなくなる、システィーナ再度挑戦、ますます西洋美術が大好きになる、そんな講座を続けるためにも、あなたの参加を待っています💗

 

【映画】美術家たちの伝記:フリーダ・カーロ

いよいよ「システィーナ礼拝堂を詳述する」シリーズ第一弾が終わろうとしているところです。次はミケランジェロだからみんな都立大OUの私の授業に来てください!

とか言いながら常に映画やドラマは見観ちゃってて、昨日は「フリーダ」を観ました。

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フリーダ

題名:Frida フリーダ
監督:ジュリー・テイモア
製作:2002年 アメリ

アカデミー賞2部門受賞だし、何より美術を知る人には有名人だから当初見たんだけど再見。美術を知る人にはって書いてから気付いた。美術を知らない人にも結構有名だ。その証拠に彼女をモチーフにした商品ってびっくりするほどたくさんある。バカっぽいプリントのパンツや雑貨から彼女の写真や作品を配したシャツやカバン、靴まである。ヴォーグの表紙はファッション好きの人なら誰の目にも留まるものだし、映画も何本か、本もいっぱいある。

今年2021年もフリーダに魅せられた人たちが作品を作った。これによると「世界で最も賞賛される三人の芸術家」はレオナルド・ダ・ヴィンチピカソフリーダ・カーロなんだそうだ。ふ〜ん。私には、美術っていうより人生や性格に関心があるように見えるけど。

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フリーダ・カーロに魅せられて

フリーダ・カーロは最高に上手いわけでも美しいわけでも深い思想性があるわけでも無いけど、人を圧倒する迫力がある。彼女の作品は気持ち悪過ぎ、怖過ぎ、悲しくなるかと思えば温かい気持ちにさせる。正直言って全然私の趣味じゃ無いけれど、フリーダの家に行ってみたいとずっと思っている。フリーダと才能あるろくでなしの夫リベラが住んでいた南米としか言いようのない色の家。現在は博物館だから。

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死を目前にした共産主義者フリーダ

映画は、単純な伝記映画の作りで大事件には触れているけれど、彼女を特徴付けている政治性や思想が描けていないと思う。上の写真が証明しているようにコミュニストとして、愛国者としてのフリーダのことがあまり感じられなかった。スターリンから逃げてきたトロツキーと恋仲になる場面があるくらい。体を締め付ける拷問具のようなコルセットに、ベッドの上に据えられた鏡を見ながら自分で描いた社主義者、共産主義者としての印。その下には胎児が見える。

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1945年の作品

上の作品には彼女が影響を受けた人々がぎゅうぎゅう詰め込まれている。すぐ分かる通り、右も左も無関係に自分で気に入った思想を選んでいる。これとは全く違った見た目だけど、私も大学の卒業制作で、自分が影響を受けた人々の肖像を、その人の思想や生き方をイメージしながら製作したことがある。ただ情熱的に奔放に恋愛やセックス、大酒飲んで生きた人じゃないとこが、すごいと思う。恋人の中にイサム・野口が全然出てこなかったけど問題あったのかな。

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子供を失い、身体は切り刻まれた彼女ならではの作品

一応彼女の人生は分かるし、一応似てるし悪い映画じゃないよ。知らない人は見てください。でもやはりなんと言っても彼女の作品を見てほしい。文字通り壮絶だから。

最後に、私の意見では「女にしか描けない作品」の代表はフリーダ・カーロ、アルテミシア・ジェンティレスキ、ジョージア・オキーフかな。

 

【映画】九人の翻訳家 囚われたベストセラー

題名:Les traducteurs(翻訳家たち)
邦題:9人の翻訳家 囚われたベストセラー
製作:2019年。フランス、ベルギー
監督:レジス・ロワンサル、アラン・アタル(製作)

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ポスター

評価は特に高くはないけど、私には、身につまされる部分も大きいからか、とても面白かった。常に説明的な日本のフライヤーでは「105分、あなたは騙され続ける。真実はDedalusこの中にある。」となってる。謎解きは得意な方だから、言うほど騙されはしなかったけど、騙されるとかいった表面的な面白さとは違ったところが良かった。

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日本のフライヤー

「翻訳家たち」という題名で観たかった映画。実はダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ(「ダヴィンチ・コード」が第一弾)の4作目「インフェルノ」を出版するときの実話が元になってると知ってビックリ。ラングドン・シリーズはイタリアが大いに関係してるから一応全部見てるけど、映画としてはちっとも好きじゃない。大袈裟で平凡だし、元の作品(レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」やダンテ・アリギエーリの「新曲・地獄篇」)をねじ曲げまくるのも不快。

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ダン・ブラウンインフェルノ

世界中で売れまくった本のシリーズだからって、出版社が著者の許可をとり、翻訳者たちを地下室に閉じ込め完全隔離し、一斉に翻訳させて海賊版などが出回らないようにしたんだって!本当!?信じ難いけど、確かに勝手に翻訳してネットに載せる人も結構いて、そこで読まれちゃうと本が売れなくなっちゃうし、変な訳でも管理できないし、著作権問題とか色々ある。とにかく翻訳家たちを隔離したのは実話。

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とにかくダヴィンチ・コードが売り文句

一見優雅なフランスの田舎のお屋敷は、実は地下にとんでもない隔離施設を持った要塞建築だった。世界各国(イタリア、スペイン、ポルトガルギリシャデンマーク、ドイツ、中国、イギリス)から翻訳者たちが集結。中国人は中国から来たんじゃなくて長年フランスに住んでる。オリジナルがフランス語だからか、イタリア、スペイン、ポルトガルラテン語圏、それにギリシャ人もいて地中海文化圏の言葉は沢山あるのに、日本語はないんだなーというのが、日本人としての第一印象。やっぱりこういう哲学的な本格文学は日本人は嫌いなのかなーとか思わされた。

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登場人物メインに考えたポスターもある

単純に犯人は誰か、なぜそんなことをするのかという謎解きの面白さももちろんあるけど、それ以上に「文学」愛がテーマで、何度も本が出てきて、この本の中に真実があるとか言いながら日本語訳ではその辺が全く無視されている。問題の本はDEDALUSという。

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1973年のイタリアン・プログレッシブ・ロック・バンド

DEDALUSと聞くとロック好きの私なんか、いきなりイタリアン・プログレのバンドを思い出しちゃう。それから当然ギリシャ神話のダイダロスダイダロスイカロスのお父さんだけど、発明家であり巧みな職人で、クレタ島ミノタウロスを閉じ込めるための迷宮を作った人として思い浮かぶ。下は16世紀初頭のフランス人画家による物語絵。右端に迷宮が見える。映画では、厳密には迷宮ではないけれど、閉じ込められて出られない謎の場所として関連付けられる。

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Maître des Cassoni Campana

そしてなんといっても20世紀最大の小説家ジョイスが自己を投影したと言われるスティーブン・デダルスが思い浮かぶ。映画の中では重要な本は二冊しか出てこない。それはジョイスプルーストの「失われた時を求めて」。映画の中でも文学とは何かという場面でジョイスの名が出てくる。

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Stephen Deduls

資本主義によって堕落させられた売れる小説と真の文学の対立が軸で、そういう視点は目新しくはないけど、私自身が常日頃感じていることで、そういう点でも私にとっては深みのある映画だった。でも犯行の動機は理屈ではなくすごく人間的、情緒的なものなのも良い。

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読書家でも躊躇する全14巻。失われた時を求めて

細かな点ではさまざまな言葉が飛び交うところが面白く、囚われの翻訳者たちが怖いロシア人警備員や出版社の社長に分からないように、目の前でスペイン語で連携したり、三重通訳したりする場面も私にとってはリアル。日本語、英語、イタリア語で通訳したことがあって、能力のない私は死にそうになった経験がある。そうそう、今回新たに知ったのが情報通信研究機構が開発した対サイバー攻撃アラートシステムの名前がダイダロスっていうんだって。コンピューター好きなのでこのサイトも面白かった。

そーいえば一回だけ日本が活躍したことがあった。世界一早いコピー機の一つとして登場。



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